H15.10.15 東京高裁 平成15(行ケ)64 商標権 行政訴訟事件

平成15年(行ケ)第64号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 平成15年8月25日
                    判    決
             原    告      小林製薬株式会社
             同訴訟代理人弁護士      矢 部 耕 三
             同              嶋 田 英 樹
             同訴訟代理人弁理士      中 田 和 博
             被    告      特許庁長官  今井康夫
             同指定代理人         今 田 三 男
             同                      涌 井 幸 一
                    主    文
     1 原告の請求を棄却する。
         2 訴訟費用は原告の負担とする。

                   事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
 1 原告
   (1) 特許庁が不服2000−14427号事件について平成15年1月7日にした審決を取り消す。
   (2) 訴訟費用は被告の負担とする。
 2 被告
    主文と同旨
第2 前提となる事実
1 特許庁における手続の経緯
  (1) 原告は,平成11年12月24日,「あぶらフキフキティッシュ」の文字を標準文字で横書きしてなる商標(以下「本願商標」という。)について,指定商品を次のア及びイ記載のとおりとして,商標登録の出願(平成11年商標登録願第118919号。以下「本件出願」という。)をしたところ,特許庁は,本件出願に対し,平成12年8月11日,登録を拒絶する旨の査定をした(甲1,弁論の全趣旨)。
   ア 商標法施行令1条別表(以下「施行令別表」という。)の第3類

    「せっけん類,香料類,化粧品,つけづめ,つけまつ毛,かつら装着用接着剤,つけまつ毛用接着剤,洗濯用でん粉のり,洗濯用ふのり,歯磨き,家庭用帯電防止剤,家庭用脱脂剤,さび除去剤,染み抜きベンジン,洗濯用柔軟剤,洗濯用漂白剤,つや出し剤,研磨紙,研磨布,研磨用砂,人造軽石,つや出し紙,つや出し布,靴クリーム,靴墨,塗料用剥離剤」
   イ 施行令別表第16類
    「紙類,紙製包装用容器,家庭用食品包装フィルム,紙製ごみ収集用袋,プラスチック製ごみ収集用袋,衛生手ふき,紙製タオル,紙製テーブルナプキン,紙製手ふき,紙製ハンカチ,型紙,裁縫用チャコ,紙製テーブルクロス,紙製ブラインド,紙製のぼり,紙製旗,紙製幼児用おしめ,荷札,印刷物,書画,写真,写真立て,遊戯用カード,文房具類,事務用又は家庭用ののり及び接着剤,青写真複写機,あて名印刷機,印字用インクリボン,こんにゃく版複写機,自動印紙はり付け機,事務用電動式ホッチキス,事務用封かん機,消印機,製図用具,タイプライター,チェックライター,謄写版,凸版複写機,文書細断機,郵便料金計器,輪転謄写機,印刷用インテル,活字,装飾塗工用ブラシ,封ろう,マーキング用孔開型板,観賞魚用水槽及びその附属品」

  (2) 原告は,同年9月8日,上記拒絶査定を不服として,特許庁に対し不服審判の請求をした。被告は,同請求を不服2000−14427号事件として審理をした上,平成15年1月7日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をし,その謄本は,同年1月21日に原告に送達された(甲1,弁論の全趣旨)。
   (3) 原告は,本件審決を不服とし,その取消しを求めて本訴を提起した(本件記録上明らかである。)。
   (4)  原告は,本訴提起後である平成15年3月28日,商標法(以下「法」という。)10条第1項の規定による商標登録出願(商願2003−024938。以下,「本件分割出願」という。)を行なうとともに,本件出願について補正書により補正を行った結果,指定商品は次のア及びイに記載のとおりとなった(甲2,3)。

   ア 施行令別表第3類
        香料類,つけづめ,つけまつ毛,かつら装着用接着剤,つけまつ毛用接着剤,洗濯用でん粉のり,洗濯用ふのり,歯磨き,家庭用帯電防止剤,家庭用脱脂剤,さび除去剤,染み抜きベンジン,洗濯用柔軟剤,洗濯用漂白剤,研磨紙,研磨布,研磨用砂,人造軽石
   イ 施行令別表第16類
         紙製包装用容器,家庭用食品包装フィルム,紙製ごみ収集用袋,プラスチック製ごみ収集用袋,型紙,裁縫用チャコ,紙製テーブルクロス,紙製ブラインド,紙製のぼり,紙製旗,紙製幼児用おしめ,荷札,印刷物,書画,写真,写真立て,遊戯用カード,文房具類,事務用又は家庭用ののり及び接着剤,青写真複写機,あて名印刷機,印字用インクリボン,こんにゃく版複写機,自動印紙はり付け機,事務用電動式ホッチキス,事務用封かん機,消印機,製図用具,タイプライター,チェックライター,謄写版,凸版複写機,文書細断機,郵便料金計器,輪転謄写機,印刷用インテル,活字,封ろう,マーキング用孔開型板,観賞魚用水槽及びその附属品

 2 本件審決の理由の要旨(甲1)
   (1)  本願商標は,「あぶらフキフキティッシュ」の文字(語)からなるところ,構成冒頭の平仮名で表された「あぶら」は「油」又は「脂」に通ずるものであり,片仮名で表された文字部分中後半の「ティッシュ」の文字は,例えば「ウェットティッシュ」,「ポケットティッシュ」のように商品の品質を表示する語に連結されて「ティッシュペーパー」であることを表す略語として普通に使用されている文字(語)である。そして,その中間に位置する「フキフキ」の文字は,例えば幼児語で「にぎにぎ(握ること)」,「まきまき(巻くこと)」,「かいかい(痒い)」という如く,「拭く」という意味で幼児語的に電子掲示板(BBS)やメールを中心に若者の間で多用されている文字(語)であることから,その前後の各文字(語)の意味合いとも相俟って,全体で「油又は脂を拭き取るためのティッシュペーパー」であることを容易に理解させるものと認められる。

   (2) そうとすれば,「あぶらフキフキティッシュ」の文字からなる本願商標を,その指定商品中,「ウェットティッシュ,ティッシュペーパー」に使用したときは,これに接する取引者,需要者は,当該商品が油又は脂を拭き取るのに適した商品であるという,その商品の用途,品質等を表示する語として理解するに止まり,自他商品識別標識としては認識しないものと認められるものであって,かつ,これを上記以外の商品に使用した場合には,商品の用途,品質について誤認を生ずるおそれがあるといわなければならない。
  (3) したがって,本願商標を法3条1項3号及び法4条1項16号に該当するとして拒絶した原査定は妥当である。
第3 当事者の主張
 1 原告の主張
    次に述べるとおり,本願商標が法3条1項3号及び法4条1項16号に該当するとし,その登録を拒絶すべきものとした本件審決の認定判断は誤りである。

   (1)  本件審決は,指定商品の一部についての拒絶理由を述べただけで,本件出願についてこれを拒絶すべき旨の判断を行っており,この点において,同審決の理由は不備であるから,本件審決はこれを取り消すべき瑕疵を帯びているといわざるを得ない。したがって,審決取消訴訟の係属中に出願の分割が行われたか否か,及び出願の分割に伴う補正の遡及効の有無にかかわりなく,本件審決は,取り消されるべきである。
   (2)ア 原告は,前記第2の1(4)記載のとおり,本件審決後に,本件分割出願を行うとともに,本件出願について補正を行い,その結果,本願商標の指定商品は,同(4)ア及びイ記載のとおりになった。
         したがって,本願商標が,法3条1項3号及び法4条1項16号に該当するか否かは,指定商品が上記補正後のものであることを前提にして判断されるべきである。

     イ 商標法条約7条(1)(a)(B)により,審決に対する不服申立手続中,すなわち審決取消訴訟の係属中は出願の分割は可能となっている。つまり同条約によって分割可能な時期が拡大し,法10条1項も同条約の上記趣旨を反映すべく改正されたものである。法は,この出願の分割について,その行われる時期により生じる効果を区別していない。とすれば,出願の分割による効果,取扱いは,その分割が行われた時期いかんにかかわらず,当然に同一になると理解するのが素直な解釈であって,審決取消訴訟中に出願の分割が行われた場合に行われる補正も,拒絶査定に対する審判が係属中に指定商品について出願の分割を行う場合と同じ効果を生じると解すべきである。すなわち,出願の分割に伴う補正の効果によって,指定商品の縮減の効果が遡及するのではなく,出願の分割の効果として指定商品が縮減するとみるべきである。そのように考えると,本件においても,出願の分割によって,当初の出願の時点から本願商標の指定商品は縮減されたことになるので,本件審決の違法性についても,その縮減された指定商品を基礎として判断すべきこととなる。
        出願の分割と補正に関する被告の見解は,商標法条約を立法に反映させる上で生じた法の欠缺を解釈により救済しようとする意図に出たものと思われるが,出願者に過酷な負担を課す点で不当・不合理である。
        また,仮に,出願の分割と補正に関する被告の見解に従うとしても,本件補正の時点では,本件出願について指定商品の縮減の効果が生じているから,本件審決の違法性は,縮減された指定商品を基礎として判断されるべきである。
     すなわち,本件のようなケースでは,行政庁の第1次的判断以後に,判断の基礎となった事実に変動が生じうる。すなわち,商標法条約7条を受けた法10条の改正によって,出願の分割の可能な時期は拡大しており,審決取消訴訟の係属中にも出願の分割が可能となっている。審決取消訴訟係属中に出願の分割が行われると,行政庁の第1次的判断の基礎となった事実が,第1次判断の後に変動することになる。このような場合にまで,違法性の判断時を行政庁における第1次的判断時(本件では審決の時点)とする必然性は全くない。条文上,特段の制限なく審決取消訴訟の係属中にも出願の分割を認めている以上,裁判所においても,上記事実の変動を踏まえた判断を求められていると考えるのが自然であり,法はそのことを当然に予定しているというべきである。

  (3) 本願商標の法3条1項3号該当性
   ア 本件審決は,本願商標である「あぶらフキフキティッシュ」の構成部分のうち,「「ティッシュ」の文字は,例えば「ティッシュペーパー」であることを表す略語として普通に使用されている文字である。」と判断し,さらに「「フキフキ」の文字は・・・「拭く」という意味で幼児語的に電子掲示板(BBS)やメールを中心に若者の間で多用されている文字(語)である。」と判断している。
     しかし,「ティッシュ」という語は薄片一般を指称する語であり,多義的であって,本件審決のように「ティッシュペーパー,ウェットティッシュ」に限定する合理的な根拠は存在しない。また,「フキフキ」についても,電子掲示板等では「焦っていること」,「狼狽の状態」,「物事について困ったこと」等の広い意味で理解されているのであるから,「拭く」の幼児語的表現であるとにわかに断定する根拠は存在しない。

     以上から,本件審決の判断はその前提が誤っているので,本願商標が法3条1項3号に該当するとしたその判断も誤りである。
      なお,特許庁は,これまで,「フキフキ」(指定商品を平成3年政令第299号による改正前の商標法施行令別表(以下「旧施行令別表」という。)第19類とする登録第1032406号,指定商品を旧施行令別表第17類とする登録第1717726号,指定商品を旧施行令別表第1類とする登録第1893931号),「ふきふき」(指定商品を旧施行令別表第4類とする登録第1990885号,指定商品を旧施行令別表第1類とする登録第2601342号,指定商品を旧施行令別表第9類とする登録第3171031号),「レンジふきふき」(指定商品を施行令別表第3類,第5類,第21類とする登録第4374758号),「チンしてふきふき」(指定商品を施行令別表第3類,第5類,第21類とする登録第4374760号)及び「ミトンで/ふきふき」(指定商品を施行令別表第21類とする登録第4656408号)の商標登録をしている。そもそも「フキフキ」,「ふきふき」そのものが登録されていることから,「フキフキ」及び「ふきふき」の文字(語)が造語であることは明白である。このことは,「ふきふき」を商標構成中に含む「レンジふきふき」,「チンしてふきふき」及び「ミトンで/ふきふき」が登録されていることから,これらが造語であることを,特許庁自体が認めているといわざるを得ない。しかも,「あぶら」「フキフキ」「ティッシュ」をまとめて書してなる「あぶらフキフキティッシュ」との商標はこれまで存在しない以上,本願商標もまた造語であり,登録されるべきことは明らかである。
   イ 一歩譲って,「ティッシュ」が「ティッシュペーパー,ウェットティッシュ」を普通に示す語であると仮定しても,本願商標については,本件分割出願に伴う補正により,指定商品中に「ウェットティッシュ,ティッシュペーパー」を含まないこととなった。したがって,上記補正後の本願商標について,本件審決の理由は当てはまらない。
     また,本願商標の指定商品はいずれも,油を拭き取るという行為又は性質とは無関係であるから,本願商標の指定商品に対して,「あぶらフキフキティッシュ」の標章を付したとしても,その用途や性質を表現したことにはならない。

   ウ 以上を踏まえれば,本願商標について,法3条1項3号に該当することを理由に登録を拒絶すべき理由は存しない。
  (4) 本願商標の法4条1項16号該当性
   ア 本願商標の「あぶらフキフキティッシュ」の文字は,油又は脂を拭き取るという行為・用途とは関係のない造語であり,本願商標の指定商品に本願商標を使用したとしても,そもそもその品質・用途を表示したことにはならない。
     また,本願商標の指定商品については,それらが通常有する形状,原材料,販売者,販売場所,用途,使用方法などの事情からみて,油又は脂を拭き取るという行為・用途とは関係がないことは一見して明らかであるから,本願商標の指定商品に本願商標を使用したとしても,これに接する需要者及び取引者がその品質・用途を誤認することはあり得ない。例えば,「つけまつ毛用接着剤」に本願商標を付しても,これに接する通常の注意力を有する需要者及び取引者が,つけまつ毛を接着する薬剤ではなく,油もしくは脂を拭き取るものであると誤認することはあり得ないし,「タイプライター」に本願商標を付しても,これに接する需要者及び取引者が,文字を紙に印字するための事務用機器ではなく,油もしくは脂を拭き取るものと誤認・混同することもあり得ない。このように,本願商標を指定商品に付しても,これに接する需要者及び取引者において,その品質・用途を誤認することはない。

   イ 以上から,本願商標について,法4条1項16号に該当することを理由に登録を拒絶すべき理由は存しない。
 2 被告の反論
   (1) 原告は,本件審決は,指定商品の一部についての拒絶理由を述べただけで,本件出願についてこれを拒絶すべき旨の判断をしており,この点において理由不備があるとし,本件審決にはこれを取り消すべき瑕疵がある旨主張する。
    しかしながら,法によれば,商標登録出願に係る指定商品中に,拒絶の理由に該当しない商品が含まれていたとしても,当該出願の指定商品の一部について拒絶理由が存在すると認められるときは,当該出願について拒絶査定をしなければならず,出願単位で処分がされることとなっている(法15条)。査定及び審決時において,本願商標の指定商品には拒絶理由に該当する商品が含まれていたことは確かであり,それまでの補正ができる期間においても減縮の補正等がされていなかったのであるから,審理の結果,法15条所定の拒絶理由に該当する出願であるとした拒絶査定を取り消すべきものとは認められないとして,審判請求は成り立たないとした本件審決に何ら瑕疵はない。

   (2)  拒絶査定不服審判の審決取消訴訟は,過去にした審決について,その審決時において原告の主張する理由によって取り消されるべきものであったか否か,すなわち審決に原告主張の違法があったか否かを争うものであるところ,本件審決は,平成15年1月7日にされたものであるから,その後の平成15年3月28日に本件分割出願がされ,本件出願について上記分割に伴う補正を行うべく補正書が提出されたとしても,次に述べるとおり,この補正書による補正の効果は本件出願時に遡及しないから,本願商標に登録を拒絶すべき理由があるか否かの判断は,本件審決時の出願内容に基づいて判断されるべきであり,その後の補正の結果はこの判断対象に変更をもたらすものではないというべきである。
   ア 法10条1項は,「商標登録出願人は,商標登録出願が審査,審判若しくは再審に係属している場合又は商標登録出願についての拒絶をすべき旨の審決に対する訴えが裁判所に係属している場合に限り,2以上の商品又は役務を指定商品又は指定役務とする商標登録出願の一部を1又は2以上の新たな商標登録出願とすることができる。」と規定し,拒絶査定不服審判の審決取消訴訟が裁判所に係属している場合にも,商標登録出願の分割を認めている。

        しかし,他方,法68条の40第1項は,「商標登録出願・・・に関する手続をした者は,事件が審査・・・審判又は再審に係属している場合に限り,その補正をすることができる。」と規定し,手続の補正ができる時期を制限している。この規定は,願書が出願当初から完全であって補充や訂正が一切必要ないことは最も望ましいことであるが,このような完全を望むことは出願人に対して酷である一方で,いつまでも補充や訂正を許すことは手続を不安定にし,出願の処理の上からも望ましくなく処理を遅延させる原因となることから,上記補充や訂正ができる時期を制限したものである。
     そうすると,商標法施行規則22条4項は特許法施行規則30条を商標登録出願に準用し,もとの商標登録出願の願書の補正は新たな商標登録出願と同時にしなければならない旨を定めているが,審決取消訴訟が裁判所に係属している時期に出願の分割をするためにもとの商標登録出願についてする補正は,本来,手続の補正ができないとされている時期に行うものであって,法68条の40第1項にいう手続の補正ということはできない。

     すなわち,出願の分割に当たっては,必ず原商標登録出願の指定商品等を2以上に分けなければならないところ,審決取消訴訟が裁判所に係属している時期に出願の分割を行うためにする補正は,法上,手続の補正ができないとされる時期に行うのであるから,指定商品等を分けるという出願の分割に必須の体裁を整えるためだけに最小限に認められている(分割出願がされたからといって,自動的に指定商品等が減縮されるものではない。)と解すべきであって,その範囲を超えて,法68条の40第1項にいう手続の補正と同等にその効果が出願時に遡及するものと解すべきではない。
     イ 上記のように審決取消訴訟が裁判所に係属している時期に出願の分割を行うためにする補正について出願時に効果が遡及しないと解釈しても,出願人は,拒絶理由が該当しないと判断される指定商品等を新たな商標登録出願として出願の分割をするならば,もとの出願の拒絶査定を維持した審決の判断について司法の判断を仰ぎながら,同時に,拒絶すべき旨の審決の原因となっている商品等を指定商品等の一部に含むことにより出願全体(すなわち,指定商品又は指定役務のすべて)が権利化できなくなるような事態を回避し,原商標登録出願と同じ出願日を確保した上で拒絶理由が該当しないと判断される指定商品等について権利化を図ることができるのであるから,出願の分割に係る制度上のメリットを何ら消し去ることはない。

       逆に,仮に,審決取消訴訟が裁判所に係属している時期に出願の分割を行うためにする補正に遡及効を認め,法68条の40第1項にいう手続の補正と同等のものと解釈しようとするならば,審査,審判,訴訟の対象の内容が変更され,いつになってもそれが特定されないことになりかねない。しかも,一旦,出願の分割がなされると,それまでに行われた審査,審判の手続や,訴訟手続をすべて無にするおそれがあるから,手続を複雑かつ不安定にし,出願処理の遅延を招くという問題が避けられないことになる。
         商標法条約の加盟に伴い商標権の他人への移転を伴わない分割が認められたが,これは,異議や無効審判の請求があった場合に,例えば,申立てや請求に係る指定商品等についての商標権と,申立てや請求に係らない指定商品等についての商標権とに分割することにより,権利の有効性について争いのない商標権については安心して権利行使できること等,安定した権利を有効に利用できるものとしたものである。これと同時に認められた商標登録出願について拒絶をすべき旨の審決取消訴訟中の出願の分割についても,例えば,法3条1項3号及び法4条1項16号の対象となる指定商品と,これの対象とはならないと判断される指定商品に分割することにより,該当しない指定商品についてもとの出願日を確保しつつ改めて審査を経て,早期に安定した権利として使用できるというメリットを当然目的としているのである。

     したがって,当初の審査時から,拒絶の理由に該当するとして指摘されていた事項について,拒絶の理由が存在するにもかかわらず,分割手続により当該拒絶理由を内包した新出願とすることは,それまで行われてきた審査,審判の手続や訴訟手続をすべて無にし,再度同様の手続を繰り返させ,いたずらに審査期間を遅延させるものであり,このようなことを法が目的としていないとするのは当然の解釈である。
     ウ  原告は,審決取消訴訟係属中に出願の分割が行われると,行政庁の第1次的判断の基礎となった事実が,第1次的判断の後に変動することになるが,このような場合まで,違法性の判断時を行政庁の第1次的判断時(本件においては審決時)とする必然性は全くなく,裁判所においても,上記事実の変動を踏まえた判断を求められていると考えるのが自然であって,法はそのことを当然に予定している旨主張する。

     しかしながら,審決の違法性の有無を訴訟の対象とする審決取消訴訟において,審決の違法性の有無を判断する基準時が審決時であると解すべきことは明らかであり,原告の主張は理由がない。審決後の事実の変動を踏まえて判断することを法は当然に予定しているとする原告の主張には,法上の根拠を欠くものといわざるを得ず,審決取消訴訟の係属中にも出願の分割手続が可能であることをもって,直ちに前記判断の基準時が変動する根拠とはなし得ない。
   (3) 法3条1項3号該当性について
   ア 「ティッシュ」の文字について
     原告は,元来,「ティッシュ」は薄片一般を指称する語であって,多義的であるから,「ティッシュ」を「ティッシュペーパー」と略称するのは多数ある用法の1つにすぎない旨主張する。
     しかしながら,例えば,株式会社三省堂発行の「大辞林」の「ティッシュ【tissue】」の項(乙1)では,「ティッシュペーパーの略」と紹介され,また,株式会社集英社発行「日本語になった外国語辞典第2版」の「ティッシュ ペーパー【tissue paper】」の項(乙2)では,「化粧などに用いる薄いちり紙,ティッシュ,ティッシューともいう。」と紹介され,株式会社岩波書店発行の広辞苑第5版の「ティッシュ・ペーパー【tissue paper】」の項(乙3)では,「ティッシュ」と紹介されている。そうしてみれば,「ティッシュ」の語は,元来の意味は多義的であったとしても,一般的には,「ティッシュペーパー」を略称するものとして,広く認識されているとみるのが相当であって,単に多義的であって,多数ある用法の1つにすぎないとする,原告の主張は失当である。

    イ 「フキフキ」の文字について
     原告は,「フキフキ」という文字が,「焦っていること」,「狼狽」等の広い意味で使用されている以上,本件審決のように「フキフキ」を直ちに「拭く」という意味と捉えることはできない旨主張している。
     しかしながら,原告が提出した甲4の(1)を見ても,「フキフキ」の文字の使用形態は,「(;^_^A フキフキ」(甲4の(1)の2頁の下から3行 目等)や,「(^-^;Δ フキフキ」(同3頁の下から3行目)のように,顔に吹き出した汗を拭いている状況を表す,各種記号の組み合わせによるいわゆる絵文字と同時に使用され,焦った状況,狼狽した状況の中で「汗を拭く」という表現に使用されているもの,さらには,「(;。。)o_ フキフキ雑巾ガケ」(同3頁の最上段),「__/(。。_/))フキフキ」(同2頁の1番目の記事中)のように拭き掃除を表すために使用されている例もあることからすれば,「フキフキ」の文字は,他の語や絵文字と組み合わされて「拭く」ということを表しているとみるべきである。

     また,株式会社タケホープ(東京都中野区所在)が,インターネット上で開設している「洗剤・お掃除グッズ販売コーナー」(http=//www.takehope.co.jp/item-hanbai.htm)(乙4)の「商品番号7(ガラス清掃スクイジー)」の「おすすめポイント」の欄において「タオルでガラス面をフキフキしているようではプロの仕上がりには・・・」の記載があることから,掲示板(BBS)やメールのみならず,商品を販売する際にも,前後の文意から「フキフキ」の文字が「拭く」という意味で普通に使用されているものであり,それが単に「焦っている」,「狼狽」等を表すものであって,「拭く」という意味と捉えることはできないとする原告の主張は失当である。
   ウ 「あぶらフキフキティッシュ」の文字全体について
     原告は,「あぶら」と「ティッシュ」という各文字の中間に「フキフキ」という文字を入れ,「あぶらフキフキティッシュ」として一体として捉えた場合に,本願商標の意味を「油又は脂を拭き取るためのティッシュペーパー」と断定する根拠はない旨,本願商標を構成する「あぶらフキフキティッシュ」の文字は,油又は脂を拭き取るという行為・用途とは関係のない造語である旨主張している。

     しかしながら,「あぶらフキフキティッシュ」の構成中の「あぶら」の文字が「油」又は「脂」に通じることは原告も認めるところであり,「ティッシュ」の文字についても前記アのとおりであるところ,「フキフキ」の文字は,拭く対象となる「あぶら(油又は脂)」と,拭き取るための「ティッシュ(ティッシュペーパー)」の中間に置かれたことにより,前記イのように当然「拭く」という意味に捉えられるものであり,「あぶらフキフキティッシュ」の文字が全体として「油又は脂を拭き取るためのティッシュペーパー」という意味を有すると理解するのは自然なことである。
   エ したがって,本願商標を,その指定商品中の「ティッシュペーパー」や,例えば「ウェット・ティッシュ」のように,「ティッシュ」の語に相応した商品に使用した場合には,本件審決認定のとおり,これに接する取引者及び需要者は,当該商品が油又は脂を拭き取るために適した商品であるという,その商品の用途,品質等を表示する語として理解するに止まるものというべきである。

     オ 原告は,過去の登録商標例を掲げ,本願商標も同様に登録されるべきであると主張している。
     しかし,これらの登録商標例は,その全体を構成する文字において本願商標とは異なるものであり,出願された商標が法3条1項3号に該当するか否かは,当該商標の査定時又は審決時において,その商標が使用される商品等の取引の実情等を考慮し,個別具体的に判断されるものであるから,原告の挙げた登録商標例は,本願商標と事案を異にするものといわざるを得ない。そして,本願商標は,その指定商品の一部について,商品の用途,品質を表示するものであって,自他商品の識別標識としての機能を果たし得ないことは上記のとおりであり,原告の挙げた登録商標例の存在によってその認定が左右されるものではない。
  (4) 法4条1項16号該当性について

    原告は,本願商標を構成する「あぶらフキフキティッシュ」の文字は,油又は脂を拭き取るという行為・用途とは関係のない造語であり,本願商標の指定商品に本願商標を使用したとしても,そもそもその品質・用途を表示したことにはならない旨主張する。
    しかし,「あぶらフキフキティッシュ」の文字の全体の意味内容については,前記(3)ウに記載のとおりであり,本願商標の指定商品中には,ティッシュペーパーと同様に薄い紙類等を含むものであり,その用途が異なる商品をも含むことから,前記(3)エで掲げた商品以外の紙類等に使用するときは,商品の品質の誤認を生じさせるおそれがあるというべきである。
第4 当裁判所の判断
 1  原告は,本件審決は,指定商品の一部についての拒絶理由を述べただけで,本件出願についてこれを拒絶すべき旨の判断をしており,この点において理由不備があるとし,本件審決にはこれを取り消すべき瑕疵がある旨主張する。

   しかしながら,法15条は,商標登録出願に係る指定商品中に,拒絶の理由に該当しない商品が含まれていたとしても,当該出願の指定商品の一部について拒絶理由が存在すると認められるときは,当該出願について拒絶をすべき旨の査定をしなければならない旨定めているものと解される。そして,拒絶査定不服の審判請求においては,拒絶査定が違法か否かが審理の対象になるのであるから,指定商品の一部について拒絶理由があれば,当該拒絶査定は適法とされるべきである。
     商標登録出願に際していかなる商品を指定商品とするかは,出願人の判断に任されており,その選択に伴うリスク(危険負担)は当然に出願人が負うべきものであるし,また,出願についての審査,拒絶査定不服の審判請求の段階において,出願人には出願の補正を行う機会が与えられているのであるから,上記のように解しても,出願人に酷な結果を強いるものということはできない。

   本件審決は,本件出願に係る指定商品の一部に拒絶理由があることから,本件出願についてされた拒絶査定を妥当と判断し,審判請求を棄却したものであって,本件審決に原告主張の理由不備の瑕疵があるということはできない。
 2  原告は,本件審決後に,本件分割出願を行うとともに,本件出願について補正を行い,その結果,本願商標の指定商品は,前記第2の1(4)記載のとおりになったとし,本願商標が法3条1項3号及び法4条1項16号に該当するか否かは,その指定商品が上記補正後のものであることを前提にして判断されるべきである旨主張する。そこで,まずこの点について判断する。
   (1) 法10条1項は,「商標登録出願人は,商標登録出願が審査,審判若しくは再審に係属している場合又は商標登録出願についての拒絶をすべき旨の審決に対する訴えが裁判所に係属している場合に限り,2以上の商品又は役務を指定商品又は指定役務とする商標登録出願の一部を1又は2以上の新たな商標登録出願とすることができる。」と規定し,拒絶査定不服審判の審決取消訴訟が裁判所に係属している場合にも,商標登録出願の分割を認めている。

       そして,商標登録出願の分割に当たっては,原商標登録出願の指定商品等を2以上に分けなければならないと解されるところ,商標法施行規則22条4項は特許法施行規則30条を商標登録出願に準用し,もとの商標登録出願の願書の補正は新たな商標登録出願と同時にしなければならない旨を定めている。
     しかし,他方,法68条の40第1項では,「商標登録出願,防護標章登録出願,請求その他商標登録又は防護標章登録に関する手続をした者は,事件が審査,登録異議の申立てについての審理,審判又は再審に係属している場合に限り,その補正をすることができる。」と規定し,手続の補正ができる時期を制限し,審決取消訴訟の係属中等には商標登録出願の補正をすることは許されないものとしている。この規定は,登録出願の願書については,出願当初から完全であって補充や訂正の必要がないことが最も望ましいことであるが,このような完全を望むことは出願人に対して酷である一方で,いつまでもその補充や訂正を許すことは,出願に拒絶理由があるか否かの判断の対象となる事項が出願人の意向によりいつまでも特定せず,そのことが出願についての特許庁の処理,裁判手続を不安定にし,これらを遅延させる結果を招来し,また,出願の公開や商標の設定登録により一般に公知となった事項が出願人の意向により任意に変更されることになって,法的安定性を損なうことから,上記補充や訂正ができる時期を制限したものである。

      商標登録出願の分割は,原商標登録出願の指定商品を2以上に分けることが前提になり,これは商標法施行規則22条4項により準用される特許法施行規則30条により,原出願の願書の補正をすることによりなされるべきところ,上記のとおり,審決取消訴訟が裁判所に係属している時期には出願の補正は許されないとされていることから,出願の分割に伴う補正の法的効果をどのように考えるかが問題となるが,この点に関しては,上記各規定の趣旨にかんがみて,審決取消訴訟係属中においては,出願の分割に伴う補正は法68条の40第1項の規定による制約を受け,その補正は単に出願の分割による新出願の体裁を整えるために必要な限度で許容されるもの,すなわち,出願の分割の時点で原出願の指定商品等の一部を除外して残余の商品に指定商品等を減縮し,分割された新出願が上記の分割の前提要件を充足したものとして取り扱われるべきものとする効果を有するに止まるものであり,この補正によっては,上記訴訟係属中に上記指定商品の減縮の効果を原出願の時点に遡及させ,原出願を減縮された商品を指定商品とするものにする法的効果は生じないと解するのが相当である。
   (2)  商標法条約及び法10条1項が,審決取消訴訟の係属中も,分割出願ができるものとしている趣旨は,商標登録の出願について拒絶査定を受け,さらに,これに対する不服審判請求において審判不成立の審決を受けた出願人が,拒絶理由が該当しないと判断される指定商品等について出願の分割をして,新たな商標登録出願をすることにより,拒絶すべき理由に該当する指定商品等を一部に含むことにより出願全体,すなわち,指定商品等のすべてについて商標の登録ができなくなるような事態を回避し,原商標登録出願と同じ出願日を確保した上で拒絶理由が該当しないと判断される指定商品等について商標の登録を得ることができるようにすることにあると解されるところ,審決取消訴訟係属中の出願の分割に伴う補正の効果について上記のように制限的に解しても,これらの規定の趣旨が損なわれることはないと考えられる。
    これに反し,仮に,審決取消訴訟係属中における出願の分割に伴う手続の補正が,上記訴訟係属中にも,原出願の指定商品等についてその減縮をもたらすものとすれば,法68条の40第1項の規定にかかわらず,出願の分割という方法をとることにより,出願人は,いつでも,原出願の補正をすることができるということになるが,このことは,上記規定が手続の補正の時期を制限した趣旨を全く没却することになり,相当でないというべきである。
      なお,原告は,上記(1)の見解に従えば,甲がした商標登録出願について,出願の分割に伴う補正による指定商品の減縮の効果は,上記補正の時点で生ずる一方,同分割による新出願自体は,原出願の時点で出願がなされたものとみなされるから,上記補正の時点では,指定商品をA+Bとする原出願と指定商品をBとする新出願とが併存することになるところ,この場合において,第三者乙が,指定商品をBとして,甲の原出願から上記分割の時点までの間に同一又は類似の商標の登録出願をしたとすると,甲の新出願が何らかの理由で拒絶されたり,他の理由で初めからなかったことになったとしても,乙が出願した時点で,甲の原出願における指定商品はAとBのままであることに変わりがないから,乙の出願は甲の原出願に対する後願となって,甲の原出願に係る商標が登録された場合(指定商品はAとなる。)には,乙の出願は他の拒絶理由があるか否かにかかわらず拒絶されることにならざるを得ないが,このような結果を招来することは不合理である旨主張する。しかしながら,上記の例において,甲の原出願に係る商標が登録されるのは,審決取消訴訟において甲の原出願についての拒絶をする旨の審決を取り消す判決がされてそれが確定し,甲の原出願について特許庁に拒絶査定不服の審判請求が係属している状態に戻ることを意味し,そのときには,法68条の40第1項の規定による制約はなくなるから,上記補正による指定商品を減縮させる効果は原出願時に遡及し,甲は,原出願時に減縮した商品(A)を指定商品とする出願をしたものとみなされることになるものである。その結果,乙の出願は甲の原出願との関係で後願とはならない筋合いである。したがって,上記(1)のように解しても,原告主張のような不都合は生じない。
   (3) したがって,本件の場合,原告がした分割の出願は,分割の要件を満たすものとして扱われるべきであるが,本件出願については本件補正による指定商品の減縮の効果は本件出願時に遡及しないから,本件出願についての拒絶をすべき旨の本件審決に取消事由となるべき違法が存在するか否かは,本件出願の出願時における内容に基づいて判断されるべきである。

       原告は,出願の分割に伴う補正の効果について被告の主張に従うとしても,その補正により同分割の時点で原出願の指定商品について減縮の効果が生じている以上,審決取消訴訟において審理の対象となるのは上記補正により変更された後の原出願とすべきである旨主張するが,審決取消訴訟においては審決がなされた時点を基準にその違法の有無を判断すべきものというべきであるから,原告の主張は採用できない。
 3  法3条1項3号該当性について
   (1)  同項は,自己の業務に係る商品等について使用をする商標については,次に掲げる商標を除き,商標登録を受けることができる旨規定し,同項3号において,「その商品の産地,販売地,品質,原材料,効能,用途,数量,形状(包装の形状を含む。),価格若しくは生産若しくは使用の方法若しくは時期・・・を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる標章」を除外商標として掲げている。

   (2)  本件についてみるに,本願商標を構成する「あぶらフキフキティッシュ」の文字のうち,「あぶら」は,「油」又は「脂」の意味を有する語として一般に理解されるものである。
    また,本願商標を構成する文字のうち,「ティッシュ」については,株式会社三省堂発行の「大辞林」の「ティッシュ【tissue】」の項(乙1)に「ティッシュペーパーの略」と,株式会社集英社発行「日本語になった外国語辞典第2版」の「ティッシュ ペーパー【tissue paper】」の項(乙2)に「化粧などに用いる薄いちり紙,ティッシュ,ティッシューともいう。」と,株式会社岩波書店発行の広辞苑第五版の「ティッシュ・ペーパー【tissue paper】」の項(乙3)に「薄く柔らかい紙。・・・化粧紙・塵紙などに用いる。ティッシュ」とそれぞれ記載されており,これらによれば,上記「ティッシュ」の文字は,薄葉紙,高級ちり紙の意味を有する「ティッシュペーパー」の略語として,一般に認識されているものというべきである。

       原告は,「ティッシュ」という語は多義的であって,本件審決のように「ティッシュペーパー,ウェットティッシュ」に限定する合理的な根拠は存在しない旨主張するが,我が国においては,「ティッシュ」は「ティッシュペーパー」の略語として,単独で,あるいは「ウェットティッシュ」,「ポケットティッシュ」などのように商品の品質,用途等を表す語と連結されて使用され,一般に定着しているものと認められるのであって,原告の上記主張は採用できない。
    さらに,上記2つの文字の間に挟まれた「フキフキ」の文字は,「フキ」の文字を重ねたものであるが,上記の各意味を有する「あぶら」と「ティッシュ」の2つの語から「フキ」の文字は「拭く」の意味を想起させるものであり,したがって,「フキフキ」の文字は「拭き」を重ねた「拭き拭き」の意味を有するものと一般に理解されるものと考えられる。

    原告は,「フキフキ」という語が,「焦っていること」,「狼狽した状態」等の広い意味で使用されていると主張する。しかしながら,証拠(甲4の(1),(2) )によれば,「フキフキ」の文字が,「(;^_^A フキフキ」(甲4の(1)の2頁の下から3行目等,甲4の(2)の1頁の下から3行目等)や,「(^-^;Δ フキフキ」(甲4の(1)の3頁の下から3行目)のように,各種記号を組み合わせて顔に吹き出した汗を拭いている状況を表す,いわゆる絵文字と同時に使用されることにより,焦った状況,狼狽した状況等を表現していることが認められるものの,「フキフキ」の文字がそれ自体で「焦っていること」や「狼狽した状態」等の意味を有する語として使用され,一般に定着しているとは考えられないし,そのように認めるべき証拠もない。
       そうすると,上記「あぶらフキフキティッシュ」の文字は,これを構成する各文字の意味合いが相俟って,全体として「油又は脂を拭き取るためのティッシュペーパー」の意味を有する語として一般に理解されるものと考えられる。

    上記に説示した点に加え,本願商標の指定商品の需要者は通常は特別の専門知識を有するものでない一般消費者であることをも勘案すれば,本願商標をその指定商品中の「紙類」に含まれる「ティッシュペーパー,ウェットティッシュ」等に使用するときには,これに接する取引者,需要者は,当該商品が油又は脂を拭き取るのに適した商品であるという,その商品の品質,効能,用途を普通に用いられる方法で表示する語として理解するものと認めるのが相当である。
   (3)  原告は,第3の1(3)記載のとおり,過去の登録商標例を掲げ,本願商標も同様に登録されるべきであると主張している。
    しかしながら,原告が挙げる登録商標例は,いずれもその構成において,「ふきふき」,「フキフキ」の文字が中心を占めているものであり,前後に「ふきふき」,「フキフキ」の文字が特定の意味を有することを連想させるような文字を含まないという点において,本願商標とは異なるものであり,また,出願された商標が法3条1項3号に該当するか否かは,当該商標の査定時又は審決時において,その商標が使用される商品等の取引の実情等を考慮し,個別具体的に判断されるものであるから,原告の挙げた登録商標例があるからといって,本願商標を構成する「あぶらフキフキティッシュ」の文字が新しい造語として認められるべきであると直ちにいうことはできない。本願商標が,商品の用途,品質を表示するものであって,自他商品の識別標識としての機能を果たし得ないことは上記のとおりであり,原告の挙げた商標登録例の存在によってその認定は左右されない。

  (4) したがって,本願商標は,法3条1項3号に該当するというべきである。
 4 法4条1項16号該当性について
    法4条1項16号は,「商品の品質・・・の誤認を生ずるおそれがある商標」を商標登録を受けることができない商標として規定している。
     本件についてみると,本願商標を構成する「あぶらフキフキティッシュ」の文字は,前記3認定のとおり,全体として「油又は脂を拭き取るためのティッシュペーパー」の意味を有する語として一般に理解されるものと考えられるから,これを商標法施行規則6条別表第16類1号の紙類のうち「ティッシュペーパー,ウェットティッシュ」以外のもの,同類4号の「衛生手ふき,紙製タオル,紙製テーブルナプキン,紙製手ふき,紙製ハンカチ」に使用するときには,これに接した取引者及び需要者において,商品の品質について誤認を生ずるおそれがあるといわなければならない。

     したがって,本願商標は,法4条1項16号に該当する。
 5 結論
   以上によれば,原告が取消事由として主張するところはいずれも理由がなく,他に本件審決にこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。
   よって,原告の請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。

    東京高等裁判所第3民事部

          裁判長裁判官    北  山  元  章


                 裁判官  青  蛛@    馨


                裁判官    清  水     節