H15. 6.23 東京高裁 平成14(行ケ)449 特許権 行政訴訟事件

平成14年(行ケ)第449号 審決取消請求事件
口頭弁論終結の日 平成15年6月16日
            判      決
          原       告   セイコーエプソン株式会社
          同訴訟代理人弁理士   阿 部 龍 吉
          同           蛭 川 昌 信
                   同                      白 井 博 樹
                   同                      内 田 亘 彦
                   同                      菅 井 英 雄
                   同                      青 木 健 二

                   同                      韮 澤   弘
                   同                      米 澤   明
                   同           飯 高   勉
          被       告   特許庁長官 太田信一郎
          同指定代理人      水 垣 親 房
          同           石 川 昇 治
                   同           大 野 克 人
                   同           小 曳 満 昭
          同           涌 井 幸 一
          同           大 橋 良 三

            主      文
               1 原告の請求を棄却する。
               2 訴訟費用は原告の負担とする。
            事実及び理由
第1 請求
    特許庁が不服2001−647号事件について平成14年7月17日にした審決を取り消す。
第2 事案の概要
    本件は、後記本願発明の出願人である原告が、拒絶査定を受けたので、これを不服として審判請求をしたところ、特許庁が、審判請求不成立の審決をしたことから、同審決の取消しを求めた事案である。
 1 争いのない事実
   (1) 原告は、平成2年9月10日に出願した特許出願(特願平2−239262号、以下「原々出願」という。)の一部を新たな特許出願として出願した特許出願(特願平10−216966号、以下「原出願」という。)の一部を更に新たな特許出願として、平成12年4月3日、発明の名称を「現像方法」とする発明(以下「本願発明」という。)につき、特許出願をした(特願2000−100151号)が、同年12月8日に拒絶査定を受けたので、平成13年1月18日、これに対する不服の審判の請求をした。

       特許庁は、同請求を不服2001−647号事件として審理した上、平成14年7月17日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をし、その謄本は、同年7月31日、原告に送達された。
   (2) 本願発明の要旨は、本件審決の本願発明の要旨に記載されたとおりの、
     【請求項1】「トナー担持体上にトナーを弾性ブレードによって薄層化し、該薄層化したトナーを潜像担持体に現像する現像方法において、前記トナーは、球形状のトナーを用い、前記弾性ブレードは、先端を前記トナー担持体の回転上流側に向けて前記トナーを介して前記トナー担持体に押圧し、前記トナー担持体は、前記弾性ブレードより滑り易くして、前記トナー担持体を前記潜像担持体に圧接して現像することを特徴とする現像方法。」

      である。
   (3) 本件審決は、別紙審決書写し記載のとおり、原出願の願書に最初に添付した明細書又は図面(甲4(特開平11−95547号公報)の一部。以下「原明細書」又は「原図面」といい、両者を併せて「原明細書等」という。)に記載した技術的事項の範囲内のものではない記載事項を含む本願発明の請求項1に係る発明が、原明細書等に記載した発明ではないから、原出願の一部を新たな特許出願としたものとは認められず、したがって、本願発明は現実の出願日(平成12年4月3日)に出願したものとして取り扱うとした。その上で、本願発明が、特開平11−95547公報(甲4、本願の原出願(特願平10−216966号)の公開公報である。以下「引用例1」という。)及び特開平4−118678号公報(甲5、本願の原々出願(特願平2−239262号)の公開公報である。以下「引用例2」という。)に記載された発明(以下、それぞれ「引用発明1」及び「引用発明2」という。)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとしたものである。

 2 争点(審決取消事由)
    本願発明が、原明細書等に包含された発明であるか否か。
   (1) 原告の主張
      本件審決は、本願発明の要旨である技術的事項が原明細書等に記載されているにもかかわらず、原明細書等に記載されていた技術的事項の範囲内のものとは認められないと誤って判断し、その結果、本願は、原出願の一部を新たな特許出願としたものではなく、本願の出願日が遡及しないと誤って判断し、原出願及び原々出願の公開公報を引用例として特許法29条2項の規定により特許を受けることができないと判断したものであるから、違法として取り消されるべきである(なお、本願発明が、引用発明1及び2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとする点については、争わない。)。
     ア 本件審決は、本願発明の「トナー担持体は、弾性ブレードより滑り易く」という事項について、「表面形状を異ならせることとともに、両者の材質を異ならせることによってトナー担持体が弾性ブレードよりも滑り易くすることの技術的事項までも包含するものである」と認定した(この認定は争わない。)上、「原明細書等には、弾性ブレードとトナー担持体とは、表面粗さ、即ち表面の形状を異ならせることによってトナーがトナー担持体上での方が弾性ブレード上でよりも滑り易くすることが記載されているものであって、用いられる材質を異ならせること等のその他の要因によって滑り易くすることの技術的事項については何ら記載も示唆もされていない。」と認定判断しているが、この事項は原明細書等に記載されていた技術的事項の範囲内のものであるから誤りである。

     イ すなわち、特許法44条にいう出願の分割は、公開した発明に対する保護を目的として、原明細書の発明の詳細な説明又は図面に記載された発明について許されるものであり、当業者にとって自明な事項と読み取れるような事項に属するときは、明文の記載がなくとも実質的に明細書に記載されているものとして分割が認められ、また、明細書の発明の詳細な説明の欄に発明と認めるに足る技術的事項の記載があれば、実施例の記載がなくとも、原明細書に当該発明が記載されているものとして分割が認められるべきである。
     ウ これを本件原出願についてみるに、原明細書の段落【0020】には、「トナー担持体43は、トナー42を搬送するため矢印44方向に回転駆動され」、「トナー42は矢印45方向に転動」して、「トナー42が圧接部を通過する時間及び摩擦帯電部材への接触機会が増大し、トナーを急速かつ安定な帯電量に帯電させることができ」るようにするため、「弾性ブレード41の表面粗さをトナー担持体43の表面粗さよりも粗く」することと、「トナー42がトナー担持体43上では滑り易く弾性ブレード41上では滑り難く」することが、それぞれ発明の構成の一部をなす技術的事項として記載されている。「弾性ブレード41の表面粗さをトナー担持体43の表面粗さよりも粗く」することと、「トナー42がトナー担持体43上では滑り易く弾性ブレード41上では滑り難く」することとは、表裏一体の不可分な技術的事項でなく、それぞれに技術的意義があるものとして開示されているから、それぞれが独立した技術的事項であることは明白である。

     エ また、原明細書の段落【0025】には、「弾性ブレードの表面粗さとトナー担持体の表面粗さとが異なる構成とすることにより、トナーの転動を促進し、トナーをより安定に所望の帯電量に帯電させ、かつ、急速に所定の帯電量に帯電させることができ、安定に高濃度の画像を形成することができる。」と記載されており、上記技術的事項の一方である「弾性ブレード41の表面粗さをトナー担持体43の表面粗さよりも粗く」した場合について開示したものである。このことからも「トナー42がトナー担持体43上では滑り易く弾性ブレード41上では滑り難く」することが独立の技術的事項の他方として把握できるから、この技術的事項が原明細書等に記載されていた範囲内のものとは認められないとする本件審決は、誤りである。
     オ そもそも、弾性ブレードとトナー担持体との圧接部において、トナーを帯電させるようにする場合、トナーと弾性ブレード、トナー担持体との滑りは、帯電に寄与する因子のうち少なくとも接触時間に関わり、トナーと弾性ブレード、トナー担持体の表面の粗さ(表面形状)は、帯電に寄与する因子のうち少なくとも接触面積に関わるものである。

        したがって、トナーと弾性ブレード、トナー担持体との滑りに対し、トナーと弾性ブレード、トナー担持体の表面の粗さは、トナーの帯電に寄与する因子として、当該技術分野で別異のものと認識される。つまり、「弾性ブレード41の表面粗さをトナー担持体43の表面粗さよりも粗く」することは、弾性ブレードに対するトナーの接触面積を増大させ、「トナー担持体43上では滑りやすく弾性ブレード41上では滑りにくく」することは、トナー担持体に対するトナーの接触時間を増大させ、それぞれが別の発明を構成するものである。
        しかるに、本件審決は、上記「表面の粗さの程度」と「滑りの難易」とが、トナーを所定の極性に安定に帯電できる現像方法を提供するという本願発明の目的からみて、帯電にどのように寄与するかということを何ら検討することなく、両者の技術内容を同一のものと誤認し、別の発明を構成し得ないと誤って判断したものである。

   (2) 被告の主張
      本願発明は、原明細書又は原図面に包含された発明ではないから、本願は、原出願の一部を新たな特許出願としたものとは認められないとした本件審決の判断に誤りはない。
     ア 分割出願に係る発明は、原出願に包含された発明であることを前提として、分割が認められるのであるから、分割出願に係る発明が、原告の指摘するような原明細書等に記載された発明に自明な事項を加えたものである場合でも、その自明な事項を加えた発明が発明の目的・効果に照らして、全体としても原明細書等に包含されていなければならない。
     イ 本願発明に係る原出願では、現像剤担持体と弾性ブレードとの表面構造において、表面形状を異ならせることによって発明を構成したものであり、表面の形状を離れて、単に現像剤担持体を弾性ブレードよりも滑り易くする構成、又は材質を異ならせることによって現像剤担持体を弾性ブレードよりも滑り易くする構成については、何ら検証されておらず、記載も示唆もされていない。しかも、現像剤担持体をブレードよりも滑り易くすることの作用・効果又は技術的意義も何ら記載されていない。

        原明細書には、段落【0025】に表面形状を異ならせたものについての効果だけが記載されていることからも理解されるように、原明細書等に記載の発明は、ブレードの表面粗さを現像剤担持体よりも粗くすることを必須の構成とするものであって、現像剤担持体をブレードよりも滑り易くすること自体が必須の構成であると認め得る根拠は記載されていない。
     ウ そうすると、本願発明は、原明細書等に記載された発明では必要とされていた「ブレードの表面粗さを現像剤担持体よりも粗くする」構成を必須の構成としないことにより、原明細書等に記載された発明を上位概念化して拡張するものであって、表面形状を異ならせて現像剤担持体を弾性ブレードよりも滑り易くする構成とともに、材質を異ならせて現像剤担持体を弾性ブレードよりも滑り易くする構成をも包含するものであるから、原明細書等に記載の範囲外の発明を包含するものである。

       したがって、本願発明は、原明細書等に包含された発明ではない。
第3 争点に対する判断
 1 原出願について
   (1) 原明細書(甲4)には、[発明が解決しようとする課題]として、
     「前述の従来技術で非接触の現像方法では、非接触の現像であるため、潜像担持体と現像電極との距離(空隙)が大きく高解像の画像を形成することが困難であった。また、前述の従来技術で圧接現像方法では、現像電極効果は得られるものの、トナーの帯電が不十分なため現像濃度が変動したり、異極性に帯電したトナーが多数存在するため潜像担持体上に地カブリ(非画像部にトナーが付着した状態)を生じ不要に廃棄されるトナーが多かった。」(段落【0003】)
     「本出願人はこのような問題点を解決するために特開平3−259276号公報により磁性のトナーを用いた圧接現像装置を提案したが、本発明はかかる現像装置に適用可能で、しかも、非磁性のトナーを用いた圧接現像装置にも適用可能な現像方法であり、その目的とするところは、トナーを所定の極性に安定に帯電できる現像方法を提供するところにある。更に他の目的は、磁性のトナーを高解像に現像するのに好適な現像方法を提供するところにある。更に他の目的は、磁性のトナーを圧接現像可能な現像方法を提供するところにある。」(段落【0004】)

      [発明の実施の形態]のうち、トナー担持体9及び弾性ブレード13について、
     「現像装置7は非磁性で球形状のトナー8を搬送し現像するものであって、トナー8を搬送するトナー担持体9は、シャフト10の外周に弾性層11及び導電層12をそれぞれ同心円状に配設したもので、非磁性または磁性の金属や樹脂で構成される板状の弾性ブレード13をトナー担持体9に押圧してトナー8を所定の極性に帯電させると共にトナー層を適量に薄層化し、導電層12の表面近傍に静電的鏡像力により非磁性のトナー8をトナー担持体9上に直接保持し、トナー担持体9を回転させて薄層のトナー8を搬送するものである。」(段落【0011】)
     「潜像担持体1とトナー担持体9が近接する現像ギャップ部までトナー8が搬送されると潜像担持体1の電位コントラスト及び現像バイアス印加手段14により現像電界が形成され、現像電界に応じて帯電したトナー8が潜像担持体1に付着し静電潜像が顕像化される。さらに、コロナ転写器や転写ローラー等の転写器15を用いて記録紙16上にトナーによる像を転写し、熱や圧力を用いてトナーを記録紙に定着し所望の画像を記録紙上に得るものである。」(段落【0012】)

     「図4は本発明の更に他の実施例における弾性ブレード圧接部の模式図であって、弾性ブレード41は、球形状のトナー42を介してトナー担持体43に圧接されており、弾性ブレード41及びトナー担持体43の表面はトナー42の帯電極性に応じて表面処理されていても良い。トナー担持体43は、トナー42を搬送するため矢印44方向に回転駆動されるが、弾性ブレード41の表面粗さをトナー担持体43の表面粗さよりも粗くして、トナー42がトナー担持体43上では滑り易く弾性ブレード41上では滑り難くすることにより、トナー42は矢印45方向に転動する。従って、トナー42が圧接部を通過する時間及び摩擦帯電部材への接触機会が増大し、トナーを急速かつ安定な帯電量に帯電させることができ、安定に高濃度の画像を形成することができる。」(段落【0020】)
    [発明の効果]として、
     「また、弾性ブレードの表面粗さとトナー担持体の表面粗さとが異なる構成とすることにより、トナーの転動を促進し、トナーをより安定に所望の帯電量に帯電させ、かつ、急速に所定の帯電量に帯電させることができ、安定に高濃度の画像を形成することができる。」(段落【0025】)
      とそれぞれ記載されている。
    また、原図面の図4は、発明の実施例における弾性ブレード圧接部の模式図であるが、ほぼ球状のトナーが、凹凸のある弾性ブレードと表面が滑らかなトナー担持体に圧接されて、トナー担持体の回転上流方向に転動する状態が開示されている。
  (2) 上記の各記載によれば、原明細書等に記載された発明においては、弾性ブレードをトナー担持体に押圧してトナーを所定の極性に帯電させるとともにトナー層を適量に薄層化し、弾性ブレードの表面粗さをトナー担持体の表面粗さよりも粗くする構成を採用することにより、球形状のトナーが、表面の滑らかなトナー担持体上では滑り易く、粗く凹凸のある弾性ブレード上では摩擦が大きいために滑り難くなり、その結果、トナー担持体上でトナーが担持体の回転方向とは反対方向に転動していくことが促進されて、圧接部を通過する時間及び摩擦帯電部材への接触機会が増大することとなり、トナーを急速かつ安定な帯電量に帯電させることができ、安定に高濃度の画像を形成するという作用効果を達成できるものと認められる。そして、トナーがトナー担持体上では滑り易く弾性ブレード上では滑り難いという状況は、弾性ブレードの表面の粗さとトナー担持体の表面の粗さとを異なる構成とすることにより達成されることのみが開示されており、表面の粗さの相違とは別個に滑り易さの相違自体を独自の技術的事項としたり、あるいは、その他の構成、例えば、弾性ブレードとトナー担持体との材質を異ならせることにより、摩擦力を相違させて滑りやすさに難易を設けることなどは、一切開示されていないものと認められる。
  (3) 原告は、「弾性ブレード41の表面粗さをトナー担持体43の表面粗さよりも粗く」することと、「トナー42がトナー担持体43上では滑り易く弾性ブレード41上では滑り難く」することとは、表裏一体の不可分な技術的事項でなく、それぞれに技術的意義があるものとして開示されている旨主張する。
      しかし、原明細書等では、前記説示のとおり、「トナーがトナー担持体上では滑り易く弾性ブレード上では滑り難い」という「滑り易さの相違」は、「弾性ブレードの表面粗さをトナー担持体の表面粗さよりも粗くする」という「表面粗さの相違」という構成に基づくものであることのみが開示されているのであり、「表面粗さの相違」に基づかない「滑り易さの相違」自体を、別個独立の技術的事項とする記載は皆無であり、その構成のもたらす作用効果に関する説明や帯電現象に及ぼす影響等も全く示されていない。上記原告の主張は、原明細書において、文理上も明らかに一連の技術的事項と認められる記載を独自の見解によって分断するものであり、原明細書等の記載に反する根拠のないものであるから、到底採用することができない。

      また、原告は、原明細書の段落【0025】の記載が、技術的事項の一方である「弾性ブレード41の表面粗さをトナー担持体43の表面粗さよりも粗く」した場合について開示したものであるから、「トナー42がトナー担持体43上では滑り易く弾性ブレード41上では滑り難く」することが独立の技術的事項の他方として把握できる旨主張する。
      しかし、原明細書の当該段落において、「弾性ブレードの表面粗さをトナー担持体の表面粗さとを異ならせる」という「表面粗さの相違」という構成がもたらす作用効果が示されているからといって、その構成に基づく「トナーがトナー担持体上では滑り易く弾性ブレード上では滑り難い」という「滑り易さの相違」が、別の技術的事項として開示されていることになるものでないことは明らかである。むしろ、原明細書の当該段落においては、「表面粗さの相違」という構成がもたらす作用効果のみが示され、「滑り易さの相違」という構成がもたらす作用効果は全く記載されていないのであるから、原明細書等に記載の発明は、「表面粗さの相違」という構成を必須のものとするといえるが、「滑り易さの相違」という構成は、独自の技術的事項でなく、このこと自体が必須の構成とされているものではないと認めるのが相当である。したがって、原告の上記主張も採用する余地がない。

      さらに、原告は、弾性ブレードとトナー担持体との圧接部において、トナーを帯電させるようにする場合、トナーと弾性ブレード、トナー担持体との滑りは、帯電に寄与する因子のうち少なくとも接触時間に関わり、トナーと弾性ブレード、トナー担持体の表面の粗さ(表面形状)は、帯電に寄与する因子のうち少なくとも接触面積に関わるものであるから、両者は、トナーの帯電に寄与する因子として別異のものと認識される旨主張する。
      しかし、原明細書等において、トナーの帯電に寄与する因子として、「滑り」と「表面の粗さ」とを技術的に明確に区分した上で、それぞれのトナーの帯電に対する影響等に関する説明は全く記載されておらず、このことが当業者にとって原出願の出願時に周知の技術的事項ともいえないから、結局、上記主張は、原明細書等の記載に基づかない原告の知見によるものであって、採用することができない。

 2 本願発明について
   (1) 本願発明の要旨である「トナー担持体は、弾性ブレードより滑り易く」という技術的事項が、「表面形状を異ならせることとともに、両者の材質を異ならせることによってトナー担持体が弾性ブレードよりも滑り易くすることの技術的事項までも包含するものである」ことは、当事者間に争いがない。
     他方、原出願の原明細書等には、弾性ブレードとトナー担持体との表面の粗さ、即ち表面の形状を異ならせることによって、トナーがトナー担持体上で弾性ブレード上よりも滑り易くすることのみが記載されおり、用いられる材質を異ならせること等のその他の要因によって滑り易くすることの技術的事項については、何ら記載も示唆もされていないことは、前記認定のとおりである。
     そうすると、本願発明の要旨である上記技術的事項は、原明細書等に記載されていた技術的事項の範囲内のものとは認められないから、本件審決が、本願は、原出願の一部を新たな特許出願としたものではなく、本願発明は現実の出願日(平成12年4月3日)に出願したものとして取り扱うとしたことに誤りはない。

   (2) 本願発明が、本願の原出願の公開公報である引用例1及び本願の原々出願の公開公報である引用例2に記載された発明である引用発明1及び2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであることは、当事者間に争いがない。
     そうすると、本願発明は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものとなり、これと同旨の本件審決に誤りはなく、その他本件審決にこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。
3 結論
    よって、原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。
      東京高等裁判所第3民事部
 

         裁判長裁判官  北  山  元  章
   
   
             裁判官  清  水     節
   
   
             裁判官  沖  中  康  人