H15. 7. 1 東京高裁 平成14(行ケ)3 特許権 行政訴訟事件

平成14年(行ケ)第3号 審決取消請求事件
平成15年6月17日口頭弁論終結
                   判     決
     原     告     A
     被     告     特許庁長官 太田 信一郎
     被告指定代理人     久 保 竜 一
     同           二 宮 千 久
     同           大 野 克 人
     同           大 橋 良 三
     同           涌 井 幸 一
                   主     文
         原告の請求を棄却する。
         訴訟費用は原告の負担とする。

                   事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
 1 原告
     特許庁が補正2001−50007号事件について平成13年11月13日にした審決を取り消す。
     訴訟費用は被告の負担とする。
 2 被告
     主文と同旨
第2 当事者間に争いのない事実
 1 特許庁における手続の経緯
     原告は,平成4年11月6日,発明の名称を「ゲーム,パチンコなどのネットワーク伝送システム装置」とする特許出願(特願平4−339418号)をした(以下「本件出願」という。請求項の数は2である。)。原告は,本件出願につき,平成11年10月25日付け書面で,本件出願の願書に添付した明細書の補正(以下「本件補正」という。)をした。特許庁は,平成12年10月24日,本件補正を却下する決定をした。原告は,これに対する不服の審判を請求した。特許庁は,この請求を補正2001−50007号事件として審理し,その結果,平成13年11月13日に「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,同年12月8日,その謄本を原告に送達した。

 2 本件出願に係る発明の特許請求の範囲
   (1) 出願当初
     「【請求項1】 ゲーム,パチンコデータ情報等の伝送を本店スタジオ(コンピューターセンターなど)から各家庭内等に衛星回線等(パケット,データー,マルチメディア多重回線,地上映像回線伝送など)を用いて伝送するゲーム,パチンコネットワーク伝送システム装置。
     【請求項2】 各地のゲーム,パチンコ機械を画面表示(光ファイバー,テレビ電話,ビデオカメラ,リモコンパチンコ機械等)して各家庭内等に撮像映像伝送しオンライン照会,検索などを行うゲーム,パチンコネットワーク伝送システム装置。」
   (2) 本件補正後
     「【請求項1】ゲーム,パチンコなどのデータ情報の伝送を,本部スタジオ(コンピュターセンターなど)と支部スタジオ(中継センター,携帯端末機電話機)とを,有線,又は無線で直接,又は,間接に接続して,本部スタジオから,ゲーム,パチンコゲームなどのソフトウエアデータ情報の伝送を支部スタジオに伝送し,支部スタジオにおいて受信した前記ソフトウエア情報(仮想空間・モール,カラオケ,アニメ漫画,プロ・アマスポーツ,継続役務業他)によるゲーム又は,パチンコゲームなどを実行したデータ情報を本部スタジオ(C・T・I,コンピュータなど)から各家庭内,屋外等に衛星回線等〔パケット通信,デジタルデータ情報,マルチメディア多重回線(音声,メール,画像圧縮等)携帯電話機地上映像回線伝送(通信,放送,融合機器など)を用いて伝送することを特徴とするゲーム,パチンコなどのネットワーク伝送システム装置。

     【請求項2】ゲーム場又は,パチンコホールゲーム場の,スタジオと家庭のスタジオ(テレビ,パソコン,CATV,DVD,デジタル家電,ビデオカメラテレビ電話,携帯パソコンテレビ電話機など)とを有線又は無線で,直接又は,間接に接続して,ゲーム場又は,パチンコホールゲーム場のスタジオから,ゲーム機又は,パチンコゲーム機の画像及び音声情報CD−ROM,DVDソフトウエアを家庭の上記スタジオに伝送し,家庭の前記スタジオで受信したゲーム,パチンコゲームなどの前記情報をリモートコントロールなどにより実行(前記スタジオ・テレビ,パソコン,CD−ROM,DVD,デジタル家電,デジタルビデオカメラ,テレビ電話,携帯パソコンテレビ電話機など介して発信)したデータ情報を,ゲーム場又は,パチンコホールゲーム場のスタジオに伝送し,銀行オンライン照会,景品カタログ,検索,決済,商品宅配便,出玉の貯玉,銀行振込み入出金などすることを特徴とするゲーム,パチンコなどのネットワーク伝送システム装置。」
 3 審決の理由
     別紙審決書の写し記載のとおりである。要するに,本件補正後の明細書(以下「補正後明細書」という。)に記載された発明(以下「補正後発明」という。)に関する技術的事項は,本件出願の願書に最初に添付した明細書(甲第8号証はその公開公報である。以下,「当初明細書」という。)及び図面に記載されておらず,これらに記載された事項から自明であるとも認められないから,本件補正は,「願書に最初に添付した明細書及び図面に記載された事項の範囲を超えてなされたもの」であり,したがって,「特許法53条1項(判決注・平成5年法律第26号による改正前のもの)の規定により却下」されるべきものである,としたものである。
第3 原告主張の審決取消事由の要点
     審決の理由中,「1.手続の経緯」,「2.原決定の理由」は認める。「3.当審の判断」のうち,「3−1.原決定の理由1について」は,4頁14行ないし22行は認め,23行ないし26行は争う。「3−2.原決定の理由2について」は,4頁33行ないし36行は争い,その余は認める。「3−3.原決定の理由3について」は,5頁30行ないし33行,6頁13行ないし29行は争い,その余は認める。「4.むすび」は争う。

     審決は,(1)本件補正に係る補正書(以下「本件補正書」という。)の日付が提出日と異なることを理由に,本件補正を却下し(取消事由1),(2)当初明細書に図面が添付されていないにもかかわらず,図面が存在することを前提とした認定判断をし(取消事由2),(3)本件補正は,当初明細書に記載した事項の範囲内でなされたものであるのに,誤って当初明細書に記載した事項の範囲を超えてなされたものである,との誤った判断をしたものであり(取消事由3),これらの誤りがそれぞれ審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,違法として取り消されるべきである。
 1 取消事由1(本件補正書の日付が提出日と異なることを理由に本件補正を却下した誤り)
     審決は,本件補正書の日付が提出日と異なることを理由に,本件補正を却下したものであるから,違法である。

 2 取消事由2(添付されていない図面が存在することを前提として判断をした誤り)
     審決は,本件出願に係る願書には図面が添付されていないにもかかわらず,図面が存在することを前提とした認定判断をしたものであるから,違法である。
 3 取消事由3(本件補正が当初明細書に記載した事項の範囲を超えるとした判断の誤り)
   (1) 当初明細書に記載された発明(以下「当初発明」という。)は,パーソナルコンピュータ,サーバーなどとデータ情報(ソフト)とを組み合わせたもので,ネットワークを利用して,外に出ることなく,いつでもどこでも,情報を交換することができる,という汎用的なネットワークシステム伝送装置であるから,当初明細書に記載された「ゲーム,パチンコデータ情報」に限られず,補正後明細書に記載された,他の様々なデータ情報にも用いることのできるものである。本件補正に係る事項は,すべて,当初明細書に記載されていると解するべきである。

   (2) 本件補正により加入された事項は,当初明細書にも,その請求項1,2中の「等」及び「など」の語によって,すべて記載されていると解すべきである。
     ア 当初明細書請求項1の「データ情報等」の「等」に含まれる事項
       @ 「ソフトウエア情報(仮想空間・モール,カラオケ,アニメ漫画,プロ,アマスポーツ,継続役務業他),デジタルデータ情報,音声情報CD−ROM,DVDソフトウェア」
       A 結婚相手探し,継続役務業,仮想商店街(商品売買,決裁,商品配達便),仮想美術館(芸術家小説家育成シミュレーション),仮想放送局(文字,音声,ラジオ電話局,身体障害者用放送局など),仮想ギャンブル場(競馬,競輪,競艇,オートレースなど競争馬育成選手育成),仮想銀行(仮想コイン金融等,宝くじ,証券,クレジット券など),仮想国会(政党運営,選挙,資金集め,司法,立法,行政),仮想法人(病院の患者指導,看護婦の育成他イベント等のオリンピック・万博・見本市又宗教など),仮想郵便局(仮想コイン貯金,印鑑,印紙,切手など),仮想道路(鉄道,高速道路,航空,航海),仮想農漁業(米,魚など電子換金債権証他朝市など),通信カラオケ劇場,塾,医療,学校,教育他

     イ 当初明細書請求項1の「本店スタジオ(コンピューターセンターなど)」の「など」に含まれる事項
         インターネットサーバー,本部スタジオ,C・T・I,コンピュータ・タミナルインキュバージョン
     ウ 当初明細書請求項1の「各家庭内等」の「等」に含まれる事項
         支部スタジオ(中継センター,携帯端末機電話機)
     エ 当初明細書請求項1の「衛星回線等」の「等」に含まれる事項
       @ 有線,又は無線で直接,又は間接に接続して,
       A マルチメディア多重回線(音声,メール,画像圧縮等)
       B 地上映像回線伝送(通信,放送,融合機器など)
     オ 当初明細書請求項2の「画面表示(光ファイバー,テレビ電話,ビデオカメラ,リモコンパチンコ機械等」の「等」に含まれる事項
         デジタルビデオカメラ,テレビ電話,携帯パソコンテレビ電話機,テレビ,パソコン,CD−ROM,DVD,デジタル家電

     カ 当初明細書請求項2の「オンライン照会,検索など」の「など」に含まれる事項
         銀行オンライン照会,景品カタログ,検索,決済,商品宅配便,出玉の貯玉,銀行振込み入出金など
   (3) 補正書は,1パーセントでも認めることができる部分があるならば,その部分を除いた部分のみを却下すべきであり,全部却下することは許されないというべきである。
第4 被告の反論の骨子
     審決の認定,判断に誤りはなく,原告主張の取消事由は理由がない。
 1 取消事由1(本件補正書の日付が提出日と異なることを理由に本件補正を却下した誤り)の主張は争う。
 2 取消事由2(添付されていない図面が存在することを前提として判断をした誤り)の主張は争う。
 3 取消事由3(本件補正が新規事項の追加に当たるとした判断の誤り)について

     原告の主張は争う。
     審決の指摘した本件補正に係る技術的事項は,当初明細書に記載されておらず,当初明細書に記載された技術的事項から自明であるとも認められない。
     したがって,本件補正を,当初明細書に記載した事項の範囲内のものとすることはできない。
第5 当裁判所の判断
 1 取消事由1(本件補正書の日付が提出日と異なることを理由に本件補正を却下した誤り)について
     審決は,本件補正書の日付について「なお,上記補正に係る手続補正書には提出日として平成11年10月25日と記載されているところ,同手続補正書が特許庁に差し出された日は平成11年11月1日である。」(審決書1頁の理由6行〜8行)と述べている。上記審決の説示が,手続の経緯について述べたものにすぎず,このことを審判の請求が成り立たない理由としたものではないことは,審決書の記載自体から明らかである。

     原告の主張は採用することができない。取消事由1は理由がない。
 2 取消事由2(添付されていない図面が存在することを前提として判断をした誤り)について
     本件出願に係る願書に図面が添付されていないこと,審決は,その理由中に「願書に最初に添付した明細書又は図面に記載されておらず」などとして,あたかも,「願書に最初に添付した図面」が存在するかのように,すなわち,本件出願に係る願書に図面が添付されているかのように述べていることは,当事者間に争いがない。本件出願に係る願書に添付された図面が存在しない以上,審決は,そのような図面は存在しないことを明示して論を進めるべきであった。審決が存在しない図面につきあたかも存在するかのように述べていることは,審決が,存在しない図面を存在するかのように誤認したか,このような誤認はしていないものの,不正確な表現をしたか,のいずれかであることを意味する。

     しかしながら,上記審決中の記述は,本件補正は,平成5年法律第26号による改正前の特許法41条(「出願公告をすべき旨の決定の謄本の送達前に,願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内において特許請求の範囲を増加し減少し又は変更する補正は明細書の要旨を変更しないものとみなす。」)の適用を受け得ず,上記改正前の特許法53条1項(願書に添付した明細書又は図面について出願公告をすべき旨の決定の謄本の送達前にした補正がこれらの要旨を変更するものであるときは,審査官は,決定をもってその補正を却下しなければならない。」)の適用により,却下されるべきものである,ということを述べるに当たって,上記41条が適用されず,上記53条1項が適用されることを示す意味で,条文に記載された「明細書又は図面」の語を機械的にそのまま用いたものにすぎず,存在しない図面が存在することを前提にした判断をしたことを意味するものではないことは,審決書の記載自体から明らかである。
     原告の主張は採用することができない。取消事由2も理由がない。
 3 取消事由3(本件補正が新規事項の追加に当たるとした判断の誤り)について
   (1) 当初明細書(甲第8号証はその公開特許公報である。)の記載内容は,次のとおりである(甲第8号証)。
     ア「【特許請求の範囲】
       【請求項1】 ゲーム,パチンコデータ情報等の伝送を本店スタジオ(コンピューターセンターなど)から各家庭内等に衛星回線等(パケット,データー,マルチメディア多重回線,地上映像回線伝送など)を用いて伝送するゲーム,パチンコネットワーク伝送システム装置。
       【請求項2】 各地のゲーム,パチンコ機械を画面表示(光ファイバー,テレビ電話,ビデオカメラ,リモコンパチンコ機械等)して各家庭内等に撮像映像伝送しオンライン照会,検索などを行うゲーム,パチンコネットワーク伝送システム装置。」

     イ「【産業上の利用分野】本発明は,テレビ電話機 DSP−LSI,CG,CD,TVカメラ,モデム,テレビジョン,ゲームソフト,パチンコ機械等マルチメディア衛星通信などを利用する。」(段落【0001】)
     ウ「【従来の技術】ゲーム機械がゲーム場に設置されている為(パチンコ機械,戦後数十年)ゲーム,パチンコ趣味人は,ゲーム場まで出掛ける時間のロス,又,新聞等で御存知の尊い子供の命がゲーム場駐車場車内酸欠死,又,誘拐,場内の喫煙で呼吸気管支炎,騒音等,諸悪の根源となっている。又,家庭内コンピューターゲームも現在の利用者は,時間が無制限でソフト購入経費が莫大,眼球に影響するデーターが各地より出ている。」(段落【0002】)
     エ「【発明が解決しようとする課題】本発明は,前述のような現状に鑑み,利用者の目的である,つまり,ゲーム場に出掛けないで,家庭内でゲーム,パチンコが楽しめないかと,研究したが今だに解決してない。本発明は,こうした利用者の熱望にこたえる為発明されたものである。」(段落【0003】)

     オ「【課題を解決するための手段】本発明は,マルチメディア多重網装置化システム,DSP−LSI,INS光ファイバー,データープリンター,ファクシミリ,テレビ電話,コンピューターセンターPBX等などで本部スタジオとゲーム場機械,家庭内コンピューターゲーム,ゲームソフトなど映像回線又,端末機入力などで直結されてゲーム成績点数が刻々と一目瞭然に記録するシステム装設置する。」(段落【0004】)
     カ「【作用】本発明の構成及び作用を,以下に説明する。本発明では,ゲーム,パチンコ機械(本体自身映像表示等入出力可)の,テレコード(バーコード,数字など)にて,本部スタジオ(ゲーム場など含む)と利用者,家庭内各人のテレコードがシステム装置の色々なデーター,成績管理体制が的確に直結表示され確立化するシステム装置である。本部スタジオに,電話端末機で入力送信ボタンを押し,本部スタジオは,テレコードにて検索確認(コンピューターセンターにて銀行口座,会員番号など)後テレビ画面にゲーム表示,或は,ゲーム場機械(パチンコなどビデオカメラ,テレビ電話,ゲーム代理人等撮像)映像表示して随時本部スタジオでも記録確認可して,ゲームオーバー,持ち点数,時間制限にて自動的に集約処理停止する構成システム装置である。」(段落【0005】)

     キ「【実施例1】本発明の実施例を以下に説明する。テレビ(パソコンなど)のスイッチを入れ,電話にて本部スタジオコール後,暗証番号(パソコンは,登録カード・テレコード)を押すと,確認後,画面にゲーパチンコ各機種が映像表示される。多種多様のゲームの中で,デジパチを選択しての一例で,セルの画像画面盤上を玉が勝手に,クギ(約380本,上,下,天,鎧,生命,誘導,風車,そで,八つはかま)に当たる落下速度が千差万別に動き,スタートチャッカーに入賞すると,図柄,数字等が回転し(レーザー表示回転ドラム等)大,中,小当たりで,開放時間後とに,パチンコ玉の入賞点数が,画像盤面右上にテレコード表示される。利用者の持点数,(銀行オンライン口座,登録料金など)が下方に表示する。大量入賞で,打ち止め点数,テレコード表示する。勿論,ソフトゲーム内のお店,台,釘(立体,側面図),選択可能とするプログラムで,テレコード映像表示が各利用者の記録で,コンピューターセンター本部スタジオに,映像伝送表示される様ネットワーク装設したシステム装置である。勿論,テレコード利用として,テレビ電話,ビデオテープ管理,結婚相手探しなど画像表示管理可能である。
」(段落【0006】)
     ク「【実施例2】東京から電話で全国各地のパチンコ屋さんに電話でコールセット日/時,会員番号(銀行口座オンライン)等でコンピューターが確認,パチンコ機械のハンドルバネのコントロールを一度定めても出玉率を良くするには,強弱(電圧影響)が必要なのでバネを調整して飛び幅を安定させるには,パチンコ屋さんに待機してる代理人に依頼するか(テレビ電話,ビデオカメラ等が各台ごとに全面にセットされている)又,受話器のダイヤルボタン@AB…でパチンコ機械本体が利用者の意志で思いのままに作動する リモートコントロールパチンコ機械(ロボットパチンコ…ロボパチ,リモコンパチンコ)のバネを調整する。店内に看板台があるようにシマとしてリモコンパチンコ(ロボパチ)を配設置して撮像,画面映像表示して玉がテレビ画像盤面上を自在に動く,家庭内テレビ画面がパチンコ台に変身(テレビパチンコ…テレパチ)する。勿論逆に家庭内にゲーム,パチンコ機械,ゲームソフトの成績を本部スタジオに伝送しても良い。又,ビデオカメラ等の撮像でなく,バチンコ機械本体及びパチンコ玉の落下運動の動画像ブロツク量子化でデーター,音声も又,プリント機にて記録紙等,家庭内テレビに伝送するシステム装置である。」(段落【0007】)
     ケ「【発明の効果】ネットワークマルチメディア融合利用で本発明によると,ゲーム場のゲーム・パチンコ機械(テレビゲーム,コンピューターゲーム,パチスロ,デジパチ等)が本部スタジオと家庭内映像表示伝送にて,全国各地のゲームセンターの機械を自宅からコントロール(リモコン)終了後は記録(画像処理)表示,成績が,プリントされる。現代社会の多忙な一日をゲーム場まで出掛ける事なく,自宅で臨場感100%楽しめる。非エネルギー的な社会ニーズに適した開発伝送システム装置である。」(段落【0008】)
         当初明細書の上記認定の記載によれば,当初明細書には,@本店スタジオ(コンピューターセンターなど)においてソフトウェアによるゲーム又はパチンコゲーム(以下「パチンコ」という。)を実行すること,A実行したゲーム,パチンコのデータ情報等を本店スタジオからテレビ又はパーソナルコンピュータ,及び電話を備える各家庭内等に衛星回線等(パケット,データー,マルチメディア多重回線,地上映像回線伝送など)を用いて伝送すること,Bテレコードを利用した,テレビ電話,ビデオテープ管理,結婚相手探しなどの画像表示管理が可能であること,Cゲーム場又はパチンコ屋のスタジオと各家庭内とを,有線又は無線で,直接又は間接に接続すること,Dゲーム場のゲーム機又はパチンコ屋のパチンコ機械においてゲーム又はパチンコを実行すること,Eゲーム場又はパチンコ屋のスタジオから,ゲーム又はパチンコを実行しているゲーム機又はパチンコ機械の画像及び音声を各家庭内等に伝送すること,F上記画像及び音声を各家庭内で表示,発生すること,G各家庭内等からゲーム場又はパチンコ屋のスタジオにデータ情報を伝送し,銀行オンライン照会,検索などを行うこと,という技術的事項が記載されているということができる。
   (2) 補正後明細書(甲第1号証の2参照)の請求項1の構成は,前記第2の2(2)記載のとおりである。同記載によれば,同請求項には,次の(a)ないし(d)の技術的事項が記載されているということができる。
     (a)本部スタジオ(コンピュターセンターなど)と支部スタジオ(中継センター,携帯端末機電話機)とを,有線又は無線で直接又は間接に接続すること
     (b)本部スタジオから,ゲーム,パチンコなどのソフトウエアデータ情報を支部スタジオに伝送すること
     (c)支部スタジオにおいて,受信した前記ソフトウエア情報(仮想空間・モール,カラオケ,アニメ漫画,プロ・アマスポーツ,継続役務業他)により,ゲーム又はパチンコなどを実行すること
     (d)前記のようにして実行したゲーム又はパチンコなどについてのデータ情報を,本部スタジオ(C・T・I,コンピュータなど)から各家庭内,屋外等に衛星回線等〔パケット通信,デジタルデータ情報,マルチメディア多重回線(音声,メール,画像圧縮等)携帯電話機地上映像回線伝送(通信,放送,融合機器など)〕を用いて伝送すること

       上記(a)ないし(d)を総合すると,支部スタジオにおいて,本部スタジオから送られたソフトウェアデータ情報であるゲーム又はパチンコを実行すること,支部スタジオで実行したゲーム又はパチンコのデータ情報は支部スタジオから本部スタジオに伝送されること,本部スタジオは,支部スタジオから伝送された上記データ情報を上記各家庭,屋外等に伝送するという技術的事項を意味するものと理解することができる。
       しかしながら,当初明細書には,前記のとおり,本店スタジオ(補正後の本部スタジオに対応するものと認められる。)と各家庭内等の間でデータ情報等を伝送することが記載されているにすぎない。補正後発明の請求項1にいう「支部スタジオ」は,同請求項において,「支部スタジオ(中継センター,携帯端末機電話機)」と記載されていることからみて,当初明細書にいう本店スタジオにも各家庭内等にも当たらない,と解するのが相当である。そうである以上,補正後発明の請求項1に記載された,本部スタジオからゲーム又はパチンコのソフトウェア情報を支部スタジオに伝送し,支部スタジオにおいて受信した前記ソフトウェア情報によるゲーム又はパチンコを実行し,実行したデータ情報を前記支部スタジオから前記本部スタジオに伝送する,という技術的事項は,当初明細書に記載されているということができない。

       当初明細書に記載された「各家庭内等」とは,前記認定の(1)エ(発明が解決しようとする課題)及びケ(発明の効果)の記載に照らすならば,「屋外」を包含しないと解するのが相当である。上記補正後発明の請求項1に記載された技術的事項(d)のうち,実行したデータ情報を「屋外」に伝送する点については,当初明細書に記載されているということはできない。
       以上によれば,本件補正は,当初明細書の要旨を変更するものであり,しかも,当初明細書に記載した事項の範囲内において特許請求の範囲を増加し減少し又は変更する補正には当たらないものであることが,明らかである。したがって,本件補正は当初明細書に記載した事項の範囲を超えてなされたものであるとして,これを,平成5年法律第26号による改正前の特許法53条1項の規定により却下すべきものとした審決の判断は,その余の補正事項について検討を加えるまでもなく,正当であるということができる。

       念のために,他の補正事項中のいくつかについても検討する。
   (3) 補正後明細書の請求項2の構成は,前記第2の2(2)記載のとおりである。同記載によれば,同請求項には,次の(e)ないし(h)の技術的事項が記載されているということができる。
     (e)ゲーム場又はパチンコホールゲーム場のスタジオと,家庭のスタジオ(テレビ,パソコン,CATV,DVD,デジタル家電,ビデオカメラテレビ電話,携帯パソコンテレビ電話機など)とを,有線又は無線で,直接又は,間接に接続すること
     (f)ゲーム場又はパチンコホールゲーム場のスタジオから,ゲーム機又はパチンコゲーム機の画像及び音声情報CD−ROM,DVDソフトウエアを,家庭の上記スタジオに伝送すること
     (g)家庭の前記スタジオで受信したゲーム,パチンコなどの前記情報に基づき,リモートコントロールなどによりゲーム,パチンコなどを実行(前記スタジオ・テレビ,パソコン,CD−ROM,DVD,デジタル家電,デジタルビデオカメラ,テレビ電話,携帯パソコンテレビ電話機などを介して発信)すること

     (h)前記のようにして実行したゲーム,パチンコなどについてのデータ情報を,ゲーム場又はパチンコホールゲーム場のスタジオに伝送し,「銀行オンライン照会,景品カタログ,検索,決済,商品宅配便,出玉の貯玉,銀行振込み入出金などすること」
       当初明細書には,「利用者の持点数,(銀行オンライン口座,登録料金など)が下方に表示する。」(前記(1)キ)との記載がある。しかしながら,この記載は,上記銀行オンライン口座,登録料金又はこれに準じるものを利用者の持点数として画面に表示することを意味するにとどまると解すべきであり,データ情報をゲーム場又はパチンコホールゲーム場のスタジオに伝送し,決済,銀行振込み入出金をすることまでも含む意味のものであると解することはできない。また,当初明細書には,「勿論,テレコード利用として,テレビ電話,ビデオテープ管理,結婚相手探しなど画像表示管理可能である。」(前記(1)キ)との記載がある。しかしながら,この記載は,テレコードが画像表示管理に利用することの可能なものであることを意味するにとどまると解すべきであり,データ情報をゲーム場又はパチンコホールゲーム場のスタジオに伝送し,「景品カタログ,決済,商品宅配便,銀行振込み入出金をすること」までも意味していると解することはできない。

       そうである以上,上記技術的事項(h)のうち,実行したデータ情報を,ゲーム場又はパチンコホールゲーム場のスタジオに伝送し,「景品カタログ,決済,商品宅配便,銀行振込み入出金する」という点については,当初明細書に記載されているとすることはできない。
   (4) 補正後明細書の発明の詳細な説明中には,次の技術的事項が記載されている(甲第1号証の2)。
     (i)支部スタジオは,各家庭のテレビ,ラジオ,ポケットベル,カーナビゲーションパソコン(インターネットゲーム専用機併用パソコン)などに接続され,本部スタジオから送信されるテレビゲーム又はパチンコテレビゲームのソフトウェアのデータ情報を受信し,このソフトウェアのデータ情報を,付随するテレビやパソコン(ゲーム専用機=端末パソコン)に画像や音として出力し,出力表示されたゲームを,付随するコントロールPADで実行することを可能とし,実行後のデータ情報を本部スタジオに送信する機械システムであって,アダプタとゲーム機本体とから構成され,アダプタは,本部スタジオから送信されて来たゲームのソフトウェアのデータ情報を受信する受信ユニットと,受信ユニットを制御する周波数コントロール部と,ソフトウェアのデータ情報の直列/並列変換部と,コントロールプログラムの収納ROMと,バスラインの制御や各部の情報書込みを制御するバス制御回路からなり,ゲーム機本体にカートリッジ式に接続することができ,前記ゲーム機本体は,制御回路とデータ情報処理部からなり,ゲームのソフトウェアのデータ情報を付随するテレビやパソコン(ゲーム専用機=端末パソコン)に画像や音として出力し,出力表示されたゲームを,付随するコントロールPADで実行することを可能とし,実行後のデータ情報を本部スタジオに送信すること(補正後明細書段落【0007】参照)
     (j)ゲームのソフトウェアの内容を変更して,台,玉,釘(立体2次3次元……,シミュレーション,立体的に開く,上下,側面図)開発するパチンコシミュレーションソフトウェアを選択することも可能である」こと(補正後明細書段落【0008】参照)
     (k)本件出願に係る発明は,「ゲーム場,パチンコゲーム場まで出掛ける事なく,自宅で各種のゲーム(クイズ,宝くじ,パチンコシミュレーション他CD−ROM,DVD2次3次元……ソフトウェア)パチンコを臨場感100%で楽しむことのでき,好みの景品配達してもらう事もでき,又,貯玉に応じて換金,銀行口座に自動振り込むシステムを提供すること」ができること(補正後明細書段落【0011】参照)

     (l)本件出願に係る発明は,「結婚相手探し,継続役務業,仮想商店街(商品売買,決裁,商品配達便),仮想美術館(芸術家小説家育成シミュレーション),仮想放送局(文字,音声,ラジオ電話局,身体障害者用放送局など),仮想ギャンブル場(競馬,競輪,競艇,オートレースなど競争馬育成選手育成)仮想銀行(仮想コイン金融等,宝くじ,証券,クレジット券など),仮想国会(政党運営,選挙,資金集め,司法,立法,行政),仮想法人(病院の患者指導,看護婦の育成他イベント等のオリンピック・万博・見本市又宗教など),仮想郵便局(仮想コイン貯金,印鑑,印紙,切手など),仮想道路(鉄道,高速道路,航空,航海),仮想農漁業(米,魚など電子換金債権証他朝市など),通信カラオケ劇場,塾,医療,学校,教育他に利用すること」が可能であること(補正後明細書段落【0011】参照)
       しかしながら,既に述べたとおり,当初明細書には本店スタジオ(本部スタジオ)と上記各家庭内等の間でゲーム,パチンコデータ情報等を伝送することが記載されているにすぎないと解するのが相当であり,上記技術的事項(i)のうち,本部スタジオから送信されるソフトウェア情報を受信し,そのソフトウェア情報によりゲーム又はパチンコゲームを実行し,このようにして実行したゲーム又はパチンコについてのデータ情報を本部スタジオに送信する機械システム(支部スタジオ)が備えられている,という点が当初明細書に記載されていると解することはできない。
       上記技術的事項(j)の,台,玉,釘を開発するパチンコシミュレーションソフトウェアについての記載は,当初明細書中に見当たらず,この点が当初明細書に記載されていると解することはできない。

       上記技術的事項(k)のうち,自宅で宝くじを楽しむことができ,好みの景品を配達してもらうことができ,貯玉に応じて換金,銀行口座に自動振り込むシステムを提供すること,についての記載は,当初明細書中に見当たらず,この点が当初明細書に記載されていると解することはできない。
       当初明細書中の「勿論,テレコード利用として,テレビ電話,ビデオテープ管理,結婚相手探しなど画像表示管理可能である。」(前記(1)カ)との記載は,テレコードが画像表示管理に利用することの可能なものであることを意味するにとどまると解すべきであることは,前記のとおりである。上記記載は,本件出願に係る発明が,「継続役務業,仮想商店街(商品売買,決裁,商品配達便),仮想美術館(芸術家小説家育成シミュレーション),仮想放送局(文字,音声,ラジオ電話局,身体障害者用放送局など),仮想ギャンブル場(競馬,競輪,競艇,オートレースなど競争馬育成選手育成)仮想銀行(仮想コイン金融等,宝くじ,証券,クレジット券など),仮想国会(政党運営,選挙,資金集め,司法,立法,行政),仮想法人(病院の患者指導,看護婦の育成他イベント等のオリンピック・万博・見本市又宗教など),仮想郵便局(仮想コイン貯金,印鑑,印紙,切手など),仮想道路(鉄道,高速道路,航空,航海),仮想農漁業(米,魚など電子換金債権証他朝市など),通信カラオケ劇場,塾,医療,学校,教育に利用すること」が可能であることを意味するものであるということはできない。当初明細書には,他にも,上記の点を意味する記載はない。上記の点が,当初明細書に記載されているということはできない。
   (5) 原告は,本件補正書において補正した事項は,当初明細書の請求項1,2中の「等」及び「など」の語によって,すべて記載されていると解すべきである,と主張する。しかしながら,補正が認められるか否かの判断において問題とされる「願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項」とは,願書に最初に添付した明細書又は図面に現実に記載されているか,記載されていなくとも,現実に記載されているものから自明であるかいずれかの事項に限られるというべきである。そして,そこで現実に記載されたものから自明な事項であるというためには,現実には記載がなくとも,現実に記載されたものに接した当業者であれば,だれもが,その事項がそこに記載されているのと同然であると理解するような事項であるといえなければならず,その事項について説明を受ければ簡単に分かる,という程度のものでは,自明ということはできないというべきである。

       本件補正に係る事項のうち,上記(2)ないし(4)で指摘した事項は,いずれも当初明細書の記載から上記の意味で自明な事項ということはできず,「等」及び「など」の語によって記載されているに等しい事項であるということができないことは明らかである。
       原告の主張は採用することができない。
   (6) 原告は,補正中に一部についてでも認めることができる部分があるならば,その部分を除いた部分のみを却下すべきであり,補正を全部却下することは許されない,と主張する。
       しかしながら,補正は一体不可分のものと解すべきであるから,一部でも要件に適合しない部分がある場合には,全体として補正は却下されるべきである。
       原告の主張は採用することができない。
第6 以上のとおりであるから,原告主張の審決取消事由はいずれも理由がなく,その他審決にはこれを取り消すべき誤りは見当たらない。そこで,原告の本訴請求を棄却することとし,訴訟費用の負担について,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。

   東京高等裁判所第6民事部

       裁判長裁判官   山  下  和  明
        


          裁判官  設  樂  隆  一
                            


                   裁判官  阿  部  正  幸