H13.12.11 東京高裁 平成13(行ケ)89 特許権 行政訴訟事件

平成13年(行ケ)第89号 特許取消決定取消請求事件
     判    決
 原 告 エイ・ティ・アンド・ティ・コーポレーション
 訴訟代理人弁理士 岡部正夫、加藤伸晃、朝日伸光、吉澤弘司
 被 告  特許庁長官 及川耕造
 指定代理人 森正幸、伊藤昌哉、茂木静代、山口由木


     主    文
 特許庁が平成10年異議第75824号事件について平成12年10月17日にした決定中、特許第2760740号の特許請求の範囲の第12項に記載された特許を取り消した部分を取り消す。
 訴訟費用は被告の負担とする。


     事実及び理由
第1 原告の求めた裁判
 主文第1項同旨の判決。


第2 事案の概要
 1 特許庁における手続の経緯
 特許第2760740号の特許請求の範囲の第5、11、12項に記載された発明(発明の名称「ディープ紫外線リソグラフィー」)は、昭和60年6月12日(米国での出願に基づく優先日・昭和59年6月21日)に出願された特願昭60−502662号の一部を、特許法第44条第1項の規定により、平成5年11月17日新たな特許出願としたものであり、平成10年3月20日にその設定登録がなされ、その後、特許異議申立てがあり、平成10年異議第75824号事件として審理され、取消理由通知があってその指定期間内である平成11年12月15日に訂正請求がなされた後、訂正拒絶理由の通知があり、訂正拒絶理由通知に対して平成12年8月4日付けで手続補正書が提出された。

 同特許異議事件において、平成12年10月17日に「特許第2760740号の第5,12項に記載された特許を取り消す。同第11項に記載された特許を維持する。」との決定があり、その謄本は同年11月8日に原告に送達された(出訴期間として90日付加)。

 2 本件発明の要旨
 (1) 訂正前の請求項12に係る発明の要旨
 デバイスを製造する方法において、相対的に広いバンド幅を特徴とするレーザー放射を発生するステップ、前記放射の少なくとも一部を前記放射の経路内に配置されたレンズアセンブリを介して加工物に向けるステップ、ここで、前記アセンブリは前記相対的に広いバンド幅放射に応答して許容できないほど大きな色収差を示すものであり、前記アセンブリが許容できるほど低い色収差を示すように前記放射のバンド幅を十分に狭めるステップ、及び前記加工物から前記デバイスを完成するために前記加工物をさらに処理するステップを含むことを特徴とする製造方法。
 (2) 訂正後(補正前)の請求項9(上記請求項12に対応)に係る発明の要旨
 半導体材料から集積回路を製造する方法において、0.1Å以下のバンド幅に狭化された紫外エキサイマーレーザー照射を発生するステップ、前記狭バンド幅放射の少なくとも一部を前記放射の経路内に配置された石英ガラスのみのレンズアセンブリを介して半導体材料に向けるステップ、及び前記半導体材料から前記集積回路を完成するために前記半導体材料をさらに処理するステップを含むことを特徴とする製造方法。

 (3) 訂正後(補正後)の請求項9に係る発明の要旨
 半導体材料からなる加工物から集積回路デバイスを製造する方法において、相対的に広いバンド幅を特徴とするKrFエクサイマーレーザーパルス放射を発生するステップ、前記放射の少なくとも一部を前記放射の経路内に配置された石英ガラスのみのレンズアセンブリを介してレジスト層を有する加工物に向けるステップ、ここで、前記アセンブリは前記相対的に広いバンド幅放射に応答して許容できないほど大きな色収差を示すものであり、前記レンズアセンブリに前記放射を向ける前に、バンド幅を狭くされた放射の各パルスのパワーが少なくとも5ミリジュールではあるが、前記アセンブリが許容できるほど低い色収差を示すように前記放射のバンド幅を電力半値点で0.1オングストローム以下のバンド幅に十分に狭めるステップ、及び前記加工物から前記デバイスを完成するために前記加工物をさらに処理するステップを含むことを特徴とする製造方法。


 3 決定の理由の要点
 (1) 訂正の適否についての判断
 (1)−1 訂正請求に対する補正
 平成12年8月4日付けの手続補正による訂正事項の補正は、訂正前明細書(特許掲載公報)の特許請求の範囲の第12項に記載された発明を「【請求項9】半導体材料から集積回路を製造する方法において、0.1Å以下のバンド幅に狭化された紫外エキサイマーレーザー照射を発生するステップ、前記狭バンド幅放射の少なくとも一部を前記放射の経路内に配置された石英ガラスのみのレンズアセンブリを介して半導体材料に向けるステップ、及び前記半導体材料から前記集積回路を完成するために前記半導体材料をさらに処理するステップを含むことを特徴とする製造方法。」と訂正しようとした事項を、「【請求項9】半導体材料からなる加工物から集積回路デバイスを製造する方法において、相対的に広いバンド幅を特徴とするKrFエクサイマーレーザーパルス放射を発生するステップ、前記放射の少なくとも一部を前記放射の経路内に配置された石英ガラスのみのレンズアセンブリを介してレジスト層を有する加工物に向けるステップ、ここで、前記アセンブリは前記相対的に広いバンド幅放射に応答して許容できないほど大きな色収差を示すものであり、前記レンズアセンブリに前記放射を向ける前に、バンド幅を狭くされた放射の各パルスのパワーが少なくとも5ミリジュールではあるが、前記アセンブリが許容できるほど低い色収差を示すように前記放射のバンド幅を電力半値点で0.1オングストローム以下のバンド幅に十分に狭めるステップ、及び前記加工物から前記デバイスを完成するために前記加工物をさらに処理するステップを含むことを特徴とする製造方法。」と訂正する事項に補正する内容を含むものである。
 しかし、補正後の訂正事項に含まれる、「バンド幅を狭くされた放射の各パルスのパワーが少なくとも5ミリジュールではある」という技術事項は、バンド幅を狭くされた放射の各パルスのパワーが5ミリジュール以上であることを意味するから、「個々のパルスのパワーは約5ミリジュールである」(段落【0018】)としか規定していない本件の訂正前明細書には記載されていない事項である。訂正事項を訂正前明細書に記載されていない技術事項を含むように補正する上記補正は訂正請求書の要旨を変更するものである。

 よって、上記補正は、請求書の要旨の変更に該当し、特許法第120条の4第3項の規定により準用される同法第131条第2項の規定に適合しない。
 (1)−2 訂正の適否についての判断
 平成11年12月15日付け訂正請求は、訂正前の特許請求の範囲第12項の記載「デバイスを製造する方法において、相対的に広いバンド幅を特徴とするレーザー放射を発生するステップ、前記放射の少なくとも一部を前記放射の経路内に配置されたレンズアセンブリを介して加工物に向けるステップ、ここで、前記アセンブリは前記相対的に広いバンド幅放射に応答して許容できないほど大きな色収差を示すものであり、前記アセンブリが許容できるほど低い色収差を示すように前記放射のバンド幅を十分に狭めるステップ、及び前記加工物から前記デバイスを完成するために前記加工物をさらに処理するステップを含むことを特徴とする製造方法。」を、必須要件項である第9項と実施態様項である第10〜第23項とに訂正する内容を含むものであり、その訂正された特許請求の範囲第9〜23項の記載は以下のとおりである。

【請求項9】半導体材料から集積回路を製造する方法において、0.1Å以下のバンド幅に狭化された紫外エキサイマーレーザー照射を発生するステップ、前記狭バンド幅放射の少なくとも一部を前記放射の経路内に配置された石英ガラスのみのレンズアセンブリを介して半導体材料に向けるステップ、及び前記半導体材料から前記集積回路を完成するために前記半導体材料をさらに処理するステップを含むことを特徴とする製造方法。
【請求項10】請求項9記載の方法において、紫外エキサイマーレーザー照射バンド幅が、0.05Å以下に狭化されることを特徴とする方法。
【請求項11】請求項9記載の方法において、該方法が0.1Åを超えるバンド幅を有する紫外エキサイマーレーザー照射を発生させ、0.1Å以下の該レーザー照射のバンド幅に狭化することを含む方法。

【請求項12】請求項10記載の方法において、該方法が0.05Åを超えるバンド幅を有する紫外エキサイマーレーザー照射を発生させ、0.05Å以下の該レーザー照射のバンド幅に狭化することを含む方法。
【請求項13】請求項9記載の方法において、該紫外レーザー照射が、フィルタを通過させることにより狭化されることを特徴とする方法。
【請求項14】請求項13記載の方法において、フィルタはエタロンよりなることを特徴とする方法。
【請求項15】請求項9記載の方法において、エキサイマーレーザーが、集積回路製造においてバンドの狭化なしでは石英ガラスのみのレンズが許容できないほど大きな色収差を生ずるようなバンド幅を有することを特徴とする方法。
【請求項16】請求項9記載の方法において、石英ガラスのみのレンズが、半導体加工物上にパターン化されたレチクルのイメージを投影することを特徴とする方法。

【請求項17】請求項9記載の方法において、石英ガラスのみのレンズが、半導体加工物上にパターン化されたレチクルのイメージを、0.5マイクロメーター以下の微細なパターンに投影することを特徴とする方法。
【請求項18】請求項9記載の方法において、紫外線レーザー照射が、約2484Åの波長を有することを特徴とする方法。
【請求項19】請求項9記載の方法において、前記加工物が、レジストでコートしたウエハであることを特徴とする方法。
【請求項20】請求項9記載の方法において、前記エキサイマーレーザーが、パルスエキサイマーレーザーであることを特徴とする方法。
【請求項21】請求項9記載の方法において、紫外レーザー放射が4000Å以下の波長を有することを特徴とする方法。
【請求項22】請求項9記載の方法において、レンズアセンブリを通過する照射の焦点面と前記加工物の表面の間の間隔を検出するステップ、及び、検出された間隔に応答して前記光ビームの前記焦点面を移動し前記間隔を除去するために前記レーザーの中心波長を変化させるステップを含むことを特徴とする方法。

【請求項23】請求項9記載の方法において、さらに、二次元走査アセンブリにより前記レーザーからの照射を走査し、前記レーザーからの照射パルスの面積の平均化された拡大仮想源を形成ステップを有することを特徴とする方法。
 訂正後の必須要件項である第9項は、訂正前の第12項に記載された構成「デバイスを製造する方法において、相対的に広いバンド幅を特徴とするレーザー放射を発生するステップ」、「前記アセンブリは前記相対的に広いバンド幅放射に応答して許容できないほど大きな色収差を示すもの」であること、及び「前記加工物から前記デバイスを完成するために前記加工物をさらに処理するステップ」を削除したものであり、この訂正は、訂正前の第12項に記載された事項によって特定される発明の技術的範囲を広げるものである。 また、実施態様項である第10〜23項の記載も、実質的に訂正前の第12項に記載された事項によって特定される発明の技術的範囲を広げるものである。

 (1)−3 訂正の適否に関する決定のむすび
 以上のとおり、上記訂正は、特許請求の範囲の減縮、誤記の訂正又は明瞭でない記載の釈明のいずれをも目的としない訂正を含むものである。
 よって、上記訂正は、特許法第120条の4第2項及び第3項で規定する訂正について、平成6年12月14日法律第116号附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる改正前の特許法第126条第1項ただし書きの規定に適合しないので、当該訂正は認められない。
 (2) 特許異議の申立てについての決定の判断
 本判決別紙「決定中の特許異議の申立てについての判断部分」のとおり。
 (3) 決定のむすび
 以上のとおりであるから、本件の特許請求の範囲第5項及び第12項に記載された発明は、それぞれ、特許法第29条の2及び同第29条第2項の規定に違反して特許されたものである。

 また、本件の特許請求の範囲第11項に記載された発明は、特許異議申立ての理由及び証拠方法によっては、その特許を取り消すことはできない。また、他に本件の特許請求の範囲第11項に記載された発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
 よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。


第3 原告主張の決定取消事由
 決定は、本件訂正事項の補正(平成12年8月4日付けの本件補正)が訂正請求書の要旨を変更するものと誤って判断(取消事由)することにより、本件訂正を認めず、ひいては本件請求項12に係る発明(本件発明)の要旨の認定を誤ったものであるから、違法として取り消されるべきである。
 1 決定は、「補正後の訂正事項に含まれる、『バンド幅を狭くされた放射の各パルスのパワーが少なくとも5ミリジュールではある』という技術事項は、バンド幅を狭くされた放射の各パルスのパワーが5ミリジユール以上であることを意味するから、『個々のパルスのパワーは約5ミリジュールである』(段落0018)としか規定していない本件の訂正前明細書には記載されていない事項である。」と判断したが、誤りである。

 2 訂正前の本件明細書(訂正前明細書)には「本質的には、krFエクサイマーレーザー12(図1)は電力半値点で約10オングストロームのスペクトルバンド幅を持つ。しかし、高分解能リソグラフィー用の石英ガラスのみのレンズアセンブリは色収差の問題を回避するためには約0.1オングストローム以下のレーザ源バンド幅が必要であることが再確認されたため、本出願人はレーザー12とバンド幅狭化手段とを結合することによって、2484オングストロームの所でたった0.05オングストロームの電力半値点バンド幅を特徴とする出力を得ることに成功した。1000パルス/秒の反復速度における、これら個々のパルスのパワーは約5ミリジュールであるが、これは均質の高分解能高スループットリソグラフィーに対して十分なものである。」(発明の詳細な説明段落【0018】)と記載され、レーザーパルスのパワーである「5ミリジュール」は均質の高分解能高スループットリソグラフィーに対して十分なものであるとしており、5ミリジュールは単に均質の高分解能高スループットリソグラフィーを保証するものとして教示されているのであって、それより大きいパワーを予定している。
 すなわち、本件発明においては、krFエクサイマーレーザーの放射ビームは、石英レンズのみのレンズアセンブリで色収差の問題を回避するために、スペクトルバンド幅が0.1オングストローム以下に狭化されるものであり、段落【0018】の実施例では、10オングストロームのスペクトルバンド幅から0.05オングストロームへと狭化されている。しかしながら、スペクトルバンド幅を狭くすればレーザービームパルスのパワーはそれだけ減少して、ウェハー上のレジストを適切に露光するのに十分なものではない弱いパワーになるおそれがある。そこで、段落【0018】は、0.05オングストロームのスペクトルバンド幅の場合でも、約5ミリジュールのパワーが得られ、これは均質の高分解能高スループットリソグラフィーに対し十分なパワーであると報告し、石英レンズシステムの実現性を確認しているのである。
 確かに、訂正前明細書の、段落【0018】に記載の実施例では0.05オングストロームの狭化されたスペクトルバンド幅と各パルスのパワーが約5ミリジュールであったことを示し、5ミリジュールより強いパワーについての実施例は示してはいない。しかしながら、ここでの約5ミリジュールのパワーは、均質の高分解能高スループットリソグラフィーに対し十分なパワーであるとして報告されているのであるから、これより大きいパワーについては、均質の高分解能高スループットリソグラフィーを保証するパワーとして自ら示唆されているのである。
 3 被告は「高スループットを実現するには個々のパルスのパワーは強い方がよいが、必要以上に強くなると、分解能が低下する。」と主張する。本件発明のような投影レンズを用いる構成であっても、光の強さが余り強くなるとやはり解像度劣化の問題が生ずることは認める。しかし、一般の数値限定発明にあっても、その発明自体で規定された数値限定のほかに技術常識に照らした当業者の判断で自ら決まる上限値又は下限値があるのであって、そのような技術常識に照らした数値限定値は必ずしも明細書に教示されているのではなく、また特許請求の範囲で規定されているわけでもない。


第4 決定取消事由に対する被告の反論
 1 訂正前明細書(甲第2号証)の段落【0018】には、「・・しかし、高分解能リソグラフィー用の石英ガラスのみのレンズアセンブリは色収差の問題を回避するためには約0.1オングストローム以下のレーザー源バンド幅が必要であることが再確認されたため、本出願人はレーザー12とバンド幅狭化手段とを結合することによって、2484オングストロームの所でたった0.05オングストロームの電力半値点バンド幅を特徴とする出力を得ることに成功した。・・これら個々のパルスのパワーは約5ミリジュールであるが、これは均質の高分解能高スループットリソグラフィーに対して十分なものである。」と記載されており、この記載は、色収差の問題を回避するためには約0.1オングストローム以下のバンド幅が必要であるという認識から、レーザーとバンド幅狭化手段とを結合して、バンド幅の狭い出力を得ようとしたところ、単に、1つの例として、2484オングストロームの所で0.05オングストロームの電力半値点バンド幅とする出力が得られ、その出力のパワーが約5ミリジュールであり、そして、この「波長2484オングストロームで電力半値点バンド幅が0.05オングストローム、かつ、個々のパルスのパワーが約5ミリジュール」という放射が高分解能高スループットリソグラフィーとして満足できる結果をもたらすものであることを記載しているにすぎず、放射の各パルスのパワーが少なくとも5ミリジュールであり、かつ、放射のバンド幅が電力半値点で0.1オングストローム以下のバンド幅にするステップを記載しているとは、到底考えられない。
 2 個々のパルスのパワーは、1パルスの露光では、必要な露光を得られない弱いパワーとなることも考えられる。そして、高スループットを実現するには、露光に必要なパルス数を少なくする、すなわち、個々のパルスのパワーが強い方がよいことは、当然である。そして、個々のパルスのパワーが、必要な露光を得るためのパワー以上であれば、1つのパルスにより必要な露光が得られるので、スループットを最大にできるのはいうまでもない。

 しかしながら、個々のパルスのパワーは強ければ強いほどよいというものではない。個々のパルスのパワーが必要な露光を得るためのパワーより強いとき、露光において生じる現象を、フォトマスクのパターンとして、代表的なラインアンドスペースパターンにより説明する。ラインアンドスペースパターンとは、光を遮光するライン部と光を透過するスペース部が交互に配列されたパターンのことをいう。特開昭59−50519号公報(乙第2号証)に、「照射エネルギーを増加させてゆくと、スペース部22からライン部20への光の回り込む量が多くなって・・・スペース部22との境界であるエッジ領域は現像液に溶解し易くなるため現像後形成されるレジストラインは・・・その幅は狭くなる。」(2頁右上欄7〜13行)と記載されていることから、露光量(個々のパルスのパワー)が大きすぎると、現像後に残されるレジストラインの幅が狭く、ついには0となり、パターンを形成できなくなる。このことは、露光量(個々のパルスのパワー)が大きくなるほど、分解能が低下することを意味する。逆に、特開昭53−68576号公報(乙第3号証)に、「露光量が少ない程高解像力が得られるということは周知である。」(2頁左上欄17〜19行)と記載されているように、露光量が少ないほど高解像力が得られるのは、周知の事項である。
 3 このように、高分解能高スループットリソグラフィーを実現するためには、個々のパルスのパワーは、ある適当な有限の範囲内にあることが必要であることが当業者の常識であるから、段落【0018】の「これら個々のパルスのパワーは約5ミリジュールであるが、これは均質の高分解能高スループットリソグラフィーに対して十分なものである。」という記載は、当業者においては、個々のパルスのパワーである約5ミリジュールという値が、0.05オングストロームという電力半値点バンド幅と相まって、高分解能高スループットリソグラフィを実現するための、ある適当な有限の範囲内にあるということを示唆しているのであって、「バンド幅を狭くされた放射の各パルスのパワーが少なくとも5ミリジュールではある」という構成を教示しているということはできない。


第5 当裁判所の判断
 1 訂正前明細書の記載事項
 甲第2号証(本件特許公報)によれば、訂正前明細書に次のとおり記載されていることが認められる。
【0002】【発明の背景】本発明は光学リソグラフィー、より詳細には高品質細線半導体デバイスを製造するために採用される短波長光学リソグラフィー用の装置および方法に関する。
【0003】光学写像システムにおける等しい線及び間隔の分解能限界(Lmin)は以下によって表わされることが知られている。
【0004】Lmin=Kλ/NA (1)
ここで、Kは定数であり、この値は典型的には0.4から1.0の範囲にあり製造及び照射条件並びにレジスト特性に依存し、λは露出放射線の波長であり、そしてNAは投影光学装置の開口数である。
【0005】(1)式より、印刷可能な最少形状はλを減少させるか、あるいはNAを増加することによって縮小できることがわかる。しかし、システムの焦点の深度は(NA)
2に逆比例して変化するため、通常、実際の高分解能システムにおいては所望のLminを達成するのにはNAを増加するのではなくλを減少する方が有利である。本発明は新しい短波長リソグラフシステムに関する。
【0014】図2の装置14内に含まれる個々のレンズは石英ガラスのみから製造される。石英ガラスは短波長光に対して高度に透明な高安定材質である、さらに、石英ガラスは指定のレンズ設計に従って精密に加工することができる。このような明白な長所を持つのにもかかわらず、レーザー照射に基づく短波長(例えば、ディープUV)光学リソグラフィー用の高品質レンズアセンブリを製造するのに単一の光学材質(石英ガラス)の使用を提唱するのは本出願人が初めてである。従来は、色収差を補正するために複合材質を使用してレンズを製造するのが通常であった。
【0015】本出願人は石英ガラスのみから製造されるレンズアセンブリを設計してみて、このアセンブリと結合されるレーザー源が、単一の光学材質アセンブリにて色収差の問題を回避するためには、実用上極度に狭いバンド幅を持つことが要求されることを認識した。レーザー源のバンド幅が十分に狭くないときは、色収差の問題を回避できなく、従って、レーザービームが照射されるウエーハ40(図2)上の投射像がボケてしまう結果となる。

【0016】しかし、本出願人は十分なパワーを持つ適当な短波長レーザー源は全て本質的に極度に広いバンド幅を持つことを発見した。この時点でとるべき1つの明白な行動は、他の研究者のように、利用できるレーザー源のバンド幅の範囲内で色収差の問題を回避するためにレンズアセンブリを再設計することである。しかし、これは石英ガラス以外の光学材質を併用することを必要とする。このため、本出願人は、石英ガラスのみによるレンズ設計はそのままとし、レーザー源を十分に狭いバンド幅を示すように再設計する明白でない方法をとった。この独特のアプローチによってより優れたレンズの設計が実現されたばかりか、さらに、電子的焦点追跡、並びにレーザー源の電子的調節を達成する道が開かれた。レーザー源の電子的調節によって、後に詳細に説明されるように、レーザー源をレンズアセンブリの動作特性に合致させることが可能となる。
【0017】一例として、図1の装置10に含まれるレーザー12はエクサイマーレーザーから構成される。この分類のレーザーは例えば、4000オングストローム以下から2000オングストローム以下の範囲の波長にはUV放射を行なう能力を持つ。エクサイマーレーザー及びこれらのリソグラフィーへの応用は多数の文献に紹介されている。・・・一例として、図1のレーザー12は2484オングストロームの公称中心波長にて動作するように設計されたパルスKrFガスエクサイマーレーザーから構成される。(KrF内のフッ素成分は非常に有毒である。)一例として、レーザー12のパルス反復速度は約1000パルス/秒に選択される。
【0018】本質的には、KrFエクサイマーレーザー12(図1)は電力半値点で約10オングストロームのスペクトルバンド幅を持つ。しかし、高分解能リソグラフィー用の石英ガラスのみのレンズアセンブリは色収差の問題を回避するためには約0.1オングストローム以下のレーザー源バンド幅が必要であることが再確認されたため、本出願人はレーザー12とバンド幅狭化手段とを結合することによって、2484オングストロームの所でたった0.05オングストロームの電力半値点バンド幅を特徴とする出力を得ることに成功した。1000パルス/秒の反復速度における、これら個々のパルスのパワーは約5ミリジュールであるが、これは均質の高分解能高スループットリソグラフィーに対して十分なものである。

【0019】レーザー12の固有のバンド幅を狭化するためには、幾つかの方法が使用できる。図3にはこれを遂行するための1つの適当なアセンブリが示される(この図面にはレーザーの部分42及び44も示される)。レーザーから放射されるビーム46は標準低長短比エタロン48を通じて伝播され、従来のかすめ入射線回折格子50に入射するが、これと対面して高反射率ミラー52が位置する。一例として、回折格子50は1ミリメートル当たり3000から4000の溝を持つ。要素48、50及び52はそれぞれ調節及びバンド幅狭化手段を構成する。このアセンブリは図1にも示され、参照番号54が与えられている(“バンド幅狭化”は当分野においては、“線幅狭化”とも呼ばれる)。
【0022】当技術においては、バンド幅狭化手段54によって遂行されるような短波長レーザーの出力の調節あるいはバンド幅狭化を遂行するための幾つかの装置が知られている。・・・T.J.マッキー(T.J.Mckee)らによって、IEEE ジャーナル オブ クゥオンタム エレクトロニクス(IEEE Journalof Quantum Electronics)、Vol.1、QE−15,No.5、1979年5月号、ページ332−334に発表の論文〔TEA稀ガスハロゲン化物エクサイマーレーザーのスペクトル狭化を含む動作及びビーム特性(Operating and Beam Characteristics,Including Spectral Narrowing of a TER Rare−Gas Halide Excimer Laser)〕・・・

【0048】焦点追跡装置の動作は以下の通りである。・・・中心波長が0.1オングストロームだけ増加される。これによって、レンズの焦点距離が1ミクロンだけ減少され、こうして、レンズ−ウエーハ間距離の想定された1ミクロンの減少が正確に補正される。
 2 リソグラフィーにおいて、分解能限界が露光波長に比例することは自明であり、分解能を向上するために露光波長を短くすればよいことも、自明である。一方、短波長光源としてエクサイマレーザ(エキシマレーザ)が、紫外線領域(250nm程度)の光源として周知であることも明らかな事項である。
 ところが、エクサイマレーザはバンド幅が10Å(オングストローム)程度あり、中心波長においてピントがあっているとしても、周辺波長ではレンズの屈折率が異なるため(これが色収差の原因)、ピンぼけ状態となってしまい、折角短波長光源を使用したにもかかわらず、分解能が向上しないこととなってしまう。段落段落【0048】の記載によれば、0.1Åで焦点位置が1μm違うとされているから、バンド幅が10Å(中心から5Åずつ)であれば、周辺波長では50μmも焦点位置がずれることとなる。

 そのため、エクサイマレーザで露光を行うには、バンド幅対策を講じなければならないところ、従来は露光用の対物レンズに工夫をこらし、周辺波長でも中心波長と焦点位置が異ならないように設計していたのであるが、本件発明はこの従来例とは発想を異にし、バンド幅自体を小さくして、色収差を許容範囲内に収めたものである。
 3 決定は、「補正後の訂正事項に含まれる、『バンド幅を狭くされた放射の各パルスのパワーが少なくとも5ミリジュールではある』という技術事項は、バンド幅を狭くされた放射の各パルスのパワーが5ミリジユール以上であることを意味するから、『個々のパルスのパワーは約5ミリジュールである』(段落【0018】)としか規定していない本件の訂正前明細書には記載されていない事項である。訂正事項を訂正前明細書に記載されていない技術事項を含むように補正する上記補正は訂正請求書の要旨を変更するものである。」と判断し、本件補正を不適法なものと判断した。

 訂正前明細書に「本出願人はレーザー12とバンド幅狭化手段とを結合することによって、2484オングストロームの所でたった0.05オングストロームの電力半値点バンド幅を特徴とする出力を得ることに成功した。1000パルス/秒の反復速度における、これら個々のパルスのパワーは約5ミリジュールであるが、これは均質の高分解能高スループットリソグラフィーに対して十分なものである。」(段落【0018】)との記載があること、「個々のパルスのパワーが弱いほど、露光に必要なパルス数が多くなり、スループットが低下すること」、及び「光の強さが余り強くなるとやはり解像度劣化の問題が生ずる」ことは、当事者双方とも認めるところである。すなわち、高スループットリソグラフィーを実現するには、個々のパルスのパワーが大きい方が好ましいが、パワーが大きすぎると高分解能を維持できなくなるとの点において、当事者間に争いがない。
 そうすると、上記段落【0018】の記載は、バンド幅を0.05オングストロームとすることで高分解能であることを確保した上で、個々のパルスのパワーを約5ミリジュールとすることで、高分解能であることを損なうことなく高スループットを実現したものと解される。したがって、この記載のみからは、個々のパルスのパワーが約5ミリジュールで十分であることが直ちに、高分解能高スループット実現のために、約5ミリジュール以上であることを意味するものでない。
 4 しかしながら、訂正前明細書には、
 「実際の高分解能システムにおいては所望のLminを達成するのにはNAを増加するのではなくλを減少する方が有利である。」(段落【0005】)、
 「本出願人は十分なパワーを持つ適当な短波長レーザー源は全て本質的に極度に広いバンド幅を持つことを発見した。この時点でとるべき1つの明白な行動は、他の研究者のように、利用できるレーザー源のバンド幅の範囲内で色収差の問題を回避するためにレンズアセンブリを再設計することである。しかし、これは石英ガラス以外の光学材質を併用することを必要とする。」(段落【0016】)、及び、

 「図1の装置10に含まれるレーザー12はエクサイマーレーザーから構成される。この分類のレーザーは例えば、4000オングストローム以下から2000オングストローム以下の範囲の波長にはUV放射を行なう能力を持つ。エクサイマーレーザー及びこれらのリソグラフィーへの応用は多数の文献に紹介されている。」(段落【0017】)
 との記載があり、これらによれば、バンド幅を狭化していない「十分なパワーを持つ適当な短波長レーザー源」が高分解能リソグラフィーに用いられることが記載されていると認められる。そして、バンド幅を狭化することによって、短波長レーザー源のパワーが減少することはあっても、増加することは考えられないから、段落【0016】及び段落【0017】におけるレーザー源の個々のパルスのパワーは、段落【0018】における個々のパルスのパワー、すなわち約5ミリジュールよりも大きいものと認めることができる。すなわち、個々のパルスのパワーが約5ミリジュールよりも大きい短波長レーザー源が高分解能リソグラフィーに用いられていることも、事実上訂正前明細書に記載されているというべきである。

 5 このことを踏まえて段落【0018】の記載を更に検討すると、「2484オングストロームの所でたった0.05オングストロームの電力半値点バンド幅を特徴とする出力を得ることに成功した。」との記載は、短波長かつ狭バンド幅の出力を得ることで高分解能を達成できることを意味するものであり、これに続く「1000パルス/秒の反復速度における、これら個々のパルスのパワーは約5ミリジュールであるが、これは均質の高分解能高スループットリソグラフィーに対して十分なものである。」との記載は、バンド幅を狭化することにより高スループット達成に必要なパワーに満たないおそれがあるが、実験の結果個々のパルスのパワーは約5ミリジュールであり、高分解能を維持し高スループット達成にも支障がないことを確認した、との意味に解するのが合理的である。この解釈によれば、段落【0018】の「約5ミリジュールであるが、・・・十分なものである。」との記載が、約5ミリジュール以上であればよいこと、換言すれば「少なくとも5ミリジュールではある」ことを意味することが明らかである。
 加えて、本件補正後の請求項9における「バンド幅を狭くされた放射の各パルスのパワーが少なくとも5ミリジユールではある」との記載は、放射パワーについての記述であって、「半導体材料からなる加工物」に照射される光のパワー(照射パワー)についての記述ではない。そして、照射パワーを放射パワーよりも小さくすることは、吸収フィルタを配する等により容易に実現可能であるが、逆に照射パワーを放射パワーよりも大きくすることが困難であることは明らかである。そうであれば、バンド幅を狭化することにより、出力パワーが小さくなり高スループットを達成できないおそれがある反面、出力パワー(放射パワー)が仮に大きすぎたとしても、そのことは高分解能を維持できないことには、直ちには結びつかないというべきであるから、段落【0018】の「約5ミリジュールであるが、・・・十分なものである。」との記載は上記説示のように解釈しなければならないことが更に裏付けられる。
 6 被告は、「高分解能高スループットリソグラフィーを実現するためには、個々のパルスのパワーは、ある適当な有限の範囲内にあることが必要であることが当業者の常識である」と主張するが、そうであっても、被告のこの主張は単なる一般論を述べるにすぎず、これをもってしても、上記5に説示したところを左右するものではない。
 7 したがって、本件補正後の請求項9における「バンド幅を狭くされた放射の各パルスのパワーが少なくとも5ミリジュールではある」との記載は、訂正前明細書に記載された事項というべきであるから、同事項が「本件の訂正前明細書には記載されていない事項である。」とした決定の認定は誤りであり、この認定に基づいてした「補正は訂正請求書の要旨を変更するものである。」との判断、及び「上記補正は、請求書の要旨の変更に該当し、特許法第120条の4第3項の規定により準用される同法第131条第2項の規定に適合しない。」との判断も誤りである。


第6 結論
 以上のとおりであり、取消事由は理由があり、補正に新規事項が含まれるとして不適法なものと判断した決定の誤りは、請求項第12項に記載された特許を取り消すべきものとした決定部分の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから、決定中その部分は取り消されるべきである。
(平成13年11月27日口頭弁論終結)
 東京高等裁判所第18民事部


         裁判長裁判官   永   井   紀   昭


            裁判官   塩   月   秀   平


            裁判官   橋   本   英   史



(判決別紙)決定中、特許異議の申立てについての判断部分
 1 申立ての理由の概要
 (1) 特許異議申立人キャノン株式会社は、特許第2760740号の特許請求の範囲第5項に記載された発明は異議甲第1号証の1に記載された発明と同一であり特許法第29条の2の規定に違反し、同第11項に記載された発明は異議甲第2号証に記載された発明であり、異議甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものであり、さらに異議甲第3号証に記載された発明と同一でもあるから特許法第29条第1項、同第2項及び第29条の2の規定に違反し、同第12項に記載された発明は異議甲第4号証の1に記載された発明と同一であり特許法第29条の2の規定に違反する旨主張している。
  異議甲第1号証の1及び2: 特願昭59-113051号の願書に最初に添付した明細書及び図面(特開昭60-257519号)

  異議甲第2号証: September 1980/Solid state technology/日本版「レーザ投影描画」第36頁〜第42頁
  異議甲第3号証: 特願昭58-100689号の願書に最初に添付した明細書及び図面を公開した特開昭59-226317号公報
  異議甲第4号証の1及び2: 特願昭58-245904号の願書に最初に添付した明細書及び図面(特開昭60-140310号)
 (2) 特許異議申立人横田貞則は、異議甲第1〜6号証を提示して、特許第2760740号の特許請求の範囲第12項に記載された発明は異議甲第1号証に記載された発明と同一であり特許法第29条の2の規定に違反する旨主張している。
  異議甲第1号証: 特願昭58-245904号の願書に最初に添付した明細書及び図面を公開した特開昭60-140310号公報
  異議甲第2号証:米国特許第2760740号明細書
  異議甲第3号証:J. Phys. D: Appl. Phys. 15(1982), pp.767-773
  異議甲第4号証:Applied Physics Letters Vol.32 No.3, 1 Feb. 1978, pp.171-173

  異議甲第5号証:IEEE Journal of Quantum Electronics, Vol. QE-15, No,5 May 1979, pp.332-334
  異議甲第6号証:Optics Letters, Vol.1 No.6, Dec.1977, pp.199-201
 (3) 特許異議申立人菅原益夫は、特許第2760740号の特許請求の範囲第12項に記載された発明は異議甲第1号証に記載された発明と同一であり異議甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものでもあるから特許法第29条第1項及び同第2項の規定に違反し、同第12項の記載は不備があるから特許法第36条第4、5項の規定に違反する旨主張している。
  異議甲第1号証: 米国特許第3573456号明細書(Cl.250/65)
 2 本件発明
 特許第2760740号の特許請求の範囲第5項、第11項及び第12項に記載された発明の要旨は、明細書の特許請求の範囲第5項、第11項及び第12項に記載されたとおりの以下のものと認められる。
 「5.光学リソグラフィー用の装置において、光ビームを提供するためのパルスレーザー12;前記光ビームの中心波長に応答して前記光ビームを加工物の表面と仮定的に同一平面の焦点面に投影する手段;前記光ビームの焦点面と加工物の表面の間の間隙を検出し修正信号を提供する手段;及び前記修正信号に応答して前記光ビームの前記焦点面を移動し前記間隙を除去するために前記パルスレーザーの中心波長を変化させる手段を含むことを特徴とする装置。」(以下「本件発明1」という。)

 「11.ウエハ上に細線形状を描くための方法において、レーザー源から光を供給し、前記光を二次元走査アセンブリに向け、更にレンズ及び走査アセンブリへ向けることにより拡大された仮想源を形成し、及びレクチルを通過して前記ウエハの表面に前記仮想源を投影する方法であって、前記二次元走査アセンブリ(20,22)は、二次元的に前記レーザー源からの光をシフトし、伝播パルスの面積の平均化を達成することを特徴とする方法。」(以下「本件発明2」という。)
 「12.デバイスを製造する方法において、相対的に広いバンド幅を特徴とするレーザー放射を発生するステップ、前記放射の少なくとも一部を前記放射の経路内に配置されたレンズアセンブリを介して加工物に向けるステップ、ここで、前記アセンブリは前記相対的に広いバンド幅放射に応答して許容できないほど大きな色収差を示すものであり、前記アセンブリが許容できるほど低い色収差を示すように前記放射のバンド幅を十分に狭めるステップ、及び前記加工物から前記デバイスを完成するために前記加工物をさらに処理するステップを含むことを特徴とする製造方法。」(以下「本件発明3」という。)

 3 刊行物
 平成11年5月7日付け取消理由通知書で引用した刊行物は以下のとおりである。
  刊行物1:特願昭59-113051号の願書に最初に添付した明細書及び図面を公開した特開昭60-257519号公報 (キャノン株式会社の異議甲第1号証の1)
  刊行物2:September 1980/Solid state technology/日本版「レーザ投影描画」第36頁〜第42頁 (キャノン株式会社の異議甲第2号証)
  刊行物3:特願昭58-100689号の願書に最初に添付した明細書及び図面を公開した特開昭59-226317号公報 (キャノン株式会社の異議甲第3号証)
  刊行物4:特願昭58-245904号の願書に最初に添付した明細書及び図面を公開した特開昭60-140310号公報 (キャノン株式会社の異議甲第4号証の1、横田貞則の異議甲第1号証)
  刊行物5: 米国特許第3573456号明細書(Cl.250/65) (菅原益夫の異議甲第1号証)
 (1) [刊行物1] 特願昭59-113051号
 刊行物1の先願の公開特許公報には以下の事項が開示されている。

(記載事項1-1)
 「本発明は、焼付装置に関し、特に光学系を介してパターンを焼付ける際の自動ピント調整機能所謂オートフォーカス機能を有する焼付装置に関する。」(1頁左下欄14行〜17行)
(記載事項1-2)
 「第1図は本発明の一実施例の概略構成図であり、エキシマ(excimer)レーザー発振装置1はインジェクションロッキングにより波長を可変にすることができる。ここでインジェクションロッキングとは、…波長巾やビーム拡がり角度等を制御する技術である。…ここで例えばKrFエキシマレーザー(発振波長249nm)の場合、0.3nm程度の半値巾のものをインジェクションロッキングにより0.003nm程度にまで波長巾を狭くすることができ、更にこの8で示される出力スペクトルの巾内で波長を可変にすることができる。」(2頁右上欄1行〜左下欄3行)
(記載事項1-3)
 「上記構成において、エキシマレーザー発振装置1より照射されたレーザービームは、照明光学系2を通った後、マスク(又はレクチル)3上を照射し3のパターンを投影レンズ4によって焼付対象物体であるウェハ6上に転写する。」(2頁右下欄14行〜18行)

(記載事項1-3)
 「エキシマレーザー発振装置1より照射されたレーザービームは、…パターンを投影レンズ4によって焼付対象物体であるウェハ6上に転写する。この時、投影レンズ4のバックフォーカスを一定に保って安定した焼付を行おうというのが本図の特徴である。この為ピント位置検出装置5aで投影レンズ4の結像位置を検出する。もし投影レンズ4の結像位置が焼付対象物であるウェハ6表面上にない場合は、投影レンズ4の結像位置に対するウェハ6表面のズレ量を検知し、…フィードバック制御系7にズレ量を伝え…」(2頁右下欄14行〜3頁左上欄7行)
(記載事項1-4)
 「この為ピント位置検出装置5aで投影レンズ4の結像位置を検出する。もし投影レンズ4の結像位置が焼付対象物であるウェハ6表面上にない場合は、投影レンズ4の結像位置に対するウェハ6表面を検知し、…フィードバック制御系7にズレ量を伝え、フィードバック制御系7はそのズレ量に応じた光源の波長の変化力を検出し、インジェクションロッキングされてエキシマレーザー発振装置1のレーザービーム波長を変化させてウェハ6表面に投影レンズ4の結像位置がくるように調整する。」(3頁左上欄2行〜12行)

 (2) [刊行物2] September 1980/Solid state technology
 刊行物2には以下の事項が開示されている。
(記載事項2-1)
 「 VLSIの開発機運が高まる中で,投影露光方式のリングラフィ技術が生産ラインにどんどん入り込んでいる。…光源としてレーザを使えば,光量が大きいため,露光スループットの飛躍的な増加,および解像度の向上が期待できる。・・・1μmのAZ1350レジストを塗布したウェーハ上の10mm×10mmの領域を露光する時間はレーザを使うことにより100ミリ秒にまで短縮できる。またコヒーレントであるためコントラストが向上する。1μmの凹凸があるアルミニウム上でも0.9μmの線幅,および間隔のグレーティングが0.3NAレンズを使うことにより得られた。」(36頁左欄下から24行〜末行)。
(記載事項2-2)
 41頁右欄の図12には、「レーザー(図12;Laser)から光を供給、この光をビーム均一器(図12;Beam uniformiser)に向け、更に走査システム(図12;Scanning Source System)へ向けることにより拡大された仮想レーザー光源を形成、この仮想レーザー光源からのレーザー光でレクチル(図12;Reticle)を照明してレクチル面上のパターンを投影レンズ(図12;Lens)でウエハ面(図12;Wafer)に投影する構成」が、図示されている。

(記載事項2-3)
 また、40頁左欄の図7及びその説明には、上記図12の拡大された仮想レーザー光源を形成するシステム(図12;Scanning Source System)の具体的構成に対応する構成として、光軸Zに直交する面内の2つの直交軸x,yに沿って点光源を移動させる2つのスキャナ(回転ミラー)によって等価的な光源の大きさを増すようにした走査光源システムが開示されている(39頁右欄11行〜末行)。
(記載事項2-4)
 「レーザー(図12;Laser)からのレーザービームが均一性を得るためのビーム均一器(図12;Beam uniformiser)」が、「照射の均一性」とのタイトルのもとで、「フォトレジストの良質な像を得るには(線サイズ制御<10%),像の均一性(±3%)をよくする必要がある。ガウス分布のレーザービームでそうした均一性を得るためにレーザービームを分割し,再生する技術を開発した。」(40頁左欄下から25行〜21行)と記載され、さらに、レーザービームの均一化を図るべく、光強度分布を平均化するための分割と再生の原理にっても詳細に説明されている(40頁左欄下から20行〜末行、同頁右欄図9.a〜d)。また、その均一ビームを得るための光学システムについて、「図11は均一ビームを得るための光学システムを示している。分離器(separator)はフレネルプリズムと2つのミラーから構成される。2つの分離器を互いに直交するように設置する。1つめの分離器はビームをF(x1)とF(x2)とに分解する。これらはMx1とMx2の2つのミラーで反射される。これらは光軸に対しわずかにずれている。(σ<1°)2つめの分離器は2つのビームをy軸方向にそれぞれ分解する。これら4つのビームは、2つのミラーMy1.My2を用いて合成される。瞳孔部では、4つのコヒーレント点光源はスキャナーが動かないとき結像する。その大きさは10‐2×φpより小さい。φpは瞳孔部径である。」と記載されており(41頁左欄1行〜12行)、図11にその具体的構成が図示され、図12にそれをレーザー光源システムに適用した構成が示されている(図12;Beam uniformiser)。
 (3) [刊行物3] 特願昭58-100689号
 刊行物3で示される先願の公開特許公報には以下の事項が開示されている。
(記載事項3-1)
 「本発明…は、第1図Aに示すごとく光源像形成手段として、いわゆるフライアイレンズを用い、レクチル上のパターンをウェハ上に投影する投影型露光装置に…応用したものである。」(2頁左上欄9行〜13行)。
(記載事項3-2)
 「レーザー光源(1)から供給されるコヒーレント光は走査光学装置(2)によりスポットに集光されるとともに、走査面(3)上で2次元的に走査される。走査面(3)上に焦点を有するコリーメーターレンズ(4)により走査面(3)からの光束は平行光束に変換されてフライアイレンズ(5)に入射する。…フライアイレンズ(5)の射出面(5b)全体で多数のスポット像が同時に走査される。この結果、フライアイレンズの射出面(5b)に拡大された大きなインコヒーレント光源面が形成される。…そして、コンデンサーレンズ(6)によって被照明物体としてのレクチル(R)を照明し、拡大された光源面の像を投影対物レンズ(7)の瞳面(7a)上に形成することにより、いわゆるケーラ照明が達成され、この時、レクチル(R)上のパターンが投影対物レンズ(7)によってウエハ(W)上に投影される。」(2頁左上欄13行〜同頁左下欄13行)。

 (4) [刊行物4]特願昭58-245904号
 刊行物4に示された先願の公開特許公報には以下の事項が開示されている。
(記載事項4-1)
 「本発明は投影露光装置によってIC,LSI等の集積回路を製造するときの投影レンズに関し、…光源を用いて集積回路のパターンをシリコンウエハー等に焼付けるときに有効な…ものである。」(2頁左上欄4行〜10行)
(記載事項4-2)
 「特に本発明においては波長248.5nmを主たる発光スペクトルとするエキシマレーザーを用い」(2頁右下欄2〜4行)
(記載事項4-3)
 「本発明は投影露光装置によってIC,LSI等の集積回路を製造するときの投影レンズに関し、…光源を用いて集積回路のパターンをシリコンウエハー等に焼付けるときに有効な投影レンズに関するものである。」(2頁左上欄4行〜10行)
(記載事項4-4)
 「特に本発明においては波長248.5nmを主たる発光スペクトルとするエキシマレーザーを用いてインジエクション,ロッキング等の手段によって波長幅を狭くした場合に特有の効果を発揮する投影レンズの提供を目的としている。…本発明の目的を達成する為の投影レンズの主たる特徴は…レンズ群を各々単一のガラス材料…より構成する…単一のガラス材料で構成したのは使用する波長域がエキシマレーザーの非常に狭い発光スペクトルの光を利用した為、色収差を考慮しなくても良いからであり、」(2頁右下欄2行〜3頁左上欄1行)

 (5) [刊行物5] 米国特許第3573456号明細書
(記載事項5-1)
 コラム1の4行〜36行「本発明はフォトレジスト材料で被覆されたシリコンウェハ中に高分解能な像を投影する手段に関するものである。また本発明は、フォトレジスト材料で被覆されたガラス板、又はフォトグラフィックな食刻が必要とされ、感光乳剤が使われるいかなる材料にも適用し得るものである。マイクロ回路の製造においては、感光性材料で被覆されたシリコンウェハ上に縮小された高分解能な像を転写することが望ましい。それからウェハは、投影された回路を生成するために食刻されるか、さもなければ処理される。集積回路の産業においては、意義深い発展が経験されつつある。それは産業、軍事、又は政府後援の宇宙計画の増大する需要に乗じたものである。その発展は、集積回路が利用される直接の製品とともに、そのような回路の製造に関する必要な作業を達成するための様々な複雑さの多くの機械を生み出した。デバイスの生産収益性、信頼性、再現性を増大するために、集積回路の製造を自動化するように開発されたそれらの機械は、大きな変化を提供し、同様に技術も進歩し、高い精度の複雑な像を直接シリコンウェハ上に投影できる機械に対する要求がある。従来の送りネジによるエンコーダ駆動よりも高い精度で高解像板上に像を閃光(flash)し、システムの電気的な閃光予定を改良するために使われるものは、干渉計制御されたステップアンドリピート装置である。縮小比、10×、及び4×の対物レンズで1ミリメートル当たり600本の線を超える空間解像を得るために、その装置には新規な光学系が組み込まれる。」
(記載事項5-2)
 コラム2の第40行〜46行「本発明の他の目的は、紫外光線の光源、バンドパスフィルター、及び石英(quartz)対物レンズから成る高解像紫外投影手段を提供することである。本発明の他の目的は、紫外光線の光源、バンドパスフィルター、石英対物レンズ、及びその石英を補正(correct)するのに適合した1つの非球面板(aspheric plate)から成る高解像紫外投影手段を提供することである。」
(記載事項5-3)
 コラム4の第1行〜8行「紫外においては、Fig.2に示されたような波長のいくつかのピークを除いた特定の波長で、小さなエネルギーが特定のバンドパスを利用でき、それ故露光期間が不利となる。バンドパスを広げることは解像を減少させるし、いろいろな溶けにくいガラスを使ってレンズを補正することは経済的ではなく、紫外域において困難であり、それで石英と蛍石(fluorite)がその紫外域で機能する最良の材料である。」

(記載事項5-4)
 コラム5の第64行〜コラム6の第67行「アプローチ3 このアプローチは、大きな開口と1ミリメートル当たり600本を超える分解能とを有し、50オングストロームのバンドパスをもつ単一周波数で働く対物レンズの製造に向けられた。そのレンズのために選ばれた狭いバンドパスフィルタを表す参考例がFig.2に示されている。そのフィルターは誘電体多層膜から成る。このアプローチは、色収差(chromatic aberrations)に関して補正されない石英の単色対物レンズの製造に基づいている。基本的に、この系は選ばれたプランクスからの溶融石英(fused quartz)で作られた複数素子の対物レンズ7であり、蛍石(fluorite)で作られる選定された幾何学素子8による1個の修正用の非球面、又は球面の素子を持つ。屈折率1.432を示すその修正用素子は、特に選ばれたブランクの中で屈折率1.478を提供する他の素子群と組み合わされる。その非球面板は、像のエッジの歪みと対物レンズの球面素子群における異常とに対する修正(correct)のために用いられている。より詳細にFig.1を参照すると、光源1は通常の電源と通常のトリガー手段9とを有する高輝度のキセノン水銀ランプである。バンドパスフィルター2は誘電体層と反射防止コートとをもつ石英から成る。ランプは光軸3に沿って高緯度のビームを透過するように使われている。石英のコンデンサーレンズ4は、石英板6上に設けられた高分解能な写真乳剤5の投影すべき像を介して光ビームを通すように使われる光軸上に設けられる。こうして投影されたビームは石英の対物レンズ7を通り、さらにその補正されていない石英レンズを修正するように特別にみがかれた非球面の蛍石板を通る。それから、高分解能で高エネルギーのビームは、フォトレジスト材料の層11を上に有するシリコンウェハ10に進み、縮小された、又は縮写されたマイクロ像を転写する。フォトレジスト材料の層11に画像が転写された後、そのシリコンウェハは、転写されるべき回路の複写をウェハ上に生成するために食刻されるか、さもなければ処理される。Fig.2を参照すると、そこにはいろいろな素子の波長特性を説明する図が示されている。フオトレジスト材料の感度がオングストロームの波長に対して曲線Pで表されている。ランプの放射曲線が波形Lで示され、その波形LはピークL1、L2、L3、L4を有する。透過(transmission)を1つの周波数に限定することが望まれるので、最も大きなピークLを透過するように狭いバンドパスフィルターが選ばれる。そのバンドパスフィル夕-の曲線はピークFで示され、中心バンドパス周波数は3550オングストロームの近辺にある。曲線Tは石英の透過特性を示す。本発明では、フオトレジスト材料の感度帯域内で高分解能をもつ十分なパワーが得られる。そのフィルターはノイズ周波数を取り除くのに役立ち、全ての透過素子は、選定された周波数において良好な透過性を有する石英から成る。Fig.3は本発明の変形例を示し、そこでは光源12がアルゴンを含むガスレーザキャビティであって、4880オングストロームの基本モードの動作を有している。その励起状態において単色性、又は可干渉性を示すそのガスレーザ、もしくは他のガス(レーザ)が使われている。レーザビームは半透過鏡16とレンズ15を通過する。ある場合には、露光が精密に制御されなければならず、レーザを連続モードで動作することが望ましいなら、その光源は14の光弁(light valve)とともに動作する。Fig.4は本発明の変形例を示し、そこにおいて光源17は光学スペクトラムの紫外部分に放射性を示し、フラッシュランプによって励起される固体レーザである。この例ではレーザロッドを励起するために、フラッシュランプ21がパルス化された光源18の手段を介してモニターされる。狭いバンドパスフィルター19と、Kerrセル、又は光弁20、もしくは他の適当なシャッターとがランプと協力して、露光期間を短くする。」
(記載事項5-5)
 コラム6の第71行目〜コラム8の第8行目「クレイム1.フォトレジスト材料の上に高解像の転写を行なうための単色性の紫外投影手段は以下のものを含む:所定の感度曲線を有し、紫外放射線に感応するフォトレジスト材料のシート;紫外スベクトラム中に1つ、又はいくつかの鋭い放射のピークを示し、光軸に沿って透過(transmit)するように適合された可干渉性放射の非単色の光源;前記紫外スベクルにおける放射の1つのピークの回りに中心を置かれた狭い帯域の光を通すように適合され、前記光軸上に配置されて誘電体層を持つ石英のブロックから成る狭いバンドパスフィルターであって、その狭い帯城の光は前記フオトレジスト材料の感度曲線の中にあり;前記バンドパスフィルターの下で前記光軸上に配置された石英コンデンサーレンズ;前記コンデンサーレンズの下で前記光軸上に配置され、投影されるべき像を保持するように適合された石英板;前記石英板の下で前記光軸上に配置された石英対物レンズ;及び、前記フォトレジスト材料は前記光軸上で前記石英対物レンズの焦点に配置される。」

 4 対比・判断
 (1) 本件発明1
 本件発明1と刊行物1として出願公開された先願の明細書に記載された発明とを対比する。
 (1)−1 先願の発明の「焼付装置に関し、特に光学系を介してパターンを焼付ける際の自動ピント調整機能所謂オートフォーカス機能を有する焼付装置」(記載事項1-1)は本件発明1の「光学リソグラフィー用の装置」に相当する。
 (1)−2 エキシマレーザー装置がパルス発振することはよく知られた事実であるから、先願の発明の「エキシマ(excimer)レーザー発振装置1」(記載事項1-2)は、本件発明1の「光ビームを提供するためのパルスレーザー12」に相当する。
 (1)−3 先願の発明の「エキシマレーザー発振装置1より照射されたレーザービームは、…パターンを投影レンズ4によって焼付対象物体であるウェハ6上に転写する」(記載事項1-3)という記載における投影レンズは、本件発明1の「前記光ビームの中心波長に応答して前記光ビームを加工物の表面と仮定的に同一平面の焦点面に投影する手段」に相当する。

 (1)−4 先願の発明の(記載事項1-3)における「投影レンズ4の結像位置が焼付対象物であるウェハ6表面上にない場合は、投影レンズ4の結像位置に対するウェハ6表面のズレ量を検知」し、「ピント位置検出装置5aで投影レンズ4の結像位置を検出する」ピント位置検出装置は、本件発明1の「前記光ビームの焦点面と加工物の表面の間の間隙を検出し修正信号を提供する手段」に相当する。
 (1)−5 先願の発明の(記載事項1-4)における「フィードバック制御系7にズレ量を伝え、フィードバック制御系7はそのズレ量に応じた光源の波長の変化力を検出し、インジェクションロッキングされてエキシマレーザー発振装置1のレーザービーム波長を変化させてウェハ6表面に投影レンズ4の結像位置がくるように調整する」構成は、本件発明1の「前記修正信号に応答して前記光ビームの前記焦点面を移動し前記間隙を除去するために前記パルスレーザーの中心波長を変化させる手段」に相当する。

 してみると、本件発明1と刊行物1として出願公開された先願の明細書に記載された発明とは実質的に同一である。そして本件発明1の発明者が上記先願の明細書に記載された発明の発明者と同一であるとも、また、本件出願時に、その出願人が上記先願の出願人と同一であるとも認められないので、本件発明1は、特許法第29条の2の規定に違反して特許されたものである。
 (2) 本件発明2
 (2)−1 本件発明2と刊行物2に記載された発明とを対比する。
 (2)−1−1 刊行物2の「1μmの凹凸があるアルミニウム上でも0.9μmの線幅,および間隔のグレーティングが0.3NAレンズを使うことにより得られ」(記載事項2-1)る「レーザー光でレクチルを照明してレクチル面上のパターンを投影レンズでウエハ面に投影する」(記載事項2-2)手順は、本件発明2の「ウエハ上に細線形状を描くための方法」に相当する。

 (2)−1−2 刊行物2の「光軸Zに直交する面内の2つの直交軸x,yに沿って点光源を移動させる2つのスキャナ(回転ミラー)によって等価的な光源の大きさを増すようにした走査光源システム」(記載事項2-3)は、本件発明2の「二次元走査アッセンブリ」に相当する。
 してみると、両者は「ウエハ上に細線形状を描くための方法において、レーザー源から光を供給し、前記光を二次元走査アセンブリに向け、拡大された仮想源を形成し、レクチルを通過して前記ウエハの表面に前記仮想源を投影する方法であって、伝播パルスの面積の平均化を達成することを特徴とする方法。」の点で一致し、本件発明2が伝播パルスの面積の平均化を達成するために「更にレンズ及び走査アセンブリへ向けること」及び二次元走査アッセンブリを「二次元的に前記レーザー源からの光をシフト」する構成としたのに対して刊行物2にはそのような構成が示されていない点で相違する。

 そこで、上記相違点を検討するに、伝播パルスの面積の平均化を達成するために二次元走査アッセンブリに加えて「更にレンズ及び走査アセンブリへ向けること」及び伝播パルスの面積の平均化を達成するために「二次元的に前記レーザー源からの光をシフト」する点は、参考資料として提示された特開昭55-28647号公報にも示唆する記載がない。そして、本件発明2はこの点により明細書記載の効果が認められる。
 よって、本件発明2は刊行物2に記載された発明であると認められないばかりか、刊行物2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものとも認められない。
 (2)−2 また、本件発明2と刊行物3として出願公開された先願の発明とを対比する。
 (2)−2−1 先願の発明の「レクチル上のパターンをウェハ上に投影する投影型露光装置」(記載事項3-1)の手順は、本件発明2の「ウエハ上に細線形状を描くための方法」に相当する。

 (2)−2−2 先願の発明の「レーザー光源(1)から供給されるコヒーレント光は走査光学装置(2)によりスポットに集光されるとともに、走査面(3)上で2次元的に走査され・・・走査面(3)上に焦点を有するコリーメーターレンズ(4)により走査面(3)からの光束は平行光束に変換されてフライアイレンズ(5)に入射…フライアイレンズ(5)の射出面(5b)全体で多数のスポット像が同時に走査され・・・フライアイレンズの射出面(5b)に拡大された大きなインコヒーレント光源面が形成され…拡大された光源面の像を投影対物レンズ(7)の瞳面(7a)上に形成することにより、いわゆるケーラ照明が達成され、・・・レクチル(R)上のパターンが投影対物レンズ(7)によってウエハ(W)上に投影される」構成(記載事項3-2)は、本件発明2の「レーザー源から光を供給し、前記光を二次元走査アセンブリに向け、拡大された仮想源を形成し、及びレクチルを通過して前記ウエハの表面に前記仮想源を投影する方法」に相当する。
 (2)−2−3 先願の発明の「走査光学装置(2)」はレーザー光源からの光をシフトする作用をなすことは明らかである。
 してみると、両者は「ウエハ上に細線形状を描くための方法において、レーザー源から光を供給し、前記光を二次元走査アセンブリに向け、拡大された仮想源を形成し、レクチルを通過して前記ウエハの表面に前記仮想源を投影する方法であって、前記二次元走査アセンブリは、二次元的に前記レーザー源からの光をシフトし、伝播パルスの面積の平均化を達成する伝播パルスの面積の平均化を達成することを特徴とする方法。」の点で一致し、本件発明2が伝播パルスの面積の平均化を達成するために「更にレンズ及び走査アセンブリへ向けること」を構成としたのに対して刊行物2にはそのような構成が示されていない点で相違する。
 そこで、上記相違点を検討するに、二次元走査アッセンブリに加えて「更にレンズ及び走査アセンブリへ向けること」によりウエハ表面での照度分布の変化の仕方が異なることは明らかであり、伝播パルスの面積の平均化の作用も異なるものとなる。したがって、この点の相違はウエハ上に細線形上を描くための構成として、単なる微差ではなく本質的なものである。よって、本件発明2は先願の発明と同一ではない。

 (3) 本件発明3
 本件発明3と刊行物5に記載された発明とを対比する。
 刊行物5に記載された発明における、(a)Fig.2に示されたような波長のいくつかのピークを除く前の紫外光線の光源からの紫外光、及び本件発明3の(a)「相対的に広いバンド幅を特徴とするレーザー放射」は、共に、相対的に広いバンド幅を特徴とする放射である。
 刊行物5に記載された発明における、(b)「光軸上に配置された石英対物レンズ」は、本件発明3の(b)「前記放射の経路内に配置されたレンズアセンブリ」に相当する。
 刊行物5に記載された発明における、(c)「感光性材料で被覆されたシリコンウェハ」、(d)放射曲線が波形Lで示され、その波形LはピークL1、L2、L3、L4を有する放射に対し「透過(transmission)を1つの周波数に限定する・・・最も大きなピークLを透過するように狭いバンドパスフィルター」を通過させるステップ、及び(e)「転写されるべき回路の複写をウェハ上に生成するために食刻されるか、さもなければ処理される」ステップは、それぞれ、本件発明3の(c)「加工物」、(d)「前記放射のバンド幅を十分に狭めるステップ」、(e)「前記加工物をさらに処理するステップ」に相当する。

 さらに、刊行物5に記載された発明における、(f)「石英対物レンズ」は(記載事項5-4)で説明されているように、単一周波数で働く対物レンズの製造に向けられ・・・このアプローチは、色収差(chromatic aberrations)に関して補正されない石英の単色対物レンズの製造に基づいているから、本件発明3の(f)「相対的に広いバンド幅放射に応答して許容できないほど大きな色収差を示す」アセンブリに相当する。
 してみると、両者は、「デバイスを製造する方法において、相対的に広いバンド幅を特徴とする放射を発生するステップ、前記放射の少なくとも一部を前記放射の経路内に配置されたレンズアセンブリを介して加工物に向けるステップ、ここで、前記アセンブリは前記相対的に広いバンド幅放射に応答して許容できないほど大きな色収差を示すものであり、前記アセンブリが許容できるほど低い色収差を示すように前記放射のバンド幅を十分に狭めるステップ、及び前記加工物から前記デバイスを完成するために前記加工物をさらに処理するステップを含むことを特徴とする製造方法。」の点で一致し、本件発明3はレーザー放射を用いているのに対して、刊行物5に記載された最初の実施例の発明では高輝度のキセノン水銀ランプなどの「ランプが用いられている点で相違する。

 しかし、刊行物5の(記載事項5-4)には、別の実施例としてガスレーザ、固体レーザの例が示されており、刊行物5に記載された光源をレーザー放射を発生するものとすることは当業者が容易に想到できた事項である。
 したがって、本件発明3は、刊行物5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものである。