H15. 5.29 東京高裁 平成13(行ケ)420 特許権 行政訴訟事件

平成13年(行ケ)第420号 補正の却下の決定取消請求事件
平成15年5月29日判決言渡,平成15年5月22日口頭弁論終結


     判    決
 原   告     株式会社三洋物産
 訴訟代理人弁理士  伊神広行,田中敏博
 被   告     特許庁長官 太田信一郎
 指定代理人     松川直樹,二宮千久,山口由木,林栄二,高木進


     主    文
 原告の請求を棄却する。
 訴訟費用は原告の負担とする。


     事実及び理由
第1 原告の求めた裁判
 特許庁が不服2000−6659号事件について平成13年8月7日にした補正の却下の決定を取り消す。


第2 事案の概要
 本件は,後記本願発明の出願人である原告が,出願審査請求とともに手続補正書を提出したが,拒絶査定を受けたので,これを不服として審判請求をしたところ,上記手続補正を却下する旨の決定がされたため,同決定の取消しを求めた事案である。
 なお,本判決においては,明細書等を引用する場合であっても,公用文の用字用語例による表記に改めた部分がある(例えば,「大当り」を「大当たり」に,「予め」を「あらかじめ」などと改めた。)。
 1 前提となる事実等
 (1) 特許庁における手続の経緯
 (1-1) 本願発明
 出願人:株式会社三洋物産(原告)
 発明の名称:「パチンコ遊技機」
 出願番号:特願平11−173707号
 出願日:平成11年6月21日
    (平成1年6月24日出願の特願平1−161260号からの分割出願)

 (1-2) 本件手続
 出願審査請求:平成11年7月21日
 手続補正:平成11年7月21日(本件補正)
 拒絶査定:平成12年4月4日(原告への謄本送達日)
 審判請求日:平成12年5月8日(不服2000−6659号)
 決定日:平成13年8月7日
 決定の結論:「平成11年7月21日付けの手続補正を却下する。」
 決定謄本送達日:平成13年8月21日(原告に対し)
 (2) 本願発明の要旨
 (2-1) 本件補正前の発明
「【請求項1】 特定の入賞口に遊技球が入賞することにより可変表示体に図柄が可変表示され,この表示された図柄があらかじめ定められた図柄と一致することを条件として大入賞口の扉を開く権利が発生し,権利発生中に遊技球が始動口に入賞すると大入賞口の扉が開き,遊技球の入賞を容易にする大当たり状態となるパチンコ遊技機において,

 権利発生中に前記始動口に入賞した遊技球の数を記憶する記憶手段と,前記大入賞口の扉が閉じたときに前記記憶手段に記憶があるか否かを判断し,記憶があるときには前記大入賞口の扉を開く信号を発する判断手段と,前記大入賞口の扉が開いた回数を計数するカウンタとを設け,前記カウンタの値が所定値になったとき権利を消滅させるとともに,その権利消滅後の前記可変表示体における権利発生確率を所定回数の権利発生にわたって向上させることを特徴とするパチンコ遊技機。」
 (2-2) 本件補正後の発明
「【請求項1】 特定の入賞口に遊技球が入賞することにより可変表示体に図柄が可変表示され,この表示された図柄があらかじめ定められた図柄と一致することを条件として大入賞口の扉を開く大当たり状態となるパチンコ遊技機において,

 大当たり中に前記大入賞口の扉が開いた回数を計数するカウンタを設け,前記カウンタの値が所定値になったとき大当たりを消滅させるとともに,その大当たり消滅後の前記可変表示体における大当たり発生確率を,初回の発生確率と桁数の異なる確率で所定回数の大当たり発生にわたって向上させることを特徴とするパチンコ遊技機。」
 (3) 決定の理由
 決定の理由は,【別紙】の「決定の理由」に記載のとおりである。要するに,本件手続補正は,願書に最初に添付した明細書(本訴甲1,以下「当初明細書」という。)又は図面に記載した事項の範囲内において特許請求の範囲を変更するものではなく,明細書の要旨を変更するものであるから,却下すべきであるというものである。


 2 原告の主張(決定取消事由)の要点
 本件補正は,当初明細書等に記載された事項の範囲内においてされたものであるにもかかわらず,決定は,明細書の要旨を変更したものであると誤って判断したものであり,違法として取り消されるべきである。
 (1) 本件補正後の請求項1前段部分は,要旨変更に当たらない。
 (1-1) 本件補正後の請求項1の前段部分には,「特定の入賞口に遊技球が入賞することにより可変表示体に図柄が可変表示され,この表示された図柄があらかじめ定められた図柄と一致することを条件として大入賞口の扉を開く大当たり状態となる」と記載されている。この前段部分は,「表示された図柄があらかじめ定められた図柄と一致すること」が「大当たり状態となる」ために必要不可欠な条件であることを意味するものであり,

 @ 「表示された図柄があらかじめ定められた図柄と一致する」という条件のほかに別の条件が成立したときに「大当たり状態となる」場合を含むだけでなく,
 A 「表示された図柄があらかじめ定められた図柄と一致する」という条件が成立するだけで「大当たり状態となる」場合も含んでいる。
 そして,前記@の場合には,「表示された図柄があらかじめ定められた図柄と一致する」という条件は,「大当たり状態となる」ための必要条件だが十分条件ではないのに対して,前記Aの場合には,「表示された図柄があらかじめ定められた図柄と一致する」という条件は,「大当たり状態となる」ための必要条件であると同時に十分条件である(つまり必要十分条件である。)。
 このように,本件補正後の請求項1の前段部分における「表示された図柄があらかじめ定められた図柄と一致する」という条件は,必ず「大当たり状態となる」ための必要条件ではあるが,必ずしも「大当たり状態となる」ための十分条件であるとは限らない。したがって,「表示された図柄があらかじめ定められた図柄と一致する」という条件は,「大当たり状態となる」ための必要条件といえる。

 (1-2) 当初明細書の請求項1の後半には,「…権利消滅後の前記可変表示体における権利発生確率を所定回数の権利発生にわたって向上させることを特徴とするパチンコ遊技機。」という発明が記載されていたといえる。そして,当初明細書の【0012】の記載から,「権利消滅後」は「大当たり消滅後」と同義であり,同【0011】の記載から,「権利発生確率」は「図柄がそろう確率」と同義であるといえる。したがって,当初明細書請求項1後半に記載の発明の特徴は,「大当たり消滅後の可変表示体における図柄がそろう確率を所定回数図柄がそろうまで向上させる」点にあるといえる。
 ここで,大当たり消滅後の可変表示体における図柄がそろう確率を所定回数図柄がそろうまで向上させる点は,図柄の表示制御に関するものであって,図柄がそろうことにより権利が発生してから大当たり状態に至るまでの過程にはかかわりのないものである。このため,当業者であれば,この図柄の表示制御を,図柄がそろった後,権利が発生して権利発生中に始動口に入賞すると大当たり状態となる当初明細書に記載されたパチンコ遊技機(例えばデジタル式権利物のような第3種パチンコ遊技機)だけでなく,図柄がそろうと大当たり状態となるパチンコ遊技機(例えばデジパチ機のような第1種パチンコ遊技機)にも適用し得ると認識することは,本件出願時にデジタル式権利物やデジパチ機が当業者の技術常識であったことに照らして全く自明である。

 したがって,本件補正後の請求項1において「表示された図柄があらかじめ定められた図柄と一致すること」を「大当たり状態となる」ための必要条件とする補正は,デジタル式権利物のような第3種パチンコ遊技機のほかデジパチ機のような第1種パチンコ遊技機を含むことになるが,これは当初明細書に記載された後者の構成に係る発明からみて当業者にとって自明な事項であるため,明細書の要旨を変更するものではない。
 (1-3) 当初明細書の請求項1には,「特定の入賞口に遊技球が入賞することにより可変表示体に図柄が可変表示され,この表示された図柄があらかじめ定められた図柄と一致することを条件として大入賞口の扉を開く権利が発生し,権利発生中に遊技球が始動口に入賞すると大入賞口の扉が開き,遊技球の入賞を容易にする大当たり状態となる」ことが記載されている。つまり,「特定の入賞口に遊技球が入賞することにより可変表示体に図柄が可変表示され,この表示された図柄があらかじめ定められた図柄と一致する」ことと,「権利発生中に遊技球が始動口に入賞する」ことの2つを条件として,「大当たり状態となる」ことが記載されている。

 ここで,「特定の入賞口に遊技球が入賞することにより可変表示体に図柄が可変表示され,この表示された図柄があらかじめ定められた図柄と一致する」という条件は,そこに付加された条件つまり「権利発生中に遊技球が始動口に入賞する」という条件によって,「あらかじめ定められた図柄と一致する」という本来の性質が別異の性質に変わるものではないから,これら2つの条件は単に重畳して記載されているにすぎず,付加された条件は単純な付加限定にすぎないというべきである。
 したがって,「特定の入賞口に遊技球が入賞することにより可変表示体に図柄が可変表示され,この表示された図柄があらかじめ定められた図柄と一致すること」は,「大入賞口の扉を開く大当たり状態となる」ための必要条件として当初明細書等に開示されていたというべきである。

 (1-4) 当初明細書の段落【0002】から【0003】において,可変表示体があらかじめ定められた一定の表示態様となったときに大入賞口を開くパチンコ遊技機について,遊技者に飽きられやすいものであったという事情に基づいて,この発明がなされたことが記載されている。
 このため,当初明細書の請求項1に係る発明は,可変表示体があらかじめ定められた一定の表示態様となったときに大入賞口を開くパチンコ遊技機,つまり「特定の入賞口に遊技球が入賞することにより可変表示体に図柄が可変表示され,この表示された図柄があらかじめ定められた図柄と一致することを条件として大入賞口の扉を開く大当たり状態となるパチンコ遊技機」に適用し得ることが示唆されていたのである。
 したがって,本件補正後の請求項1の前段部分は,要旨変更に当たらない。

 (2) 本件補正後の請求項1後段部分は,要旨変更に当たらない。
 当初明細書には,「権利消滅後において可変表示体における権利発生確率を所定回数の権利発生にわたって向上させる」(段落【0004】【0005】),「第1の権利は発生し難いが,第2〜第4の権利は発生し易い」(段落【0013】)と記載されている。そして,当初明細書の段落【0015】によれば,第1の権利が発生する確率は1/1000となる。また,段落【0016】によれば,第2の権利が発生する確率は1/10となる。さらに,段落【0017】によれば,第3の権利が発生する確率及び第4の権利が発生する確率は,いずれも1/10となる。したがって,初回の権利が発生する確率は,1/1000であり,初回の権利発生に基づく大当たり状態が消滅した後の2回目〜4回目の権利が発生する確率は,1/10,つまり,100/1000であり,1000回の可変表示が起こったときに初回の権利が発生する確からしさは1回であるのに対して,2回目〜4回目の権利が発生する確からしさは100回であるから,権利発生という事象が発生する確からしさの桁数が異なっている(前者は1桁,後者は3桁)点は当業者にとって自明な事項であり,当初明細書等に記載した事項の範囲内の補正といえる。

 権利発生確率を比較する場合,分母を同じ数にそろえたあとの分子の大きさを比較することは,算数又は数学の知識において自明であるから,初回の権利発生時と2回目〜4回目の権利発生時とでは分子の桁数が前者よりも後者の桁数が大きく,権利発生確率が高いという点は,当初明細書等に記載されていたというべきである。したがって,「桁数の異なる確率」について特許請求の範囲,発明の詳細な説明に何らの記載がなくても,当業者であればその意味を容易に理解することができるのであり,「桁数の異なる確率」という概念は,当初明細書等に記載されていたというべきである。
 なお,「大当たり発生確率」とは,可変表示体に可変表示された図柄があらかじめ設定された図柄と一致する確率をいい,「権利発生確率」と実質的に同義の用語であり,大当たり状態が発生する確率をいうものではない。このことは,当初明細書に直接記載はないが,パチンコ業界では技術常識である。したがって,「大当たり発生確率」に関しては,当初明細書に記載されていたと解されるべきである。

 以上によれば,「初回の発生確率と『桁数の異なる確率』で所定回数の大当たり発生にわたって向上させる点については当初明細書等には記載されておらず」との決定の認定は誤りであり,この誤った認定に基づく,本件補正後の請求項1の後段部分が要旨変更であるとの判断も誤りである。

 3 被告の主張の要点
 (1) 本件補正後の請求項1前段部分に関する主張に対して
 (1-1) 本件補正前の請求項1の前段部分における記載からみて,本件補正前発明において,大入賞口の扉が開き遊技球の入賞を容易にする「大当たり状態となる」ための条件は,「特定の入賞口に遊技球が入賞することにより可変表示体に図柄が可変表示され,この表示された図柄があらかじめ定められた図柄と一致すること」及び「大入賞口の扉を開く権利が発生し,権利発生中に遊技球が始動口に入賞する」ことの2つである。
 したがって,本件補正前の請求項1の前段部分における記載である,上記「特定の…図柄と一致することを条件として」との記載中の「条件」は,上記2つの条件の一方の上記「特定の…図柄と一致すること」のみを指しているため「必要条件」というべきもので,この「大入賞口の扉を開く権利が発生し,権利発生中に遊技球が始動口に入賞する」構成を備えたパチンコ遊技機はいわゆる「第3種パチンコ遊技機」である。

 よって,本件補正前の請求項1の前段部分における記載は,「第3種パチンコ遊技機」に係る記載であって,上記「特定の…図柄と一致すること」を必要条件として,大入賞口の扉が開き,遊技球の入賞を容易にする「大当たり状態となる」発明が記載されていたのである。
 これに対して,本件補正後の請求項1の前段部分は,その記載からみて,大入賞口の扉を開く「大当たり状態となる」ための条件は上記「特定の…図柄と一致すること」というただ一つであって,本件補正後の請求項1には前段部分以外も含め,これ以外の条件は一切記載されていない。
 したがって,本件補正後の請求項1の前段部分における記載である,上記「特定の…図柄と一致することを条件として」との記載中の「条件」は,上記唯一の条件を指していて,かつ,上記前段部分には,この条件以外により,大入賞口の扉を開く「大当たり状態となる」とは記載されていないため,「必要十分条件」というべきもので,この上記「特定の…図柄と一致する」ことを条件として大入賞口の扉を開く大当たり状態となる構成を備えたパチンコ遊技機は,「第1種パチンコ遊技機」である。

 しかも,本件補正後の請求項1の前段部分には「第3種パチンコ遊技機」に特有の構成である「大入賞口の扉を開く権利が発生し,権利発生中に遊技球が始動口に入賞すると大入賞口の扉が開き,遊技球の入賞を容易にする大当たり状態となる」構成が記載されておらず,また,この構成は「第3種パチンコ遊技機」と「第1種パチンコ遊技機」を区別する重要な「特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項」であって,この記載を欠いている以上,本件補正後の請求項1の前段部分は「第1種パチンコ遊技機」のみに係る記載であるというべきである。
 以上のとおり,本件補正前の請求項1の前段部分の「第3種パチンコ遊技機」に係る記載が,本件補正により,本件補正後の請求項1の前段部分の「第3種パチンコ遊技機」を含まない「第1種パチンコ遊技機」に係る記載に補正されたのである。このような補正は,当初明細書の記載に基づくものではなく,当業者が容易になしえたことでもなく,当初明細書に記載されていた本件発明に係る発明の要旨を変更するものである。

 (1-2) 当初明細書には,第1種パチンコ遊技機とは遊技内容が異なる別のタイプの第3種パチンコ遊技機を用い,さらに遊技者の興趣を増加する構成を備える発明が記載されているだけであって,第1種パチンコ遊技機に遊技者の興趣を増加する構成を備える発明とすることも,遊技者の興趣を増加する構成を第3種パチンコ遊技機と第1種パチンコ遊技機のいずれにも適用できることも,一切記載されていない。当初明細書に記載されている発明は,第3種パチンコ遊技機のみである。
 当初明細書に記載されている発明の第3種パチンコ遊技機の図柄の表示制御は,第3種パチンコ遊技機に特有の「権利」と密接にかかわっており,この「権利」に係る構成を変更することなしには,「権利」に係る構成を持たない第1種パチンコ遊技機に適用できないことは,明らかである。このような変更は当業者といえども容易であったとはいえず,ましてや,自明なことであったとはいえない。

 当初明細書においては,第1種パチンコ遊技機では,その遊技内容が単調で変化に乏しいと評価した上で,第3種パチンコ遊技機を改良して遊技者の興趣を増加する第3種のパチンコ遊技機を提供しようとする旨が記載されており,当初明細書に記載の発明には,第3種パチンコ遊技機とはタイプが異なり遊技内容が単調で変化に乏しい第1種パチンコ遊技機を含めて適用しようとする技術思想がないことが明らかであるから,当初明細書に記載された第3種パチンコ遊技機の図柄の表示制御を第1種パチンコ遊技機の図柄の表示制御に適用できると解することは,当初明細書の記載に反するものであり,当初明細書の記載から自明なことではない。
 以上から,本件補正は,第3種パチンコ遊技機を第1種パチンコ遊技機に補正するものであって,当初明細書の記載に基づくものではなく,当業者が容易になし得たことでもなく,当初明細書に記載されていた本件発明に係る発明の要旨を変更するものである。

 (1-3) 【従来の技術】もしくは【発明の解決しようとする課題】から,直ちに課題を解決するための具体的手段が導かれるはずもなく,課題を解決するための構成は当初明細書における具体的手段を特定できる記載に基づくべきことは,当然である,そして,当初明細書には,「電動役物の可変表示体があらかじめ定められた一定の表示態様となったときに,大入賞口を開く」ものが「遊技者の興趣を増加することができるパチンコ遊技機」であるとは記載されていない。
 (2) 本件補正後の請求項1後段部分に関する主張に対して
 当初明細書における権利消滅後に権利発生確率を向上させる技術は,使用するセグメント表示体の個数を減らすように変更することが本質的であって,しかも,使用するセグメント表示体の個数と数値自体の大きさを示す桁数は別異の概念であるから,確率の大きさを示す数値の桁数を基準にする,桁数の異なる確率で確率を向上させる技術が当初明細書に開示されていないことは明らかである。

 当初明細書には「大当たり発生確率」との用語はなく,「権利発生確率」との用語があるのみである。当初明細書記載の発明における「大当たり状態」が発生する確率である「大当たり発生確率」は,「可変表示体に可変表示された図柄があらかじめ設定された図柄と一致する確率」である「権利発生確率」に加えて「この権利発生期間内に始動口20に遊技球が入賞する」確率も考慮されるべきものである。
 原告の主張は,当初明細書記載の「権利発生確率」を恣意的に「大当たり発生確率」として新たに定義するものであり,当初明細書の記載によらない主張として,失当である。


第3 当裁判所の判断
 1 本件補正後の請求項1前段部分が要旨変更に当たるか否かについて
 (1) パチンコ機の種類としては,昭和60年2月12日国家公安委員会規則第4号(遊技機の認定及び型式の検定等に関する規則)に基づき,第1種,第2種,第3種と呼ばれるものに分類され,このうち,第1種とは,セブン機といわれるもので,スタートチャッカーに玉が入ると中央の役物やデジタルが作動し,数字又は図柄がそろえば大当たりとなるものを指し,第3種とは,権利物といわれるもので,特定の出目がそろった後,Vゾーンに入賞があって初めて大当たりとなるものを指すことが認められる(甲8)。
 (2) 本件補正後の請求項1前段部分(甲2)には,「特定の入賞口に遊技球が入賞することにより可変表示体に図柄が可変表示され,この表示された図柄があらかじめ定められた図柄と一致することを条件として大入賞口の扉を開く大当たり状態となるパチンコ遊技機において…」と記載されている。この記載によれば,「この表示された図柄があらかじめ定められた図柄と一致する」ことの1つの条件が成立することで「大当たり状態となる」パチンコ遊技機であって,別の構成要件を必要としていないものと認められるので,上記パチンコ遊技機の種類は,第1種であるということができる。

 そして,補正後の特許請求の範囲の記載からは,「表示された図柄があらかじめ定められた図柄と一致する」という条件は,「大当たり状態となる」ために必要な条件であるとともに,十分条件でもある(必要十分条件)と認められる。
 (3) そこで,当初明細書の請求項1前段部分(甲1)をみると,「特定の入賞口に遊技球が入賞することにより可変表示体に図柄が可変表示され,この表示された図柄があらかじめ定められた図柄と一致することを条件として大入賞口の扉を開く権利が発生し,権利発生中に遊技球が始動口に入賞すると大入賞口の扉が開き,遊技球の入賞を容易にする大当たり状態となるパチンコ遊技機において…」と記載されている。この記載によれば,「この表示された図柄があらかじめ定められた図柄と一致することを条件として大入賞口の扉を開く権利が発生」することと,「(権利発生中に)遊技球が始動口に入賞する」ことの2つの条件が成立することで,「大当たり状態となる」パチンコ遊技機であると認められるので,当初明細書の請求項1で特定されるパチンコ遊技機の種類は,第3種であるということができる。

 また,当初明細書の請求項1前段部分には,上記2つの条件のうち一方だけが満たされることで「大当たり状態となる」とは記載されていないことは明らかである。そして,これら2つ条件は,独立している別々の条件であると解されるのであって,一方の条件が単に重畳的に記載されているとか,単純な付加限定にすぎないとかいうことはできない。
 前記認定によれば,第1種のパチンコ遊技機と第3種のパチンコ遊技機とは別種のパチンコ遊技機であることは明らかであるところ,当初明細書の請求項1前段部分においては,第3種のパチンコ遊技機が記載されており,第1種のパチンコ遊技機が開示されていたと認めることはできない。
 (4) 次に,当初明細書(甲1)の「発明の詳細な説明」欄の記載との対比において,本件補正を検討しておく。

 当初明細書の「発明の詳細な説明」欄には,確かに,(a)パチンコ遊技機は一般に遊技が単調となる傾向があったので,遊技盤にスロットゲーム又はルーレットゲーム等を行う電動役物及び入賞確率を可変とする変動入賞装置(大入賞口)を設け,電動役物の可変表示体があらかじめ定めた一定の表示態様となったときに,大入賞口を開き,遊技球の入賞確率を高めるパチンコ遊技機が工夫されていること(段落【0002】,第1種パチンコ遊技機を指すものと認められる。),(b)しかしながら,かかるパチンコ遊技機も,遊技内容が単調で,変化に乏しく,遊技者に飽きられやすいものであったことにかんがみ,本発明は,遊技者の興趣を増加することができるパチンコ遊技機を提供することを目的(課題)とするものであること(段落【0003】)について記載が存在する。しかし,上記課題を解決するための手段としては,(c)特定の入賞口に遊技球が入賞することにより可変表示体に図柄が可変表示され,この表示された図柄があらかじめ定められた図柄と一致することを条件として大入賞口の扉を開く権利が発生し,権利発生中に遊技球が始動口に入賞すると大入賞口の扉が開き,遊技球の入賞を容易にする大当たり状態となるパチンコ遊技機(第3種パチンコ遊技機を指すものと認められる。)を採用し,(d)権利発生中に前記始動口に入賞した遊技球の数を記憶する記憶手段と,前記大入賞口の扉が閉じたときに前記記憶手段に記憶があるか否かを判断し,記憶があるときには前記大入賞口の扉を開く信号を発する判断手段と,前記大入賞口の扉が開いた回数を計数するカウンタとを設け,前記カウンタの値が所定値になったとき権利を消滅させること,(e)それとともに,その権利消滅後の前記可変表示体における権利発生確率を所定回数の権利発生にわたって向上させること(段落【0004】)が記載されている。
 なお,当初明細書の「発明の詳細な説明」欄には,大当たりに関しては「大当たり状態」の記載があり,確率に関しては「入賞確率」,「権利発生確率」の記載があるが,「大当たり発生確率」との言葉は使用されていない。そして,「図柄の一致」,「権利の発生・消滅」,「大当たり」との関係については,「表示された図柄があらかじめ定められた図柄と一致することを条件として大入賞口の扉を開く権利が発生し」,「大入賞口の扉が開いた回数をカウンタが計数して,その値が所定値になると権利が消滅する」,「権利が発生している期間に遊技球が始動口20に入賞すれば,大当たり状態となって」,「扉5が8回開閉し,大当たり状態が終了する」と記載されていることから(段落【0004】,【0005】,【0011】,【0012】,【0015】〜【0020】),「図柄が一致する」ことにより「権利が発生し」,その後,始動口に遊技球が入賞して「大当たり」状態となり,大入賞口の扉が開いた回数が所定値(8回)となると「権利は消滅」し,「大当たり状態が終了」するという関係となっていることが認められる。そうすると,「権利消滅後」と「大当たり消滅後」は,同義といえず,「権利発生確率」と「図柄がそろう確率」は同義といえない。そして,「大当たり消滅後の可変表示体における図柄がそろう確率を所定回数図柄がそろうまで向上させる」ことは,当初明細書には記載されていない。
 (5) 上記認定したところによれば,当初明細書に記載された発明における「その権利消滅後の前記可変表示体における権利発生確率を所定回数の権利発生にわたって向上させること」は,「権利発生・消滅」を構成要件とする第3種パチンコ遊技機に関する発明特有の特徴点であるものと認められる。そうすると,「その権利消滅後の前記可変表示体における権利発生確率を所定回数の権利発生にわたって向上させること」ことをデジパチ機のような第1種パチンコ遊技機の表示制御に適用し得ることは,当業者にとって当初明細書の記載から自明な事項であるということはできない。

 ちなみに,当初明細書の段落【0002】,【0003】において,可変表示体があらかじめ定められた一定の表示態様となったときに大入賞口を開くパチンコ遊技機(第1種パチンコ遊技機)について,遊技者に飽きられやすいものであったという事情に基づいて,本発明がなされたと記載されているからといって,この発明における第3種パチンコ遊技機の構成を,第1種パチンコ遊技機に適用し得ることが示唆されていたということができないのは明らかである。
 (6) 以上によれば,「発明の詳細な説明」欄を含む,当初明細書の記載を精査しても,本件補正後の請求項1の前段部分に記載の技術的事項が当初明細書に記載,開示又は示唆されていたものとは認められず,また,その技術的事項が当初明細書の記載からみて自明な事項であるとも認められない。

 よって,本件補正後の請求項1の前段部分に関して,本件補正は明細書の要旨を変更するものであるとした決定の認定判断は,是認し得るものであり,この点に関する原告主張の決定取消事由は理由がない。

 2 以上のとおりであるから,原告のその余の主張について判断するまでもなく,本件補正を却下すべきものとした決定は,是認し得るものである。
 よって,原告の請求は棄却されるべきである。


     東京高等裁判所第18民事部


         裁判長裁判官   塚   原   朋   一


          裁判官   古   城   春   実


          裁判官   田   中   昌   利






【別紙】 決定の理由


不服2000−6659号事件,平成13年8月7日付け決定
(下記は,上記決定の理由部分について,文書の書式を変更したが,用字用語の点を含め,その内容をそのまま掲載したものである。)


理 由
1.手続補正の内容
 上記日付でした手続補正は、特許請求の範囲の請求項1(以下、本願発明という)の記載を以下のように補正する内容を含むものである。
「特定の入賞口に遊技球が入賞することにより可変表示体に図柄が可変表示され、この表示された図柄が予め定められた図柄と一致することを条件として大入賞口の扉を開く大当り状態となるパチンコ遊技機において、大当り中に前記大入賞口の扉が開いた回数を計数するカウンタを設け、前記カウンタの値が所定値になったとき大当りを消滅させると共に、その大当り消滅後の前記可変表示体における大当り発生確率を、初回の発生確率と桁数の異なる確率で所定回数の大当り発生に亘って向上させることを特徴とするパチンコ遊技機。」


2.当初明細書等に記載された事項
 願書に最初に添付された明細書及び図面(以下、「当初明細書等」という。)には、
「【0002】【従来の技術】パチンコ遊技機は一般にその遊技盤上に複数の入賞口を有しており、遊技者が購入した遊技球を遊技盤面に沿って打ち込み、遊技球が入賞口に入賞すると、一定数の賞品球が払い出されるようになっている。このようなパチンコ遊技機において、遊技者のすることは購入した遊技球を供給皿に入れ、打球ハンドルを操作して遊技球を発射するだけであるため、遊技が単調となる傾向があった。そこで、遊技盤にスロットゲーム又はルーレットゲーム等を行う電動役物及び入賞確率を可変とする変動入賞装置(大入賞口)を設け、電動役物の可変表示体が予め定めた一定の表示態様となったときに、大入賞口を開き、遊技球の入賞確率を高めるパチンコ遊技機が工夫されている。」(願書に最初に添付された明細書段落【0002】)

「【0004】【課題を解決するための手段】上記の目的を達成するための本発明は、特定の入賞口に遊技球が入賞することにより可変表示体に図柄が可変表示され、この表示された図柄が予め定められた図柄と一致することを条件として大入賞口の扉を開く権利が発生し、権利発生中に遊技球が始動口に入賞すると大入賞口の扉が開き、遊技球の入賞を容易にする大当り状態となるパチンコ遊技機において、権利発生中に前記始動口に入賞した遊技球の数を記憶する記憶手段と、前記大入賞口の扉が閉じたときに前記記憶手段に記憶があるか否かを判断し、記憶があるときには前記大入賞口の扉を開く信号を発する判断手段と、前記大入賞口の扉が開いた回数を計数するカウンタとを設け、前記カウンタの値が所定値になったとき権利を消滅させると共に、その権利消滅後の前記可変表示体における権利発生確率を所定回数の権利発生に亘って向上させることを特徴とするものである。【0005】【作用】本発明は前記の構成により、特定の入賞口に遊技球が入賞することにより可変表示体に図柄が可変表示され、この表示された図柄が予め定められた図柄と一致することを条件として大入賞口の扉を開く権利が発生し、権利発生中に遊技球が始動口に入賞すると大入賞口の扉が開き、そして、権利発生中に遊技球が始動口に入賞すると記憶手段がその情報を記憶し、大入賞口の扉が閉じた後、判断手段によってその情報を判断し、記憶があれば、再び大入賞口の扉を開き、大入賞口の扉が開いた回数をカウンタが計数して、その値が所定値になると権利が消滅する。そして、その権利消滅後において可変表示体における権利発生確率を所定回数の権利発生に亘って向上させる。したがって、大入賞口が開いているときに遊技球が始動口に連続して入賞したときにも、その数を記憶し、記憶した回数だけ大入賞口を開閉するので、このような場合に従来の装置のように、予め定めた大入賞口を開閉できる所定回数(たとえば、8回)の入賞があるにもかかわらず、所定回数の大入賞口の開閉を行わずに、途中(たとえば5回)で終了してしまうことはない。また、権利消滅後において可変表示体における権利発生確率を所定回数の権利発生に亘って向上させるので、一度権利が発生すると次回以降の権利発生頻度を高めることができる。」(同明細書段落【0004】〜【0005】)、
「【0011】セグメント表示体2a・2b・2cが可変表示状態を停止した場合において、セグメント表示体2a・2b・2cによって表示されている数値に基づいて、電動役物10を制御するために、セグメント表示体2a・2b・2cに対応するリングカウンタ34a・34b・34cの出力が判定回路37に与えられる。この判定回路37には、設定部38からの設定情報が与えられている。設定部38は、セグメント表示体2a・2b・2cのあらかじめ定められた数値を設定している。そこで、判定回路37はセグメント表示体2a・2b・2cが可変表示状態を停止したときのリングカウンタ34a・34b・34cの出力に基づいて、セグメント表示体2a・2b・2cに表示されている3桁の数値を設定部38から与えられている3桁の数値と比較判定し、判定出力を電動役物10を制御する制御部39に与える。制御部39は、判定回路37からの判定出力がセグメント表示体2a・2b・2cに表示された数値とあらかじめ設定部38に定められていた数値と同一であるというものであれば、大入賞口4の扉5を開く権利(以下、単に権利とも称する)を発生させる。【0012】この大入賞口4の扉5を開く第1の権利が発生している期間に遊技球が始動口20に入賞すれば、大当たり状態となって大入賞口4の扉5が開く。大当たり状態は、本実施形態の場合30秒間、あるいは遊技球が大入賞口4に10個入賞した時点で終了する。権利発生期間内に始動口20に遊技球が入賞すれば、扉5の開閉は最高8回まで繰り返される。扉5の8回の開閉が終了し、大当たり状態が終了すると、第1の権利が消滅すると同時に、切替スイッチ31により、遊技球が特定入賞口1に入賞した場合に数値が可変表示されるセグメント表示体をセグメント表示体2aだけに変更する。そして、遊技球が特定入賞口1に入賞する毎に、今度は1桁の数値が可変表示され、停止したときのセグメント表示体2aに表示される数値が設定部38に予め定められた1桁の数値と一致した場合には、大入賞口4の扉5が開く権利が発生し、大当たり状態となる。扉5が8回開閉し、大当たり状態が終了すると、第2の権利が消滅するとともに、数値が可変表示される位置がセグメント表示体2bに変更される。以下同様にして第3の権利が発生・消滅した後に遊技球が特定入賞口1に入賞すると、可変表示される位置がセグメント表示体2cに変更され、更に第4の権利が発生して消滅した後に遊技球が特定入賞口1に入賞すると、3つのセグメント表示体2a・2b・2cが可変表示され、以後上述の動作を繰り返す。【0013】このように、本実施形態では、第1の権利は発生し難いが、第2〜第4の権利は発生し易いので、一旦、第1の権利が発生すると、遊技者は容易に大量の賞品球を獲得することが可能となり、興趣が増加する。」(同明細書段落【0011】〜【0013】)、「【0015】次に、本発明に係るパチンコ遊技機の動作を図1乃至図5をも参照して説明する。大入賞口4の扉5を開く権利が発生していない状態(以下、通常状態という)で遊技球が特定入賞口1に入賞すると、特別装置3が作動し、3つのセグメント表示体2a・2b・2cに数字が可変表示される。この表示された数字があらかじめ定められている数字(たとえば「7・7・7」)と一致した場合に限り、大入賞口4の扉5を開く第1の権利が発生する。この権利発生期間内に始動口20に遊技球が入賞すると、大入賞口4の扉5が開き、遊技球の入賞が容易な大当たり状態となる。このような大当たり状態で大入賞口4に遊技球が入賞すると、大入賞口4の内部に設けられている入賞球カウンタ7が大入賞口4へ入賞した遊技球の個数をカウントし、扉5が開いている時は勿論、扉5が閉じている時も透明な扉5を透して遊技者に大入賞口4に入賞した遊技球の数を知らせるようになっている。【0016】第1の権利が消滅した後、遊技球が特定入賞口1に入賞すると特別装置3が作動し、遊技者から見て左のセグメント表示体2aに数字が可変表示される。この表示された数字があらかじめ定められている数字(たとえば「0」)と一致した場合に、大入賞口4の扉5を開く第2の権利が発生する。この権利発生期間内に始動口20に遊技球が入賞すると、大入賞口4の扉5が開き、遊技球の入賞が容易な大当たり状態となる。【0017】第2の権利が消滅すると、数値が可変表示されるセグメント表示体を別のセグメント表示体2bに変更する。この第2の権利が消滅した状態で遊技球が特定入賞口1に入賞すると、特別装置3が作動し、中央のセグメント表示体2bに数字が表示される。この表示された数字があらかじめ定められている数字(たとえば「7」)と一致した場合に、大入賞口4の扉5を開く第3の権利が発生する。また、第3の権利が消滅した状態で遊技球が特定入賞口1に入賞すると、特別装置3が作動し、遊技者から見て右のセグメント表示体2cに数字が表示される。以下同様にして、第4の権利が発生・消滅した後、遊技球が特定入賞口1に入賞すると第1の権利が発生し、上述の動作を繰り返す。このように第1の権利が消滅した後は、権利を発生させる数字が、左のセグメント表示体2aから中央のセグメント表示体2b、右のセグメント表示体2cへと順次移動しながら表示されるようになっている。」(同明細書段落【0015】〜【0017】)、
「【0019】第1の権利が発生しているときに遊技球が始動口20に入賞すると大当たり状態に移行し、制御・判断部54は、扉駆動部56を介して大入賞口4の扉5を開状態とし(ステップ1)、ランプ駆動部57を介して左端のランプ61を点灯して(ステップ2)扉開検知スイッチ53からの信号を受けて内蔵する扉開閉用カウンタCの値を「+1」する(ステップ3)。扉5が開状態になると、制御・判断部54は開状態の時間が30秒経過したか否かを判断し(ステップ4)、経過しなければ大入賞口4への遊技球の入賞数が10であるか否かを判断する(ステップ5)。その入賞数が10以下であればステップ6で始動口20への入賞があるか否かを判断し、始動口20への入賞があれば、記憶部55の値を「+1」して(ステップ7)左端から2個目のランプ62を点滅し(ステップ8)、ステップ4へ戻る。【0020】一方、開状態の時間が30秒になるか又は大入賞口4への入賞数が10個になると、扉5を開状態とし(ステップ9)、ステップ10で扉開閉用カウンタCの値が「8」であるか否かを判断する。その値が「8」以下であれば、記憶部55に記憶があるか否かを判断し(ステップ11)、記憶があれば記憶部55の値を「−1」してステップ1へ戻り、扉5を開状態として左端から2個目のランプ62を点灯し(ステップ2)、扉開閉用カウンタCの値を「+1」する(ステップ3)。以下前述と同様の動作を繰り返す。また、ステップ10で扉開閉用カウンタCの値が「8」のとき又はその値が「8」以下であっても、ステップ11で記憶部55の値が「0」であれば、ランプ6を消灯し(ステップ13)、各種のカウンタをリセットして(ステップ14)大当たり状態を終了し、第1の権利は消滅する。第2乃至第4の権利における大当たり状態の動作も同様である。」(同明細書段落【0019】〜【0020】)、と記載されている。


3.判断
 上記記載によると、当初明細書等では、本願発明は下記の点から構成されているものと認められる。
(1)「特定の入賞口に遊技球が入賞することにより可変表示体に図柄が可変表示され、この表示された図柄が予め定められた図柄と一致することを条件として大入賞口の扉を開く権利が発生し、権利発生中に遊技球が始動口に入賞すると大入賞口の扉が開き、遊技球の入賞を容易にする大当り状態となるパチンコ遊技機。」
(2)「権利発生中に前記始動口に入賞した遊技球の数を記憶する記憶手段と、前記大入賞口の扉が閉じたときに前記記憶手段に記憶があるか否かを判断し、記憶があるときには前記大入賞口の扉を開く信号を発する判断手段と、前記大入賞口の扉が開いた回数を計数するカウンタとを設け、前記カウンタの値が所定値になったとき権利を消滅させると共に、その権利消滅後の前記可変表示体における権利発生確率を所定回数の権利発生に亘って向上させる。」

(3)「権利消滅後において可変表示体における権利発生確率を所定回数の権利発生に亘って向上させるので、一度権利が発生すると次回以降の権利発生頻度を高めることができる。」
(4)「セグメント表示体2a・2b・2cが可変表示状態を停止した場合において・・・セグメント表示体2a・2b・2cに表示されている3桁の数値を設定部38から与えられている3桁の数値と比較判定し・・・あらかじめ設定部38に定められていた数値と同一であるというものであれば、大入賞口4の扉5を開く権利を発生させる。この大入賞口4の扉5を開く第1の権利が発生している期間に遊技球が始動口20に入賞すれば、大当たり状態となって大入賞口4の扉5が開く。」
(5)「第1の権利は発生し難いが、第2〜第4の権利は発生し易いので、一旦、第1の権利が発生すると、遊技者は容易に大量の賞品球を獲得することが可能となり、興趣が増加する。」

(6)「第1の権利が消滅した後、遊技球が特定入賞口1に入賞すると特別装置3が作動し、遊技者から見て左のセグメント表示体2aに数字が可変表示される。この表示された数字があらかじめ定められている数字(たとえば「0」)と一致した場合に、大入賞口4の扉5を開く第2の権利が発生する。この権利発生期間内に始動口20に遊技球が入賞すると、大入賞口4の扉5が開き、遊技球の入賞が容易な大当たり状態となる。」
(7)「第2の権利が消滅した状態で遊技球が特定入賞口1に入賞すると、特別装置3が作動し、中央のセグメント表示体2bに数字が表示される。この表示された数字があらかじめ定められている数字(たとえば「7」)と一致した場合に、大入賞口4の扉5を開く第3の権利が発生する。」
(8)「第3の権利が消滅した状態で遊技球が特定入賞口1に入賞すると、特別装置3が作動し、遊技者から見て右のセグメント表示体2cに数字が表示される。」「第4の権利が発生・消滅した後、遊技球が特定入賞口1に入賞すると第1の権利が発生し、上述の動作を繰り返す。」

 しかしながら、上記3.(1)〜(8)の構成には、
     「特定の入賞口に遊技球が入賞することにより可変表示体に図柄が可変表示され、この表示された図柄が予め定められた図柄と一致すると権利が発生し、権利発生期間内に始動口に遊技球が入賞すると大入賞口の扉を開く大当り状態となるパチンコ遊技機」である点は記載されているものの「特定の入賞口に遊技球が入賞することにより可変表示体に図柄が可変表示され、この表示された図柄が予め定められた図柄と一致することを条件として大入賞口の扉を開く大当り状態となるパチンコ遊技機」については記載されておらず、また、発明の詳細な説明等には「〜することを条件として」の「条件」として、「権利が発生し、権利発生期間内に始動口に遊技球が入賞する」ことは記載されておらず、またこのような条件を含むことを示唆する記載もない。

 そして、「特定の入賞口に遊技球が入賞することにより可変表示体に図柄が可変表示され、この表示された図柄が予め定められた図柄と一致すると権利が発生し、権利発生期間内に始動口に遊技球が入賞すると大入賞口の扉を開く大当り状態となるパチンコ遊技機」と「特定の入賞口に遊技球が入賞することにより可変表示体に図柄が可変表示され、この表示された図柄が予め定められた図柄と一致することを条件として大入賞口の扉を開く大当り状態となるパチンコ遊技機」はあきらかに構成が異なっており、上記補正は発明の要旨を変更するものである。
 さらに、上記3.(1)〜(8)の構成には、
「権利消滅後の前記可変表示体における権利発生確率を所定回数の権利発生に亘って向上させるパチンコ遊技機。」あるいは「権利消滅後において可変表示体における権利発生確率を所定回数の権利発生に亘って向上させるので、一度権利が発生すると次回以降の権利発生頻度を高めることができるパチンコ遊技機。」については記載されているものの、「大当り消滅後の前記可変表示体における大当り発生確率を、初回の発生確率と桁数の異なる確率で所定回数の大当り発生に亘って向上させることを特徴とするパチンコ遊技機。」のような、初回の発生確率と「桁数の異なる確率」で所定回数の大当り発生に亘って向上させる点については当初明細書等には記載されておらず、しかも、当初明細書等に記載された事項から自明のこととも認められないから、上記手続補正は、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内において特許請求の範囲を変更するものではなく、明細書の要旨を変更するものである。


4.むすび
 以上のとおりであるから、上記手続補正は、特許法の一部を改正する法律(平成5年法律第26号)附則第2条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる改正前の特許法第159条第1項で準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
 よって、結論のとおり決定する。
         平成13年 8月 7日