H14.12.19 大阪地裁 平成13(ワ)10905 不正競争 民事訴訟事件

平成13年(ワ)第10905号 不正競争行為差止等請求事件
口頭弁論終結日 平成14年10月18日
                   判     決
               原      告   マグ インストルメント インコーポレイテッド
               訴訟代理人弁護士   山 内 信 俊
               同          高 橋 美智留
               同          浅 野 絵 里
               被      告   朝日電器株式会社
               訴訟代理人弁護士   松 田 繁 三
               補佐人弁理士     岡 田 全 啓
                   主     文
 1 被告は、別紙イ号目録、別紙ロ号目録及び別紙ハ号目録記載の製品を輸入し、販売してはならない。
 2 被告は、別紙イ号目録、別紙ロ号目録及び別紙ハ号目録記載の製品を廃棄せよ。

 3 被告は、原告に対し、金1349万7590円及びこれに対する平成14年7月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 4 原告のその余の請求を棄却する。
 5 訴訟費用は、これを4分し、その3を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。
 6 この判決は、第3項に限り仮に執行することができる。
                   事実及び理由
第1 請求
 1、2 主文第1項及び第2項と同じ。
 3 被告は、原告に対し、金1699万7590円及びこれに対する平成14年7月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
    本件は、「マグライト」の商品名で懐中電灯を製造販売する米国法人である原告が、被告に対し、被告が懐中電灯を輸入して販売する行為は、不正競争防止法2条1項1号の不正競争に当たるとして、その輸入、販売の差止め等と損害賠償を求めた事案である。

 1 争いのない事実等(証拠の掲記のないものは当事者間に争いがない。)
   (1) 原告は、懐中電灯の開発、製造及び販売を主たる業務とする米国法人である。
   (2) 被告は、家庭用電気製品及び同付属部品の製造販売等を主たる業務とする株式会社である。
   (3) 原告は、別紙原告商品目録(1)記載の小型懐中電灯「ミニマグライトAA」(以下「原告商品(1)」という。)、別紙原告商品目録(2)記載の小型懐中電灯「ミニマグライトAAA」(以下「原告商品(2)」という。)を製造販売している(これらを合わせて「原告商品」という。)(別紙原告商品目録(1)、(2)記載中の寸法については、後記第4の1(1)イ記載のとおり、検甲1、2及び弁論の全趣旨により認める。)。
   (4) 被告は、別紙イ号目録、別紙ロ号目録及び別紙ハ号目録記載の小型懐中電灯(以下それぞれを「イ号商品」、「ロ号商品」、「ハ号商品」という。)を中国から輸入し、「アルミハンディライト」という商品名で日本国内において販売している(これらを合わせて「被告商品」という。)。

 2 争点
   (1) 原告商品の形態の商品表示性、周知性
   (2) 原告商品と被告商品の形態の類似性
   (3) 混同のおそれ
   (4) 損害の発生及び額
第3 争点に関する当事者の主張
 1 争点(1)(原告商品の形態の商品表示性、周知性)について
 〔原告の主張〕
   (1) 原告商品(1)(検甲1)は、単3電池を2本格納する懐中電灯であり、別紙「原告商品と被告商品の対比表(原告主張)」の「原告商品(1)」欄記載の共通した特徴を有している。
   (2) 原告商品(2)(検甲2)は、単4電池を2本格納する懐中電灯であり、別紙「原告商品と被告商品の対比表(原告主張)」の「原告商品(2)」欄記載の共通した特徴を有している。
   (3) 原告商品の形態の商品表示性について
     ア 原告商品は、別紙「原告商品と被告商品の対比表(原告主張)」の「原告商品(1)」欄及び「原告商品(2)」欄の@〜Eの個々の要素が組み合わされた形態全体として独自性を有するものである。特にそれまでの懐中電灯と比較して独自の特徴といえる点は、第1にその頭部のデザインであり、第2にライト頭部から胴体部につながる全体としてすらっとしたデザインである。

       (ア) ライト頭部のデザインにおいて特に独自性を有するのは、@その頭部のカーブ、すなわち、フェイスキャップ直径を最大径部とし、胴体部分と接続される側を最小径部とする放物体である点、A頭部の長さと胴体部の長さの比率という点において、原告商品は、頭部が長く設定されている点である。
       (イ) ライト頭部から胴体部につながる全体としてすらっとしたデザインにおいて特に独自性を有するのは、頭部最大径の胴体部直径に対する割合が小さいことで、よりほっそりした形態を提示している点である。
     イ 原告商品が販売開始される以前には、上記6点の個々の要素から成る形態全体を有する懐中電灯は販売されておらず、その形態は独自の意匠的特徴を有するものであった。このことは次の事実からも明らかである。
       (ア) 原告商品は、米国、フランス、ドイツ、日本でデザイン賞を受賞し、さらに有名なニューヨーク近代美術館にパーマネントコレクションとして所蔵されている。

       (イ) 原告商品の商品形態について、それぞれ、米国を初め、ベネルクス3国、スイス、ドイツ等の多くの国において、商標登録がなされ、又はその出願がなされている。
       (ウ) スウェーデンデザイン協会は、原告商品の形態が、スウェーデン著作権法の下で保護される応用美術であることを認める決定を出した。さらに、原告商品の形態は、香港及び英国においても、著作権を基礎としてその保護が認められている。
       (エ) 原告商品は、その優れたデザイン性により、「アメリカンスタイル」「デザイン」等、米国及びドイツにおいて出版された優れたデザインを有する商品を集めた出版物に掲載されている。
       (オ) 米国やドイツの大学の教授等の専門家が、原告商品の形態、スタイル及び外観が非常に顕著性を有していること、原告商品の形態は技術的な制約により決定されるものでなく、独自性のある優れたデザインであるなどの意見を述べている。

       (カ) 原告商品のその優れたデザイン性及び人気により、販売開始当初から、原告商品の形態のコピー商品が全世界的に出回ることとなったが、このようなコピー商品の氾濫は、原告商品の形態が意匠的に独創性を有し、大ヒット商品となった原告商品を表示するものであることを如実に示すものである。
       (キ) 原告は、米国、ドイツ、スウェーデン、香港、英国、ベルギー、ノルウェー、カナダなどの世界各国において、原告商品のコピー商品の販売差止めを求める訴訟を提起し、各裁判所において原告の主張が認められ、コピー商品の販売が差し止められている。
       (ク) 原告は、外国及び日本において、原告商品のコピー商品を販売していた数多くの会社との間で、和解契約又は念書等により、原告商品の形態に関する権利侵害を認め、コピー商品の販売を中止する旨の合意をしている。

       (ケ) 争点(3)における〔原告の主張〕(3)記載のとおり、原告商品については、その類似商品との間で混同事例が報告されているが、このことは、原告商品の形態が商品表示性を有することを示すものである。
   (4) 原告商品の形態の周知性について
     ア 原告商品(1)は原告により1984年(昭和59年)に開発され、米国において販売開始されたものである。原告商品(1)はその優れた携帯性とともに、単3電池2本の使用で抜群の明るさを発揮するなど、それまでの小型ライトの常識をはるかに超えた高性能ライトであること、さらに、従来の懐中電灯とは全く異なった優れたデザイン性を有することから、瞬く間に世界的なベストセラーとなった。さらに、1987年(昭和62年)には、原告商品(1)をさらに小型化した単4電池2本を格納する原告商品(2)が開発され、原告商品(1)と同様に大ヒット商品となった。

     イ 日本においては、原告商品(1)は昭和61年、原告商品(2)は昭和63年に、アウトドア用品専門店である株式会社エイアンドエフ(以下「エイアンドエフ」という。)により、本格的に輸入販売されるようになった。
        エイエンドエフは、通信販売のほか、アウトドア関連用品小売店、大手百貨店、東急ハンズ等同社取引先の500以上の小売店に対して原告商品の販売を行った。
     ウ 原告商品が前述のように、その優れたデザイン性、極めて高性能のライトであること、さらに、米国その他世界各国で爆発的に売れているという評判も手伝って、発売開始から間もなく、原告商品は、山登りなどのアウトドア活動を趣味とする者を中心として瞬く間に人気商品となったのである。
        原告商品は、昭和60年ころから、アウトドア専門雑誌及び製品情報雑誌において特集され、又は紹介されてきた。特に「モノ・マガジン(mono)」1993年(平成5年)2月16日号では、「マグライト伝説」と題する16頁にわたる特集記事が掲載された。

     エ 原告商品の販売に関しては、次のような宣伝活動が行われた。
       (ア) エイアンドエフは、同社の総合カタログの1986−1987年度版、1988−1989年度版、1990−1991年度版に、それぞれ1〜3頁にわたって、原告商品を含む原告の懐中電灯製品を掲載した。同カタログは、アウトドア専門店、スポーツ店及び百貨店に対して、並びに通信販売用にそれぞれ約1万5000部頒布された。
       (イ) 遅くとも昭和62年ころから、「モノ・マガジン」、「ビーパル(BE-PAL)」等において原告商品の広告が掲載され始めた。
       (ウ) 三井物産株式会社(以下「三井物産」という。)は、平成元年に原告商品の日本における一手販売の輸入代理店となり、平成5年12月から、原告商品を含むマグライトシリーズ製品のカタログを発行し、平成8年の1年間には約2000部、それ以降は毎年約5000部を、主として、三井物産の原告商品販売代理店の取引先である卸売業者及び一般消費者に対して頒布した。

       (エ) 三井物産の原告商品の販売代理店である株式会社サンジェルマンは、平成5年から、原告商品を含む原告のマグライトシリーズ製品の専門カタログを発行し、毎年約5000部を、同社取引先である卸売業者及び小売店並びに一般消費者に対し頒布している。
       (オ) 同じく三井物産の原告商品の販売代理店である株式会社日立リビングサプライは、同社製品カタログを年3回発行し(1回の発行部数は15万部)、平成5年から原告商品を掲載しており、これを同社の取引先である家電量販店等に頒布している。
     オ 販売額について
        原告商品を含む原告が販売するマグライトシリーズ製品は、平成4年3月期に7500万円、平成5年3月期に1億1900万円、平成6年3月期に少なくとも2億3600万円の売上げを計上した。

        その後も、平成7年3月期には年商5億円を突破し、売上げは倍増ペースで拡大した。
        原告商品の販売額は、マグライトシリーズ全製品の上記販売額の約52%を占めている。
     カ 原告商品は、平成2年に、乗用車の日産シーマ及びトヨタレンジクルーザーの景品として、それぞれ1万5000本、1万本が採用されたのを初めとして、多数の企業の景品として採用された。
     キ 以上によれば、原告商品の形態は、遅くとも平成6年3月末までには、原告が製造販売する商品であることを示す商品表示として需要者の間に広く認識されていたことは明らかである。
 〔被告の主張〕
   (1) 原告の主張(1)、(2)記載の事実は、原告商品(1)、(2)の各部の寸法に関する記載部分を除き、概ね認める。
      同(3)、(4)記載の事実は不知。原告商品の形態が原告の出所を表示する機能を取得していること、原告が製造販売する商品であることを示す商品表示として需要者の間に広く認識されていることは争う。

   (2)ア 商品の形態が、不正競争防止法2条1項1号の「他人の商品等表示」に該当することがあり得るとしても、競合する同種の商品の間でどの商品も概ね同様の形態を採っている場合には、その中のある特定の商品の形態が特定の出所を識別する機能を発揮するということはほとんどないと考えられる。また、同号は、商品の形態それ自体を保護するものではなく、商品間の競争が行われていることを前提に、特定の商品の形態が特定の出所を識別する程度に至っている場合に、他者商品により出所の誤認混同を生ぜしめる出所識別表示が付されることを禁じる趣旨に止まるものであるから、商品の形態が商品の技術的機能に由来する必然的な結果であるときや、その段階まで至っていなくとも、技術的制約その他の理由により、市場において商品として競合するためには似ざるを得ないときは、同号の商品表示該当性は否定されるべきである。
     イ 特に電気製品においては、市場で多くのメーカーが激しい競争を繰り広げており、商品の内容からくる技術的制約や流行等から、各メーカーとも相当程度の類似性をもった形態や色彩の商品を販売しており、このような業界において、特定のメーカーの商品の形態を安易に特別に保護することは、それ以外の多数のメーカーが自社商品を販売できなくなることを意味し、業界における競争を不当に阻害することになりかねない。
     ウ したがって、商品の形態自体が不正競争防止法2条1項1号にいう「他人の商品等表示」に該当するか否かを判断するためには、
       (ア) 商品の形態が極めて特異であり新規性があるか否か
       (イ) その形態が特定の商品形態として長年継続的かつ独占的に使用されてきたか否か
       (ウ) その形態が強力に宣伝され需要者に浸透したか否か

       (エ) 需要者である消費者が商品を識別、選択する際に主として商品の形態に着目して購入しているか否か
        等の諸要素を検討した上で、さらに、
       (オ) 商品の形態が商品の技術的機能に由来する必然的な結果ではないか、市場において商品として競合するためには似ざるを得ない場合ではないか
        を慎重に総合判断して決すべきである。
   (3) 懐中電灯の一般的な形態について
     ア 胴体部分について
        懐中電灯は、胴体部分に単3や単4の乾電池を格納し保持するための格納部分を有する必要性がある。また、懐中電灯は、人が手で持って利用するものであるため、人の手の大きさや指の長さ等に対応して太さ及び長さが選択されるべきものである。
        したがって、懐中電灯の胴体部分は、自ずと使用する乾電池のサイズと個数により決定される直径及び長さや円筒状体の形態との関係上、技術的に一定の制限がある。

     イ ヘッド部分(原告が「ライト頭部」と呼称する部分)について
        ヘッド部分は、その内部に設置された電球から発せられる光線を効率よく反射させるための反射鏡を内蔵する必要性から、反射鏡の最大径部をヘッド部分の先端部すなわち最大径部と対応させ、ヘッド部分の最小径部は、これに接続される胴体部分の太さと対応させる。したがって、ヘッド部分について、最大径部を先端部とし、最小径部を後端部とする緩やかな曲線を描く放物体とすることは、古くからの懐中電灯の基本的な形状である。
        また、内部の反射鏡は、電球から発した光線を反射させて平行な光線とするために、技術的に放物体の形態にならざるを得ないので、反射鏡を格納し電灯の機能を効率的に発揮するためには、外部のヘッド部分も放物体にすることが、不可避とまではいえないとしても最も望ましく、従来の懐中電灯の大部分がそのような形態を採用している。

        このように、ヘッド部分を放物体とすることは、技術的な制約から決定されることであり、このことは、意匠登録第292348号意匠公報(昭和44年3月22日発行、乙1。以下「乙1公報」という。)、意匠登録第341967号意匠公報(昭和47年2月16日発行、乙2。以下「乙2公報」という。)、意匠登録第214531号意匠公報(昭和38年3月26日発行、乙3。以下「乙3公報」という。)記載の意匠が同様の特徴を有していることからして明らかである。
   (4) 原告が原告商品の形態の特徴として挙げる点は、いずれも懐中電灯の一般的な性質に照らしてありふれた形態であって、特段の特異性や新規性は認められない。
     ア ヘッド部分がフェイスキャップ直径を最大径部とし、胴体部分と接続される側を最小径部とする放物体であり、胴体部分は乾電池のサイズに規定された大きさの円筒形を形成しているが、このような形態は、上記のとおり技術的制約の下において、また従来から公知公用の形態として、懐中電灯の大部分が採用している基本的な形態と同一である。この点については、乙1〜乙3公報、実開昭53−149482号公開実用新案公報(乙4。以下「乙4公報」という。)、実開昭59−36101号公開実用新案公報(乙5。以下「乙5公報」という。)、実開昭49−128092号公開実用新案公報(乙6。以下「乙6公報」という。)、実公昭40−25826号実用新案公報(乙7。以下「乙7公報」という。)に示すとおりである。

     イ 原告主張の@、Aの点は、取り外しが可能という機能を述べるものにすぎず、ヘッド部分の形態としては一体として放物体であり、従来のものと同じである。
     ウ B及びDの胴体部分が円筒形を成しているとの点は、上記(3)で述べた懐中電灯の一般的な形態を述べるものにすぎない。
     エ C(ヘッド部分の溝模様)の点について
        ヘッド部分は、電球を取り替える必要から胴体部分にねじ止めして取り外し可能にしてあるが、これを回す際の滑り止めをするために、回す方向に対して直交する方向、すなわちレンズに対する垂直方向に細かい直線の溝模様を形成することが技術的に必要となる。
        原告商品のヘッド部分に溝模様が設けてあるのは、そうした技術的必要性に由来するものであって、こうした溝模様を設けることは、乙4公報、乙5公報、意匠登録第168417号意匠公報(昭和36年8月11日発行、乙8。以下「乙8公報」という。)及び実開昭53−125288号公開実用新案公報(乙9。以下「乙9公報」という。)に示されるように、懐中電灯における公知公用の形状である。

     オ D(胴体部分の溝模様)の点について
        原告商品の胴体部分に設けられている斜め方向に交差した細かい平行線の溝模様は、懐中電灯において多くの企業が採用するものであり、極めて特異であったり新規性があるとはいえないものである。このことは、意匠登録第798989号意匠公報(平成2年10月30日発行、乙10。以下「乙10公報」という。)、意匠登録第815824号意匠公報(平成3年8月14日発行、乙11。以下「乙11公報」という。)、意匠登録第1018851号意匠公報(平成10年8月19日発行、乙12。以下「乙12公報」という。)に示すとおりである。
     カ その他の点について
        原告商品の色彩、Eに記載の大きさについては、意匠的特徴を示すものとはいえない。
     キ 原告商品は、従来から存在した懐中電灯のヘッド部分及び胴体部分の一般的な形態をベースとして、上記の公知の意匠(発明や考案を含む)を寄せ集めて、形態を若干改良したものということができても、それらに特異性や新規性が備わっているものとは認めがたい。公知公用の意匠等から原告商品を思い至るについてそれほどの困難性を有するものではなく、格別特異なものとは考えられない。

        原告は、原告商品と同様の形態の懐中電灯について、特別な模様を付けたものには意匠登録をしているが(意匠登録第1037110号(乙13)、意匠登録第1061542号(乙14)、意匠登録第1061543号(乙15)、意匠登録第1061544号(乙16))、原告商品のような無地のものについては意匠登録をしていない。この点からも、原告商品の形態自体については、特別顕著な意匠的特徴は認められないことを窺い知ることができる。
     ク 原告が主たる需要者と考えているアウトドアを嗜好する需要者向けの懐中電灯の市場においても、松下電器産業株式会社製「メタルライト」(検乙1、乙23の1・2)、株式会社モチロ企画販売「ホタル」(検乙2、乙24)、その他インターネット上に多数展示される懐中電灯(乙25〜30)等、同種商品が多数出回っている。

   (5) 原告の宣伝広告活動の態様及び需要者の商品識別・選択の動機
     ア 原告は、原告商品を長期間、費用をかけて大量に宣伝広告してきたと主張するが、大部分が「モノ・マガジン」、「ビーパル」、「グッズプレス」、「特選街」といった特定の趣味、趣向を有する者向けの雑誌を利用してなされているにすぎず、しかも、それらの雑誌の広告においても、原告商品の広告は、掲載されている多数の商品の広告の中の一つにすぎない。また、それ以上に広く、テレビ、新聞、一般雑誌等では広告宣伝されていない。
     イ 原告の宣伝広告は、いずれも「マグライト」の商標を付された原告商品としての広告であるから、それらの広告によって周知になるものは「マグライト」の商標を付された原告商品としての周知性にすぎない。
     ウ 原告の宣伝広告活動によれば、「驚異的な明るさとタフなボディー」といった機能的な面が強調され、テールキャップにはスペアランプが収納されていること、アルミ合金素材に特殊コーティング(陽極酸化仕上げ)することで耐腐食性が強化されていること、電球からテールまで低電気抵抗で回路を設計していること、ヘッド部分やテールキャップ等の各オープニング部分に高品質のラバーOリングを使用していること、ボディー素材については、航空機に使用されている頑丈なアルミ合金から削り出されていること、ヘッド部を軽くひねるだけで、スポットビームからワイドビームまで自在に調節可能なこと等、機能を強く宣伝する姿勢は見られるものの、原告商品の形態自体の特徴については、ほとんど宣伝がなされていない。

        この点は、原告商品が掲載された各種雑誌等の紹介記事においても同様である。
     エ 需要者のニーズとしても、原告商品を紹介した上記雑誌等に顕著に表れているように、アウトドア用品を購入する層が圧倒的に多く、これら需要者は、原告商品のパンフレットにも強調されている明るさや耐久性・堅牢性といった機能的な側面に着目して商品を選択するものであり、各同種の商品を販売しているメーカーも、それに対応した製品の説明をしている。
   (6) 原告商品の立体商標の登録出願が拒絶されたこと
      原告は、日本において原告商品について立体商標の登録出願をしたが、指定商品との関係では、その商品の形状として通常採用し得る立体的形状から成るものであり自他商品の識別標識としての機能を有しないとして、商標法3条1項3号に該当するとの、拒絶理由通知が出されている(乙84)。

      このことは、原告商品の形態が、懐中電灯の商品の形状として通常採用し得るもので、形態上の顕著な特徴があるとはいえず、自他識別標識の機能を有しないことを示すものである。
 2 争点(2)(原告商品と被告商品の形態の類似性)について
 〔原告の主張〕
   (1) イ号商品と原告商品(1)の類似性
      イ号商品(検甲3)は、単3電池を2本格納する懐中電灯であり、別紙「原告商品と被告商品の対比表(原告主張)」記載1の「イ号商品」欄のような共通した特徴を有しているのであり、これは原告商品(1)の形態と極めて類似しているものである(検甲3)。
   (2) ロ号商品と原告商品(2)の類似性
      ロ号商品(検甲4)は、単4電池を1本格納する懐中電灯であり、別紙「原告商品と被告商品の対比表(原告主張)」記載2の「ロ号商品」欄のような共通した特徴を有しているのであり、これは原告商品(2)の形態と極めて類似しているものである(検甲4)。

   (3) ハ号商品と原告商品(2)の類似性
      ハ号商品(検甲7)は、単4電池を2本格納する懐中電灯であり、別紙「原告商品と被告商品の対比表(原告主張)」記載3の「ハ号商品」欄のような共通した特徴を有しているのであり、これは原告商品(2)の形態と極めて類似しているものである。
   (4) 以上によれば、原告商品(1)とイ号商品、原告商品(2)とロ号商品及びハ号商品は、それぞれその形態が極めて類似するものである。
 〔被告の主張〕
   (1) 被告商品が電池(イ号商品は単3電池2本、ロ号商品は単4電池1本、ハ号商品が単4電池2本)を格納する懐中電灯であることは認め、原告商品(1)とイ号商品、原告商品(2)とロ号商品、原告商品(2)とハ号商品が類似することは争うほか、次のとおり認否する(以下においては、原告がイ号商品ないしハ号商品の類似点として記載する@〜Eの事項に関する認否をまとめて記載する。)。

     ア @ないしBは、否認する。
       @ 原告のいうフェイスキャップは、これを回転して頭部から独立して取り外せる形態になっているが、被告商品の頭部は全部が一体になっていて最上部のみを取り外すことはできない。したがって、被告商品には、フェイスキャップというものはない。
          被告商品において原告がフェイスキャップ部であると主張する部位の寸法も、原告商品のフェイスキャップ部とは異なる。
          原告商品の本体側接合部外周には、0.3o幅で深さ1oの明瞭な溝が全周にわたって形成されているが、被告商品では一体構造のヘッド部分であるため、本体側接合部がないし溝もない。
       Aについて、被告商品のヘッド部分は、先端から中間まで形成される円筒とその後に続く外形がおわん型局面を有する立方体とを組み合わせた一体構造であり、原告商品とは電球交換法からして設計の考え方が相異なり、それが一体化した外観として表れている。

       Bについて、原告は、ヘッド部分から胴体部分にかけての形状を「フェイスキャップ相当部分は、その直径を最大径部とし、胴体部分と接続される側を最小径部とする放物体につながっている」と表現しているが、これは、懐中電灯では約50年前から採用されている極めてありふれた一般的形状にすぎない。
     イ Cのうち、頭部に帯状のぎざぎざの模様があることは認めるが、その寸法は、原告商品と被告商品とで異なる。
     ウ Dのうち、胴体部分が円筒形を形成していること、主張の箇所に溝があることは認めるが、溝の態様については、後述のとおり原告商品(2)とは全く異なるものであり、否認する。
        なお、被告商品は、胴体部分の最下部にプッシュオン・オフ式のキャップ状のスイッチが突出する形態で設けられている。
     エ Eについて、原告の主張と異なる部分は次のとおりであり、その余は概ね認める。

       (ア) イ号商品
          胴体部直径が1.76pであること
       (イ) ロ号商品
          頭部長さが2.97p、胴体部長さが6.47p、頭部最大径が1.75pであること
       (ウ) ハ号商品
          全長が138.5o(頭部長さ30.0o、胴体部長さ91.0o、後部底蓋部分17.5o)、頭部最大径が17.5o、胴体部直径が12.9oであること
   (2) 原告商品と被告商品とは、外形上、少なくとも次の点が相違する。
     ア 全体的な形態の相違
       (ア) 全体の構成について
          商品全体を外観上で対比すると、原告商品は、ヘッド部分と胴体部分という2つの部分から成るのに対し、被告商品は、いずれもヘッド部分、胴体部分、後部のプッシュ式スイッチ付底蓋部(イ号商品及びハ号商品はハンドストラップ付き、ロ号商品はキーホルダー鎖付き)という3つの部分から成る。

       (イ) 外観上の光沢、色調の相違について
          原告商品は、外周切削面をバフ仕上げのような光沢を出す加工を施して鏡面に仕上げた後に黒色塗装を施しているため、塗装仕上がりも良く、見る人に対して、もち肌で艶やかかつ上品な高級感を印象付けている。その上、フェイスキャップの白文字印刷の「MINI MAGLITE」という文字は、アクセントになって引き締まった感じを与える。
          これに対し、被告商品は、外周切削面にカッターマーク(切削加工に使用したバイト刃先の条痕)を残してあり、かつバフ加工のような鏡面加工を施さずラフな(粗い)面性状にして荒々しさを表している。したがって、被告商品には切削時の条痕やうねりが残り、原告商品との表面性状比較において、いわば鳥肌のような粗面であるため、当然のことながら、塗装しても鏡面にはなり得ず、くすんだ鈍い色調でかつ粗野な感じに仕上げており、原告商品とは見た感じが全く異なるのである。また、被告商品には、原告商品のフェイスキャップ印刷部に相当する位置に、アクセントになる印刷を一切施していない。

       (ウ) ヘッド部分の美的な相違について
         a 原告商品と被告商品のヘッド部分の形状は、別紙「ヘッド部分比較参考図」記載のとおりであり、原告商品は、細面のスマートな感じで、ヘッド部分曲線と胴体部分の境界部の段差も小さいのに対し、被告商品は、下膨れの丸顔の感じで、ヘッド部分曲線と胴体部分の境界部の段差も原告商品より大きい。
         b 原告商品のデザインの特徴は、特にヘッド部分にあるが、別紙「ヘッド部分外中比・縦横比」記載のとおり、原告商品のヘッド部分の外中比(A/B)及び先頭部の縦横比(C/B)のいずれも黄金比(1.618)にほぼ等しいか極めて近い値となっている(黄金分割とは、ギリシャ時代から美術作品、工芸品、建造物に広く用いられてきたもので、ある長さを外中比に分割する時、又は長方形の縦横比をおく時に、ほぼ1:1.618の比に近づけると調和的で本能的に美しいと感じるものである。)。

            これに対し、被告商品は、ヘッド部分の外中比(A/B)及び先頭部の縦横比(C/B)のいずれもが黄金比(1.618)から大きく外れており、それが粗野で荒々しい感じをかもし出している。
       (エ) 胴体中央部の手で握る部分の模様の違いについて
          原告商品は、製品表面を滑らかな面に仕上げ、光沢のある綺麗な表面にしてあることは前述のとおりである。一方、胴体部分中央に握り部分を設けているが、その造形模様は、綺麗な光沢表面を隠している。そのため、握り部分と他の光沢面とのコントラストが明瞭である。
          これに対し、被告商品の握り部分は、くすんだあまり光沢のない表面をそのまま変えないように握り部分のデザインを施しているので、両製品の胴体部の差異は明確になっている。
       (オ) さらに、被告商品には、胴体部分の後端に、胴体部径より太い(イ号商品で+1.7o、ロ号商品及びハ号商品で+0.9o)プッシュ式スイッチ付底蓋部が設けられ、かつ、イ号商品及びハ号商品では太いハンドストラップが、ロ号商品ではキーホルダー鎖が付いている。

          原告商品には、このようなプッシュ式スイッチ付底蓋部は付いておらず、胴体部分の径は後端まで同一径である。
     イ 個別的な形態の相違
       (ア) 原告商品と被告商品の各部分の寸法は、別紙「原告商品と被告商品の寸法比較」記載のとおりである。
         a イ号商品は、被告実測寸法で、原告商品(1)より全長で3.5o長く、ヘッド部分で2.5o短く、胴体部分は12o短い(後部スイッチ付底蓋部は含まず。)。イ号商品には、直径19.2o、長さ18oの後部スイッチ付底蓋部が付されており、その形態は原告商品(1)の胴体部分とは明らかに異なる。
         b ロ号商品は、被告実測寸法で、原告商品(2)より全長で34.3oも短く、胴体部分では43.8oも短い(後部スイッチ付底蓋部は含まず。)。ロ号商品には、直径13.8o、長さ17.5oの後部スイッチ付底蓋部が付されており、その形態は原告商品(2)の胴体部分とは明らかに異なる。

         c ハ号商品は、被告実測寸法で、原告商品(2)より全長で10.2o長く、ヘッド部分で5.0o短く、胴体部分は2.3o短い(後部スイッチ付底蓋部は含まず。)。ロ号商品には、直径13.8o、長さ17.5oの後部スイッチ付底蓋部が付されており、その形態は原告商品(2)の胴体部分とは明らかに異なる。
       (イ) ヘッド部分の相違
         a 原告商品と被告商品のヘッド部分の形態的な相違は、別紙「ヘッド部分比較参考図」記載のとおりである。
         b 原告商品は、ヘッド部分が、ランプを交換する目的のために、フェイスキャップとそれ以外から成る構成で、フェイスキャップはその目的からして取り外し可能である。これに対し、被告商品は、設計思想の違いから、ヘッド部分はフェイスキャップを構成しない一体構造である。
         c 原告商品のフェイスキャップには、ヘッド部先端から3〜6oの外周面に白色で「MINI MAGLITE」と明瞭に識別できる原告商品の商標が印刷されているが、被告商品には、このような標章は付されていない。

         d ヘッド部分の長さは、原告商品(1)ではイ号商品に比べて2.5o長く、原告商品(2)ではロ号商品より8.0o、ハ号商品より5.0o長く、スマート感が全く異なる。
         e 原告商品のヘッド部分の最後端の胴体部と接する部分は、限りなく胴体部径に近い寸法にしているのに対し、被告商品のヘッド部分の最後端の胴体部と接する部分は、0.8o〜1.0oの段差が設けてあり、あたかもヘッド部分に胴体部分を挿入したような外観になっている。
       (ウ) 胴体部分の溝模様の相違
         a 原告商品の胴体部分に形成された模様は、ダイヤ状(又は菱形状)の表面加工が施された溝模様であり、被告商品の胴体部分の模様は、筋模様であり、正方形が45度傾いて連続した模様である。そして、被告商品の模様の一つ一つの正方形は、原告商品の一つ一つのダイヤ模様の約4倍の面積を有しており、原告商品の細かい模様とは明確に異なる。

         b 模様を形成するための溝は、原告商品では幅が広く深い溝であるのに対し、被告商品では幅が狭く浅い筋状溝である。
         c 原告商品の溝模様部は、胴体径部に、径を0.15o太くしてその表面に斜め方向に交差した視覚的にも感触的にも明瞭な溝模様を入れたものであるのに対し、被告商品においては、同じ胴体径表面に原告商品の約2倍の2oのピッチで浅く長い筋状溝を入れたものである。
            そして、溝模様部が設けられているのは、原告商品(1)ではφ18oの胴体径部に長さ60oにわたる部分、イ号商品では少し細いφ17.5oの胴体径部に長さ49oにわたる部分であり、また、原告商品(2)ではφ12.5oの胴体径部に長さ51oにわたる部分、ロ号商品ではφ12.9oの胴体径部に長さ29oにわたる部分、ハ号商品ではφ12.9oの胴体径部に長さ59oにわたる部分であり、溝模様部が設けられている領域も原告商品と被告商品とでは異なる。

       (エ) 後部スイッチ付底蓋部等の相違。
         a 原告商品の胴体部分の後端部には、電池を取り替えるときに着脱するキャップが設けられ、このキャップは、胴体部分と同一の径を有し、その一部を凹ませ、紐を取り付ける孔を穿設したT字型部分(原告商品(1))、又は略凸字型部分(原告商品(2))を有している。
            これに対し、イ号商品及びハ号商品ではハンドストラップを取り付けたプッシュ式スイッチ付底蓋が、ロ号商品ではキーホルダー鎖を取り付けたプッシュ式スイッチ付底蓋が、それぞれねじ止めされており、これらプッシュ式スイッチ付底蓋は、胴体部分より後端に行くに従って膨らみ、胴体部分を握った手からライトが抜け出ることを防止するように形成されている。
            すなわち、原告商品は、後端部のキャップの外周縁より後端部に向けて傾斜する円弧状の凹み部が形成され、該凹み部の中央部にキャップの外周に向けて突片が設けられ、該突片に孔が穿設されており、キャップの後端より見ると、半円形部より突片が半径方向に突き出し設けられたように形成されている。

            これに対し、被告商品は、胴体部分の後端より延長して形成された急な立ち上がり部分から更に緩やかな膨らみ部を有し、その後部には、緩やかな膨らみ部と比して径の小さい円盤状のプッシュ式スイッチが出没自在に取り付けられている。さらに、このプッシュ式スイッチ付底蓋の胴体部分の後端より続く急な立ち上がり部分には、筋状の凹みが形成され、その凹み部分には孔が形成されて、イ号商品及びハ号商品ではハンドストラップが、ロ号商品ではキーホルダー鎖が取り付けられている。
         b 胴体部分の長さを比較しても、原告商品(1)は104oであるのに対し、イ号商品は92oであり、原告商品(2)は93.3oであるのに対し、ロ号商品は49.5o、ハ号商品は91.0oであり、いずれも異なっている。
       (オ) その他
         a 原告商品(2)では、格納する単4電池が2本、ロ号商品では同電池が1本である。

         b 電球は、原告商品はピン式、被告商品はリード金具止め式である。
   (3) したがって、原告商品(1)とイ号商品、原告商品(2)とロ号商品及びハ号商品は、その構成、各部の寸法、各部の形態等どれをとっても異なるもので、全く異なる外観形態を備えている。その相違の程度は、特に原告商品(2)とロ号商品ではより大きい。
 3 争点(3)(混同のおそれ)について
 〔原告の主張〕
   (1) 被告商品と原告商品は、その形態が極めて類似するものであることは、争点(2)の〔原告の主張〕で述べたとおりである。さらに、原告商品と被告商品は、それぞれ色(黒色)も同一である。
      したがって、両者が誤認混同される可能性は極めて高い。
   (2) また、被告商品は、ブリスターパッケージで包装されて販売されており、原告商品も、黒色のプレゼンテーションボックスによる販売のほかに、ブリスターパッケージによる販売も広く行われている。購入者としては、このような透明のブリスターパッケージにより、原告商品と極めて類似する被告商品の形態を見て、それが原告商品であると誤認混同する可能性がある。

   (3) 消費者が、原告商品と形態において類似する他社製の懐中電灯を、原告商品と誤認混同し、原告商品の販売代理店ないし小売店に対して修理依頼をしてきた事例(「アルミニライト323」(検甲5)、蛇腹付きのライト(検甲6)、「SUREFIRE」(検甲8)、「PRO−LITE」(検甲9))がある。
 〔被告の主張〕
   (1)ア 被告商品は、そのすべてがブリスターパッケージで包装されており、製品を裸で単体販売することはない。そして、ブリスターパッケージは、全体の色彩が鮮やかな青色で、表面に被告商標でありブランド名である「ELPA」という商標及び「アルミハンディライト」という商品名、「FLASH LIGHT」の文字をコントラストのある色使いと大きな文字で表示している。裏面には「ELPA」という商標と「朝日電器株式会社」の社名と住所を明示している。

     イ 他方、原告商品のブリスターパッケージは、薄いシルバー色を基調とし、ライトの光束をイメージさせる白い楔状の模様が斜めに目立つように数多く入り、右端には6o幅で上から下まで赤いストライプ状印刷が入り、原告商品(1)では左下、原告商品(2)では上部に赤色で「驚異的な明るさとタフなボディ!! アメリカ製」等といった機能や原産地を強調し、米国国旗、「Made In」や「the U.S.A.」の文字、自らの商品名を明記している。そして、同パッケージ中に、原告商品(1)では電池2本、原告商品(2)では電池2本とペンキャップが同梱されているが、被告商品には電池等は同梱されていない。
   (2) ブリスターパッケージで包装された商品を手に取った需要者は、内部に梱包された商品の形態だけを見るのではなく、ブリスターパッケージに記載されたその商品の商品名、製造者、商品の特徴や説明等を見て、商品の特徴や製造者を確認した上で購入することになることは明らかである。争点(2)の〔被告の主張〕で述べたような原告商品と被告商品の形態の相違に加えて、上記(1)記載のようなブリスターパッケージにメーカー名や商品名等を明記した販売態様からすれば、これらを見た上で購入する需要者が、被告商品を原告商品であると誤認混同することはおよそ考えられない。

      被告も、原告商品を代理販売しているので、被告商品と共に同じ小売店に卸売りし、小売店では両者を同じ売り場で販売しているケースがあるが、顧客が被告商品を原告商品と誤認混同したという例は聞いたことがない。
 4 争点(4)(損害の発生及び額)について
 〔原告の主張〕
   (1)ア 被告は、平成10年3月からイ号商品及びハ号商品を、同年5月からロ号商品を販売している。被告商品の平成10年3月から平成14年6月までの総売上金額は、3555万4276円(2060万3522円(イ号商品)+579万9095円(ロ号商品)+915万1659円(ハ号商品))である。
     イ 被告商品の平成10年3月から平成14年6月までの売上原価の総額は、2389万6686円(1369万4300円(イ号商品)+430万0437円(ロ号商品)+590万1949円(ハ号商品))である。

     ウ したがって、被告が被告商品の販売により得た利益は、上記総売上金額から売上原価の総額を控除した1165万7590円(690万9222円(イ号商品)+149万8658円(ロ号商品)+324万9710円(ハ号商品))となり、原告が被告による被告商品の販売行為によって被った損害は、1165万7590円と推定される(不正競争防止法5条1項)。
     エ 不正競争防止法5条1項の侵害者の得た利益の額は、被告商品の売上額からその仕入価格等販売のための変動経費のみを控除した額と解すべきである。すなわち、不正競争行為者の得た利益の額を算定するためにその売上額から控除されるべき費用は、不正競争行為者によって販売されたと同量の商品を被害者が販売した場合の被害者の逸失利益を算定するに当たって、どのような費用を控除すべきであるかを考慮に入れた上で判断することが相当である。本件では、原告は、原告商品の開発を完了し、現実に営業的製造販売行為をしているものであり、一方、被告商品の販売数は、1993年3月期でみると日本における原告商品の販売数の1.8%にすぎず、原告において新たな投資や人件費の増加を要さず、そのままの状態で製造販売できる個数の範囲内である。このような場合、原告の逸失利益とは、原告商品の売上額から仕入価格等の販売のための変動経費のみを控除した販売利益と考えるべきであるから、不正競争行為者が侵害行為により受けた利益も、被告商品の売上額からその仕入価格等販売のための変動経費のみを控除した額と考えるべきである。

        被告は、同項の侵害者の得た利益の額について、販売費及び一般管理費のほか、支払利息から受取利息を控除したもの(運転資金コスト)を控除した後の利益によらなければならないと主張する。仮に販売費及び一般管理費等の経費を考慮すべきであるとしても、当該不正競争行為をしたことによって増加したと認められる部分に限って控除すべきところ、販売費及び一般管理費には、役員報酬、給料手当、福利厚生費、通信費、交際費、光熱費、宣伝広告費、賃料等様々な費用が雑多に含まれているのであり、被告が被告商品の販売行為を行わなかったとしてもいずれにしろ必要であった費用が多く含まれている。特に、被告は、数多くの種類の家庭電器製品を販売しており、被告商品はその中の一つにすぎず、また、被告の主力商品でもない。宣伝広告費一つとってみても、被告商品について格別に宣伝広告が行われていた事実は認められない。まして、営業外費用である支払利息については、被告商品の販売に要した費用とは全くいえない性質のものである。
        したがって、本件においては、不正競争防止法5条1項の侵害者の得た利益の額を算定するに当たっては、粗利益から控除すべき費用項目はないというべきである。
   (2) 原告は、本訴訟の提起に当たり、被告による被告商品の販売継続の事実、その販売態様などに関して、調査会社を通じて調査を行ったが、原告が上記調査に費やした費用は34万7804円であり、その内金34万円を請求する。
   (3) 被告に対する本訴訟の提起及び遂行にかかる弁護士費用は、本件事件の難易、国際性及び損害額などを斟酌すると、500万円が相当である。
   (4) 被告は、被告商品を販売する行為が不正競争防止法2条1項1号の不正競争行為であることを知りながら、又は過失によりこれらを知らないで、上記のとおり平成10年から被告商品の販売行為を継続したものであり、原告は、被告に対し、上記(1)〜(3)の合計金1699万7590円及び不法行為の後の日である平成14年7月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を請求する。

 〔被告の主張〕
   (1)ア 原告の主張事実(1)ア及びイの事実は認めるが、同ウの事実は争う。
       (ア) 原告が主張する利益額(1165万7590円)は粗利益であるが、不正競争防止法5条1項における侵害者が得た利益の算定に際しては、当該商品の販売のために必要であった販売費や一般管理費を差し引いて算出すべきである。
          さらに、上記利益の算定に当たっては、被告会社のような卸売り流通業において運転資金は各商品の販売事業活動を維持継続するための必要不可欠のコストであるから、販売費及び一般管理費のほか、支払利息から受取利息を控除したもの(運転資金コスト)を控除すべきである。なぜなら、被告の決算は、適正かつ明確に行っているが、販売している多品種の全商品についての売上高から売上原価を控除した売上総利益から、販売費及び一般管理費と上記運転資金に対する支払利息等の諸経費を支払うことによって、会社を経営維持しているのであり、販売している商品のうちの一つである被告商品についても、同様の経費がかかっているといえるからである。

       (イ) そして、被告の場合、各個別商品毎の販売費及び一般管理費等を算出することは事実上不可能であるから、被告の決算書(損益計算書)における全商品の売上総利益(粗利益)に対するこれらの経費の割合を、各個別商品に按分して利益を算定するのが合理的である。
          被告の損益計算書における売上総利益に対する販売費及び一般管理費と、支払利息から受取利息を控除した経費の割合は約92〜97%であるから、被告商品の売上利益から控除すると、別紙「(イ号)(ロ号)(ハ号)の経費・利益額」記載のとおりとなり、合計58万3047円(34万6612円(イ号商品)+7万9238円(ロ号商品)+15万7197円(ハ号商品))となる。
     イ 原告の主張事実(2)〜(4)は、否認し、ないしは争う。
   (2) 次のア、イ記載の事情からすると、被告商品の販売によって原告が損害を被ったとはいえない。なお、不正競争防止法5条1項は、損害額の推定を定めているが、この規定は、不正競争行為と因果関係のある損害の額を推定するにとどまり、損害の発生そのものを推定する規定ではないから、原告に損害が発生したことが窺われない以上、同条項を適用する基盤を欠くというべきである。

     ア 被告商品は、平成10年3月から、被告商品の前身となる商品からモデルチェンジされたものであるが、前身商品よりもデザインの訴求力が弱かったために、従前のシェアを3分の1ないしそれ以下に落とした。したがって、被告商品の販売によって、原告商品のシェアを奪っている事実は一切なく、原告に対して損害を与えたとはいえない。
     イ 被告は、株式会社サンジェルマンを通じて原告商品を仕入れ、原告商品(1)については平成7年3月から、原告商品(2)については平成5年3月から、長きにわたってホームセンターなどの小売店に対して、原告商品と被告商品を同時並行して卸売りしているが、それぞれの販売数量の推移をみると、被告が被告商品の販売を始めた後も、被告の販売に係る原告商品の販売数量は何ら影響を受けておらず、むしろ安定した販売が継続され、全体としての販売数量が増加している。

        また、甲112に示される原告商品の売上実績の推移を見ても、被告が被告商品を販売した後も、販売額、販売数量共に増加し続けている。
        そうすると、被告商品の販売は、原告商品の販売額や販売数量に何ら影響を与えていないというべきである。
第4 争点に対する判断
 1 争点(1)(原告商品の形態の商品表示性、周知性)について
   (1) 原告商品の形態の商品表示性について
     ア 商品の形態は、通常、主として、商品の機能を発揮させ、又は美感を高めるなどの目的から適宜選択されるものであって、必ずしも商品の出所を表示することを目的として選択されるものではない。しかし、商品の形態が他の商品と識別し得る独特の特徴を有し、かつ、商品の形態が、長期間継続的かつ独占的に使用されるか、又は、短期間であっても商品の形態について強力な宣伝広告等により大量に販売されて使用されたような場合には、商品の形態が特定の者の商品を示す商品表示として出所識別性を取得し、需要者の間で広く認識されるに至ることがあり得、そのような場合には、商品の形態が不正競争防止法2条1項1号の商品表示として保護されるものと解される。

     イ 検甲1、2及び弁論の全趣旨によれば、原告商品の構成は次のとおりであることが認められる(原告商品が別紙「原告商品と被告商品の対比表(原告主張)」の「原告商品(1)」欄及び「原告商品(2)」欄記載の構成(ただし、寸法の記載を除く。)を有することは当事者間に争いがない。)。
       (ア) 原告商品(1)について
         a 全体的な構成
           @ レンズ、電球、反射板を覆うライト頭部と、単3電池2本を収納する胴体部分とから成る懐中電灯である。
           A 大きさは、全長が14.5p(頭部長さ4.2p、胴体部長さ10.3p)、頭部最大径が2.4p、胴体部直径が1.7pである。
           B 表面は、全体に黒色に塗られており、ライト頭部の細かい直線の溝模様(後記b@)、ライト胴体部分の斜め方向に交差した細かい平行線の溝模様(後記c@)以外の部分は、滑らかな表面に仕上げられ、光沢がある。

         b ライト頭部の構成
           @ ライト頭部は、その先端から一定間隔下がった位置の幅5oの周縁に、レンズに対して垂直方向の細かい直線の溝模様がある。
           A ライト頭部の先端から同溝模様付近までは円筒形状をなし(原告が「フェイスキャップ」と称する部分であり、同部分は取り外し可能である。)、@の直線の溝模様の上部端との間に円周状に溝が形成されている。
           B ライト頭部の溝模様の下端付近から、胴体部分と接続される部分までの形状は、ライト頭部直径を最大径部とし、胴体部分と接続される側を最小径部とする放物体(ここで「放物体」と称するのは、放物線(y×y=ax)をX軸を中心として回転したものという、数学的な意味での放物体に限られるものではなく、ライト頭部と胴体部分との接続部分における傾斜角が緩やかで、最大径部ではほぼ円筒形状をなすという特徴を備える、概ね放物体形状を呈するものを含む。以下、同じ。)である。

           C Aの円筒形状部分には、白文字で「MINI MAGLITE AA」「MAG INSTRUMENT-CALIFORNIA,USA」と記載されている。
         c ライト胴体部分の構成
           @ ライト胴体部分は円筒形をなし、その胴体部分の中央部分周縁には、斜め方向に交差し、菱形状の格子を形成する細かい平行線(間隔約1o)の溝模様(幅6p)がある。
           A ライト胴体部分の後端には、ライト胴体部分と同一の径のキャップ(電池交換のためのもの)が設けられ、同キャップの後端側の外周縁には、中央部に突片を残すように凹みが形成され、同突片には孔が穿設されている。
       (イ) 原告商品(2)について
         a 全体的な構成
           @ レンズ、電球、反射板を覆うライト頭部と、単4電池2本を収納する胴体部分とから成る懐中電灯である。

           A 大きさは、全長が12.7p(頭部長さ3.5p、胴体部長さ9.2p)、頭部最大径が1.8p、胴体部直径が1.2pである。
           B 表面は、全体に黒色に塗られており、ライト頭部の細かい直線の溝模様(後記b@)、ライト胴体部分の斜め方向に交差した細かい平行線の溝模様(後記c@)以外の部分は、滑らかな表面に仕上げられ、光沢がある。
         b ライト頭部の構成
           @ ライト頭部は、その先端から一定間隔下がった位置の幅4o周縁に、レンズに対して垂直方向の細かい直線の溝模様がある。
           A ライト頭部の先端から同溝模様付近までは円筒形状をなし(原告が「フェイスキャップ」と称する部分であり、同部分は取り外し可能である。)、@の直線の溝模様の上部端との間に円周状に溝が形成されている。

           B ライト頭部の溝模様の下端付近から、胴体部分と接続される部分までの形状は、ライト頭部直径を最大径部とし、胴体部分と接続される側を最小径部とする放物体である。
           C Aの円筒形状部分には、白文字で「MINI MAGLITE AAA」「MAG INSTRUMENT,CALIFORNIA-USA」と記載されている。
         c 胴体部分の構成
           @ 胴体部分は円筒形をなし、その胴体部分の中央部分周縁には、斜め方向に交差し、菱形状の格子を形成する細かい平行線(間隔約0.8o)の溝模様(幅5.1p)がある。
           A 胴体部分の後端には、胴体部分と同一の径のキャップ(電池交換のためのもの)が設けられ、同キャップの後端側の外周縁には、中央部に突片を残すように凹みが形成され、同突片には孔が穿設されている。
     ウ 日本においては、原告商品(1)は昭和61年、原告商品(2)は昭和63年に、アウトドア用品専門店であるエイアンドエフにより、本格的に輸入販売されるようになったものである(甲6〜8、弁論の全趣旨)。

        被告は、原告商品の形態は、いずれも懐中電灯の一般的な性質に照らしてありふれたものであって、特段の特異性や新規性がないと主張し、従前から存在した懐中電灯の形態例の証拠を提出するので、以下検討する。
       (ア) 被告は、ヘッド部分が放物体となっている意匠例として、乙1〜乙3公報を挙げる。
          しかし、乙1〜乙3公報の懐中電灯の写真は、それほど明瞭ではないが、そのヘッド部分は、胴体部からライト頭部にかけて直線的に広がっているように見え(円錐を切ったような形状)、仮に直線的ではなくやや曲線状に広がっているとしても、原告商品のヘッド部分のように、胴体部付近の立上り部では緩やかな傾斜を呈するが、ライト頭部では円筒形に近いという顕著な放物体形状を示すものではない。
          また、ライト胴体部分が原告商品より太く、原告商品のようにすらっとした感じを受けるものではなく、乙1〜乙3公報の懐中電灯の形態は、全体として原告商品よりもずんぐりとしており、原告商品とは異なる印象を有する。

       (イ) 被告は、ヘッド部分に溝模様がある意匠例として、乙4、乙5、乙8及び乙9公報を挙げる。
          しかし、乙4公報の懐中電灯は、ライト頭部の端から溝が形成されていること、乙5及び乙9公報の懐中電灯は、ライト頭部に一定の幅を持った溝が、各溝と溝の間にいくぶん間隔を置いて帯状に形成されていること、乙9公報の懐中電灯は、ライト頭部の先端ではなく、先端から間隔を置いた位置に溝が帯状に形成されており、溝模様の幅、溝間の間隔、溝模様の位置が原告商品とは同一ではないことが認められる(なお、乙8公報に示された懐中電灯の写真は、不鮮明であり、ライト頭部の溝模様の位置、形状を把握することはできない。)。
          また、これらの公報の懐中電灯は、いずれもライト胴体部分が原告商品より太く、原告商品のようにすらっとした感じを受けるものではなく、特に乙9公報の懐中電灯は、胴体部分が円筒ではない上、取っ手、壁掛用の突起、平坦部にライト頭部をやや斜め上方に向けて安定的に据え置くための金具が付されており、原告商品の形態とは著しく異なっている。

          したがって、乙4、乙5、乙8及び乙9公報の懐中電灯の形態は、全体として原告商品とは異なる印象を有する。
       (ウ) 被告は、胴体部分に溝模様がある意匠例として、乙10〜乙12公報を挙げるが、これらはいずれも原告商品発売後に発行された意匠公報に記載された意匠である。
     エ 現時点において存在する懐中電灯の意匠について検討する。
       (ア) メタルライト〔松下電器産業株式会社製〕(検乙1、乙23の1・2)は、胴体部分の溝模様がなく、ライト頭部から頭部の溝模様までの幅が原告商品のフェイスキャップ部の幅より広く、また、ライト頭部の溝模様の長さも原告商品のそれより長い。
          また、メタルライトは、ライト頭部が、頭部の先端から胴体部にかけて外側に膨らむ曲線形状に絞り込まれ、その下方部分では胴体部分に平行に繋がるように内側に窪んだ曲線形状に絞り込まれており、原告商品の放物体のライト頭部とは形状が異なる。

       (イ) ホタル〔株式会社モチロ企画製〕(検乙2、乙24)は、原告商品のフェイスキャップ部に相当する部分が、半透明で薄緑の「夜光リング」となっており、また胴体部分の溝は、原告商品のような斜め方向に交差した細かい平行線の溝模様ではなく、斑状の凹凸で、その凹凸の高さが低い目立たないものとなっている。
       (ウ) アルミフラッシュライト〔YAZAWA CORPORATION製〕(検乙3・4)は、頭部の溝模様部分の端から、胴体部接続部分に至るまで、内側に窪んだ曲線形状に絞り込まれており、原告商品の放物体形状のヘッド頭部とは形状が異なる上、頭部の長さが原告商品に比べて短い。
          また、胴体部分には溝模様がなく、ライト頭部の溝は、原告商品のようにレンズに対して垂直の方向の直線状のものではなく、縦・横に交差する格子状のものである。

       (エ) インターネット上の各社の懐中電灯のカタログ(乙25〜30)に掲載されている種々の懐中電灯は、そのデザインの細部が明確ではないが、ヘッド頭部の形状を見ても、円筒状のヘッド頭部から段差部分や傾斜部分を介して胴体部分につながるものや、ヘッド頭部が円錐状に広がった形状をしているもので、原告商品のように放物体形状をなすものは見当たらない。
       (オ) 原告商品の国内販売開始後に発行された乙11公報記載の懐中電灯は、胴体部に斜めに交差した細かい溝模様があるが、頭部の円筒部分が二層になっていて、その後端から胴体部接続部分に至るまで、内側に窪んだ曲線形状に絞り込まれており、頭部の長さが原告商品に比べて短い。
       (カ) 原告商品の国内販売開始後に発行された乙12公報記載の懐中電灯は、胴体部の後部側に斜めに交差する溝模様があるが、その頭部の先端に向けて細く絞り込んだ部分があり、原告商品のような放物体ではなく、また、頭部には、原告商品のような細かい直線の溝模様がない代わりに、頭部の中程にリング状の凸部があり、このリング状の凸部には5か所(中心から72度間隔)に切り込みが入っている。

       (キ) なお、原告商品の国内販売開始後に発行された乙10公報記載の懐中電灯は、原告代表者等を創作者とし原告が意匠権者である意匠に係るものである。その形状も、胴体部に斜めに交差する細かい溝模様があるものの、全体がほぼ同一径の円筒形状であり、頭部が放物体ではない。
     オ 原告商品は、優れたデザインの商品であるとして通商産業省により平成2年度のグッドデザイン商品として選定された(甲3、4)ほか、海外においても、原告商品を含むマグライトシリーズ製品がドイツシュトゥットガルトデザインセンターが主催する国際デザイン賞(1996−97年度)において331の応募商品の中から同デザイン賞の最終候補の一つとして推薦されたこと(甲121、弁論の全趣旨)、Busseロングライフデザイン賞1996において80商品の応募の中から金賞を得たこと(甲122)、原告商品はニューヨーク近代美術館を初め、ドイツ、ベルギー、スウェーデン、オランダの美術館の常設所蔵品として収蔵ないし展示されていること(甲123〜128)、原告商品の商品形態について、米国、ベネルクス3国、スイス、ドイツ、英国等多くの国において商標登録がなされ、その出願がされていること(甲129〜149)、スウェーデンデザイン協会が平成13年4月9日に原告商品の形態がスウェーデン著作権法の下で保護される応用美術であるとの意見を出していること(甲5)、原告商品の形態は、香港及び英国においても裁判あるいは和解で著作権を基礎としてその保護が認められたこと(甲150、151)、「アメリカンスタイル」「デザイン」等、米国及びドイツにおいて出版されたデザイン関係出版物に原告商品が掲載されていること(甲123、152、153)、米国のマーケッティングや機械工学の専門家である大学教授等が、原告商品の形態、スタイル及び外観が非常に顕著性を有しているとか、原告商品の形態は技術的な制約により決定されたものでなく、独自性のある優れたデザインであるなどの意見を述べていること(甲117、118)が認められる。
     カ(ア) 以上からすると、原告商品の次の形態は、原告商品の形態の特徴的な要部として独特なものであるということができる。
         @ レンズ、電球、反射板を覆うライト頭部と、電池を収納する胴体部分とから成る黒色の懐中電灯であり、胴体部は単3電池ないし単4電池を収納する程度の直径を有する。

         A ライト頭部は、その先端から一定間隔下がった位置の周縁に、レンズに対して垂直方向の細かい直線の溝模様があり、ライト頭部から同溝模様付近までは円筒形状をなす。
         B ライト頭部の溝模様の下端付近から、胴体部分と接続される部分までの形状は、ライト頭部直径を最大径部とし、胴体部分と接続される側を最小径部とする放物体である。
         C ライト胴体部分は円筒形をなし、その胴体部分の中央部分周縁には、斜め方向に交差した細かい平行線の溝模様がある。
       (イ) 原告商品は、上記のような構成を採ることにより、放物体形状の頭部から比較的細い胴体部(単3電池ないし単4電池を収納する程度)につながって、全体としてコンパクトでスマートな印象を与えている。また、ライト頭部の直線の溝模様や、胴体部分の斜め方向に交差した平行線の溝模様は、すべり止めの機能を有するとともに、同溝模様部分以外の平坦部分とは異なるざらざらした質感を与えるとともに、原告商品全体の美感の上で重要な要素となっている。

       (ウ) なお、原告商品のその余の形態、すなわち、溝模様以外の表面は全体に滑らかに仕上げてあること、ライト頭部の先端から溝模様付近までがフェイスキャップ部として取り外し可能であること、同フェイスキャップ部に商品名が白文字で記載されていること、ライト胴体部分の後端に電池交換のためのキャップが設けられていること、そのキャップの凹み部分の形状等は、離れて観察した場合に必ずしも明瞭に感得できる特徴とはいえず、原告商品全体の美感を左右する重要な要素とはいえない。
       (エ) そして、上記ウ記載のとおり、原告商品の国内販売を開始した昭和61年ないし昭和63年当時に存在した懐中電灯は、原告商品の上記(ア)@〜Cの構成をすべて備え、放物体形状の頭部から比較的細い胴体部につながって全体としてコンパクトでスマートな印象を与えるものはなく、その他、原告商品の国内販売を開始した当時、原告商品の同特徴を備えた懐中電灯が存在したことを認めるに足りる証拠はない。

          また、上記エ記載のとおり、現時点で販売されている懐中電灯は、原告商品の同特徴をすべて備えた懐中電灯はなく、その他、現時点で原告商品の同特徴をすべて備えた懐中電灯が販売されていることを認めるに足りる証拠はない。
       (オ) したがって、原告商品が備えている上記(ア)@〜Cの構成は、他の懐中電灯とは異なる原告商品独自の特徴的なものであって、こうした形態は、他の商品と識別できる独特の特徴として商品表示性を有しているといえる。
     キ(ア) 被告は、ヘッド部分を放物体とすることは、内部の反射鏡が放物体の形態にならざるを得ないことに由来する技術的な制約から決定されると主張する。しかし、検甲1、2によれば、原告商品のヘッド部分の放物体曲面は、内部の反射鏡と外径がほぼ同一であっても、傾斜、長さ等が全く異なっていることが認められるから、内部の反射鏡形状に従って決められた技術的な制約による形状ということはできない。このことは、上記ウ、エ記載のとおり、様々なヘッド形状をした懐中電灯が存在することからも明らかである。

       (イ) 被告は、そのほかに、胴体部分の太さが内部に格納する乾電池のサイズ、個数により選択されるものであること、懐中電灯の溝模様は滑り止めの機能を付与するためのものであることなどを理由に、原告商品の形態は従来から存在した懐中電灯のヘッド部分及び胴体部分の一般的な形態をベースとしてこれを若干改良したものにすぎないなどと主張するが、原告商品の形態を個々的に見ると、胴体部分の太さ、溝模様の設置等の技術的、機能的な考慮により決定されるものや、従来の懐中電灯が備えている形態部分があるとしても、原告商品が備えている上記(ア)@〜Cの構成から成る全体としての形態は、他の懐中電灯とは異なる原告商品独自の特徴的なものであることに変わりはないというべきである。
       (ウ) なお、乙83、84によれば、原告は、日本において原告商品(1)とほぼ同様の形態について、指定商品を「懐中電灯」とする立体商標の登録出願(商願2001−3358号)をしたが、特許庁審査官より「この商標登録出願に係る商標は、多少デザインが施されてはいますが、指定商品との関係では、その商品の形状として通常採用し得る立体的形状からなるものですから、これをその指定商品に使用しても、全体として、単に商品の形状を表示してなるものと認識するにとどまり、自他商品の識別標識としての機能を有しないものと認めます。したがって、この商標登録出願に係る商標は、商標法第3条第1項第3号に該当します。」として、拒絶理由通知が出されていることが認められる。

          しかし、商標法と不正競争防止法はそれぞれの要件、効果が同じではないから、上記出願に係る標章が、特許庁において商標としての自他商品識別機能を有しないと判断されたからといって、原告商品の商品形態に不正競争防止法2条1項1号の商品表示性があるとする前記認定を左右するものではない。
   (2) 原告商品の形態の周知性について
     ア 原告商品の形態の周知性に関して、次の事実が認められる。
       (ア) 販売店舗について
          原告商品は、エイアンドエフが日本において販売を開始(原告商品(1)が昭和61年、原告商品(2)が昭和63年)して以降、専門店(Mono Shop、東急ハンズ、ヤマギワ電気)、百貨店(松屋、伊勢丹、小田急、高島屋)、アウトドアショップ(ICI石井スポーツ)、通信販売(CBS Sony Family Club、カタログハウス)等で販売された(甲8)。

       (イ) 雑誌等に掲載された紹介記事について
         a 原告商品は、日本において販売される以前から米国その他世界各国で販売されており、日本においても、原告商品の本格的な販売開始に先立って、昭和60年に発行されたアウトドア専門雑誌である「モノ・マガジン(mono)」〔株式会社ワールドフォトプレス〕(甲9〜12)、同「ビーパル(BE-PAL)」〔株式会社小学館〕(甲45、46)に紹介された。
         b また、原告商品が本格的に販売開始された後も、上記「モノ・マガジン」(昭和61年2月号から平成6年3月2日号までの間に32回。甲13〜44)、上記「ビーパル」(昭和61年5月号から平成5年3月号までの間に10回。甲47〜56)、「グッズプレス(Goods Press)」〔株式会社徳間書店〕(平成元年6月号から平成5年6月号までの間に7回。甲57〜63)、「山と渓谷」〔株式会社山と渓谷社〕(昭和61年12月号。甲64)、「北海道新聞」(平成3年2月21日夕刊。甲65)、「特選街」〔株式会社マキノ出版〕(昭和62年3月号から昭和63年1月号までの間に11回。甲66〜76)、「ホットドッグ・プレス(H0T-DOG PRESS)」〔株式会社講談社〕(昭和63年8月号。甲77)等のアウトドア専門雑誌、製品情報雑誌、新聞において特集され、又は紹介された。

         c 特に「モノ・マガジン」平成5年2月16日号では、原告商品を含むマグライトシリーズ製品を紹介する「マグライト伝説」と題する16頁にわたる特集記事が掲載され、マグライトシリーズ製品のデザインの良さのほか、従来の同種の懐中電灯と比べて際だった耐久性、明るさ、操作性の良さ等を有するといった機能的な特長や、米国において警官、消防士、兵士のようなプロフェッショナルに信頼され広く使われているということが詳しく紹介された(甲36)。
         d さらに、平成10年に発行された「世界のロングセラー 職人たちの技」〔株式会社小学館〕(甲2)にも、原告商品を含むマグライトシリーズ製品が機能的にもデザイン的にも優れた懐中電灯であるとして詳しく紹介されている。
         e 上記雑誌等の紹介記事には、いずれも原告商品の写真が掲載されており、同雑誌等の読者は、前記(1)カ(ア)記載の原告商品の形態の特徴的な部分を感得することができる。

       (ウ) 宣伝活動について
         a エイアンドエフは、1986−1987年度版以降、2年毎に作成される同社の総合カタログ(2000年版は単年度版)に、それぞれ1〜3頁にわたって、原告商品を含む原告のマグライトシリーズ製品を掲載し(甲6、7、78、80〜84)、同カタログは、卸売業者、アウトドアスポーツ小売店、一般消費者等に対し、それぞれ約1万5000部(2000年版は約1万部)頒布された(甲79)。
         b アウトドア雑誌等における原告商品の広告は、遅くとも昭和62年ころからなされ、「モノ・マガジン」(昭和62年3月から平成5年6月2日号までの間に9回。甲85〜93)、「ビーパル」(昭和62年2月号から平成4年11月号までの間に3回。甲94〜甲96)、「ビーパル増刊 ザ・カタログ87年春・夏号」(甲97)、「グッズプレス」(平成4年11月号。甲98)、「週刊ダイヤモンド」〔株式会社ダイヤモンド社〕(平成3年6月1日号及び同月15日号。甲99、100)、「BOX」〔株式会社ダイヤモンド社〕(平成3年7月号及び同年8月号。甲101、102)、「ホットドッグプレス」(平成4年10月25日号。甲103)、「ダイム」〔株式会社小学館〕(平成4年12月17日号。甲104)、「ポパイ(POPEYE)」〔株式会社マガジンハウス〕(平成4年10月14日号。甲105)、「朝日新聞」(平成7年8月17日朝刊、同月29日朝刊。いずれも全面広告。甲159、160)等に掲載されている。

         c なお、これらの雑誌は、「ビーパル」が「自然と友達になろう」をテーマにしたライフ・スタイル情報誌であるほかは、「モノ・マガジン」、「グッズプレス」は分野を限定しない商品情報誌、「BOX」は知的生活情報誌を標榜する雑誌であり、その他の雑誌も、その購読層を特定の趣味趣向を有する者に限定したものではない(甲101、102、甲158の1〜9)。
         d 三井物産は、平成元年に原告商品の日本における一手販売の輸入代理店となり、平成5年12月から、原告商品を含むマグライトシリーズ製品のカタログを発行し、平成8年の1年間には約2000部、それ以降は毎年約5000部を、主として、三井物産のマグライトシリーズ製品の販売代理店の取引先である卸売業者及び一般消費者等に対して頒布した(甲1、79、106、弁論の全趣旨)。

         e 三井物産は、原告商品の販売について、複数の大手卸売業者を販売代理店として指定し、それらの販売代理店を通じて、他の卸売業者、量販店及び小売店舗等に販売している(甲107)。
            販売代理店のうち、独自にカタログを作成頒布している会社は、エイアンドエフ(前記(ア)記載のとおり)、株式会社サンジェルマン、株式会社日立リビングサプライの3社であり、サンジェルマンは、平成5年から、原告商品を含むマグライトシリーズ製品の専門カタログを発行し、毎年約5000部を、同社の取引先である電器製品関連卸売業者、ギフト卸売業者及び一般消費者等に対し頒布している(甲79、108)。
            また、日立リビングサプライは、同社製品カタログを年3回発行し(1回の発行部数は15万部)、平成5年から原告商品を掲載しており、これを同社の取引先である家電量販店、日立特約代理店等に頒布している(甲79、109〜111)。

         f 上記雑誌等における広告やカタログには、いずれも原告商品の写真が掲載されており、これを見た消費者は、前記(1)カ(ア)記載の原告商品の形態の特徴的な部分を感得することができる。
       (エ) 広告費用について
          三井物産は、次のとおりマグライトシリーズ製品の雑誌及び新聞の広告をし、そのための費用を費やした(年度は、前年10月から当年9月まで。甲161)。
          (年度)   (広告費) (新聞掲載件数) (雑誌掲載件数)
         1997年度  4177万円     6件     102件
         1998年度  4510万円     6件     133件
         1999年度  5304万円    18件     114件
         2000年度  4425万円     5件     118件

         2001年度  5135万円    10件     102件
       (オ) 販売額について
         a 原告商品を含むマグライトシリーズ製品は、平成4年3月期に7500万円、平成5年3月期に1億1900万円、平成6年3月期に少なくとも2億3600万円の売上げを計上した。
            その後も、平成7年3月期には年商5億円を突破するに至り、そのころまで売上げは倍増ペースで拡大してきた(甲112)。
         b 上記販売額のうち、原告商品の販売額は原告の販売するマグライトシリーズ全製品の約53%(平成12年3月期、平成13年3月期、平成13年4月〜7月の期間のマグライトシリーズ全製品の販売額合計〔23億7100万円〕、及び同期間の原告商品の販売額合計〔12億5400万円〕を基に算出)を占めており、原告商品の売上本数及び販売額は、次のとおりとなる(甲112)。

            (販売年度)    (売上本数)    (販 売 額)
            平成4年3月期    4万2321本     4000万円
            平成5年3月期    6万6823本     6300万円
            平成6年3月期   13万1418本   1億2300万円
            平成7年3月期   28万6225本  26億9000万円
            平成8年3月期   39万5925本  37億2000万円
            平成9年3月期   44万1031本  41億4000万円
            平成10年3月期   44万0474本  41億4000万円
            平成11年3月期   54万2378本  50億9000万円
            平成12年3月期   60万7747本  57億7000万円
            平成13年3月期   55万1833本  50億8000万円

       (カ) 国内及び海外でのデザインとしての評価について
          前記(1)オ記載のとおり、原告商品は、通商産業省(当時)により、平成2年度のグッドデザイン商品として選定された(甲3、4)。
          その他、海外でも、原告商品を含むマグライトシリーズ製品は、優れたデザインの商品として、米、独、仏でデザイン賞を受賞し(甲2)、ニューヨーク、ドイツ、ベルギー、スウェーデン、オランダの美術館に収蔵されており(甲2、123〜128)、これらの事実が我が国の雑誌や書籍で紹介されてきた(甲2、36)。
     イ 以上のような、平成6年3月末以前における雑誌等における多数の紹介記事、原告商品の代理店等による雑誌、新聞等における多数の掲載広告、グッドデザイン商品としての選定、海外における評価等に加え、原告商品の販売数量、販売金額を考慮すれば、原告商品の形態は、商品自体の品質、性能に対する評価とも相まって、遅くとも平成6年3月末までには、原告が製造販売する商品であることを示す商品表示として、我が国のアウトドア活動の愛好家を初めとして、広範囲の需要者の間に広く認識されていたと認めるのが相当であり、その後もその周知性が維持されているものと認められる。

 2 争点(2)(原告商品と被告商品の形態の類似性)について
   (1) 被告商品の形態について(なお、以下に記載する各部の寸法は、0.2o〜0.3o程度の誤差の範囲を含む値である。)
     ア 検甲3によれば、イ号商品は、別紙イ号目録記載のとおりであるほか、次の構成を備えていることが認められる。
       (ア) 全体的な構成
         @ レンズ、電球、反射板を覆うライト頭部と、単3電池2本を収納する胴体部分とから成る懐中電灯である。
         A 大きさは、全長が15p(頭部長さ3.9p、胴体部長さ11.1p)、頭部最大径が2.5p、胴体部直径が1.77pである。
         B 表面は、全体に黒色に塗られており、ライト頭部の細かい直線の溝模様(後記(イ)@)、ライト胴体部分の斜め方向に交差した細かい平行線の溝模様(後記(ウ)@)以外の部分は、円周状に細かいカッターマーク(切削加工に使用したバイト刃先の条痕)が残っている。

       (イ) ライト頭部の構成
         @ ライト頭部は、その先端から一定間隔下がった位置の幅6oの周縁に、レンズに対して垂直方向の細かい直線の溝模様がある。
         A ライト頭部から同溝模様付近までは円筒形状をなし、@の直線の溝模様の上部端との間に円周状に溝が形成されている(同円筒形状部分は、ライト頭部と一体のものである。)。
         B ライト頭部の溝模様の下端付近から、胴体部分と接続される部分までの形状は、ライト頭部直径を最大径部とし、胴体部分と接続される側を最小径部とする放物体である。
         C Aの円筒形状部分には、何も記載されていない。
       (ウ) ライト胴体部分の構成
         @ ライト胴体部分は円筒形をなし、その胴体部分の中央部分周縁には、斜め方向に交差し、正方形の格子を形成する細かい平行線(間隔は約1.5o)の溝模様(幅6p)がある。

         A ライト胴体部分の後端には、ライト胴体部分より直径が大きいキャップ(電池交換のためのもの)が設けられ、同キャップの側面には、中央部に突片を残すように凹みが形成され、同突片に穿設された孔にはハンドストラップが取り付けられている。また、同キャップの後端には、プッシュ式スイッチが設けられている。
     イ 検甲4によれば、ロ号商品は、別紙ロ号目録記載のとおりであるほか、次の構成を備えていることが認められる。
       (ア) 全体的な構成
         @ レンズ、電球、反射板を覆うライト頭部と、単4電池1本を収納する胴体部分とから成る懐中電灯である。
         A 大きさは、全長が9.45p(頭部長さ2.69p、胴体部長さ6.76p)、頭部最大径が1.78p、胴体部直径が1.29pである。
         B 表面は、全体に黒色に塗られており、ライト頭部の細かい直線の溝模様(後記(イ)@)、ライト胴体部分の斜め方向に交差した細かい平行線の溝模様(後記(ウ)@)以外の部分は、円周状に細かいカッターマーク(切削加工に使用したバイト刃先の条痕)が残っている。

       (イ) ライト頭部の構成
         @ ライト頭部は、その先端から一定間隔下がった位置の幅3.4oの周縁に、レンズに対して垂直方向の細かい直線の溝模様がある。
         A ライト頭部から同溝模様付近までは円筒形状をなす(同円筒形状部分は、ライト頭部と一体のものである。)。
         B ライト頭部の溝模様の下端付近から、胴体部分と接続される部分までの形状は、ライト頭部直径を最大径部とし、胴体部分と接続される側を最小径部とする放物体である。
         C Aの円筒形状部分には、何も記載されていない。
       (ウ) ライト胴体部分の構成
         @ ライト胴体部分は円筒形をなし、その胴体部分の中央部分周縁には、斜め方向に交差し、正方形の格子を形成する細かい平行線(間隔は約1o)の溝模様(幅2.9p)がある。

         A ライト胴体部分の後端には、ライト胴体部分より直径が大きいキャップ(電池交換のためのもの)が設けられ、同キャップの側面には、中央部に突片を残すように凹みが形成され、同突片に穿設された孔にはキーホルダー鎖が取り付けられている。また、同キャップの後端には、直径1.07pのプッシュ式スイッチが設けられている。
     ウ 検甲7によれば、ハ号商品は、別紙ハ号目録記載のとおりであるほか、次の構成を備えていることが認められる。
       (ア) 全体的な構成
         @ レンズ、電球、反射板を覆うライト頭部と、単4電池2本を収納する胴体部分とから成る懐中電灯である。
         A 大きさは、全長が13.95p(頭部長さ3p、胴体部長さ10.95p)、頭部最大径が1.79p、胴体部直径が1.29pである。

         B 表面は、全体に黒色に塗られており、ライト頭部の細かい直線の溝模様(後記(イ)@)、ライト胴体部分の斜め方向に交差した細かい平行線の溝模様(後記(ウ)@)以外の部分は、円周状に細かいカッターマーク(切削加工に使用したバイト刃先の条痕)が残っている。
       (イ) ライト頭部の構成
         @ ライト頭部は、その先端から一定間隔下がった位置の幅3.5oの周縁に、レンズに対して垂直方向の細かい直線の溝模様がある。
         A ライト頭部から同溝模様付近までは円筒形状をなす(同円筒形状部分は、ライト頭部と一体のものである。)。
         B ライト頭部の溝模様の下端付近から、胴体部分と接続される部分までの形状は、ライト頭部直径を最大径部とし、胴体部分と接続される側を最小径部とする放物体である。

         C Aの円筒形状部分には、何も記載されていない。
       (ウ) ライト胴体部分の構成
         @ ライト胴体部分は円筒形をなし、その胴体部分の中央部分周縁には、斜め方向に交差し、正方形の格子を形成する細かい平行線(間隔は約1o)の溝模様(幅6p)がある。
         A ライト胴体部分の後端には、ライト胴体部分より直径が大きいキャップ(電池交換のためのもの)が設けられ、同キャップの側面には、中央部に突片を残すように凹みが形成され、同突片に穿設された孔にはハンドストラップが取り付けられている。また、同キャップの後端には、直径1.06pのプッシュ式スイッチが設けられている。
   (2)ア 被告商品は、いずれも原告商品の上記1(1)カ(ア)記載の形態的特徴を備えており、そうした形態的特徴から、全体としてコンパクトでスマートなデザイン性、原告商品とほぼ同様の位置に設けられたライト頭部及び胴体部分の溝模様が与えるざらざらした質感及び同溝模様が与えるデザイン性など、原告商品を模倣したと推定されるほどによく似ており、原告商品とほぼ同様の印象を受けるというべきである。

     イ 他方、原告商品と被告商品とは、次の相違点を有する。
       (ア) 全体的な構成の差異
         @ 原告商品(2)とロ号商品とでは、収納する単4電池の数が2本と1本で異なる。
         A 全体的な大きさ、直径等の寸法が必ずしも同一ではない。
         B 懐中電灯の溝部分以外の表面が、原告商品では、滑らかな表面に仕上げてあるのに対し、被告商品では、円周状に細かいカッターマーク(切削加工に使用したバイト刃先の条痕)が残っており、原告商品の方が光沢がある。
       (イ) ライト頭部の構成の差異
         @ ライト頭部の溝模様の幅寸法が同一ではない。
         A 原告商品は、ライト頭部の先端から溝模様付近までの円筒形状部分(フェイスキャップ部分)が取り外し可能であるのに対し、被告商品では一体化しており取り外し可能部分がない。

         B 原告商品のフェイスキャップ部分には、商品名、製造者の名称が白文字で記載されているが、被告商品の同部分には何も記載されていない。
       (ウ) 胴体部分の構成の差異
         @ 胴体部分に形成された溝模様における細かい平行線間の間隔が同一ではない。また、同平行線が形成する格子が、原告商品では菱形状であるのに対し、被告商品では正方形である。
         A 胴体後部に設けられたキャップの外径が、原告商品では胴体部分と同一径であるのに対し、被告商品では胴体部分より大きい。同キャップに設けられた凹みの位置及び形状が異なる。被告商品では、同キャップにハンドストラップないしキーホルダー鎖が付いているのに対し、原告商品には何も付いていない。被告商品では、同キャップにプッシュ式スイッチが設けられているが、原告商品では同スイッチは設けられていない。

     ウ しかしながら、上記差異は、次のとおり原告商品と被告商品との全体的な印象、類似性を左右するものではない。
       (ア) 全体的な構成の差異について
         a 原告商品(2)とロ号商品とは、収納される単4電池の本数が異なることに伴い胴体部分の長さが異なるとしても、商品全体に占めるライト頭部と胴体部の比率がほぼ28:82と等しく、しかもライト頭部直径を最大径部とし、胴体部分と接続される側を最小径部とする放物体であり、最大径と最小径がほぼ一致するという点で、ライト頭部の形状がほぼ同一であって、これらにより全体としてコンパクトでスマートな印象を受けることには変わりはないから、ロ号商品は、少なくとも原告商品(2)と同一シリーズないし同一出所の商品との印象を与えることに変わりはない。
         b 全体的な大きさ、直径等の寸法が必ずしも同一ではないことは、全体的な印象を左右するものではなく、表面の仕上げ状況の差異は、離れて観察した場合に明瞭に認識できるものではない。

       (イ) ライト頭部の構成の差異について
         a ライト頭部の溝模様の幅寸法の差異は全体的な印象を左右するものではない。
         b ライト頭部の先端から溝模様付近までの円筒形状部分(フェイスキャップ部分)が取り外し可能か否かについては、外観上認識できる差異ではない。
         c 原告商品のフェイスキャップ部分の商品名、製造者の記載は、黒色の塗装の上に白文字で記載されていることから、原告商品の外観上目立つものであって、被告商品にはないデザイン上のアクセントにもなっていることは否定できないが、同記載も商品のデザインの全体的な印象を左右するようなものではない。
       (ウ) 胴体部分の構成の差異について
         a 胴体部分の溝模様の平行線の間隔や格子形状の差異があることによって、離れて観察した場合に、同溝模様部分から受ける質感という点において、原告商品の方が被告商品よりもよりざらざらした感じを強く受けるが、同質感の差異は、全体的な印象を左右するほどのものではない。

         b また、ハンドストラップないしキーホルダー鎖は、これらが携帯用の物品に取り付けられるのは極くありふれた一般的なことであって(原告商品にも胴体後部のキャップに取付け用の孔が設けられている。)、こうした付加的なハンドストラップやキーホルダー鎖の存在は、原告商品と異なる形態を特徴付ける要素とはいえない。
         c さらに、胴体後部のキャップ部分の太さが胴体部分より太いことや、プッシュ式スイッチが付いていることも、胴体部分に特に着目した場合にはその形態の差異を特徴付ける要素にはなり得ても、懐中電灯全体を観察した場合には、全体的な印象を左右するものとはいえない。
     エ なお、被告は、ライト頭部の形状について、別紙「ヘッド部分比較参考図」記載のとおりであり、原告商品は細面のスマートな感じであるのに対し被告商品は下膨れの丸顔の感じであって、またライト頭部の曲線と胴体部分の境界部の段差が小さいと主張し、また、別紙「ヘッド部分外中比・縦横比」記載のデータを参考に、原告商品は黄金分割にほぼ等しいか極めて近いデザイン手法を取り入れたもので、この点において被告商品とは異なると主張する。

        しかし、前記1(1)カ(ア)記載のとおり、原告商品のライト頭部は、その先端から溝模様下端付近までは円筒形状をなし、そこから概ね放物体形状をなす曲面を経て胴体部分につながるところに特徴があり、また、こうした形状によってライト頭部を含めた懐中電灯全体としてスマートでコンパクトな印象を受けるものであるが、被告が主張するようなライト頭部の個々的な寸法の差異や黄金分割に近い寸法比率を採用しているか否かという点は、全体として受ける印象の差異をもたらすものとはいえない。
     オ 結局、被告商品は原告商品が備えている前記1(1)カ(ア)記載の形態的特徴を備えており、両者の形態部分の差異を考慮しても全体として与える印象を異にするものではないから、イ号商品は原告商品(1)に、ロ号商品及びハ号商品は原告商品(2)に、それぞれその形態が類似するものというべきである。

 3 争点(3)(混同のおそれ)について
   (1) イ号商品は原告商品(1)に、ロ号商品及びハ号商品は原告商品(2)に、それぞれその形態及び外表面の色(黒色)が類似するものというべきであり、消費者は、その形態、色の類似性から、両者を誤認混同するおそれがあるというべきである。
   (2)ア 被告は、原告商品及び被告商品の包装形態から、混同のおそれが生じないと主張する。
     イ 検甲3、4、7、乙17、18によれば、被告商品は、透明のブリスターパッケージで包装されており、ブリスターパッケージの台紙は、全体の色彩が青色で、表面に被告の商標でありブランド名である「ELPA」の文字が記載されているほか、「アルミハンディライト」という商品名が目立ちやすい山吹色の縦16oの文字で明記されていること、「ELPA」と「アルミハンディライト」の間には、上から白抜き縦3oの文字で品番、その下には赤色縦9oの文字で「FLASH LIGHT」と配置されていること、裏面には「ELPA」の商標と「朝日電器株式会社」の社名と住所が記載されていることが認められる。

     ウ 検甲1、2によれば、原告商品も透明のブリスターパッケージで包装されており、ブリスターパッケージの台紙の表側は、薄いシルバー色を基調とし、多数の白い線が斜めに楔状に描かれ、右端には6o幅で上から下まで赤いストライプ状印刷が入り、縦14oの米国国旗とその上に「Made In」、下に「the U.S.A.」という文字を記載し、自らの商品名を黒色で縦6oないし縦9oの太字で「MINI MAGLITE」と明記していること、同パッケージ中に、原告商品(1)では電池2本、原告商品(2)では電池2本とペンキャップが同梱されていることが認められる。
     エ しかし、原告商品及び被告商品がブリスターパッケージで包装されているとしても、いずれのブリスターパッケージも透明であって、原告商品及び被告商品の形態的特徴を十分感得できるものであること、また、懐中電灯等をブリスターパッケージで包装して販売することは、一般に広く行われている販売方法であるから、ブリスターパッケージの包装形態の差異は、消費者が商品を選択する際において、当該商品そのものの形態以上に着目する要素とは思われないことからすると、上記のブリスターパッケージにおける台紙の表示の差異を考慮しても、消費者が、原告商品と被告商品を誤認混同するおそれがないということはできない。

   (3) また、被告は、原告商品と被告商品を同じ売り場で販売しているケースにおいても、誤認混同した事例はないと主張するが、特定の販売店においてそうした誤認混同の具体例がないことをもって、直ちに、原告商品と形態が類似する被告商品の販売行為が、消費者の誤認混同を惹起するおそれがないとすることはできない。
 4 争点(4)(損害の発生及び額)について
   (1) 不正競争防止法5条1項に基づく損害の算定について
     ア 被告商品の平成10年3月から平成14年6月までの総売上金額が、3555万4276円(2060万3522円(イ号商品)+579万9095円(ロ号商品)+915万1659円(ハ号商品))であること、その売上原価の総額が、2389万6686円(1369万4300円(イ号商品)+430万0437円(ロ号商品)+590万1949円(ハ号商品))であることは、当事者間に争いがない。

        これによれば、被告が平成10年3月から平成14年6月までの被告商品の販売により得た売上利益(粗利益)は、1165万7590円(690万9222円(イ号商品)+149万8658円(ロ号商品)+324万9710円(ハ号商品))となる。
     イ 被告は、同売上利益(粗利益)から、販売費及び一般管理費並びに支払利息から受取利息を控除したもの(運転資金コスト)(全商品の売上総利益(粗利益)と、販売費及び一般管理費並びに上記運転資金コストの合計額との比率を基に算出)を、控除すべきであると主張するので、この点について検討する。
       (ア) 不正競争防止法5条1項は、不正競争行為によって営業上の利益を侵害された者が侵害者に対して損害賠償を請求する場合に、侵害者が当該不正競争行為によって受けた利益の額をもって被害者の損害の額と推定する旨規定しているところ、侵害者が受けた「利益の額」とは、侵害者が侵害行為によって得た売上額から、製造原価・販売原価のほか、侵害者が当該侵害行為たる製造・販売に必要であった諸経費を控除した額であると解すべきであり、販売費及び一般管理費にあっては、当該不正競争行為をしたことによって増加したと認められる部分に限って控除の対象とすべきであると解するのが相当である。

          なお、原告は、不正競争防止法5条1項により不正競争行為者の得た利益の額を算定するに当たって、売上額から控除されるべき費用は、不正競争行為者によって販売されたと同量の商品を被害者が販売した場合の逸失利益を算定するに当たってどのような費用を控除すべきであるかを考慮に入れて判断すべきであると主張する。しかし、不正競争防止法の上記規定は、不正競争行為によって営業上の利益を立証することが一般的に困難であることに鑑みて設けられたものであるところ、これと同旨の規定は、従前から特許法(平成10年法律第51号による改正後の102条2項)、実用新案法(同29条2項)、意匠法(同39条2項)及び商標法(同38条2項)にも設けられているが、特許法等においては、平成10年法律第51号による改正で、更に逸失利益の立証の容易化を図る趣旨で、侵害者の譲渡した侵害品の数量に権利者が侵害行為がなければ販売することができたであろう物の単位当たりの利益の額を乗じて得た額を損害の額とできる旨の規定が新設されたところである(上記各条1項)。これらの規定を総合して考えると、特許法等の各規定(上記各条2項)における侵害者が受けた「利益の額」とは、侵害者が侵害行為によって得た売上額から、製造原価・販売原価のほか、侵害者が当該侵害行為たる製造・販売に必要であった経費を控除した額であると解すべきであり、その際、権利者側の状況を考慮することは、特段の事情がない限り必要ないものというべきである。不正競争防止法においては、上記の特許法等と同様の改正はされていないが、同法5条1項の規定と上記改正後の特許法102条2項の規定とが法文上同旨の規定であることは明らかであるから、不正競争防止法5条1項にいう不正競争行為者が侵害行為により受けた「利益の額」についても同様に解するのが相当である。
       (イ) 被告が控除すべきと主張する販売費及び一般管理費の中には、役員報酬、給料手当、福利厚生費、通信費、交際費、光熱費、宣伝広告費、賃料等様々な費用が雑多に含まれているのであり、その大部分の費目は、被告商品の販売のための変動経費とはいえないものと推認されるし、支払利息から受取利息を控除したもの(運転資金コスト)は被告商品の販売に要した費用とはいえない性質のものである。

          しかも、乙75の1〜5によれば、被告の各会計年度における売上額(1億円未満は切捨て)は、第29期(平成9年7月1日〜平成10年3月31日)が115億円、第30期(平成10年4月1日〜平成11年3月31日)が146億円、第31期(平成11年4月1日〜平成12年3月31日)が153億円、第32期(平成12年4月1日〜平成13年3月31日)が153億円、第33期(平成13年4月1日〜平成14年3月31日)が148億円であることが認められる。被告商品の上記販売期間(平成10年3月から平成14年6月まで)に概ね相当する第30期〜第33期の上記売上額の合計は600億円となるが、上記ア記載のとおり、同期間における被告商品の売上合計額は3555万4276円であり、被告の売上合計額のうち被告商品の売上額が占める割合はわずか0.059%に過ぎないから、被告が、被告商品を販売することにより、特に販売費及び一般管理費が増加したとは認められず、その中で個別的に被告商品の製造、販売に要した費用があったことを認めるに足りる証拠もない。
       (ウ) そうすると、不正競争防止法5条1項に基づく損害の算定に当たって、被告の売上利益(粗利益)から、販売費及び一般管理費の全額並びに支払利息から受取利息を控除したもの(運転資金コスト)(全商品の売上総利益(粗利益)と、販売費及び一般管理費並びに上記運転資金コストの合計額との比率を基に算出)を、控除すべきとする被告の主張は理由がない。
     ウ 以上によれば、原告が被告の被告商品の販売行為によって被った損害は、1165万7590円と推定される(不正競争防止法5条1項)。
     エ なお、被告は、前身となる商品から被告商品へのモデルチェンジに伴ってシェアが3分の1ないしそれ以下に下落したこと、また、被告は原告商品も販売していたところ、被告商品の販売を開始しても原告商品の販売数量は何ら影響を受けなかったことなどを理由として、原告は被告商品の販売によって損害を被ったとはいえないと主張する。

        しかしながら、前身となる商品から被告商品へのモデルチェンジに伴ってシェアが下落したとか、被告商品の販売を開始しても被告における原告商品の販売数量が何ら影響を受けなかったとの事情が存在するとしても、前記のとおり、被告商品の形態が原告商品の形態と類似し消費者の混同を惹起するものであって、原告商品及び被告商品が共に我が国の市場で販売されている以上、原告商品の販売について被告の不正競争行為の影響を受けなかったとは考えられず、こうした事実によって、不正競争防止法5条1項に基づく上記損害の推定が覆されるとはいえない。
        したがって、被告の同主張は理由がない。
   (2) 調査費用について
      甲113〜115、166、167によれば、原告は、本件訴訟の提起に当たり、被告による被告商品の販売継続の事実、その販売態様等に関する調査を調査会社に依頼し、その費用として、合計34万7804円を支出したことが認められる。

      原告は、調査費用に係る損害として、上記のうち34万円を請求しているが、この金額は、被告の侵害行為の態様や調査内容等に照らして、被告の不正競争行為と相当因果関係のある損害であると認められる。
   (3) 弁護士費用について
      本件事案の内容、訴訟の経過、認容する損害額等を勘案すると、被告の不正競争行為と相当因果関係のある弁護士費用としては150万円とするのが相当である。
   (4) また、被告自ら原告商品を販売する一方で、被告商品を輸入して販売したという被告商品の販売経過や、前記のとおり、原告商品の形態が広範囲の需要者の間に広く認識されていたものであることを考慮すると、被告には、被告商品を販売したことについて少なくとも過失があるというべきである。
   (5) 以上によれば、原告の請求第3項は、被告に対し金1349万7590円(1165万7590円+34万円+150万円)及びこれに対する不法行為の後の日である平成14年7月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による金員の支払を求める限度で理由がある。

 5 よって主文のとおり判決する。

      大阪地方裁判所第21民事部

                           裁判長裁判官   小  松  一  雄

                                 裁判官   阿  多  麻  子

                                 裁判官   前  田  郁  勝