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知財みちしるべ:最高裁の知的財産裁判例集をチェックし、判例を集めてみました

争点別に注目判決を整理したもの

裁判管轄

平成22(ネ)10003 特許侵害予防等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 平成22年09月15日 知的財産高等裁判所

 外国法人に対する裁判管轄を否定した1審判決が取り消されました。
 日本国裁判所たる当裁判所が審理判断するに当たり,本件のような渉外的要素を含む事件に我が国の国際裁判管轄を肯定すべきかどうかは,これに関する我が国の成文の法律や国際的慣習法が認められない現時点(口頭弁論終結時たる平成22年7月7日)においては,当事者間の公平や裁判の適正・迅速の理念により,条理に従って決定するのが相当と解される(日本の裁判所の管轄権に関する民訴法の改正案が先の国会に提出されたことは当裁判所に顕著であるが,未だ成立に至っていない)。そして,上記条理の内容としては,我が国の民訴法の規定する国内裁判籍のいずれかが我が国内にあるときは,原則として,我が国の裁判所に提起された訴訟事件につき,被告を我が国の裁判権に服させるのが相当であるが,我が国で裁判を行うことが当事者間の公平,裁判の適正・迅速を期するという理念に反する特段の事情があると認められる場合には,我が国の国際裁判管轄を否定すべきものと解される(最高裁昭和56年10月16日第二小法廷判決・民集35巻7号1224頁,同平成9年11月11日第三小法廷判決・民集51巻10号4055頁等参照)。(3) 一方,本件訴えは,前記のとおり,特許権に基づく差止請求及び不法行為に基づく損害賠償請求であり,これらは特許権又は金銭債権という財産権上の訴えであるが,これらについて,国内管轄に関する民訴法5条(財産権上の訴え等についての管轄)との関係を検討すると,次のとおりである。すなわち,上記不法行為に基づく損害賠償請求は,その文言解釈として民訴法5条9号にいう「不法行為に関する訴え」に該当することは明らかであり,また,の特許権に基づく差止請求は,被控訴人(一審被告)の違法な侵害行為により控訴人(一審原告)の特許権という権利利益が侵害され又はそのおそれがあることを理由とするものであって,その紛争の実態は不法行為に基づく損害賠償請求の場合と実質的に異なるものではないことから,裁判管轄という観点からみると,民訴法5条9号にいう「不法行為に関する訴え」に含まれるものと解される(最高裁平成16年4月8日第一小法廷決定・民集58巻4号825頁参照)。そして,本件訴えの国際裁判管轄の有無に関して斟酌される民訴法5条9号の適用において,不法行為に関する訴えについて管轄する地は「不法行為があった地」とされているが,この「不法行為があった地」とは,加害行為が行われた地(「加害行為地」)と結果が発生した地(「結果発生地」)の双方が含まれると解されるところ,本件訴えにおいて控訴人(一審原告)が侵害されたと主張する権利は日本特許第3502266号であるから,不法行為に該当するとして控訴人が主張する,被控訴人(一審被告)による「譲渡の申出行為」について,申出の発信行為又はその受領という結果の発生が客観的事実関係として日本国内においてなされたか否かにより,日本の国際裁判管轄の有無が決せられることになると解するのが相当である。
(4) そこで,以上の見地に立って,以下,本件訴訟について検討する。
・・・・
3 特段の事情の有無
進んで,前記1(2)にいう特段の事情の有無について検討する。本件請求は,我が国に所在し日本法人である控訴人が,日本国特許権である本件特許権に基づいて,裁判を受ける権利の行使として,我が国において被控訴人が被告物件の譲渡の申出を行うことの差止めと損害賠償を求めているのであり,その準拠法も本件特許権の登録国法である日本国特許法になると解される(最高裁平成14年9月26日第一小法廷判決・民集56巻7号1551頁参照)。したがって,我が国の裁判所が,本件請求を審理判断することは,裁判の適正・迅速を期する理念に沿うものといえるのに対し,控訴人が被控訴人の本店が存する大韓民国において差止請求等を提起したとしても,上記認定事実に鑑みれば,同国の裁判所が国際裁判管轄を肯定する可能性は必ずしも高くはないものと解される。他方,被控訴人は,東京都において販売の拠点を設けそのことを自らウエブサイトにおいて開示するとともに,英語表\\\記のウエブサイトにおいて被告物件について製品紹介を行い,当該製品が日本にも流通していることを認識しているだけでなく,日本語表記のウエブサイトにおいて被告物件を含むODD モータの購入問い合わせを可能としているのであるから,当該物件に関して我が国において侵害訴訟等が提起されることは予\\\想の範囲内のことということもできる。さらに,被控訴人は,全世界に展開する大韓民国屈指の大企業であるサムスングループに所属する企業であって,自らも海外に多数の支店を設けている(甲4−4,甲10,弁論の全趣旨)。これらの事情からすれば,我が国の裁判所において本件請求に応訴することを被控訴人に求めることは,当事者間の公平,裁判の適正・迅速を期するという理念に反するとはいえないものであり,国際社会における裁判機能の分配の観点からみても,我が国の裁判権の行使を正当とするに十\\\分な法的関連性があるから,我が国の国際裁判管轄を否定すべき特段の事情があると認めることはできない。

◆判決本文

◆関連事件です。平成22(ネ)10001

◆関連事件です。平成22(ネ)10002

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