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知財みちしるべ:最高裁の知的財産裁判例集をチェックし、判例を集めてみました

争点別に注目判決を整理したもの

識別性

平成27(行ケ)10152  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 平成27年11月30日  知的財産高等裁判所

 「肉ソムリエ」は指定商品・役務との関係で識別力を有しない(3条1項3号)とした審決が維持されました。
 原告は,本件審決は,本願商標は「肉(食肉)に関する専門知識を有す る者」程の意味合いを容易に想起させると認定し,これを前提に,本願商標 は商標法3条1項3号に該当する旨判断したが,商標の同号該当性は,取引 者,需要者が,当該商標から,直ちに一義的に指定役務の内容を理解,認識 するにすぎないか否かによって判断されるものであり,比較の対象となるの は「指定役務」と「標章」のみであるから,本願商標が上記のような意味合 いを想起させるか否かは,同号該当性の判断に当たって無関係であり,本件 審決の上記判断は誤りである旨主張する。 しかしながら,前記1(1)で説示したとおり,本願商標が,本願指定役務 について役務の質を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標\n(商標法3条1項3号)であるというためには,本件審決時において,本願 商標が本願指定役務との関係で役務の質を表示記述するものとして取引に際\nし必要適切な表示であり,本願商標の取引者,需要者によって本願商標が本\n願指定役務に使用された場合に,将来を含め,役務の質を表示したものと一\n般に認識されるものであれば足りると解されるものであって,取引者,需要 者が,「指定役務」と「標章」のみを比較の対象として,当該商標から,直 ちに一義的に指定役務の内容を理解,認識するにすぎないか否かによって当 該商標の同号該当性が判断されるものであるとはいえないから,原告の上記 主張は,その前提において,採用することができない。
(2) 原告は,1)本願商標は「肉(食肉)に関する専門知識を有する者」程の 意味合いを容易に想起させるとの本件審決の認定,2)本願指定役務中「肉の 選択方法・肉の調理方法・肉と他の食材との組み合わせなどに関する知識」 は,「肉(食肉)に関する専門知識」の範疇に属するとの本件審決の認定は, いずれも誤りであるから,本願商標が商標法3条1項3号に該当するとの本 件審決の判断は,その前提となる事実認定に誤りがある旨主張する。 しかしながら,原告の主張は,以下のとおり理由がない。
ア 上記1)について
原告は,本件審決は,本願商標は「肉(食肉)に関する専門知識を有す る者」程の意味合いを容易に想起させることの根拠となる事情として,本 願商標の構成中の「肉」の文字部分は,「食用とする鳥獣のにく」を意味\nすること,「ソムリエ」の文字は,ワイン以外の分野においても専門的な\n知識を有する者を「○○ソムリエ」(「○○」は商品名)と称して使用さ\nれており,さらに,食品に関する資格やその検定を取り扱う業界において も,近年,特定の食品分野における一定の専門知識を有する者であること を証する資格の名称を表すものとして,「○○ソ\ムリエ」(「○○」は食 品名)の語が広く採択されていることを挙げるが,いずれも失当である旨 主張する。
(ア) しかしながら,本願指定役務は,肉(食肉)の分野に関する役務で あるから,その取引者,需要者が,本願商標の「肉」の文字部分から一 般に食肉を想起することは明らかである。
(イ) また,前記1(2)及び(3)認定のとおり,本願商標を構成する「肉ソ\ ムリエ」の語は,本件審決日当時,取引者,需要者によって,「肉(食 肉)に関する専門的知識を有する者」を意味する語として,一般に認識 されるものであったことが認められる。 この点に関し,原告は,本願商標のように「○○ソムリエ」という構\ 成からなる登録商標は,200件近く存在し,特に,「魚ソムリエ」や\n「野菜ソムリエ」については,魚や野菜等に関する知識の教授,資格検\n定試験の実施,資格の認定・授与などを指定役務として商標登録されて いることは,需要者が,かかる商標から一義的に直ちに指定役務の内容 を理解,認識するわけではないことを裏付けるものである旨主張する。 しかしながら,商標の商標登録の可否は,商標の構成,指定商品又は\n指定役務,取引の実情等を踏まえて,当該商標毎に個別に判断されるも のであり,原告が指摘するような商標登録事例があるからといって,そ のことから直ちにそれらの商標とは構成,指定役務の異なる本願商標が,\n取引者,需要者によって,「肉(食肉)に関する専門的知識を有する 者」を意味する語として,一般に認識されるものであったことを否定す ることはできない。
(ウ) 以上によれば,原告の上記1)の主張は理由がない。
イ 上記2)について
原告は,肉の調理方法や肉と他の食材との組み合わせについては,専門 性が必要なのは調理や栄養についてであり,「肉」に関する専門知識の範 疇に含まれないから,本願指定役務中「肉の選択方法・肉の調理方法・肉 と他の食材との組み合わせなどに関する知識」は,「肉(食肉)に関する 専門知識」の範疇に属するとの本件審決の認定は誤りである旨主張する。 しかしながら,「肉ソムリエ」における「肉」が食肉を一般に想起する\nものであり,「ソムリエ」が「客の好みや料理に合わせてワインを選ぶ\n人」(乙4)を想起させるものである以上,その専門的知識は肉の調理方 法や肉と他の食材との組み合わせにも及ぶことが当然に想起されるところ であり,原告の上記2)の主張は採用することができない。

◆判決本文

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平成27(行ケ)10019  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 平成27年10月29日  知的財産高等裁判所

 アルファベットの「i」一文字をデザイン化して,特定の緑色の単色で着色した商標について、識別力なしとした審決が維持されました。3条2項(使用による識別性)も否定されました。
(3) 上記認定事実からすれば,本件審決時である平成26年9月16日におい て,原告が提供する役務である上場投資信託「iShares」は,その売上高が 極めて大きいことからして,金融商品の需要者・取引者によく知られているものと 認められるが,一方,本願商標は,その使用期間が1年2か月程度と短く,新聞や 雑誌に本願商標を用いた広告(その立体的置物を含む。以下同じ。)を掲載したのは 7回にすぎず,トレードショーなどで本願商標を用いたと認められる事例は本件審 決後を含めても5回に限られ,しかも,本願商標は,原告の役務名である「iSh ares」や,原告の名称を表す「byBLACKROCK」と共に使用されるの\nが通例であり,本願商標単独で使用されるものとは認められない。 そうすると,本願商標が指定役務とされる役務に使用されたか否かの判断はひと まず措くとしても,本願商標は,その使用の結果,需要者が原告の業務に係る役務 であることを認識することができるに至ったとは認めるに足りない。
(4) 原告の主張について
ア 原告は,本願商標の使用回数が多いとはいえなくとも,本願商標がコン セプトを感じさせるものであること,その使用者である原告が世界最大級の資産運 用会社であること,原告のiシェアーズのサービスが上場投資信託市場のトップブ ランドであることから,本願商標は取引者,需要者に広く知られている,と主張す る。 しかし,原告及び原告の提供する役務であるiシェアーズが広く知られていると しても,本願商標自体が使用されている頻度が低いのであるから,本願商標が取引 者,需要者に広く知られているとは認めることはできない。原告の主張には,理由 がない。

◆判決本文

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平成27(行ケ)10107  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 平成27年10月21日  知的財産高等裁判所

指定商品「サプリメント」について、商標「ノンマルチビタミン」は、識別性なし(商3条1項3号違反)と判断されました。
 これを本件についてみるに,本願商標は,「ノンマルチビタミン」の片 仮名文字を標準文字で横書きに書してなる商標であり,各構成文字が同じ\n大きさ,等間隔で表されており,外観上一体のものとして把握されるか\nら,本願商標からは「ノンマルチビタミン」の一連の称呼が生じる。 本願商標を構成する「ノン」の語に関し,コンサイスカタカナ語辞典第\n4版(平成22年2月10日発行。乙1の1)には,接頭語として,「 非,無,不,などの意味を表す。」,広辞苑第六版(平成20年1月11\n日発行。乙1の2)には,「(接頭語的に)「非」「無」などの意。」と の記載がある。加えて,コンサイスカタカナ語辞典第4版には,「ノン」を 用いた用例として,「ノンシュガー」が「(一般に)砂糖の入っていない こと。」,「ノンアルコール」が「アルコールを含まないもの。」,「ノ ンオイル」が「食品で,油分・油脂を含んでいないこと」をそれぞれ意味 する旨の記載がある。
・・・
(イ) 前記(ア)によれば,本件審決日当時,本願商標の指定商品である「 サプリメント」の分野において,「マルチビタミン」の語がおおよそ1 0種類ないし13種類といったような複数のビタミンを配合(含有)し たサプリメントを示す用語として用いられていたことが認められる。 ウ 前記ア及びイによれば,本件審決日当時,本願商標は,その言語構成に\n照らし,「複数のビタミンを含まない」との意味合いを一般に想起させる ものであって,その指定商品「サプリメント」の取引者や需要者である一 般消費者によって,上記の意味合いを表す語として認識されるものであっ\nたものと認められる。 そうすると,本願商標は,その指定商品のうち「複数のビタミンを含ま ないサプリメント」,すなわち,「1種類のビタミンを成分とするサプリ メント」又は「1種類のビタミン及びビタミン以外の成分からなるサプリ メント」に使用されたときは,「複数のビタミンを含まないサプリメント」と いう商品の内容(品質)を表示するものとして,取引者,需要者によって\n一般に認識されるものであって,取引に際し必要適切な表示であるものと\n認められるから,特定人によるその独占使用を認めるのは公益上適当でな いとともに,自他商品識別力を欠くものというべきである。 加えて,本願商標は,標準文字で構成されているから,「ノンマルチビ\nタミン」の文字を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなるもの\nであるといえる。 したがって,本願商標は,その指定商品のうち「複数のビタミンを含ま ないサプリメント」に使用されたときは,商標法3条1項3号に該当する ものと認められる。

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平成27(行ケ)10061  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 平成27年9月16日  知的財産高等裁判所

 商標「納棺士」について、「納棺師」が周知であることから、識別性力なしとの審決が維持されました。
 「納棺師」の語が,納棺の際に執り行われる儀式を 専業的に提供する者を表す語として,葬儀業者,斎場,テレビ番組「NH\nKスペシャル」等のウェブサイトや,新聞,書籍等でも使用されているこ とが認められる。 他方で,本願商標を構成する「納棺士」の語よりも,広く世の中に知られており,「納棺士」の語は納棺の業務を行う者を表\す語として定着しているとはいえないことからすると,本願商標は,本件役務の質を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる\n商標とはいえないから,商標法3条1項3号に該当しない旨主張する。 しかしながら,原告の主張は,以下のとおり理由がない。
ア 「士」の語には「兵卒の指揮をつかさどる人。また,軍人。兵。」,「近 世封建社会の身分の一つ。もののふ。さむらい。」との意味もあり(前記(1 )イ(ア)),このような意味で用いられ,語尾に「士」が付される場合とし ては,「勇士,武士,兵士」のような例はあるが,「弁護士,弁理士,税 理士,栄養士,消防士,航海士,機関士」などのように,その業務や役割 などを表す語に続けて付される場合には,「一定の資格・役割をもった者。」\nとの意味に理解されるのが通常であるから,「納棺」という業務や役割を 表す語に続けて付された「士」の語についても,これと同様に,「一定の\n資格・役割をもった者。」との意味に理解されるものであり,武士の意味 合いを強く発揮し得るものということはできない。
イ 「コトバンク」のウェブサイト(甲31)に,「知恵蔵2015の解説」 として,「納棺師」の語について,「亡くなった人の体を清め,死装束を 着せ,きれいに化粧して棺に納める仕事。葬儀というしめやかな儀式にか かわる職業のため,あまり知られていなかったが,納棺師を描いた映画「お くりびと」が第81回アカデミー賞外国語映画賞を受賞したことで,一躍, 注目を浴びる職業となった。」との記事が掲載され,「webilo」の ウェブサイト(甲32)に,「納棺師」の見出し語について,「納棺師(の うかんし)は,死者を棺に納めるために必要な作業と関連商品の販売を行 う職業人である。」との掲載があるほか,証拠(甲9ないし30,33な いし40)によれば,「納棺師」の語が,納棺の際に執り行われる儀式を 専業的に提供する者を表す語として,葬儀業者,斎場,テレビ番組「NH\nKスペシャル」等のウェブサイトや,新聞,書籍等でも使用されているこ とが認められる。 他方で,本願商標を構成する「納棺士」の語についても,本件審決日当\n時,その言語構成に照らし,「死者を棺に納める資格ないし役割をもった\n者」との意味合いを一般に想起させるものであり,葬儀業者,遺族等によ って,納棺の際に執り行われる儀式を専業的に提供する者を表す語として\n認識されるものであったものと認められることは,前記(1)イ(ウ)に認定の とおりであるから,本願商標は,本件役務である「納棺,納棺に関する相 談,遺体への死化粧の施術」に使用されたときは,その役務が「死者を棺 に納める資格ないし役割をもった者」によって提供されるという役務の質 を表示するものとして,取引者,需要者である葬儀業者,遺族等によって\n一般に認識されるものであり,取引に際し必要適切な表示として何人もそ\nの使用を欲するものであったものと認められる。

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◆関連判断です。こちらは「湯灌士」です。平成27(行ケ)10062

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平成27(行ケ)10085  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 平成27年9月17日  知的財産高等裁判所

 商標「雪中熟成」は識別性無しと判断されました。
 前記2で認定した事実によれば,本願商標を構成する「雪中熟成」の語\nは,本件審決当時,「雪の中で熟成すること」等の意味合いを有する語として, 本件指定商品の取引者,需要者によって一般に認識されるものであったことが認 められる。したがって,本件審決当時,本願商標は,本件指定商品に使用された ときは,「雪の中で熟成された商品」といった商品の品質又は生産の方法を表示\nするものとして,取引者,需要者によって一般に認識されるものであり,特定人 によるその独占使用を認めるのは公益上適当でないと判断されるものであり,自 他商品の識別力を欠くものというべきである。 そして,本願商標は,前記2(1)のとおり,「雪中熟成」の文字を普通に用い られる方法で表示する標章のみからなるものであるということができる。\n以上によれば,本願商標は,商標法3条1項3号に該当するものと認められる。
(2) 原告の主張について
ア 原告は,アルコール及び味噌については,発酵食品はその性質上,発酵を 促すために適当な温度の下に貯蔵し,熟成させることが一般的に行われ,果物や 野菜についても,0℃に近い環境下で自身の持つアミノ酸を糖分に分解し凍結し ないようにするために糖度が増すことが知られており,牛肉についても,近年「熟 成肉」の名称でもてはやされている実情があるのに対して,本件指定商品である 水産物は,一般には鮮度が最も重要視される類の商品であって,牛肉等の畜肉と 比較して,鮮度が落ちやすく,腐りやすい特性を持つことから,その熟成につい ては,塩・粕・みそ漬け等の調味や乾燥等の調理を加えて熟成することが一般に 行われ,その熟成が管理された冷蔵庫・冷蔵施設等において低温の下で行われて いるのであって,発酵食品や果物・野菜・食肉は,本件指定商品である加工水産 物,食用魚介類とは性質及び特性が全く異なる商品であるから,「需要者を共通 にする」という理由で,あたかも本件指定商品の取引の実情としてしんしゃくす ることは許されない旨主張する。 しかし,前記2(4)のとおり,果物,野菜,食肉,味噌,アルコール飲料等の 飲食料品関連の業界分野と,本件指定商品である「加工水産物,食用魚介類(生 きているものを除く。)」を取り扱う業界分野とは,いずれも飲食料品ないし生 鮮食料品を取り扱う業界分野であることから,その取引者,需要者を共通にする 場合も多いことが推認できる。アルコール飲料及び味噌について,発酵を促すた めに適当な温度の下で一定期間熟成させることが一般的に行われ,果物や野菜に ついて,0℃に近い環境下で保存することによって糖度が増すことが知られ,牛 肉について「熟成肉」の名称で一定期間熟成させたものが知られていて,これに 対して,本件指定商品が一般には鮮度が最も重要視される類の商品であるからと いって,各業界分野において取引者,需要者を共通にする場合が多いとの上記推 認が覆るものではない。

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平成26(行ケ)10089  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 平成27年2月25日  知的財産高等裁判所

 「IGZO(標準文字)」が識別力無しとして無効であるとした審決が維持されました。
 ア 本件商標は,「IGZO」を標準文字で表してなるものである。そして,上記2の認定事実によれば,1)「IGZO」の語は,平成7年に,新規な物質として公表された「In(インジウム),Ga(ガリウム),Zn(亜鉛)及びO(酸素)からなる酸化物」(本件酸化物)を指す語として紹介され,使用されるようになったこと,2)平成16年頃からは,本件酸化物についての研究,開発がディスプレイ分野や半導体分野のエレクトロニクス業界の企業等で活発に行われるようになり,平成22年1月に東京工業大学で開催された国際ワークショップには,国内の多数の企業関係者が出席し,本件酸化物(半導体)に関する研究内容を紹介したこと,3)本件商標の登録査定時には,既に,多数の大手企業が,本件酸化物に関する研究開発を実施し,1000件以上の本件酸化物に関する特許出願をしていたのみならず,本件酸化物(材料)自体の製造や,本件酸化物を用いた半導体素子を製造する設備 の展示会等での展示や受注,本件酸化物を使用した技術の開発,実用化に向けた試作等を行っていたものであり,ディスプレイ分野や半導体分野のエレクトロニクス業界に属する企業等において,半導体材料としての本件酸化物への関心が高まっていたこと,4)具体的には,本件酸化物を使用したTFTは,当時,液晶テレビ,スマートフォン等の製造に使用される液晶パネルや有機ELパネルの機能を大幅に向上させることが可能\なものとして注目されるとともに,多くの新しい特徴を持つ期待の新材料として,ディスプレイの分野だけではなく,太陽電池,不揮発性メモリー,紫外線センサーの分野での利用も見込まれていたほか,電子荷札(ICタグ)に使用するRFID(無線自動識別)チップ,パワー半導体,小型の電子ペーパーなどの携帯端末における利用の技術開発も進んでおり,本件酸化物を用いた半導体素子の応用開発,研究がされ,今後幅広い範囲の電子デバイスの性能を向上させ得るものとして期待されていたこと,5)このような本件酸化物の研究開発の進展,広がりに伴って,本件酸化物を指す語としての「IGZO」の語も,本件商標の登録査定時には,既に上記のとおり幅広い企業の特許出願書類中において使用されるようになっていたのみならず,上記企業による製品の開発状況等を報道する新聞,雑誌や企業広報等においても,本件酸化物を指す語として「IGZO」の語が使用されるようになっていたことが認められる。 以上によれば「IGZO」の語は,本件商標の登録査定時には,技術者だけではなく,ディスプレイや半導体を用いる分野のエレクトロニクス業界に属する企業等の事業者において,新規な半導体材料である「インジウム・ガリウム・亜鉛酸化物(本件酸化物)」を意味する語として,広く認識されていたものといえる。
イ そして,本件商標(IGZO)が,その指定商品である「液晶テレビジョン受信機」(本件商標4),「ノートブック型コンピュータ」(本件商標5),「ノートブック型コンピュータ,タブレット型携帯情報端末を除くコンピュータ」(本件商標6),「タブレット型携帯情報端末」(本件商標7),「スマートフォン」(本件商標8),「携帯電話機」(本件商標9)について用いられた場合,これらの指定商品は, いずれもその構成部品の一つとしてディスプレイパネルを含むのが通常であり,また,ディスプレイパネルの性能\が商品の品質に重要な影響を及ぼすものであるから,これらの指定商品に係る商品を製造,販売する企業等,すなわち,これらの指定商品の取引者であり,また,需要者の一部にも含まれる者である事業者は,本件商標の表示する本件酸化物が,各指定商品のディスプレイパネルに使用されているものと一般に認識するものといえる。したがって,本件商標4ないし9は,取引者及び需要者が,本件商標4ないし9の指定商品が,商標の表\示するもの(本件酸化物)を原材料の一つとしているであろうと一般に認識するものであるから,指定商品との関係で自他商品識別力を有するということができない。
また,本件商標1の指定商品は,「1)携帯電話機,スマートフォン,タブレット型携帯情報端末,液晶テレビジョン受信機を除く電気通信機械器具及び2)タブレット型携帯情報端末,コンピュータ,ノートブック型コンピュータを除く電子応用機械器具」,本件商標2の指定商品は,「1)電子応用機械器具の部品,2)電池,3)配電用又は制御用の機械器具」であるところ,これらの指定商品に係る商品には広範囲の機械器具やその部品が含まれ得る。例えば,本件商標1の指定商品のうち,上記1)の電気通信機械器具に係る商品には,電気通信機械器具の部品であるディスプレイパネル自体が含まれるほか,ディスプレイパネルがその構成部品の一つとして通常含まれるデジタルカメラやビデオカメラ,半導体素子がその構\成部品の一つとして通常含まれる無線通信機械器具等も含まれ,上記2)の「電子応用機械器具」に係る商品には,電子計算機用ディスプレイ装置が含まれるほか,半導体素子がその構成部品の一つとして通常含まれる電子式卓上計算機,電子辞書等も含まれる。また,本件商標2の指定商品のうち,上記1)の「電子応用機械器具の部品」に係る商品には,トランジスタを含む半導体素子や電子回路自体が含まれ,上記2)の「電池」に係る商品には,ディスプレイパネルを構成部品の一部とすることがある蓄電池が含まれ,上記3)の「配電用又は制御用の機械器具」には,ディスプレイパネルや制御のための半導体素子がその構成部品の一部として通常含まれる配電盤が含まれる。\n さらに,前記認定事実のとおり,本件商標の登録査定時において,本件酸化物が,現代の多くの電子デバイスにおいては必要不可欠な構成部品である半導体素子の新規な材料で,かつ,その性能\が従来の材料にはないものとして,ディスプレイに限らず,今後幅広い範囲の電子デバイスの性能を向上させ得るものとして期待され,注目されていたこと,本件酸化物を用いた半導体素子はその用途が研究開発中の新規なものであり,エレクトロニクス業界に属する事業者にとっても具体的な電子デバイスへの適用の仕方は特定されていなかったことからすれば,本件商標を,本件商標1及び2の指定商品の器具等について使用すれば,これらの指定商品に係る商品を製造,販売する企業等,すなわち,これらの指定商品の取引者であり,需要者の一部にも含まれる者(なお,本件商標2の指定商品のうち,「配電用又は制御用の機械器具」の主たる需要者は,一般消費者ではなく,事業者であることは原告も自認しており,その余の同商標の指定商品及び本件商標1の指定商品に係る商品にも,事業者が主たる需要者となることが明らかな商品が多数含まれている。)である事業者によって,当該商品が本件商標の表\示する材料(本件酸化物)をその原材料として含んでいるのであろうと一般に認識され得るものといえる。そうすると,本件商標1及び2も,それらの指定商品との関係で自他商品識別力を有するということはできない。
ウ さらに,前記のとおり,本件酸化物が,現代の電子デバイスにおいては必要不可欠な構成部品である半導体素子の新規な材料であり,かつ,その性能\が,ディスプレイパネルを代表とする幅広い範囲の電子デバイスの性能\を向上させ得るものとして期待,注目されており,ディスプレイ分野や半導体分野に関連するエレクトロニクス業界の幅広い企業等において実用化に向けた研究開発がされていたことからすれば,本件商標は,ディスプレイパネルや半導体素子が原材料として認識され得る本件各商標の指定商品に係る商品の取引に際して,必要適切な表示として,何人もその使用を欲するものであるといえるから,特定人によるその独占使用を認めることが公益上適当であるともいえない。\n

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平成26(行ケ)10152  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 平成27年1月28日  知的財産高等裁判所

 商標「湘南二宮オリーブ」は識別力無しとした審決が、維持されました。
 本願商標は,「湘南二宮オリーブ」の文字を標準文字で表してなり,その指定商品は「湘南地方二宮町産のオリーブを原材料とするオリーブオイル」である。「湘南」は,神奈川県南部の,三浦半島から伊豆半島に至る相模湾沿岸地域の意味を有する語として,広く知られていること(乙2の1・2),湘南地方内の特定の地域を表\すために「湘南」の文字と湘南地方に位置する地名を組み合わせて表示することも多く行われており(乙3ないし7),同地方内の神奈川県中郡にある「二宮町」を\n 表すものとして,「湘南二宮」との表\示も多く使用されていること(甲30,31,乙9ないし14)からすれば,本願商標のうち「湘南二宮」の部分は,「湘南地方の二宮町」を表したものと理解される。\nまた,本願商標のうち「オリーブ」の部分は,指定商品を含むオリーブオイルとの関係では,果実の「オリーブ」であることを意味し,オリーブオイルの原材料を表したもの,と広く理解される語である。\n以上の事実に加えて,オリーブオイルを含む食用油の分野では,他の多くの食品分野と同様に,その原材料がどのようなものであるかについての需要者の関心が高く,食用油の原材料や原材料の産地を,商品名の一部としたり,商品説明に記載しているという取引の実情が認められること(乙16ないし21,弁論の全趣旨)からすれば,本願商標である「湘南二宮オリーブ」を指定商品に使用しても,取引者及び需要者は,本願商標の表示は「湘南二宮産のオリーブ」を意味し,当該指定商品が「湘南地方の二宮町産のオリーブを原材料とするオリーブオイル」であることを表\したにすぎないものと理解するのが自然である。 したがって,本願商標は,その指定商品との関係では,商標法3条1項3号所定の「商品の・・品質,原材料・・を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」に該当するというべきである。\n

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平成26(行ケ)10193  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 平成27年1月29日  知的財産高等裁判所

 商標「全国共通お食事券」指定商品「第16類 印刷物」および指定役務「第36類 前払式証票の発行」が識別力無しとした審決が維持されました。使用による識別力獲得(商3条2項)の主張も認められませんでした。
 原告は,「全国共通お食事券」の語については,種々の代替可能な名称が存在することから,独占適応性を欠くとはいえない旨主張する。\nしかしながら,商標法3条1項3号の意義について前述したとおり,商品又は役務の特性を表示記述する標章は,多くの場合,当該商品又は役務に係る取引一般において,取引の内容を説明するために必要かつ適切な表\示として機能するものであるから,たとえ当該標章と同じ意味合いを生ずるなど同標章に代替し得るものが存在するとしても,同標章について特定人の独占的使用を認めれば,その他の者は同標章を使用できなくなり,このことによって,取引に支障を来し,円滑な流通が阻害されるなどという公益上の問題が生じるおそれは,依然として存在するというべきである。\nそして,前述したとおり,本願商標を構成する「全国共通お食事券」の語は,本願指定役務の質を記述する標章であるから,これに代替し得るものが存在するとしても,特定人に独占的使用を認めれば,前述した公益上の問題が生じるおそれがあることは明らかである。\nしたがって,「全国共通お食事券」の語については,代替可能な語の存否にかかわらず,独占適応性を認めることはできず,原告の前記主張は採用できない。
a 原告は,「食事券」が「食事券の発行」という役務との関係においては,「役務の提供の用に供する物の質」の表示に当たることを前提として,本件審決は,本願商標をもって,「食事券」という本願指定役務の提供の用に供する物の質の表\示として認識される旨の判断をしており,商標法3条1項3号の適用範囲に含まれない「役務の提供の用に供する物の質」の表示まで同号の範疇に取り込ん\nでいる旨主張する。 b しかしながら,「食事券の発行」という役務との関係において,「食事券」は,「発行」の対象であり,上記役務の成果に他ならない。したがって,「食事券」に係る表示は,上記役務の成果に係る表\示であるから,同役務の「質」の表示に該当するというべきである。\n本件についてみると,本願商標である「全国共通お食事券」は,「食事券」に係る表示であり,本願指定役務は,「全国の加盟店で利用可能\な」という性質を有する「食事券の発行」であるから,本願商標は,本願指定役務の質を表示するものと認められる。\n他方,商標法3条1項3号所定の「(役務の)提供の用に供する物」とは,当該役務を提供するための手段として供される物を指すものと解され,例えば,「自動車による輸送」という役務については,輸送手段であるトラックや大型車などの自動車が,「コーヒー飲料の提供」という役務については,コーヒーカップなどの容器やサイフォンなどコーヒー飲料を作る用具などが,当該役務の提供の用に供する物に該当する(甲98)。本願指定役務については,「(役務の)提供の用に供する物」の例として「食事券を作成する印刷機」などが挙げられるが,「発行」という役務の対象となる「食事券」そのものが,「提供の用に供する物」に該当すると解する余地はない。 c 以上によれば,本件審決が,本願商標をもって,本願指定役務の質を表示するものと認めたことに誤りはなく,原告の前記主張は,採用できない。
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他方において,前記2のとおり,ぐるなびのウェブサイト上に平成23年9月15日付けで「『ぐるなびギフトカード』全国共通お食事券の販売を開始」などという広告が掲載されるまでは,本件証拠上,原告以外の者が,食事券について「全国共通お食事券」の語を使用していた事実は,認められない。 イ(ア) しかしながら,原告食事券,加盟店一覧表,加盟店リスト,原告加盟店ステッカー,その他原告作成に係る販促用チラシ等の資料,広告のいずれにおいても,原告食事券を示すものとして,「全国共通お食事券」の語が単独で使用されたことはなく,同語は,常に,「ジェフグルメカード」の語と併記されて使用されてきた。この点に関しては,原告自身,本願商標,すなわち,「全国共通お食事券」を単独で使用したことがない点については,争わない旨を述べているところである。\n加えて,前述したとおり,原告食事券を採り上げたテレビ番組等における紹介など,原告以外の主体が原告食事券に言及する場合においても,「全国共通お食事券」の語が単独で使用されたことはなく,常に「ジェフグルメカード」の語と併用されてきた。
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(エ) 以上に鑑みると,前述したとおり,「全国共通お食事券」の表示は,原告食事券を示すものとして単独で使用されたことはなく,常に「ジェフグルメカード」の表\示と併用されているところ,これらに接した取引者,需要者においては,「全国共通お食事券」の表示をもって,原告食事券という特定の商品を指すものとして理解し,同表\示のみによって原告食事券の出所が原告である旨を認識することはなく,併用されている「ジェフグルメカード」に着目して,原告食事券の出所が原告である旨を認識するものというべきである。

◆判決本文

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 >> 商3条1項各号
 >> 識別性
 >> 使用による識別性

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