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知財みちしるべ:最高裁の知的財産裁判例集をチェックし、判例を集めてみました

争点別に注目判決を整理したもの

新規事項

平成31(行ケ)10026  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和元年12月11日  知的財産高等裁判所

 無効審判における訂正請求は、新規事項であるとした審決が維持されました。

 本件で主に問題とされているのは実施例2であるが,その検討の前提と して,本件当初発明の意義及び実施例2の変更元である実施例1について まず検討する。 本件当初発明は,特に出力部材が前進限界位置や後退限界位置などの所 定の位置に達した際に,出力部材の動作に連動させてシリンダ本体内のエ ア通路の連通状態を開閉弁機構により切換え,エア圧の変化を介して前記\n出力部材の位置を検知可能にした流体圧シリンダ及びクランプ装置に関す\nるものであり(段落【0001】),流体圧シリンダの小型化,出力部材 の位置検出の信頼性や耐久性の向上等を目的とするものである(段落【0 011】,【0021】ないし【0023】)。 実施例1は,第1エア通路21のエア圧を介して,出力部材4が上昇限 界位置にあることを検出する為の第1開閉弁機構30,第2エア通路22\nのエア圧を介して,出力部材4が下降限界位置にあることを検出する為の 第2開閉弁機構50を備えるクランプ装置1である(段落【0036】)。\n第1開閉弁機構30は,油圧導入室33が,油圧導入路34を介して,ク\nランプ油室14に接続され,クランプ油室14に油圧が供給されると,油 圧導入路34から油圧導入室33に油圧が導入され,その油圧が弁体本体 38を進出方向へ付勢し,閉弁状態から開弁状態となる。逆に,クランプ 装置1がアンクランプ状態になったとき,油圧導入室33の油圧がドレン 圧になり,ピストンロッド部材4aの大径ロッド部4eにより弁体本体3 8がキャップ部材32側へ押動され開弁状態から閉弁状態に切換わる(段 落【0057】ないし【0059】)。第2開閉弁機構50は,クランプ\n装置1がアンクランプ状態のとき,アンクランプ油室15の油圧が,油圧 導入孔(路)54から油圧導入室53へ導入され,油圧導入室53の油圧 により弁体51が上方へ付勢されて上方へ移動して開弁状態となる。逆に, アンクランプ油室15の油圧をドレン圧に切換え,ピストンロッド部材4 aが下降限界位置まで下降すると,弁体本体58がピストン部4pにより 下方へ押動され,開弁状態から閉弁状態に切換わる(段落【0069】, 【0070】)。また,本件当初明細書には,実施例1の効果として,エ ア通路のエア圧を介して,クランプ状態になったこと,又は,出力部材の 所定の位置を確実に検知できること(段落【0070】,【0073】), 第1,第2開閉弁機構をクランプ本体内に組み込むことができるため,油\n圧シリンダ1を小型化することができること(段落【0071】),第1, 第2開閉弁機構では,クランプ油室内(第2開閉弁機構\においてはアンク ランプ油室内)の油圧を油圧導入室に導入し,その油圧を弁体に作用させ て,弁体を出力部材側へ突出状態に保持できるため,信頼性と耐久性の面 で有利であること(段落【0072】)が記載されている。
イ(ア) 次に,本件当初明細書には,実施例2として,実施例1の第2開閉 弁機構50を部分的に変更し,弁体本体58Aの下端部分に形成した凹\n穴58dと油圧導入室53に圧縮コイルスプリング53aを装着するこ とで,弁体本体58Aが,油圧導入室53の油圧によって上方へ付勢さ れると共に,圧縮コイルスプリング53aによって上方へ付勢されるよ うにした第2開閉弁機構50Aが開示されている(段落【0074】,\n【図11】,【図12】)。ここで,圧縮コイルスプリング53aは「ク ランプ状態からアンクランプ状態へ切換える際に,アンクランプ油室1 5に充填される油圧の圧力が立ち上がるまでの過渡時における,弁体5 1の作動確実性を高める」(段落【0075】)ものとされているから, 実施例2において,弁体本体58Aを上方へ付勢する力は,主としてア ンクランプ油室15から油圧導入路54を通じて油圧導入室53に導入 される油圧によるものであって,圧縮コイルスプリング53aは,油圧 による付勢力が立ち上がるまでの間,補助的に用いられるものと認めら れる。
(イ) 発明の効果との関係で,第2開閉弁機構50Aは,「実施例1の油\n圧シリンダと同様の効果を得られる」(段落【0075】)ものである とされている。ここで,実施例1の油圧シリンダの効果の1つとして, アンクランプ油室内の油圧を油圧導入室に導入し,その油圧を弁体に作 用させて,弁体を出力部材側へ突出状態に保持できるため,信頼性と耐 久性の面で有利であることが記載されていることは,前記アのとおりで ある。よって,実施例2における油圧導入室53と油圧導入路54は, 信頼性と耐久性の面で有利という発明の効果を奏するための必須の構成\nといえる。 また,油圧シリンダの小型化という効果について,段落【0071】 には油圧を用いることとの関係は明記されていないものの,段落【00 21】に,「シリンダ本体内のエア通路を開閉する開閉弁機構を設け,\nこの開閉弁機構は,弁体と弁座と流体圧導入室と流体圧導入路とを備え,\n弁体をクランプ本体に形成した装着孔に組み込むことで,開閉弁機構を\nシリンダ本体内に組み込むことができるため,流体圧シリンダを小型化 することができる」と記載されていることからすれば,実施例2におい て油圧導入室53と油圧導入路54とを備えることが,油圧シリンダの 小型化に関係していると考えるのが自然である。原告は,段落【002 1】の記載は,本件当初発明1に規定された「開閉弁機構」の構\成を列 挙したものにすぎないと主張するが,現に記載がある以上,それを無視 することはできない。 このように,実施例2において,油圧導入室53と油圧導入路54は, 発明の効果と結びつけられた構成といえる。\n
ウ 実施例3は,実施例1の第2開閉弁機構50を部分的に変更し,環状部\n材57を省略した第2開閉弁機構50Bとするものである(段落【007\n6】)。 実施例4は,実施例3の第2開閉弁機構50Bを部分的に変更し,キャ\nップ部材52Cの内部にカップ状のカップ部材52cを設けた第2開閉弁 機構50Cとするものである(段落【0080】,【0081】)。\n実施例5は,開閉弁機構を,弁体31D,51を可動弁体なしで弁体本\n体38,58のみで構成するとともに,出力部材の位置と開閉弁機構\の開 閉状態との関係を実施例1の場合と逆にした第1開閉弁機構30D,第2\n開閉弁機構50Dとするものである(段落【0084】,【0085】,\n【0089】,【0090】,【0092】)。 実施例6ないし8は,開閉弁機構については,実施例1または5と同様\nの構造である(段落【0096】,【0106】,【0112】,【01\n13】)。 このように,実施例3ないし8は,いずれも開閉弁機構については,実\n施例1と同様に,流体圧導入室及び流体圧導入路を設けることのみによっ て,弁体を出力部材側に進出させた状態に保持する構成である。また,実\n施例3ないし8は,いずれも実施例1と同様の効果が得られるとされてい る(段落【0079】,【0083】,【0093】,【0100】,【0 111】,【0118】)
エ 段落【0119】及び【0122】には,前記実施例を部分的に変更す る例として,「本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の開閉弁機構を採用\nすることができる。」とされているが,変更の具体的な内容は記載されて いない。
オ 本件当初発明7は,「前記開閉弁機構は,前記弁体を前記出力部材側に\n弾性付勢する弾性部材を有することを特徴とする請求項1に記載の流体圧 シリンダ。」というものである。 本件当初発明7は,本件当初発明1を引用するところ,本件当初発明1 は,「前記流体室の流体圧によって前記弁体を前記出力部材側に進出させ た状態に保持する流体圧導入室と,前記流体室と前記流体圧導入室とを連 通させる流体圧導入路とを備え」るものであるから,本件当初発明7も, 流体圧導入室と流体圧導入路を備えるものであることは明らかであり,段 落【0029】の記載も,かかる理解と整合的である。 カ 以上のとおり,本件当初明細書等の記載のうち,実施例2の構成は,油\n圧導入室53と油圧導入路54を備えることによる油圧による付勢を主と し,圧縮コイルスプリング53aによる付勢を補助的に用いるものである (前記イ(ア))。かかる構成から,主である油圧による付勢に係る構\成を あえてなくし,補助的なものに過ぎない圧縮コイルスプリングのみで付勢 するという構成を導くことはできないというべきであり,実施例2におい\nては,油圧導入室53と油圧導入路54が発明の効果と結びつけられて記 載されていること(前記イ(イ))を考慮するとなおさらである。段落【0 119】及び【0122】の記載は,具体的な変更内容を示すものではな いから(前記エ),上記認定を左右しない。また,本件当初明細書のその 他の実施例は,流体圧導入室及び流体圧導入路のみによって弁体を出力部 材側に進出させた状態に保持する構成である(前記ウ)。本件当初明細書\n等のその他の部分にも,流体圧導入室及び流体圧導入路を備えない構成に\nついての開示はない。 そのため,開閉弁機構に流体圧導入室及び流体圧導入路を設けることな\nく,弾性部材のみによって弁体を出力部材側に進出させた状態に保持する 構成は,当業者によって本件当初明細書等のすべての記載を総合すること\nにより導かれる技術的事項とはいえない。
(4) 原告の主張について
ア 原告は,段落【0122】において開閉弁機構の改変が示唆され,実施\n例2においては弁体を進出させる構成を改変することが示されていること,\nその改変後の進出機構(実施例2)において,弾性部材を用いることも明\n示されていること,「弾性部材単独構造」は当業者にとって周知技術ない\nし技術常識であることから,かかる構造を選択することは当業者にとって\n極めて自然であり,本件当初明細書等の記載を「弾性部材のみで弁体を進 出させる」という技術常識と結び付けて理解しようとするための契機(示 唆)が本件当初明細書等に含まれていると主張する。 しかし,段落【0122】の記載は,変更の具体的な内容を示すもので ないことは前記(3)エのとおりである。また,開閉弁機構の変更は,環状部\n材57の省略,キャップ部材52Cの内部にカップ状のカップ部材52c を設ける,出力部材の位置と開閉弁機構の開閉状態との関係を逆にすると\nいうように,弁体を進出させる構成に係る変更に限られない(前記(3)ウ)。 一方,実施例1及びそれと同様の効果を有するとされている実施例2ない し8においては,流体圧導入室(油圧導入室)と流体圧導入路(油圧導入 路)は,発明の効果と結びつけて記載されているのである(前記(3)アない しウ)。そうだとすれば,段落【0122】の記載から,開閉弁機構を変\n更することは読み取れても,その変更の内容として,流体圧を用いない構\n成とすることは想定しがたい。 そのため,当業者にとって,流体圧を用いず弾性部材のみで弁体を進出 させる開閉弁の構造が周知技術ないし技術常識であるとしても,段落【0\n122】等の記載から,本件当初明細書等に記載された発明に当該構造を\n結びつけ,現在ある流体圧を用いる構成をなくすことを導くことはできな\nい。
イ 原告は,本件当初明細書等には,(1)「出力部材が所定の位置に達したこ とをシリンダ本体内のエア通路のエア圧の圧力変化を介して確実に検知可 能で小型化可能\な流体圧シリンダ及びクランプ装置を提供すること」と, (2)「出力部材の所定の位置を検出する信頼性や耐久性を向上し得る流体圧 シリンダ及びクランプ装置を提供すること」という2つの別個独立の発明 が示されており,前者の発明においては流体圧導入室及び流体圧導入路は 必須の構成ではないから,「弾性部材単独構\造」は,本件当初明細書の段 落【0122】でいうところの「本発明の趣旨を逸脱しない範囲」のもの であると主張する。 しかし,仮に,(1)と(2)が別個独立の発明であると理解できるとしても, 実施例2を含む各実施例は,(1)及び(2)の両者の課題を解決する構成となっ\nているのであり(前記(3)アないしウ),そこから(2)の課題解決のための構\n成をあえてなくすことは,本件当初明細書等の記載から導けることではな い。 また仮に(1)の課題だけが解決できれば良いのだとしても,(1)の効果との 関係でも開閉弁機構が,「流体圧導入室」と「流体圧導入路」とを備える\nことが記載されている(前記(3)イ(イ))一方で,これらを備えない構成で\nの解決手段については何ら記載されていないから,「弾性部材単独構造」\nを採用することにはならない。
ウ よって,原告の主張は採用できない。
2 結論
以上のとおり,本件補正は,当業者によって本件当初明細書等のすべての記 載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的 事項を導入しないものであるとは認められず,この点に関する本件審決の判断 に誤りはないから,取消事由1は理由がない。そして,新規事項を追加する補 正をしたことは,そのこと自体が無効理由とされているから(特許法123条 1項1号),本件特許は,取消事由2(サポート要件)の理由の有無に関わら ず,無効とされるべきものである。

◆判決本文

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平成30(行ケ)10047  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和元年5月23日  知的財産高等裁判所

 訂正を認める、無効理由なしとした審決が維持されました。争点は、新規事項、サポート要件、進歩性です。被告(特許権者)は東芝からメモリ事業を買収した会社ですが、その後東芝メモリと商号変更しています。

 本件訂正事項は,本件訂正前の請求項21の「内層として形成される複 数の配線層」にいう「複数の配線層」を「グランドまたは電源となる3つ のプレーン層」と「信号を送受信する3つの信号層」を備える「配線層」 に限定するものである。そして,本件訂正後の請求項21の文言から,「グ ランドまたは電源となる3つのプレーン層」にいう「電源となる…プレー ン層」は,「配線層」であって,半導体装置の基板に搭載された「ドライ ブ制御回路」や「不揮発性半導体メモリ」に対して,電源電圧が供給され る電源線として機能することを理解できる。\n次に,本件明細書には,「電源回路5は,ホスト1側の電源回路から供 給される外部直流電源から複数の異なる内部直流電源電圧を生成し,これ ら内部直流電源電圧を半導体装置100内の各回路に供給する。」(【0 011】),「略長方形形状を呈する基板8の一方の短辺側には,ホスト 1に接続されて,上述したSATAインタフェース2,通信インタフェー ス3として機能するコネクタ9が設けられている。コネクタ9は,ホスト\n1から入力された電源を電源回路5に供給する電源入力部として機能す\nる。」(【0012】),「図4は,基板8の層構成を示す図である。基\n板8には,合成樹脂で構成された各層(絶縁膜8a)の表\面あるいは内層 に様々な形状で配線層8bとして配線パターンが形成されている。配線パ ターンは,例えば銅で形成される。基板8に形成された配線パターンを介 して,基板8上に搭載された電源回路5,DRAM20,ドライブ制御回 路4,NANDメモリ10同士が電気的に接続される。…」(【0013】), 「基板8の各層に形成された配線層8bは,図5に示すように,信号を送 受信する信号層,グランドや電源線となるプレーン層として機能する。」\n(【0015】)との記載がある。また,図5には,基板8の内層として, 「3層」,「4層」及び「6層」に「信号層」を,「2層」及び「7層」 に「プレーン層(GND)」を,「5層」に「プレーン層(電源)」を配 する層構成が示されている。\nこれらの記載事項によれば,図5の「5層」の「プレーン層(電源)」 は,配線層であって,半導体装置の基板に搭載された「ドライブ制御回路」 や「不揮発性半導体メモリ」である「NANDメモリ」に対して,電源回 路5において外部直流電源から生成した「内部直流電源電圧」が供給され る電源線として機能することを理解できる。\n以上によれば,本件訂正後の請求項21の「グランドまたは電源となる 3つのプレーン層」にいう「電源となる…プレーン層」は,本件明細書に 記載されているものと認められるから(【0011】ないし【0013】, 【0015】,図5),本件訂正は,本件明細書に記載された事項の範囲 内においてしたものであって,新規事項の追加に当たらないものと認めら れる。
イ これに対し原告は,本件明細書の【0015】記載の「電源線」とは, 基板のいずれかの層に設けられた「配線」程度を意味するものであり,「発 電機または電池のように,外部に電気エネルギーを供給しうる源」を意味 する「電源」(甲62,63)とは全く異なる概念であるが,本件訂正事 項は,「電源線」を「電源」とする訂正を含むものであり,本件訂正事項 のとおりに請求項21を訂正した場合には,配線層の中に「電源」がある こととなって,本件明細書の「電源はホスト1にある」旨の記載とも矛盾 するから,本件訂正は,本件明細書に記載されていない新規事項を追加す るものであって,本件明細書に記載された事項の範囲内においてしたもの とはいえない旨主張する。 しかしながら,前記ア認定のとおり,本件訂正後の請求項21の「グラ ンドまたは電源となる3つのプレーン層」にいう「電源となる…プレーン 層」は,半導体装置の基板に搭載された「ドライブ制御回路」や「不揮発 性半導体メモリ」に対して,電源電圧が供給される電源線として機能する\n「配線層」であって,「電源」そのものではないから,原告の上記主張は, その前提において採用することができない。
(3) 小括
以上のとおり,本件訂正は,本件明細書に記載された事項の範囲内におい てしたものであって,新規事項の追加に当たらないから,これと同旨の本件 審決の判断に誤りはなく,原告主張の取消事由1は理由がない。
・・・・
原告は,本件特許発明1,14及び21の「第1の値が7.5%以下」及 び「前記第1の平均値と前記第2の平均値はともに60%以上」並びに本件 特許発明1,2,5,6,17,21及び25の「配線密度が80%以上」 は,いずれも原出願当初明細書に記載されていないから,本件出願は,分割 出願の要件を満たしていない不適法な分割出願であり,これと異なる本件審 決の判断は誤りである旨主張するので,以下において判断する。
ア 「第1の値が7.5%以下」について
(ア) 前記(1)の記載事項によれば,原出願当初明細書には,「本発明」は, 平面視において長方形形状の基板を用いる場合に,基板の反りを抑える ことができる半導体装置を提供することを目的とし(【0005】), 上層(基板の層構造の中心線よりも表\面層側に形成された層)全体の配 線密度と下層(基板の層構造の中心線よりも裏面層側に形成された層)\n全体の配線密度とが略等しくなることで,基板の上層全体に占める絶縁 膜(合成樹脂)と配線部分(銅)との比率が,基板の下層全体に占める 合成樹脂と銅との比率と略等しくなり,上層と下層とで熱膨張係数も略 等しくなるため,基板に反りが発生するのを抑制するという効果を奏す ること(【0014】,【0015】,【0023】,【0024】, 図5)の開示があることが認められる。
次に,原出願当初明細書には,1)「基板8の各層に形成された配線層 8bは,図5に示すように,信号を送受信する信号層,グランドや電源 線となるプレーン層として機能」し,「各層に形成された配線パターン\nの配線密度,すなわち,基板8の表面面積に対する配線層が占める割合」\nを「図5に示すように構成している」こと(【0015】),2)「本実 施の形態では,グランドとして機能する第8層をプレーン層ではなく網\n状配線層とすることで,その配線密度を30〜60%に抑え」,「基板 8の上層全体での配線密度は約60%となって」おり,「第8層の配線 密度を約30%として配線パターンを形成することで,下層全体での配 線密度を約60%とすることができ,上層全体の配線密度と下層全体の 配線密度とを略等しくすることができる」こと,「なお,第8層の配線 密度は,約30〜60%の範囲で調整することで,上層全体の配線密度 と略等しくなるようにすればよい」こと(【0016】),3)「本実施 の形態では,第8層の配線密度は,約30〜60%の範囲で調整し,上 層全体の配線密度と下層全体の配線密度とを略等しくしているので,熱 膨張係数も略等しくなる」ため,「基板8に反りが発生するのを抑制す ることができる」こと(【0024】)の記載がある。また,図5には, 「第1の実施の形態」に係る8層構造の配線層の上層の配線密度につい\nて,「1層」が「約60%」,「2層」が「約80%」,「3層」が「約 50%」,「4層」が「約50%」,上層全体(「1層」ないし「4層」) で「約60%」であること,下層の配線密度について,「5層」が「約 80%」,「6層」が「約50%」,「7層」が「約80%」,「8層」 が「約30〜60%」,下層全体(「5層」ないし「8層」)で「約6 0%〜67.5%」であることが示されている。 そして,図5,【0016】及び【0024】の記載(上記2)及び3)) から,図5の「8層」の配線密度を「約30%」とした場合には下層全 体の配線密度が「約60%」(計算式(80+50+80+30)÷4) になり,「8層」の配線密度を「約60%」とした場合には下層全体の 配線密度が「約67.5%」(計算式(80+50+80+60)÷4) になること,図5に示す上層全体の配線密度が「約60%」の場合,下 層全体の配線密度が「約60%〜67.5%」であるときは,「上層全 体の配線密度と下層全体の配線密度とを略等しくしているので,熱膨張 係数も略等しくなる」ため,「基板8に反りが発生するのを抑制するこ とができる」ことを理解できる。
さらに,これらの記載事項から,図5の「8層」の配線密度を「約3 0%〜60%」の範囲で調整すると,上層全体の配線密度の平均値(約 60%)と下層全体の配線密度の平均値(約60〜67.5%)の差が 「約0%〜7.5%」の範囲で調整され,両者の配線密度が略等しくな り,熱膨張係数も略等しくなるため,基板8に反りが発生するのを抑制 することができるものと理解できる。
そうすると,原出願当初明細書には,「本発明」の「第1の実施の形 態」として,配線層の上層全体の配線密度の平均値(「第1の平均値」 に相当)と下層全体の配線密度の平均値(「第2の平均値」に相当)と の差を「7.5%以下」とすることが記載されていることが認められる から,本件特許発明1,14及び21の「第1の値が7.5%以下」は, 原出願当初明細書に記載された事項の範囲内の事項であるものと認めら れる。 したがって,これと同旨の本件審決の判断に誤りはない。
(イ) これに対し原告は,原出願当初明細書には,基板の反りが発生する のを抑えることができるための上層全体の配線密度と下層全体の配線密 度との差が何%かについての記載はなく,また,【0016】の「なお, 第8層の配線密度は,約30〜60%の範囲で調整することで,上層全 体の配線密度と略等しくなるようにすればよい。」との記載は,第8層 の配線密度を約30〜60%の範囲で調整することを可能とすることで,\n上層全体の配線密度を67.5%とした場合(例えば,第3層の配線密 度を80%とした場合)であっても,第8層の配線密度を60%とする と,下層全体の配線密度も67.5%となり,上層全体の配線密度と略 等しくすることで,反りを防止していることを意味するものであり,上 層全体の配線密度と下層全体の配線密度とに差を設けて,「第1の値が 7.5%以下」とすることについての記載はないから,本件特許発明1, 14及び21の「第1の値が7.5%以下」は,原出願当初明細書に記 載されていない旨主張する。 しかしながら,前記(ア)認定のとおり,図5,【0016】及び【0 024】から,図5に示す上層全体の配線密度が「約60%」の場合, 下層全体の配線密度が「約60%〜67.5%」であるときは,「上層 全体の配線密度と下層全体の配線密度とを略等しくしているので,熱膨 張係数も略等しくなる」ため,「基板8に反りが発生するのを抑制する ことができる」ことを理解できるから,原出願当初明細書には,上層全 体の配線密度と下層全体の配線密度とに差を設けて,「第1の値が7. 5%以下」とすることについての記載はあるものと認められる。 したがって,原告の上記主張は採用することができない。

◆判決本文

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平成30(行ケ)10123  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和元年5月23日  知的財産高等裁判所

 補正が新規事項であるとした審決が維持されました。ドクター中松創研の本人訴訟です。

 第1次補正は,旧請求項1について,「合わせ込み部からトンネルの天 井に排気用の隔壁を取り付けたことによりこれとトンネル天井壁で形成さ れる複数の排気ダクトを形成し得ること」を追加し,「2枚の天井板をそ れぞれ一端で合わせ込み,他端をトンネルの側壁に所定の角度で押しつけ る構成であって,前記合わせ込み部からトンネルの天井に排気用の隔壁を\n取り付けたことによりこれとトンネル天井壁で形成される複数の排気ダク トを形成し得ることを特徴とするトンネルの構造」(第1次補正後の請求\n項1)に補正(下線部は補正箇所)するものである。 しかるところ,当初明細書等には,第1次補正後の請求項1の「複数の 排気ダクト」の用語について定義した記載はない。
そして,1)甲2(特開2014−148882号公報)の「これらのう ち,横流換気方式は,トンネル軸方向から見たときに全体が逆T字状断面 となるように,トンネル内空間を天井で上下に仕切るとともに天井の上方 に拡がる頂部空間をさらに隔壁で左右に仕切って該隔壁の一方の側を送気 ダクト,他方の側を排気ダクトとしたものであり,…交通量が多い場合に は,十分かつ安定した換気性能\を確保することが可能であるため,特に長\n大トンネルでは,数多く採用されてきた。」(【0004】)との記載, 2)甲3(特開2014−132146号公報)の「送気ダクト側天井板パ ネル(1)と排気ダクト側天井板パネル(2)は,それぞれの側でトンネ ル側面壁に設けられた天井板受台(3)と隔壁板下側受台(6)により支 持される。送気ダクト側天井板パネル(1)と排気ダクト側天井板パネル (2)の長さを,天井板受台(3)と隔壁板下側受台(6)との水平距離 より大きくすることにより,両側の天井板パネルは山型の構造をもち,送\n気ダクト側天井板パネル(1)と排気ダクト側天井板パネル(2)がお互 いに押し合うことで,トンネル天井からのアンカーボルトと釣り金具によ る重量保持に依存することなく,隔壁板下側受台(6)と天井板受台(3) との位置ずれを防止する程度の固定で,通行部分(9)への落下を防止す ることができる。」(【0008】)との記載及び図1,3)甲4(登録実 用新案第3183422号公報)の「この天井構造の連結具6の頂部とト\nンネル1の最頂部1aの間に,仕切板7が張られており,仕切板7によっ て,天井板4,5の上方には,従来と同様に左右で送気路9,排気路10 が形成されている。もっとも,この仕切板7には,従来のように,天井板 を保持するつり棒を設ける必要はない。」(【0017】)との記載を総 合すれば,本願の出願日当時,トンネルの技術分野において,「排気」と 「送気」は明確に区別され,「排気ダクト」と「送気ダクト」は,別の用 語として,使い分けられていたこと,トンネル内の換気を行うために,天 井,天井板及び隔壁で形成される二つの空間をそれぞれ「排気ダクト」及 び「送風ダクト」として用いることは技術常識であったことが認められる。 そうすると,第1次補正後の請求項1の「複数の排気ダクト」とは,「排 気ダクト」が複数存在することを意味するものであり,これには,排気ダ クトが一つのみの場合は含まれないと解するのが相当である。
イ 次に,当初明細書等には,図1の従来のトンネルの構成図に関し,「4\nは天井1に取り付けられたナットで構成される結合部,吊り金具3は該結\n合部4に締め付けられるボルトで構成される。該吊り金具3の他端は固着\n部5を介して天井板2に取り付けられ,天井板2を吊っている。このよう に,天井板2でトンネルを2分しているのは,排気を行なうためである。 10,11はトンネル内を照らすライトである。」(【0002】),「即 ち,吊り金具3に沿って隔壁を設け,その一方を送風ダクト,他方を排気 ダクトとして,トンネル内の換気を行なっているものである。」(【00 03】)との記載がある。上記記載によれば,図1の従来のトンネルにお いて,天井1と天井板2の間の空間が吊り金具3に沿った隔壁によって2 分され,一方を「送風ダクト」,他方を「排気ダクト」として換気を行っ ていることを理解できる。当初明細書等には,上記「送風ダクト」を「排 気ダクト」として構成することなどにより,トンネルに「複数の排気ダク\nト」を形成することについては記載も示唆もない。 以上によれば,第1次補正後の請求項1の「合わせ込み部からトンネル の天井に排気用の隔壁を取り付けたことによりこれとトンネル天井壁で形 成される複数の排気ダクトを形成し得ること」は,当初明細書等に記載は なく,当初明細書等の記載から自明な事項とはいえないものである。また, 上記技術常識に照らすと,排気ダクトと送風ダクトとは,「対」となって 換気機能を果たすことからすれば,排気ダクト及び送風ダクトを備える換\n気方式と複数の排気ダクトを備える換気方式とは,技術的思想を異にする ものと認められる。 したがって,第1次補正は,当初明細書等のすべての記載を総合するこ とにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入 するものと認められるから,当初明細書等に記載した事項の範囲内におい てしたものではないというべきである。
(3) 原告の主張について
原告は,第1次補正後の請求項1の「複数の排気ダクト」とは,複数の排 気を含めた換気が可能なダクト程の意味であり,当初明細書の【0002】,\n【0003】及び図2には,「複数の排気ダクト」として,2分され,又は 隔壁が設けられたことにより,一方が送風ダクト,他方が排気ダクトとされ たものが示されているから,第1次補正は,当初明細書等に記載された事項 の範囲内においてした補正である旨主張する。 しかしながら,前記(2)ア認定のとおり,第1次補正後の請求項1の「複数 の排気ダクト」とは,「排気ダクト」が複数存在することを意味するもので あり,これには,排気ダクトが一つのみの場合は含まれないと解するのが相 当であるから,原告の上記主張は,その前提において採用することができな い。

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平成30(行ケ)10122  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成31年4月22日  知的財産高等裁判所

 無効理由なしとした審決が取り消されました。争点は新規事項、サポート要件などですが、知財高裁は、「直ちに」との文言を追加する補正は、新規事項であると判断しました。

 原告は,構成Eの「直ちに」との文言を追加する本件補正は,本件当初\n明細書等に記載された事項との関係において,新たな技術的事項を導入し ないとした審決の判断が誤りであると主張する。 ここで,構成Eの「直ちに」は,「受信次第」との文言と併せて,海底\n局送受信部の位置を決めるための演算を行う時期を限定するものであるか ら,当該文言を追加する本件補正がいわゆる新規事項の追加に当たるか否 かは,構成Eのうち演算を行う時期について特定する「前記海底局送受信\n部の位置を決めるための演算を受信次第直ちに行うことができるデータ処 理装置」との構成(以下「位置決め演算時期構\成」という。)が,本件当 初明細書等に記載された事項との関係において,新たな技術的事項に当た るか否かにより判断すべきである。
イ 本件当初明細書等の記載について
(ア) 上記1(1)において認定したとおり,本件補正前の特許請求の範囲に は「直ちに」との文言は使用されていないし,その余の文言を斟酌して も位置決め演算時期構成と解し得る構\成が記載されていると認めること はできない。 (イ) また,上記1(2)において認定したとおり,本件当初明細書の段落【0 008】,【0009】,【0013】,【0025】,【0030】, 【0032】,【0035】,【0036】及び【0040】等には, 先願システム及び本件発明の実施の形態において,海底局の位置を決め るための演算(以下「位置決め演算」という。)は,海底局からの音響 信号(又はデータ)及びGPSからの位置信号に対して行われるもので あって,船上局又は地上において実行される(特に段落【0025】, 【0040】)ことが開示されている。しかし,本件当初明細書には, 位置決め演算の時期を限定することに関する記載は見当たらない。
(ウ) この点に関し,審決は,データ処理装置による位置決め演算には,船 上で行う場合と,船上で受信したデータを地上に持ち帰って行う場合と があるところ,後者の場合にはそれなりの時間がかかるから,技術常識 をわきまえた当業者であれば,構成Eの「受信次第直ちに」とは,船上\nで演算を行う場合を指すと理解すると認められると判断した。 しかし,位置決め演算を船上で行うか地上で行うかは,位置決め演算 を実行する場所に関する事柄であって,位置決め演算を実行する時期と は直接関係がない。そして,位置決め演算を船上で行う場合には,海底 局及びGPSの信号を受信した後,観測船が帰港するまでの間で,その 実行時期を自由に決めることができるにもかかわらず,位置決め演算を 「受信次第直ちに」実行しなければならないような特段の事情や,本件 発明の実施の形態において,当該演算が「受信次第直ちに」実行されて いることをうかがわせる事情等は,本件当初明細書に何ら記載されてい ない。 また,本件当初発明では,構成eに「前記船上局受信部において,…\n前記海底局の位置を決める演算を行うデータ処理装置と,」と,位置決 め演算を船上で行うことが特定されていたのであるから,本件補正によ って追加された「受信次第直ちに」との文言を,位置決め演算を船上で 行うことと解すると,当初明確な文言によって特定されていた事項を, 本来の意味と異なる意味を有する文言により特定し直すことになり,明 らかに不自然である。 したがって,「受信次第直ちに」との文言を,船上で位置決め演算を 行う場合を指すと解することはできない。
(エ) よって,本件当初明細書に,位置決め演算時期構成が記載されている\nと認めることはできない。
ウ 以上検討したところによれば,本件当初明細書等に位置決め演算時期構\n成が記載されていると認めることができないから,構成Eに位置決め演算\nを「受信次第直ちに」行うとの限定を追加する本件補正は,本件当初明細 書に記載された事項との関係において,新たな技術的事項を導入するもの というべきである。

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平成30(行ケ)10123  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 令和元年5月23日  知的財産高等裁判所

 新規事項であるとした審決が維持されました。出願人は株式会社ドクター中松創研です。出願時は代理人付きですが、本件は代理人無しの本人訴訟です。
 第1次補正は,旧請求項1について,「合わせ込み部からトンネルの天 井に排気用の隔壁を取り付けたことによりこれとトンネル天井壁で形成さ れる複数の排気ダクトを形成し得ること」を追加し,「2枚の天井板をそ れぞれ一端で合わせ込み,他端をトンネルの側壁に所定の角度で押しつけ る構成であって,前記合わせ込み部からトンネルの天井に排気用の隔壁を取り付けたことによりこれとトンネル天井壁で形成される複数の排気ダク\nトを形成し得ることを特徴とするトンネルの構造」(第1次補正後の請求項1)に補正(下線部は補正箇所)するものである。しかるところ,当初明細書等には,第1次補正後の請求項1の「複数の排気ダクト」の用語について定義した記載はない。\n
そして,1)甲2(特開2014−148882号公報)の「これらのう ち,横流換気方式は,トンネル軸方向から見たときに全体が逆T字状断面 となるように,トンネル内空間を天井で上下に仕切るとともに天井の上方 に拡がる頂部空間をさらに隔壁で左右に仕切って該隔壁の一方の側を送気 ダクト,他方の側を排気ダクトとしたものであり,…交通量が多い場合に は,十分かつ安定した換気性能\\を確保することが可能であるため,特に長大トンネルでは,数多く採用されてきた。」(【0004】)との記載,\n2)甲3(特開2014−132146号公報)の「送気ダクト側天井板パ ネル(1)と排気ダクト側天井板パネル(2)は,それぞれの側でトンネ ル側面壁に設けられた天井板受台(3)と隔壁板下側受台(6)により支 持される。送気ダクト側天井板パネル(1)と排気ダクト側天井板パネル (2)の長さを,天井板受台(3)と隔壁板下側受台(6)との水平距離 より大きくすることにより,両側の天井板パネルは山型の構造をもち,送気ダクト側天井板パネル(1)と排気ダクト側天井板パネル(2)がお互\nいに押し合うことで,トンネル天井からのアンカーボルトと釣り金具によ る重量保持に依存することなく,隔壁板下側受台(6)と天井板受台(3) との位置ずれを防止する程度の固定で,通行部分(9)への落下を防止す ることができる。」(【0008】)との記載及び図1,3)甲4(登録実 用新案第3183422号公報)の「この天井構造の連結具6の頂部とトンネル1の最頂部1aの間に,仕切板7が張られており,仕切板7によっ\nて,天井板4,5の上方には,従来と同様に左右で送気路9,排気路10 が形成されている。もっとも,この仕切板7には,従来のように,天井板 を保持するつり棒を設ける必要はない。」(【0017】)との記載を総 合すれば,本願の出願日当時,トンネルの技術分野において,「排気」と 「送気」は明確に区別され,「排気ダクト」と「送気ダクト」は,別の用 語として,使い分けられていたこと,トンネル内の換気を行うために,天 井,天井板及び隔壁で形成される二つの空間をそれぞれ「排気ダクト」及 び「送風ダクト」として用いることは技術常識であったことが認められる。 そうすると,第1次補正後の請求項1の「複数の排気ダクト」とは,「排 気ダクト」が複数存在することを意味するものであり,これには,排気ダ クトが一つのみの場合は含まれないと解するのが相当である。 イ 次に,当初明細書等には,図1の従来のトンネルの構成図に関し,「4は天井1に取り付けられたナットで構\成される結合部,吊り金具3は該結合部4に締め付けられるボルトで構成される。該吊り金具3の他端は固着部5を介して天井板2に取り付けられ,天井板2を吊っている。このよう\nに,天井板2でトンネルを2分しているのは,排気を行なうためである。 10,11はトンネル内を照らすライトである。」(【0002】),「即 ち,吊り金具3に沿って隔壁を設け,その一方を送風ダクト,他方を排気 ダクトとして,トンネル内の換気を行なっているものである。」(【00 03】)との記載がある。上記記載によれば,図1の従来のトンネルにお いて,天井1と天井板2の間の空間が吊り金具3に沿った隔壁によって2 分され,一方を「送風ダクト」,他方を「排気ダクト」として換気を行っ ていることを理解できる。当初明細書等には,上記「送風ダクト」を「排 気ダクト」として構成することなどにより,トンネルに「複数の排気ダクト」を形成することについては記載も示唆もない。\n
以上によれば,第1次補正後の請求項1の「合わせ込み部からトンネル の天井に排気用の隔壁を取り付けたことによりこれとトンネル天井壁で形 成される複数の排気ダクトを形成し得ること」は,当初明細書等に記載は なく,当初明細書等の記載から自明な事項とはいえないものである。また, 上記技術常識に照らすと,排気ダクトと送風ダクトとは,「対」となって 換気機能を果たすことからすれば,排気ダクト及び送風ダクトを備える換気方式と複数の排気ダクトを備える換気方式とは,技術的思想を異にする\nものと認められる。 したがって,第1次補正は,当初明細書等のすべての記載を総合するこ とにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入 するものと認められるから,当初明細書等に記載した事項の範囲内におい てしたものではないというべきである。

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平成30(行ケ)10122  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成31年4月22日  知的財産高等裁判所

 審査段階で追加した「直ちに」という用語が新規事項かが争われました。知財高裁(3部)は、新規事項ではないとした審決を取り消しました。本件では、「一斉に」という用語についても新規事項か争われています。こちらについては新規事項でないとした審決の判断を維持しています。
 ここで,構成Eの「直ちに」は,「受信次第」との文言と併せて,海底\n局送受信部の位置を決めるための演算を行う時期を限定するものであるか ら,当該文言を追加する本件補正がいわゆる新規事項の追加に当たるか否 かは,構成Eのうち演算を行う時期について特定する「前記海底局送受信\n部の位置を決めるための演算を受信次第直ちに行うことができるデータ処 理装置」との構成(以下「位置決め演算時期構\成」という。)が,本件当 初明細書等に記載された事項との関係において,新たな技術的事項に当た るか否かにより判断すべきである。
イ 本件当初明細書等の記載について
(ア) 上記1(1)において認定したとおり,本件補正前の特許請求の範囲に は「直ちに」との文言は使用されていないし,その余の文言を斟酌して も位置決め演算時期構成と解し得る構\成が記載されていると認めること はできない。
(イ) また,上記1(2)において認定したとおり,本件当初明細書の段落【0 008】,【0009】,【0013】,【0025】,【0030】, 【0032】,【0035】,【0036】及び【0040】等には, 先願システム及び本件発明の実施の形態において,海底局の位置を決め るための演算(以下「位置決め演算」という。)は,海底局からの音響 信号(又はデータ)及びGPSからの位置信号に対して行われるもので あって,船上局又は地上において実行される(特に段落【0025】, 【0040】)ことが開示されている。しかし,本件当初明細書には, 位置決め演算の時期を限定することに関する記載は見当たらない。
(ウ) この点に関し,審決は,データ処理装置による位置決め演算には,船 上で行う場合と,船上で受信したデータを地上に持ち帰って行う場合と があるところ,後者の場合にはそれなりの時間がかかるから,技術常識 をわきまえた当業者であれば,構成Eの「受信次第直ちに」とは,船上\nで演算を行う場合を指すと理解すると認められると判断した。 しかし,位置決め演算を船上で行うか地上で行うかは,位置決め演算 を実行する場所に関する事柄であって,位置決め演算を実行する時期と は直接関係がない。そして,位置決め演算を船上で行う場合には,海底 局及びGPSの信号を受信した後,観測船が帰港するまでの間で,その 実行時期を自由に決めることができるにもかかわらず,位置決め演算を 「受信次第直ちに」実行しなければならないような特段の事情や,本件 発明の実施の形態において,当該演算が「受信次第直ちに」実行されて いることをうかがわせる事情等は,本件当初明細書に何ら記載されてい ない。 また,本件当初発明では,構成eに「前記船上局受信部において,…\n前記海底局の位置を決める演算を行うデータ処理装置と,」と,位置決 め演算を船上で行うことが特定されていたのであるから,本件補正によ って追加された「受信次第直ちに」との文言を,位置決め演算を船上で 行うことと解すると,当初明確な文言によって特定されていた事項を, 本来の意味と異なる意味を有する文言により特定し直すことになり,明 らかに不自然である。 したがって,「受信次第直ちに」との文言を,船上で位置決め演算を 行う場合を指すと解することはできない。
(エ) よって,本件当初明細書に,位置決め演算時期構成が記載されている\nと認めることはできない。
ウ 以上検討したところによれば,本件当初明細書等に位置決め演算時期構\n成が記載されていると認めることができないから,構成Eに位置決め演算\nを「受信次第直ちに」行うとの限定を追加する本件補正は,本件当初明細 書に記載された事項との関係において,新たな技術的事項を導入するもの というべきである。 したがって,この点についての審決の判断には誤りがあり,その誤りは 結論に影響を及ぼすものである。

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平成30(行ケ)10032  特許取消決定取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成31年3月26日  知的財産高等裁判所

 異議申立に対して、特許権者は訂正請求をしました。審決は、複数のストランド又は長繊維間に間隔が存在しないという事項(事項A)を新規事項であるとして訂正を認めず取消決定をしました。知財高裁は、新規事項ではないと判断しました。\n

 本件明細書には,1)「本発明」の「リボン」は, 1つ又は複数のストランドから成り,1つのストランドから成る場合は, リボンの幅に平行に伸長する長繊維の集合体から成り,複数のストラン ドから成る場合は,「所与の幅の層を製造するために寸法取りされる」 ストランドの集合体(各々が長繊維の集合体から成る)から成ること(【0 027】,【0028】,【0030】,図1及び2),2)「一般に, 炭素ストランドの場合,1,000から80,000本の長繊維を含み, 12,000から24,000本の長繊維を含むのが有利である」こと (【0029】),3)「特に,リボンが複数のストランドの一方向層か ら成る場合,ストランドは,接近して配置」され,「リボン作製の前に, 幅の標準偏差が最小で,一方向層の全幅を一定にするように調整する場 合,層の幅は,材料中のいかなる間隔(英語で「gap」)又は重なり 部分(英語で「overlap」)をも最小にし,さらに回避すること によって調整する」こと(【0028】),4)「ストランド(単数又は 複数)」は,「寸法合わせの段階」の前に拡幅器によって幅が拡幅され (【0030】,図6),「寸法取り段階」(寸法合わせの段階)では, 「所与の幅の開口部,特に,ローラーに切れ込む平底の溝の形状にある 開口部とすることができる寸法取り器」,又は「1つ又は複数のストラ ンドをベースにした単一のリボンの場合における,2個の歯の間の開口 部の寸法取り器」,又は「図7に示すように,並行して複数のリボンを 作製する場合における,複数のストランドに寸法取りをする開口部を規 定する寸法取りコームの寸法取り器」上で,「層又はストランドを通過 させることによって行われ」ること(【0031】,図7),5)「複数 のストランドからなる層を作製する場合,実際,厳密に言えば,層の幅 の寸法取りは外側の2本のストランド上においてのみ行われ,他のスト ランドは拡幅ユニットの前方に配置されたコームにより案内され,その 結果,層の内側のストランド間に緩い空間が存在しない」こと(【00 31】),6)「炭素ストランド又は複数のストランド1は,クリール1 01に装着された炭素スプール100から巻き戻され,コーム102を 通過し,ガイドローラー103によって機械の軸中に誘導」され,「炭 素ストランドは,次に,加熱バー11及び拡幅バー12により拡幅され, 次に,寸法取り器で寸法取りをされ,所望の幅を有する一方向層が得ら れる」こと(【0038】,図5)の記載がある。 これらの記載事項によれば,本件明細書には,「本発明」の実施の形 態として,1つのストランド(長繊維の集合体)又は複数のストランド (各々が長繊維の集合体)から成る「リボン」を作製するに当たり,1 つ又は複数のストランドを,拡幅バーにより幅を拡幅し,次いで,拡幅 したストランドを所与の幅の開口部を規定する寸法取り器(ローラーに 切れ込む平底の溝を有する寸法取り器,寸法取りコーム,又は2個の歯 を有する寸法取り器)上を通過させることによって,所望の幅を有する 一方向層が得られること,これにより一方向層の層の幅は,材料中のいかなる間隔又は重なり部分をも最小にし,さらに回避することによって 調整することができ,その結果,層の内側のストランド間に緩い空間が 存在しないことの開示があることが認められる。 そして,複数のストランドの集合体(各々が長繊維の集合体)が,「接 近して配置され,間隔又は重なり部分をも最小にし,さらに回避する」 とは,「間隔が存在しない」ことと同義であると解されるから,「複数 のストランド又は長繊維間に間隔が存在しない」ようにして,「複数の ストランド又は長繊維」を所望の幅に作製しているものと理解すること ができる。
そうすると,訂正事項2に係る訂正は,本件明細書のすべての記載を 総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術 的事項を導入するものではないものと認められるから,本件特許明細書 等に記載した事項の範囲内においてしたものというべきである。 したがって,これと異なる本件決定の判断は誤りである。
(ウ) これに対し被告は,1)本件明細書には,「拡幅器,次いで寸法取り 器に,複数のストランドを通過させる」ことで「複数のストランド又は 長繊維間に間隔が存在しない」ようにするという事項についての直接的 ないし明示的な記載は存在しない,2)本件明細書において「複数のストランド」を通過させる「寸法取り器」に相当する構成は,【0039】\n及び図7に示されているものにほかならず,これら複数のストランドの 間には間隔が存在する,3)本件明細書の【0028】の記載は,「複数 のストランド又は長繊維」について「間隔が存在しない」ことを記載す るものではないため,本件特許明細書等の記載を総合しても,事項Aを 導くことができるとはいえず,訂正事項2(請求項1)に係る訂正は, 新規事項の追加に当たる旨主張する。 しかしながら,上記1)の点については,本件明細書に直接的な記載は ないが,前記(イ)のとおり,複数のストランドの集合体(各々が長繊維 の集合体)が,「接近して配置され,間隔又は重なり部分をも最小にし, さらに回避する」とは,「間隔が存在しない」ことと同義であると解さ れるから,「複数のストランド又は長繊維間に間隔が存在しない」こと についての開示があるものと認められる。 次に,上記2)の点についてみると,図7は,「単一のストランドをベ ースにして複数のリボンを同時に作製する場合」(【0025】)を示 した図であり,図示されているのは,「単一のストランドから成る複数 のリボン」であって,複数のストランドではないから,複数のストラン ドの間に間隔が存在することを示すものではない。 また,本件明細書の【0039】の「複数のリボンを同時に製造する ことも同様に可能であり,その場合,リボンを構\成する各ストランド又 はストランドの集合体は,必要ならば拡幅され,個々に寸法取りがなさ れ,切断を可能にするために各ストランド間に十\分な間隔を置き,異な るリボンが互いに間隔をあけて配列される。ストランドと間隔を覆う単 一の不織材料が,次に,図8に示すように,リボンの各面上で全てのリ ボンと結合される。次に,図8に示したような機器,及び平行で,リボ ンの幅ごとに間隔をあけられ片寄らされた切断器120の複数(図示し た例では2つ)のラインを用いて,切断間に不織材料の屑を生じることなく各リボンの間で切断を優先的に行うことができる。」との記載中の 「各ストランド間に十分な間隔を置き」とは,複数のリボンを同時に製\n造する場合に,複数のラインを用いて各リボンと結合した不織材料の切 断を可能にするために,各リボンが互いに間隔をあけて配列されること\nを意味するものであり,リボンを構成するストランドそのものについて\n述べたものではない。 さらに,上記3)の点については,前記(イ)のとおり,本件明細書の【0 028】の記載は,リボンが複数のストランドの一方向層から成る場合 に,当該ストランドが接近して配置され,リボン作製の前に,ストラン ド間の間隔が存在しないように調整することが記載されているものと 認められる。

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平成30(行ケ)1007 審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成31年2月28日  知的財産高等裁判所

 進歩性なしとした審決が維持されました。新規事項追加の拒絶理由については、判断がされませんでした。

 前記(1)のとおり,甲13には,最適化されたナッツ,種子及びナッ ツ油といった複数の供給源による脂肪酸や抗酸化物質,ポリフェノールなど,それ ぞれの栄養素の量を最適化すること(【請求項3】,【0022】)や,異なる供給源 を使用することにより,過剰の場合は有害な特定の植物性化学物質の高濃度での送 達を回避すること(【0031】)が示唆されている。 そうすると,甲13発明において,植物性化学物質を,複数の異なる供給源に由 来するものとすることは,当業者が適宜採用することができる設計事項であると認 められる。
(イ)a 原告は,甲13の「ω−3脂肪酸に対して比較的高率のω−6脂肪 酸」,「抗酸化剤及び植物性化学物質[原告注:ファイトケミカル]全般を含む組成 物」という教示,又は,「ファイトケミカルの高濃度での送達が回避される」という 教示は,特定の量のω−6脂肪酸及び特定の量のポリフェノールを含む抗酸化剤を まとめて提供する前提で,複数の異なる供給源に由来するファイトケミカルを使用 することを教示するものではない旨主張する。
原告の上記主張は,本願補正後発明1が「特定の量のω−6脂肪酸及び特定の量 のポリフェノールを含む抗酸化剤をまとめて提供する前提で,複数の異なる供給源 に由来するファイトケミカルを使用する」との技術思想に基づくものであることを 前提とするものであると解されるが,その主張を採用することができないことは, 前記(2)のとおりであるから,原告の上記主張は,理由がない。
b なお,原告は,ω-6 脂肪酸,抗酸化剤及びポリフェノールの含有量 は,食品供給源や,作物,産地によって異なり,複数の異なる供給源に由来する, ω-6脂肪酸及びポリフェノールを含む抗酸化剤の特定の量を維持しながら,異なる 供給源に由来するファイトケミカルを利用することは技術的に困難である旨主張す る。 ファイトケミカルの供給源であって,ω-6 脂肪酸の前駆体であるリノール酸を含 有するピーナッツ油,コーン油,ヒマワリ油等(甲21の【0004】【表1】,【0\n033】【表2−1】,【0034】【表\2−2】)や,ポリフェノールを含有するオリーブ油(甲21の【0084】),アーモンド・クルミ・ペカン・クリ・ピーナッツ 等の抗酸化物質を含有するナッツ類(甲21の【0024】〜【0026】)は,い ずれも当業者によく知られたものである。そして,ポリフェノールは,抗酸化剤の 例である(甲15,弁論の全趣旨)。
また,証拠(甲1,2,13,14,21)によると,供給源そのものや複数の 供給源から製造される組成物に含まれる ω-6 脂肪酸,ポリフェノールの含有量は, それぞれ測定可能であることが認められる。\nそうすると,ω-6 脂肪酸,抗酸化剤及びポリフェノールの含有量が,供給源によ って異なるとしても,目的とするω-6 脂肪酸,抗酸化剤の配合量とするために植物 由来の栄養素の供給源を適切に組み合わせて各成分の合計量を調節することは,技 術的に困難であるとはいえない。 また,ω-6 脂肪酸,抗酸化剤及びポリフェノールの含有量が,作物,産地等によ って異なるとしても,それは単一の供給源でも生じ得る問題であって,異なる供給 源を組み合わせる場合に固有の問題ではなく,上記のとおり,供給源のω-6 脂肪酸, ポリフェノールの含有量が測定可能であることからすると,上記認定を左右するも\nのではない。したがって,原告の上記主張は理由がない。
c 原告の相違点 1 に係るその余の主張は,いずれも,本願補正後発明 1が「特定の量のω−6脂肪酸及び特定の量のポリフェノールを含む抗酸化剤をま とめて提供する前提で,複数の異なる供給源に由来するファイトケミカルを使用す る」との技術思想に基づくことを前提とするものであると解されるところ,前記(2) のとおりであって,採用することができない。
イ 相違点2について
(ア) 前記(1)のとおり,甲13には,甲13発明に係る組成物に抗酸化物 質(【0022】,【0023】,【0031】,【0035】),ポリフェノール(【0023】)が含まれることが示唆されており,ポリフェノールが抗酸化剤であることは,本願出願時における技術常識であった(甲15,弁論の全趣旨)から,甲13発明 に係る組成物において,少なくとも一種の処方物をポリフェノールを含む抗酸化剤 を含むものとすることは,当業者が適宜採用することができる設計事項であると認 められる。
(イ) 原告は,「ピーナッツ」は,異なる供給源に由来するファイトケミカ ルを使用した「処方物」ではなく,甲13は,「抗酸化剤」自体を教示しているもの であって,特定の量のω−6脂肪酸及び特定の量のポリフェノールを含む抗酸化剤 をまとめて提供することや,当該提供を維持したまま,複数の異なる供給源に由来 するファイトケミカルを使用することを教示するものではないと主張する。 原告の上記主張は,本願補正後発明1が「特定の量のω−6脂肪酸及び特定の量 のポリフェノールを含む抗酸化剤をまとめて提供する前提で,複数の異なる供給源 に由来するファイトケミカルを使用する」との技術思想に基づくことを前提とする ものであると解されるところ,前記(2)のとおりであって,採用することができない。

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平成30(行ケ)10104  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成31年1月31日  知的財産高等裁判所

 記載不備(実施可能要件、サポート要件)、新規事項違反などの無効主張をしましたが、知財高裁は、無効理由なしとした審決を維持しました。\n
 ア 本件明細書の発明の詳細な説明には,本件発明が,「断熱性に優れた発泡 積層シートを成形してなる容器において,端縁部での怪我を防止しつつ蓋体を強固 に止着させうる容器の提供」(【0009】)を「発明が解決しようとする課題」とし ていることが,当該課題に直面するに至った背景(【0002】〜【0007】)と ともに記載され,当該課題を解決するために容器に係る本件発明が備えている「解 決手段」が,【0010】に記載され,これにより,本件発明の容器が,「断熱性に 優れ,上面側に凹凸形状を形成させて熱可塑性樹脂フィルムの端縁を上下にジグザ グとなるように形成させることにより利用者の怪我などを抑制させ,下面側が平坦 に形成されていることから蓋体を外嵌させる際に強固な係合状態を形成できる」 (【0012】)という効果を奏し,上記課題を解決することが記載されているから, 本件明細書の発明の詳細な説明には,発明が解決しようとする課題及びその解決手 段が記載されており,当業者は,その技術上の意義を理解することができる。 したがって,本件明細書の発明の詳細な説明の記載は,特許法施行規則24条の 2で定めるところにより,当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十\n分に記載したものということができ,特許法36条4項1号に規定する要件を満た している。
イ(ア) 原告は,断熱性に優れた発泡積層シートを成形してなる容器におい て,その端縁部で指等を裂傷するといった怪我が生じること自体,本件明細書の発 明の詳細な説明には,客観的・科学的な証明や事実が一切記載されていないし,仮 に怪我が生じ得るとしても,本件発明における凹凸形状によればその怪我を防止で きることが,発明の詳細な説明において,何ら客観的・科学的な証明はされていな い旨主張する。 しかし,「断熱性に優れた発泡積層シートを成形してなる容器において,その端縁 部で指等を裂傷するといった怪我が生じること」については,発泡積層シートの熱 可塑性樹脂発泡シートや熱可塑性樹脂フィルムとしてどのような材料を用いたのか, 発泡積層シートが圧縮前はどの程度の厚みがあり圧縮後にどのような厚みとなった か(圧縮の程度),発泡積層シートの切断面の状態,発泡積層シートに対して指先等 がどのように接触するか(指を押し当てる強さ,指を移動させる方向・早さ等)に 応じて,怪我が生じる可能性があることは,当業者において,客観的・科学的な証明がなくとも容易に理解でき,「凹凸形状によればその怪我を防止できること」も,\n端縁部の上面側に形成する凹凸形状の形状に応じて指と端縁部の端面との接触面積 が異なる結果,怪我を防止することができることも,当業者において,客観的・科 学的な証明がなくとも容易に理解できるから,原告の上記主張には理由がない。
(イ) 原告は,1)「熱可塑性樹脂発泡シートと熱可塑性樹脂フィルムとの硬 さの差により,切断面(外側端面)に於いて硬い熱可塑性樹脂フィルムが柔らかい 熱可塑性樹脂発泡シートよりも外側に突き出た状態となり,且つ熱可塑性樹脂フィ ルムの切断面の形状が鋭利になりやすく,容器に触れた際に,硬いフィルムで指等 を裂傷する虞があり」(【0005】)との記載には根拠がない,2)「フィルム端縁で 指等を裂傷するという課題を解決するために,突出部の上下面にジグザグとなる凹 凸を形成させる」(【0007】)との記載は,特許文献3(甲21)に記載されてい る,それ自体で形状を維持できる程度の厚さ・硬さを有する薄手シートのみで構成\nされた容器に関するもので,本件発明が対象とする積層発泡シートの薄い樹脂フィ ルムとは異なると主張する。 しかし,上記1),2)については,前記(ア)のとおりであって,特許文献3(甲21) に記載されているのが薄手のシートの成形品で,本件発明が熱可塑性樹脂発泡シー トに非発泡の熱可塑性樹脂フィルムを積層した発泡積層シートの成形品であることをもって,前記(ア)の認定は左右されない。

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