争点は、公然実施です。審判、知財高裁とも、特許を含む商品を販売した以上公然実施と認定しました。
特許法29条1項2号にいう「公然実施」とは,発明の内容を不特定多数の者が
知り得る状況でその発明が実施されることをいうものである。本件のような物の発
明の場合には,商品が不特定多数の者に販売され,かつ,当業者がその商品を外部
から観察しただけで発明の内容を知り得る場合はもちろん,外部からはわからなく
ても,当業者がその商品を通常の方法で分解,分析することによって知ることがで
きる場合も公然実施となる。
前記のとおり,本件製品は,小売店であるディスカウントショップで商品として
販売されていたため,不特定多数の者に販売されていたと認められる。また,前記
争いのない事実によれば,当業者であれば,本件製品の構成F以外の構成は,その
外観を観察することにより知ることができ,本件製品の構成Fについても,本件製品の保持部分を分解することにより知ることができるものと認められる。
そして,本件製品が販売されるに当たり,その購入者に対し,本件製品の構成を秘密として保護すべき義務又は社会通念上あるいは商慣習上秘密を保つべき関係が
発生するような事情を認めるに足りる証拠はない。
また,本件製品の購入者が販売者等からその内容に関し分解等を行うことが禁じ
られているなどの事情も認められない。本件製品の購入者は,本件製品の所有権を
取得し,本件製品を自由に使用し,また,処分することができるのであるから,本
件製品を分解してその内部を観察することもできることは当然であるといえる。
以上によれば,本件製品の内容は,構成Fも含めて公然実施されたものであると認められる。
(3) 原告の主張について
ア 原告は,本件製品の構成Fは本件製品を破壊しなければ知ることができないし,本件製品のパッケージ裏面の「意図的に分解・改造したりしないでください。
破損,故障の原因となります。」との記載(甲4)により,本件製品の分解が禁じら
れており,内部構造をノウハウとして秘匿するべく購入者による本件製品の分解を認めていないのであるから,本件製品の購入者は社会通念上この禁止事項を守るべ
きであり,警告を無視する悪意の人物を想定し,本件製品の破壊により分解しなけ
れば知ることができない構成Fについて「知られるおそれがある」と判断することは特許権者である原告に酷である旨主張する。
しかし,本件製品のパッケージ裏面の前記記載は,その記載内容等に照らすと,
意図的な分解・改造が本件製品の破損,故障の原因となることについて購入者の注
意を喚起するためのものにすぎないといえる。本件製品のパッケージ裏面の意図的
な分解・改造が破損,故障の原因となる旨の記載により,この記載を看取した購入
者がそれでもなお意図して本件製品を分解し,本件製品を破損・故障させるなどし
た場合については,販売者等に対し苦情を申し立てることができないということはあるとしても,この記載を看取した購入者に本件製品の構成を秘密として保護すべき義務を負わせるものとは認められず,そのような法的拘束力を認めることはでき
ない。また,上記記載があるからといって,社会通念上あるいは商慣習上,本件製
品を分解することが禁止されているとまでいうことはできず,秘密を保つべき関係
が発生するようなものともいえない。
仮に,原告が本件製品のパッケージ裏面に前記記載をした意図が購入者による本
件製品の分解禁止にあったとしても,前記認定を左右するものではない。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。
・・・・前記認定のとおり,本件製品のパッケージ裏面の記載は,意図的な分解・
改造が破損,故障の原因となることについて購入者の注意を喚起するためのものに
すぎず,原告の意図がどのようなものであれ,これによってこの記載を看取した購
入者と販売者等との間に本件製品の分解等について何らかの法的関係を発生させる
ものではない。
◆判決本文