平成26(ワ)22603  損害賠償請求事件  著作権  民事訴訟 平成28年2月16日  東京地方裁判所

 無償配布のカタログにおける著作権侵害について、損害額が争われました。裁判所は2項侵害は否定したものの、3項に基づく損害を認めました。
 原告は,著作権法114条2項にいう「利益」には消極的利益も含まれることを前提に,少なくとも原告カタログの作成費用が被告の「利益」に該当すると主張する。 そこで判断するに,同項は,著作権侵害行為による侵害者の利益額を権利者の損害額と推定することによって損害額の立証負担の軽減を図る趣旨の規定であるから,同項所定の「利益」は「損害」に対応するものであることが前提となると解される。ところが,原告は被告による著作権侵害行為の有無にかかわらず原告カタログの作成費用の負担を免れないのであるから,原告カタログの一部を複製して被告カタログを作成したことにより被告が当該部分に関する作成費用の支出を免れたとしても,そのために原告に原告カタログの作成費用に相当する額の損害が生じたということはできない。そうすると,上記の支出を免れたことによる被告の利益は,同項所定の「利益」となり得ないというべきである。 イ 同条3項に基づく損害 原告は,原告カタログも被告カタログも無償で頒布されていることを踏まえると,原告が著作権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額の損害が発生しており,その額は原告が原告カタログの複製を許諾する対価,すなわち,原告カタログの作成費用に基づいて算定されるべきであると主張する。 そこで判断するに,前記前提事実(1)のとおり,原告と被告は共に米国コーラー社の我が国における販売代理店であって,競合関係にあるから,原告が原告カタログの全部又は一部の複製を被告に対して許諾することは通常考えられないところである。そうすると,被告による前記複製権及び譲渡権の侵害行為により原告に損害が発生したとみることができるから,原告は被告に対し著作権の行使につき受けるべき金銭の額の損害賠償を請求し得ると解するのが相当である。 しかし,原告カタログ及び被告カタログはいずれも顧客に無償で配布されるものであり,そのような製品カタログの使用料等を算定する基準が明らかでないことに照らすと,上記損害額を立証するために必要な事実を立証することは,その性質上極めて困難であるというべきである。 そこで,著作権法114条の5に基づき相当な損害額を検討するに,後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば,1)原告カタログは2年ごとに改訂されること(甲3,4,19),2)原告は原告カタログの作成のために500万円程度の費用を要したこと(甲9,21〜114,117,乙19。なお,原告は原告カタログの作成費用につき他社への依頼分256万2000円,従業員の作業等分461万7677円の合計717万9677円を要したと主張するところ,後者については,従業員等が多大な労力を費やしたことは認められるものの,これにより人件費が増加するなど現実の出費が生じたことを示す証拠はないので,約半分の限度で相当と認める。),3)被告は,平成25年10月31日に被告カタログ3000部の納品を受け,翌11月1日開催の記念パーティーで約200部配布するなどした後,原告から警告を受けたため被告カタログの回収及び廃棄に努めたが,約650部は配布先から回収されていないこと(甲8,乙12〜15),4)被告は平成26年3月31日に被告カタログと内容の異なる新たなカタログの納品を受けたこと(乙18),5)被告カタログの作成費用(他社への依頼分)は278万2500円であったこと(乙12),以上の事実が認められる。 上記事実関係によれば,原告は無償配布する原告カタログの作成費用を2年間の営業活動により回収することを企図していたと解されるところ,被告カタログの配布期間中これを妨げられたとみることができる。これに加え,被告カタログの作成部数及び原価(1冊当たり約927円),被告カタログには被告表現4など原告カタログと異なる部分が少なからず存在すること(甲3,5)を考慮すると,原告の損害額は120万円であると認めるのが相当である。
ウ 他の損害について
原告は,原告の顧客を奪われたことによって営業上の利益が得られなくなったことも損害に当たると主張する。しかし,被告が現に原告の顧客を奪って原告に営業上の損害を被らせたことをうかがわせる証拠がないことに照らすと,上記イの損害に加えて,そのような損害が生じたと認めることはできない。

◆判決本文

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