平成26(ワ)11616  商標権侵害行為差止等請求事件  商標権  民事訴訟 平成28年2月26日  東京地方裁判所

 崩し文字の「楽天」と「皇朝」の間に小籠包の図形があるので、読み「コウチョウ」は抽出されないと判断しました。なお、「皇朝小籠包」とのメニュー表示は商標権侵害とは認めたものの、損害は生じていないと判断されました。なお、下記箇所では、崩し文字ではなく「楽」表記しています。
 そうすると,被告標章1からは,「ラクテンコーチョー」及び「コーチョー」のほか,「パラダイス ダイナシティ」及び「レジェンド オブ シャオ ロン ボー」という称呼が生じ得るものと解される。 この点に関して原告は,被告標章1は,図形及び文字により構成される標章であり,被告標章2は文字から成る標章であるところ,これらにおいては「楽天」及び「皇朝」の文字が大きく記載され,標章としての強い印象を与え,「楽」は「楽」の簡体字であるがこれを需要者において称呼することはできないから,被告標章1及び2の要部は「皇朝」の文字部分であり,「PARADISE DYNASTY」及び「LEGEND OF XIAO LONG BAO」の部分からは称呼が生じないから,被告標章1及び2からは「コーチョー」の称呼のみが生じる旨主張する。 しかし,被告標章1及び2において,「楽天」及び「皇朝」の黒い文字の間には湯気を上げた小籠包様の図形が茶色で表記されているものの,「楽天」と「皇朝」との間はそれほど離れておらず,「楽」の文字と「天」の文字,「皇」の文字と「朝」の文字の間隔とそれほど異ならず,一つのまとまりとしてみれること,「楽」が「楽」の崩し字として辞典類にも記載されていること,右下の落款様の部分は「楽天」と読むことが可能なこと,一般に,「楽天地」といえば「楽しさに満ちた天国のような土地」(広辞苑第6版2924頁)あるいは「楽園」(大辞林第3版2643頁)を意味するところ,「楽天皇朝」の文字部分と欧文字部分「PARADISE DYNASTY」との位置関係から,「楽天」が「PARADISE」に,「皇朝」が「DYNASTY」にそれぞれ対応していることが容易にうかがえることからすると,被告標章1及び2の漢字部分からは「ラクテンコーチョー」との称呼も生じ得るものと認めるのが相当である。
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前記(2)アのとおり,前提として,「皇朝」が「我が国の朝廷」との意味を有する普通名詞であることからすると,これを商品名である「小籠包」に付したとしても,もとよりその「皇朝」の部分の自他識別力は極めて弱いものというべきである。 そして,前記(2)イのとおり,被告店舗における「皇朝小籠包」の表示の使用方法は,被告店内におけるメニューに「皇朝小龍包」と表示するものであるところ,被告店舗は,シンガポール発の小籠包専門店と宣伝されているとおり,小籠包をメニューの中心に据えた料理店であること,その他被告店舗の外観や,店内のメニュー等の記載内容からすれば,被告店舗内の小籠包のメニュー表示に「皇朝」との表記をしても,それは被告店舗のメニューである小籠包を意味することは明らかであるから,被告店舗において供される「皇朝小籠包」につき,原告との出所の誤認を招来するものとは認められない。また,被告店舗で入手可能なリーフレット(甲6の2)においても,被告標章2が付されていること,「皇朝小籠包」の前に被告標章における「湯気を上げた小籠包様の図形」様の小さな図形が記載されていることを併せて見れば,「皇朝小籠包」との記載は,本来「楽天皇朝小籠包」と表記すべきところをその一部を省略した表記とみることができ,前記(2)イのとおりのリーフレットのその他の記載内容からすると,被告店舗内で使用される限り,需要者である顧客は,「皇朝小籠包」との表示はあくまで被告店舗である「楽天皇朝」の「小籠包」の意味で使用されていると認識するにすぎないというべきであるから,原告との出所の誤認を招来するものとは認められない。さらに,前記(2)ウのとおり,原告の提出する証拠によっても,被告のウェブサイトには「皇朝小籠包」と表示するものはなく,その他原告との関連を伺わせる記載ないし表示や,原告との関連を誤認したレストランガイド等の ウェブサイトの記載ないし表示も証拠上認められない。一方,原告は,前記(2)エのとおり,「皇朝」本店の名称を「明朝」と変更しているほか,同オのとおり,原告は「横浜中華街」ないし「中国料理世界チャンピオン」との表示と共に「皇朝」の文字を使用する場合が多く,原告を紹介するウェブサイトの記載もこれら「横浜中華街」ないし「中国料理世界チャンピオン」を強調するものとなっている。以上からすると,被告店舗において用いられた「皇朝小籠包」とのメニュー表示のうち,「皇朝」の部分そのものには顧客吸引力が認められず,「皇朝小籠包」との記載が被告店舗内で使用されている限り,当該標章の使用が被告店舗における売上げに全く寄与していないことは明らかであり,その使用によって原告に損害が発生しているものとは認められない。そうすると,原告は,被告に対し,法38条3項に基づく実施料相当額の損害を請求することができないというべきである。

◆判決本文

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