平成27(行ケ)10078  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成28年3月2日  知的財産高等裁判所

 引用文献(ダブルスピンドル方式の製造装置)にシングルスピンドル方式の構成を採用することについて動機付けを欠くとして、進歩性なしとした審決が取り消されました。
 (ア) 前記(2)アのとおり,引用発明は,複数の加工具回転軸を備え,複数の砥石 によって眼鏡レンズを加工する装置を用いる従来の玉型加工の方法に,眼鏡レンズ を回転させないという構成を採用したものである。そして,前記(2)イのとおり,引用例には,加工具回転軸を1つとするシングルス ピンドル方式についての記載はなく,示唆もされていない。加工具回転軸が複数あ ること自体に起因して何らかの問題が発生する,又は,加工具回転軸を1つとする ことにより何らかの効果が期待できるなどといった,シングルスピンドル方式を採 用する動機付けにつながり得ることも何ら示されていない。
(イ) 加えて,前記(2)イのとおり,ダブルスピンドル方式の眼鏡レンズ加工装置 は,加工具回転軸を1つとするシングルスピンドル方式の眼鏡レンズ加工装置に比 して,機械剛性が高く,加工時間も短いという利点を有するものと推認することが できるのに対し,シングルスピンドル方式の眼鏡レンズ加工装置がダブルスピンド ル方式の眼鏡レンズ加工装置に比して優位な点があることは,本件証拠上,認める に足りない。
(ウ) したがって,当業者において,本願出願当時,引用発明に係る一対の加工 具回転軸を備えたダブルスピンドル方式の眼鏡レンズの製造装置につき,あえて加 工具回転軸を1つとするシングルスピンドル方式の構成を採用することについては,動機付けを欠き,容易に想到し得ないというべきである。
(4) 相違点2の容易想到性について
ア 相違点2について
相違点2は,前記第2の3(2)ウ(イ)のとおり,レンズチャック軸と加工具回転軸 との軸間距離を変動させる軸間距離変動手段が,本願補正発明においては,レンズ チャック軸を加工具回転軸に向けて移動させるというものであるのに対し,引用発 明においては,一対の砥石軸を眼鏡レンズ駆動装置に固定された眼鏡レンズに向け て移動させるというものである点をいい,本願補正発明と引用発明との間に,この ような相違点が存在することは,当事者間に争いがない。 引用発明の砥石軸は,本願補正発明の加工具回転軸に相当し,また,引用発明の 眼鏡レンズは,本願補正発明のレンズチャック軸に相当する軸部材に保持されてい るものであるから,引用発明における上記軸間距離変動手段は,実質において,一 対の加工具回転軸をレンズチャック軸に向けて移動させるというものである。 よって,相違点2は,実質的には,軸間距離変動手段が,本願補正発明において は,レンズチャック軸を加工具回転軸に向けて移動させるというものであるのに対 し,引用発明においては,一対の加工具回転軸をレンズチャック軸に向けて移動さ せるというものである点をいうものと認められる。
イ 本願補正発明における軸間距離変動手段は,加工具回転軸が単数であること を前提とするものであり,加工具回転軸が複数の場合に同手段を採用することは, 事実上不可能である。したがって,相違点2は,相違点1に係る加工具回転軸の個数差を前提とするも のということができ,相違点1に係る本願補正発明の構成が容易に想到し得ない以上,相違点2に係る本願補正発明の構成も容易に想到し得るものではない。
(5) 被告の主張について
ア 被告は,当業者において,引用例に記載されている「眼鏡レンズが砥石に当 接した直後から,眼鏡レンズには眼鏡レンズの回転を停止する方向に力が継続して 加わっている」(【0006】)という軸ずれの原因となる物理現象は,ダブルスピン ドル方式及びシングルスピンドル方式のいずれにおいても生じるものであることを 理解することができることを前提として,眼鏡レンズが回転していない状態で砥石 と当接させるという上記物理現象に対する引用発明の解決手段は,ダブルスピンド ル方式及びシングルスピンドル方式のいずれにおいても使用できるものであり,当 業者であれば,上記解決手段の適用対象が,いずれの方式の装置であるかにかかわ らず,軸ずれの課題を解決し得るものとして認識することができる旨主張する。 本件証拠上,加工具回転軸の個数と軸ずれとの間に何らかの関係があるものとは 認めるに足りず,したがって,たとえ,当業者において,上記解決手段がダブルス ピンドル方式及びシングルスピンドル方式のいずれにおいても引用発明の課題であ る軸ずれを防止し得る旨を認識したとしても,それは,引用発明の一対の加工具回 転軸を1個の加工具回転軸とすることには,つながらない。

◆判決本文

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