本件発明認定誤りを理由として、拒絶審決が取り消されました。
原告は,本願発明は,較正液の加熱前の溶液温度のばらつきによって生じる目標
温度までの加熱時間のばらつきをなくすものであるとし,これに応じて,被告は,
本願発明にはそのような作用効果はないと反論する。
そこで,検討するに,本願発明は,較正液導入前にセンサ部の温度に応じてセン
サ部を予熱するものであり,少なくとも,センサ部の温度差により生じる加熱時間の差は解消される。ただし,本願発明は,実際に導入された較正液の溶液温度の温
度差により,更に分析時までの加熱時間に差が生じることの解消を目的とするもの
ではない。原告の上記主張は,前者の趣旨をいうものと解され,本願発明は,較正
液導入時におけるセンサ部の温度差により生じる加熱時間の差の解消という効果を
奏するものであるから,被告の上記主張は,採用することができない。
また,被告は,引用発明2は溶液の有無に関係なく温度制御を開始するものであ
り,引用発明に引用発明2の加熱動作を適用すれば,予熱後に較正をする態様を採用すると主張する。
しかしながら,被告が上記に主張するように,引用発明2は,使い捨てカートリ
ッジが挿入されると自動的に温度制御システムが起動するものであるとしても,引
用例2は,試料を電気化学セル中に入れずに温度制御を開始し,一定の加熱がなされ
た後に当該セル中に試料溶液を導入するような態様を開示するものではなく,また,
そのような例外的態様が示唆されているわけでもない。したがって,引用発明に引
用発明2の加熱動作を適用しても,相違点2に係る本願発明の構成には至らない。被告の上記主張は,採用することができない。
なお,被告は,当審において,引用発明2に加えて周知例(乙2〜7)を提出し,
較正に先立って予熱を行う態様が周知である旨の主張立証をするが,実質的に審決が全く取り上げていない周知技術を新たに追加するものであって,許されない。し
かも,上記各文献からは,センサ部の温度にかかわらず較正前に自動的に一定時間
の予熱を行う態様のものしか認められず,センサ部の温度によって較正前に予熱を
行うかどうかを選択する態様のものが周知の技術であったとは認めるに足りない。
◆判決本文