均等侵害が置換可能性なしとして、否定されました。
ア 本件明細書には要旨以下の記載がある。(甲2)
従来の車両用ルーフアンテナは,カバー部材内部に配設される電子
部品に対する防水対策のため,カバー部材の底面開口をボトムプレー
トでふさぐとともに該ボトムプレートの周囲を覆うガスケットを配置
するなどして密閉性を確保していた。しかし,防水対策を施すために
は多くの部品及びその部品加工の精度を高める必要があり高価となる。
また,内部気圧が低くなると隙間から雨水や洗浄水が浸入するおそれ
があり,いったん内部に水分が侵入すると施された防水対策のために
逆に排水されにくく,カバー部材内部の湿度が高まって電子部品の破
壊,アンテナケーブルの腐食などの問題が生じていた。(背景技術。
段落【0002】〜【0004】)
本件発明は,上記問題点を解決するため,防水対策の必要がなく構成が簡易で部品点数が少ない安価な車両用ルーフアンテナを提供する
ことを目的とする。(発明が解決しようとする課題。段落【000
5】)
本件発明では,コイルアンテナを保持する保持筒をカバーの天井部
の底面開口より上部に位置する下端部が,カバーとルーフパネルとの
隙間から浸入しルーフパネルに沿ってカバー内を流れる雨水等と接触
することがないから,カバー内部を密閉する防水対策の必要がない。
(発明の効果。段落【0009】)
カバーの上面には突出部が一体成形され,該突出部の内部には保持
筒部が下向きに一体成形され,突出部の内面壁の両側にはブースター
アンプ等を係止する係止爪が一体成形される。保持筒部にはスパイラ
ル式のコイルアンテナの上端部が挿入されて保持され,該アンテナの
下端はカバーの底面開口よりも上部に位置する。(実施例。段落【0
013】,【0014】,図2,4)
イ 原告は,本件の特許出願手続において,当初,スパイラル式のコイル
アンテナを用いる場合にその上端部を保持する保持筒はカバーの天井部か
ら下向きに一体成形されるものであることを特許請求の範囲の請求項の一
つとしており,当初の明細書及び図面にも保持筒がカバーと一体成形され
る構成以外の構成は開示されていない。(乙1の1〜4)
ウ 被告製品の短軸アンテナ素子はサイズが小さくコイルの巻数が少ない
ため,それのみでは車両にあらかじめ設置されているポールアンテナに比
し受信感度が低く電気特性の良好な帯域幅も少ない。これを補うため,ア
ンテナカバー上部の形状に合わせて形成した広面積の金属板からなる平板
アンテナ素子を短軸アンテナ素子に通電可能に接続することで,上記ポールアンテナと同程度の受信感度を確保している。(甲10)
以上認定の事実に基づいて検討すると,本件発明は,カバーと一体成形
するという構成により,簡易な構成で部品点数を少なくするという作用効
果を奏するものということができる。これに対し,被告製品のアンテナ部
は,いずれも平板アンテナ素子と短軸アンテナ素子をネジ止めにより通電
可能に接続した複合体であり,これを別部品であるアンテナカバーに接着剤で固定するため,アンテナカバー及びコイル以外に少なくとも金属棒及
び絶縁体(短軸アンテナ素子の構成部品),アンテナカバー上部の形状に合わせて形成した金属板(平板アンテナ素子)並びに短軸アンテナ素子と
平板アンテナ素子を接続するためのネジを要する。このように被告製品は,
本件発明のカバー,保持筒及びアンテナコイルに代えて相当多数の部品を
要しその構成も複雑であるから,本件発明と同一の作用効果を奏するということはできない。
したがって,その余の要件について判断するまでもなく,構成要件C及びDについての均等侵害は成立しない。
◆判決本文