化合物の製造方法について、一部の置換基を置換することについて動機付けなしとした審決が維持されました。
(ア) 原告らは,主張1)のとおり,マキサカルシトールの効率的な製造方法を検
討する当業者は,甲第4号証の図9から,エポキシド化合物(18)及び(19)
のヒドロキシメチル基をメチル基に置き換えることを着想し,動機付けられると主
張する。
しかし,前記のとおり,甲第4号証の図9記載の工程は,25位の立体配置が異
なる二種類のマキサカルシトールの予想代謝物(12)又は(13)を選択的に合成するための製造方法であり,まず,出発物質に試薬を適用して二重結合を有する
側鎖を導入し,次いで,これに香月−シャープレス反応を用いるという二段階の反
応を行うことにより,二重結合をエポキシ基に変換した中間体である二種類のエポ
キシド化合物(18)又は(19)を選択的に生成し,さらに,各エポキシド化合
物のエポキシ基を開環することにより図9の右下に図示される2種類のステロイド
化合物を製造し,最後に,各ステロイド化合物を光照射及び熱異性化して,それぞ
れから最終目的物である上記予想代謝物(12)又は(13)を生成するという一連の工程である。原告らの主張1)は,この一連の工程のうち終盤の,中間体(前駆
体)としてエポキシド化合物を経由するという点のみを取り出して,そのエポキシ
ド化合物を得るまでの工程は,甲4発明1とは全く違うものに変更するというもの
であるから,甲4発明1の一連の工程のうち,特にエポキシド化合物を経由すると
いう点に着目するという技術的着想が必要である(仮に,この甲4発明1をマキサ
カルシトールの合成にも応用しようとするのであれば,甲4発明1の試薬を,4−
ブロモ−2−メチル−テトラヒドロピラニルオキシ−2−ブテンに代えて,マキサ
カルシトールの側鎖にとって余分なテトラヒドロピラニルオキシ基〔OTHP基〕
のない下図の4−ブロモ−2−メチル−2−ブテン(臭化プレニル)を用い,それ
以外は,甲4発明1と同様の一連の側鎖導入工程,エポキシ化工程,エポキシ基の
開環工程を経る製造方法に想到することが自然である。)。
甲第4号証記載の試薬 4−ブロモ−2−メチル−2−ブテン
この点,甲第4号証には,図9の一連の工程が,特にエポキシド化合物を経由す
る点に着目したものであることを示唆する記載はなく,むしろエポキシド化合物は,
26位が水酸化された側鎖末端の立体配置構造が異なる2種類のマキサカルシトールの予想代謝物(12)又は(13)を選択的に製造するという目的のために,香月−シャープレス反応を採用した結果,工程中において生成されることとなったも
のにすぎないものと理解される。また,甲第4号証には,図9の合成方法によって
マキサカルシトールの予想代謝物が高収率で得られたことが記載されているのみで,問題点の記載もなく,甲4発明1の一連の工程の改良(変更)をする際に,どの点
は変更する必要がなく,どの点を改良すべきかを示唆する記載もない(なお,仮に
改良すべき点として工程数を取り上げたとしても,側鎖導入工程,エポキシ化工程,
エポキシ基の開環工程のいずれを短縮すべきなのかについての示唆もなく,二重結
合からエポキシ化を経由せず直接水酸化するという選択肢なども想定は可能である。)。
そうすると,当業者が,仮に甲第4号証の図9のマキサカルシトールの予想代謝物(又はその前駆体となるステロイド化合物)とマキサカルシトールの側鎖の類似
性から,甲4発明1をマキサカルシトールの合成に応用することを想到し得たとし
ても,その際に,一連の工程のうち,特にエポキシド化合物を経由するという点に
着目して,最終工程であるエポキシド化合物のエポキシ基を開環する工程の方を変
更せずに,その前段階である側鎖導入工程とエポキシ化工程は変更することを前提
として,マキサカルシトールの前駆体となるエポキシド化合物を製造しようとする
ことを,当業者が容易に着想することができたとは認められない。
◆判決本文