地域団体商標「小鯛ささ漬」は識別力なしとした審決が維持されました。
「小鯛ささ漬」の語は,一般的な辞典には固有名詞等として登載されている
ものとは認められない(乙3,弁論の全趣旨)。インターネット上では,「小鯛ささ
漬」の語は,原告の構成員が販売する商品の商品名として使用されているほか(甲12,乙41),「小鯛ささ漬」,「小鯛笹漬」,「小鯛の笹漬」,「笹漬小鯛」の語については,少なくとも,以下のような使用例がある。
(ア) 兵庫県所在の「C商店」のウェブサイトにおいて,「選りすぐりの逸品」の
項に,商品名「小鯛の笹漬」が,「あじの笹漬」「さよりの笹漬」と並んで,笹の葉
の上に魚の切り身を載せた写真とともに表示され,「C商店の名でご支持いただいている小鯛の笹漬」,「水揚げされたばかりの小鯛などの魚を新鮮さそのままに素早く
加工。昔ながらの製法で作る笹漬は全て手作業です」との説明文が掲載されている
(乙11)。
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オ 上記アないしウによれば,小さな鯛を意味する「小鯛」と,魚の一般的調理
法を示す語である「ささ漬」を組み合わせた「小鯛ささ漬」は,一般的に,「小さな
鯛を三枚におろし,酢・塩でしめ,笹の葉と一緒に漬けたもの」の意味合いを有す
る複合語として,容易に理解されるものであるといえる。上記エのとおり,「小鯛さ
さ漬」と同一又は実質的に同一の語が,各地方で生産,販売される上記調理法によ
って調理された小鯛を示す名称として一般的に使用されていることも,同語がその
ような意味合いに理解されることを裏付けるものである。
(2) そうすると,本願商標を,その指定商品である「レンコダイのささ漬」に使
用する場合には,これに接する取引者・需要者は,一般的に,「小さな鯛を三枚にお
ろし,酢・塩でしめ,笹の葉と一緒に漬けたもの。」という原材料,生産方法を記述
したものとして理解,認識するといえる。
したがって,本願商標は,その指定商品の原材料,生産方法を普通に用いられる
方法で表示する標章のみからなるものであるから,法3条1項3号に該当する。
・・・
また,確かに,「小鯛のささ漬け」というものは,福井県若狭地方の伝統料理,
名産品の一つであることが認められる(甲3,7,8,乙53。なお,これらの文
献では,名産品としては,「小鯛ささ漬」ではなく,「小鯛のささ漬」〔甲3〕,「小鯛のささ漬け」〔甲7,乙53〕という表示が用いられているものが多い。)。しかし,「小鯛のささ漬け」というものが若狭地方の名産品,伝統料理であり,そのような
認識を取引者,需要者が有するとしても,前記1(1)のとおり,「小鯛ささ漬」の語
が,魚の種類と,魚についての一般的な調理法を示す「ささ漬」という一般的な語
を組み合わせたものにすぎず,また,若狭地方以外で生産,販売されている同調理
法によって調理された小鯛についても「小鯛ささ漬」,「小鯛笹漬」,「小鯛の笹漬」,「笹漬小鯛」という名称が一般的に使用されていることからすれば,「小鯛ささ漬」
の語が直ちに「福井県若狭地方の名産品」のみを意味するものと取引者,需要者が
理解するとは認められず,本願商標が,指定商品の原材料,生産方法を普通に用い
られる方法で表示する標章のみからなるものであることを否定する理由とならない。したがって,原告の主張は理由がない。
(2)ア 原告は,ある商標がある特定地域の名産であって,他に同じものを名産と
する地域がなく,かつ,当該名産の名称が当該地域で特定の事業者又は団体構成員によって実質的に独占されているのであれば,その名称は「名産品であることによ
って,その名称が自他商品の識別標識」となり得る,審決のような理由で「小鯛さ
さ漬」のような地域名産品が商標法による保護を受けることができないとすれば,
商標法の趣旨に反するなどと主張する。
しかし,原告の主張するとおりの事実があれば,当該商標が自他商品の識別標識
となり得るとしても,それは,法3条2項の該当性の問題と解すべきことは,前記
(1)アのとおりである。そして,一般に,地域名産品の名称については,同項による
商標登録のほか,同法7条の2による地域団体商標の商標登録が考えられるのであ
って,本願商標が法3条1項3号に該当するからといって,商標法の趣旨に反する
などということはできない(なお,本件においては,原告は,法3条2項に基づく
主張をしないことを明らかにしていることは前記第2の4のとおりであり,原告の
構成員による本願商標の使用実績等についての主張立証もしようとしていない。)。
◆判決本文