クレームの用語「ICSネットワークアドレス」を技術的に分析して、該当しないと判断されました。
ウ 以上の本件明細書1の記載によれば,「ICSネットワークアドレス」とは,
コンピュータ情報/通信アドレスとして独自に定めたアドレスの付与規則を持つI
CS(統合情報通信システム)において,これを構成するアクセス制御装置,アクセス制御装置とユーザ物理通信回線との接続点であるICS論理端子,中継装置,
VAN間ゲートウェイ及びICS網サーバ等に付与される,それぞれICS内部で
唯一の識別符号を指すものであり,かつ,このうち,ICS論理端子に付されるア
ドレスは,ICSネットワークフレームを構成するネットワーク制御部に格納され,同アドレスが直接参照されることにより,ICSネットワークフレームがICS網
内を転送されるものを意味すると認められる。
エ しかるところ,被告システムにおける「ラベル」,すなわち網内転送ラベル
(outerラベル)及びVPN識別ラベル(innerラベル)の各値は,各事業所に設置
されているCEルータが,自身が接続しているVPNサイト内部のルート情報を接
続しているPEルータに配信し,これを受信したPEルータにおいて,当該VPN
に属する他の事業所を接続するPEルータやPルータに配信することを繰り返すこ
とにより,特定のホストアドレスを有するVPN内部のユーザへ情報を配信する場
合に通過する経路を各々のPEルータ及びPルータが蓄積した結果決定された情報
であって,被告システムにおいて「ICS論理端子」に該当しうる「PE−CEイ
ンターフェイス」に網内で唯一付された識別子であるとは認められない。
加えて,網内転送ラベル(outerラベル)の値は,あくまでPEルータ又はPル
ータがMPLSフレームを転送すべき次のPルータ又はPEルータを特定するため
に設定された値である上,Pルータを経由するごとに貼り替えられていくのであるから,仮に,被告システムの「PE−CEインターフェイス」に網内で唯一付され
た識別子が存在しているとしても,同識別子が網内転送ラベル(outerラベル)の
値と一致するものとは認め難い。また,VPN識別ラベル(innerラベル)は,M
PLSフレームが各Pルータを転送されて受信側PEルータに到着した際に同受信
側PEルータによって参照され,これによりパケットを出力すべきPE−CEイン
ターフェイスが特定されるものではあるが,あくまで受信側PEルータ内部によっ
てPE−CEインターフェイスを特定するものであるから,VPN識別ラベル
(innerラベル)の値が,特定のPE−CEインターフェイスに網内で唯一付され
た識別子と同一の値であるとは直ちには認められず,両値の同一性を認めるに足り
る的確な証拠もない。
オ なお,原告は,網内転送ラベル(outerラベル)及びVPN識別ラベル
(innerラベル)の「2つのラベルに含まれる情報」や「ラベルの組合せ」をもっ
て,「ICSネットワークアドレス」に該当すると主張しているようにも思われる
ところ,確かに,被告システムにおいて,網内転送ラベル(outerラベル)及びV
PN識別ラベル(innerラベル)が付されたパケットは,最終的に所望のPE−C
Eインターフェイスを経由して特定のユーザに送信されることとなるが,上記のと
おり,「ICSネットワークアドレス」とは,コンピュータ情報/通信アドレスと
して独自に定めたアドレスの付与規則を持つICS(統合情報通信システム)にお
いて,これを構成するアクセス制御装置,アクセス制御装置とユーザ物理通信回線との接続点であるICS論理端子,中継装置,VAN間ゲートウェイ及びICS網
サーバ等に付与される,それぞれICS内部で唯一の識別符号を指すものであり,
かつ,このうち,ICS論理端子に付されたアドレスは,ICSネットワークフレ
ームを構成するネットワーク制御部に格納され,同アドレスが直接参照されることにより,ICSネットワークフレームがICS網内を転送されるものを意味するの
であって,単に「所望のICS論理端子にICSユーザフレームを到達させるため
に同ICSユーザフレームに付される情報」一般を包括的に含む広範な概念を指す
ものとは認められないから,原告の主張は採用できない。
カ したがって,被告システムは,「ICSネットワークアドレス」を有しない
から,構成要件1−1A,同1−1B及び同1−2Aをいずれも充足しない。
◆判決本文