平成25(ワ)29520  不当利得返還請求事件  特許権  民事訴訟 平成28年3月30日  東京地方裁判所

 クレームの用語「ICSネットワークアドレス」を技術的に分析して、該当しないと判断されました。
 ウ 以上の本件明細書1の記載によれば,「ICSネットワークアドレス」とは, コンピュータ情報/通信アドレスとして独自に定めたアドレスの付与規則を持つI CS(統合情報通信システム)において,これを構成するアクセス制御装置,アクセス制御装置とユーザ物理通信回線との接続点であるICS論理端子,中継装置, VAN間ゲートウェイ及びICS網サーバ等に付与される,それぞれICS内部で 唯一の識別符号を指すものであり,かつ,このうち,ICS論理端子に付されるア ドレスは,ICSネットワークフレームを構成するネットワーク制御部に格納され,同アドレスが直接参照されることにより,ICSネットワークフレームがICS網 内を転送されるものを意味すると認められる。
エ しかるところ,被告システムにおける「ラベル」,すなわち網内転送ラベル (outerラベル)及びVPN識別ラベル(innerラベル)の各値は,各事業所に設置 されているCEルータが,自身が接続しているVPNサイト内部のルート情報を接 続しているPEルータに配信し,これを受信したPEルータにおいて,当該VPN に属する他の事業所を接続するPEルータやPルータに配信することを繰り返すこ とにより,特定のホストアドレスを有するVPN内部のユーザへ情報を配信する場 合に通過する経路を各々のPEルータ及びPルータが蓄積した結果決定された情報 であって,被告システムにおいて「ICS論理端子」に該当しうる「PE−CEイ ンターフェイス」に網内で唯一付された識別子であるとは認められない。 加えて,網内転送ラベル(outerラベル)の値は,あくまでPEルータ又はPル ータがMPLSフレームを転送すべき次のPルータ又はPEルータを特定するため に設定された値である上,Pルータを経由するごとに貼り替えられていくのであるから,仮に,被告システムの「PE−CEインターフェイス」に網内で唯一付され た識別子が存在しているとしても,同識別子が網内転送ラベル(outerラベル)の 値と一致するものとは認め難い。また,VPN識別ラベル(innerラベル)は,M PLSフレームが各Pルータを転送されて受信側PEルータに到着した際に同受信 側PEルータによって参照され,これによりパケットを出力すべきPE−CEイン ターフェイスが特定されるものではあるが,あくまで受信側PEルータ内部によっ てPE−CEインターフェイスを特定するものであるから,VPN識別ラベル (innerラベル)の値が,特定のPE−CEインターフェイスに網内で唯一付され た識別子と同一の値であるとは直ちには認められず,両値の同一性を認めるに足り る的確な証拠もない。
オ なお,原告は,網内転送ラベル(outerラベル)及びVPN識別ラベル (innerラベル)の「2つのラベルに含まれる情報」や「ラベルの組合せ」をもっ て,「ICSネットワークアドレス」に該当すると主張しているようにも思われる ところ,確かに,被告システムにおいて,網内転送ラベル(outerラベル)及びV PN識別ラベル(innerラベル)が付されたパケットは,最終的に所望のPE−C Eインターフェイスを経由して特定のユーザに送信されることとなるが,上記のと おり,「ICSネットワークアドレス」とは,コンピュータ情報/通信アドレスと して独自に定めたアドレスの付与規則を持つICS(統合情報通信システム)にお いて,これを構成するアクセス制御装置,アクセス制御装置とユーザ物理通信回線との接続点であるICS論理端子,中継装置,VAN間ゲートウェイ及びICS網 サーバ等に付与される,それぞれICS内部で唯一の識別符号を指すものであり, かつ,このうち,ICS論理端子に付されたアドレスは,ICSネットワークフレ ームを構成するネットワーク制御部に格納され,同アドレスが直接参照されることにより,ICSネットワークフレームがICS網内を転送されるものを意味するの であって,単に「所望のICS論理端子にICSユーザフレームを到達させるため に同ICSユーザフレームに付される情報」一般を包括的に含む広範な概念を指す ものとは認められないから,原告の主張は採用できない。 カ したがって,被告システムは,「ICSネットワークアドレス」を有しない から,構成要件1−1A,同1−1B及び同1−2Aをいずれも充足しない。

◆判決本文

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