平成26(ワ)1690  特許権侵害差止等請求事件  特許権  民事訴訟 平成28年3月28日  東京地方裁判所

 特許無効理由なし、また、損害額について文書提出命令に応じて書類を提出しない被告に対して、原告の主張どおりの損害(102条2項)が認められました。
 被告は,本件発明2についての特許について,本件明細書2の特許の特許請 求の範囲は,単に「覆い片の背部の凹所に係入する係入片」と記載するのみで, 「係入片が受片と協働してスタータにて壁パネルの下端部を強固に支持する」との 効果を奏しない「係入片」をもその範囲に含んでおり,権利の外縁を明確に記載し ていないから,明確性要件に違反すると主張する。 しかしながら,本件発明2が「壁パネルの下端部の支持構造」に関するものであることから明らかなとおり,本件明細書2に接した当業者であれば,上記「係入 片」の意義について,覆い片の背部の凹所に係入し壁パネルを支持するため,凹部 の形状と照らして,同凹部に嵌合されるに適した形状を有する必要があることは容 易に認識できるというべきであるから,「覆い片の背部の凹所に係入する係入片」 という記載が,明確性を欠くものとは認められない。
イ また,被告は,本件明細書2の特許請求の範囲の記載が明確であるというな らば,同明細書の発明の詳細な説明には記載されていない発明を特許請求の範囲に 含むものであってサポート要件に違反するとか,発明の詳細な説明が当業者に実施 可能な程度に明確かつ十分に記載されておらず実施可能要件にも違反すると主張するが,本件明細書2には,本件発明2(請求項1記載の発明)の実施例として, 「スタータ15を取付け片11においてチャンネル材の壁下地10にボルト18に て取付け,スタータ15の係入片8を壁パネルAの覆い片3の背部の凹所4に係入 するとともに受片9にて嵌合凸部2の下面を受けることで,スタータ15にて壁パ ネルAを強固に支持するのである。」と記載され(段落【0012】),【図1】 には,係入片4が壁パネルAの覆い片3の背部の凹所4に係入されている態様が具 体的に開示されているのであるから,サポート要件に違反するということはできな いし,前記のとおり,本件明細書2に接した当業者であれば,「係入片」の意義に ついて,覆い片の背部の凹所に係入し壁パネルを支持するため,凹部の形状と照ら して,同凹部に嵌合されるに適した形状を有するべきことを容易に認識できるので あるから,実施可能要件に違反するということもできない。
・・・
原告は,平成27年11月20日,被告における平成23年1月1日から平 成27年4月20日までの被告各製品の売上高及び利益の額が原告の主張する額で あることを証明するため,特許法105条1項に基づき,被告に対し,被告各製品 の販売量,販売単価,販売原価及び販売のために直接要した販売経費の額が記載さ れている書面である売上伝票,請求書控え,製造原価報告書及び経費明細書(製造 経費及び販売経費)(以下,併せて「対象文書」という。)の提出を求める文書 提出命令申立てを行った(当庁平成27年(モ)第3723号事件)。当裁判所は,平成27年12月2日,被告に対し,決定の確定の日から14日以 内に,対象文書を当裁判所に提出すべきことを命ずる決定(以下「本件文書提出 命令」という。)をして,同日,決定書の正本が被告に送達された。本件文書提 出命令は,平成27年12月9日の経過により確定したところ,被告は,上記提出 期限内に,対象文書を当裁判所に提出しなかった。
エ 以上のとおり,被告は,当裁判所がした本件文書提出命令にもかかわらず, 正当な理由なく,対象文書を提出しなかったものである。 そこで,民訴法224条1項又は3項の規定により,対象文書の記載に関する原 告の主張を真実と認め,又は対象文書により証明すべき事実に関する原告の主張を 真実を認めることができるかについて検討する。 対象文書は,被告の売上伝票,請求書控え,製造原価報告書及び経費明細書(製 造経費及び販売経費)であって,被告の業務に際して作成される会計帳簿書類であ るから,その記載に関して,原告が具体的な主張をすることは著しく困難である。 また,原告が,対象文書により立証すべき事実(被告における平成23年1月1日 から平成27年4月20日までの被告各製品の売上高及び利益の額が原告の主張す る額であること)を他の証拠により立証することも著しく困難である。 そうすると,民訴法224条3項の規定により,被告における平成23年1月1 日から平成27年4月20日までの被告各製品の売上高及び利益の額は,原告の主 張,すなわち,被告は,平成23年1月1日から平成27年4月20日までの間に, 被告各製品を販売して合計8億1715万2306円を売り上げ(うち平成26年 1月23日までの売上高は7億8021万6380円,同年12月21日までの売 上高は8億1685万6414円),かつ,被告各製品の利益率はいずれも15パ ーセントを下回ることはないとの事実を真実であると認めるのが相当である。なお, 被告の平成22年4月1日から平成26年3月31日までの総売上の合計が53億 6258万6000円であり,うち,完成工事高が36億2028万2000円, 兼業事業売上高が17億4230万4000円であること,同期間中の兼業事業売 上高に占める原価率は66.27パーセントであること(以上につき,甲70ない し77),被告は,被告製品1−1及び同1−2につき平成21年12月17日に, 被告製品4−1及び同4−2につき平成23年11月7日に耐火認定(建築基準法 及び同法施行令に規定する基準に適合することの認定)を受けたこと(当事者間に 争いがない。)などの事実関係からすれば,上記真実擬制に係る事実は,客観的真 実とも十分に符合しうるというべきである。
オ そうすると,被告は,本件特許権1の侵害により,8億1685万6414 円に15パーセントを乗じて算出される1億2252万8462円(うち平成26 年1月23日までの売上に係る利益は1億1703万2457円)の利益を受けた ものと認められる。

◆判決本文

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