延長登録の対象となった対象について、イ号と均等か争われました。地裁は「本件各処分の対象となった物とは有効成分以外の成分が異なる」として、均等を否定しました。
上記のとおり,本件発明は,「オキサリプラティヌムの医薬的に安定な製剤」
に関する発明であり,医薬品の成分全体を特徴的部分とする発明であって,原
告は,その実施として,「オキサリプラチン」と「注射用水」のみを含み,それ
以外の成分を含まないとするエルプラット点滴静注液(製剤)について本件各
処分を受けたものである。これに対し,前記前提事実,上記(1)エ及び(2)の各
認定事実,証拠(乙4)並びに弁論の全趣旨によれば,被告各製品は,「オキサ
リプラチン」と「水」又は「注射用水」のほか,有効成分以外の成分として,
「オキサリプラチン」と等量の「濃グリセリン」を含有するもので,オキサリ
プラチンを水に溶解したもの(以下,「オキサリプラチン」と「水」又は「注
射用水」以外の成分の有無を問わず,「オキサリプラチン水溶液」という。)に
グリセリンを加えたのは,オキサリプラチン水溶液の保存中に,オキサリプラ
チンの分解が徐々に進行し,類縁物質であるジアクオDACHプラチンやその
二量体であるジアクオDACHプラチン二量体を主とした種々の不純物が生成
するため,オキサリプラチンの自然分解自体を抑制するということを目的とし
たものであることが認められる。これを,本件発明との関係でみると,被告各
製品について政令処分を受けるのに必要な試験が開始された時点において,オ
キサリプラチン水溶液にオキサリプラチンと等量の濃グリセリンを加えること
が,単なる周知技術・慣用技術の付加等に当たると認めるに足りる証拠はなく,
むしろ,オキサリプラチン水溶液に添加したグリセリンによりオキサリプラチ
ンの自然分解を抑制するという点で新たな効果を奏しているとみることができ
る(なお,本件各処分の対象となった「当該用途に使用される物」については,
保存中にオキサリプラチンが自然分解し,シュウ酸を含有するに至ることがあ
ることは,前示のとおりである。また,オキサリプラチン水溶液に添加された
シュウ酸がオキサリプラチンの自然分解を抑制することは知られているが,シ
ュウ酸は人体に有害な物質である。)。
そうすると,被告各製品は,「オキサリプラティヌムの医薬的に安定な製剤」
に関する発明であって,医薬品の成分全体を特徴的部分とする本件発明との関
係では,本件各処分の対象となった物とは有効成分以外の成分が異なる物であ
り,当該成分の相違は,被告各製品について政令処分を受けるのに必要な試験
が開始された時点において,本件発明との関係では,単なる周知技術・慣用技
術の付加等に当たるとはいえず,新たな効果を奏するものというべきである。
したがって,「分量,用法,用量,効能,効果」について検討するまでもなく,被告各製品は,本件各処分の対象となった「当該用途に使用される物」の均等
物ないし実質同一物に該当するということはできない。
この点,原告は,被告各製品に含まれる「濃グリセリン」があくまで「添加
物」であるとか,被告各製品は,本件各処分の対象となった物(エルプラット
50,エルプラット100及びエルプラット200)と生物学的同等性を有す
ることを前提に,本件各処分で用いられた臨床成績をそのまま利用して承認を
得たものであるなどと主張する。しかし,被告各製品が,エルプラット点滴静
注液と有効成分である「オキサリプラチン」が共通し,生物学的同等性を有す
るとされており,「濃グリセリン」それ自体が「添加物」であるとしても,上記
のとおり,「オキサリプラティヌムの医薬的に安定な製剤」に関する本件発明が,
医薬品の有効成分のみを特徴的部分とする発明ではなく,医薬品の成分全体を
特徴的部分とする発明であって,そのような本件発明との関係では,上述した
有効成分以外の成分の相違は,単なる周知技術・慣用技術の付加等には当たら
ず,新たな効果を奏するものというべきであることからすれば,有効成分であ
る「オキサリプラチン」が共通し,生物学的同等性を有するとされていること
をもって,直ちに均等物ないし実質同一物と認めることはできないのであって,
原告の上記主張は,採用することができない。
(4) 小括
以上によれば,被告各製品は,本件各処分の対象となった「(当該用途に使用
される)物」ではなく,その均等物ないし実質同一物に該当するものというこ
ともできない。したがって,存続期間が延長された本件特許権の効力は,被告
による被告各製品の生産等には及ばないものというべきである。
◆判決本文