平成27(行ケ)10179  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 平成28年4月26日  知的財産高等裁判所

 不使用ではないとした審決が維持されました。争点は、使用されていた商標は、登録商標と実質同一の商標か、さらに、使用していた商品が「電子計算機用プログラム」か否かでした。
 そこで,本件使用商標が,本件商標と社会通念上同一の商標ということがで きるかどうか,以下検討する。
(1) 「MFX」の文字部分が本件使用商標の要部に当たるか
ア 本件使用商標は,前記1(3)アのとおりの外観を有し,「MFX」の欧 文字,「−」の記号,「EV」の欧文字,「シリーズ」の片仮名文字が, 順次,横書き一段に記載されてなるものである。 そして,「MFX」の文字部分と「EVシリーズ」の文字部分は,「−」 (ハイフン)によって接続されているのに対し,本件使用商標を構成する文字の大きさには特段の差異はなく,また,上記ハイフン部分を除く各文 字の間隔にも特段の差異はないから,上記ハイフンの前にある「MFX」 の文字部分は,上記ハイフンの後の文字部分と対比して,外観上まとまっ たものとして看取されるというべきである。 これに対し,上記ハイフンの後の「EVシリーズ」の文字部分は,「E V」の文字部分それ自体には,出所識別標識としての特段の称呼や観念を 生ずるものではなく,むしろ,「連続性を持つ一連のもの」との意味を有 する日本語であることを容易に理解することができる「シリーズ」の文字 部分がその後ろに付されていることや,電子応用機械器具の取引分野にお いては,それ自体としては必ずしも固有の意味を生じるものとはいえない 欧文字等の組合せを,商品の種別や型番を表す記号として用いることがあることからすると,取引者,需要者において,「MFX」の語によって表象される一連の製品における個々の製品の種別や型番を表す語と理解することができるというべきである。 イ 以上を総合すると,本件使用商標の「MFX」の文字部分は,本件使用 商標のその余の文字部分から分離して観察することが取引上不自然である と思われるほど不可分的に結合しているものではなく,むしろ,電子応用 機械器具の取引者,需要者において,被告が製造販売する製品を表すひとまとまりの表示として認識するものと認められ,また,本件使用商標のその余の文字部分からは,出所識別標識としての称呼や観念は生じないから, 「MFX」の文字部分が独立して自他商品の識別標識として機能し得るものであると認められる。 したがって,「MFX」の文字部分は,本件使用商標の要部であると認 められ,本件商標は,これと同一の文字からなるものであるから,本件使 用商標は,本件商標と社会通念上同一の商標であると認められる。
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前記1(3)によれば,被告は,要証期間内に,ワタキューセイモアに対し, 本件使用商標が表示された本件ソフトウェアのバージョンアップ版が格納され たCD−ROMを引き渡したことが認められる。 かかる行為をもって,本件商標と社会通念上同一の商標を,本件審判請求の 対象となった指定商品に含まれる「電子計算機用プログラム」について使用し たということができるかどうかについて,以下検討する。 (1) 本件集中管理装置と本件ソフトウェアの関係についてア 前記1(1)アのとおり,本件集中管理装置の取扱説明書には,「装置全 体」の説明として,パソコン本体及びその周辺機器から構成されるとの記 載があり,被告のウェブサイト(甲3,甲26の1及び2)や本件集中管 理装置のパンフレット(甲9),取扱説明書(甲8,25)には,パソコン本体及びその周辺機器が納められたテーブルの写真や,その見取図が, 本件集中管理装置として掲載されている。 一方,本件集中管理装置の取扱説明書には,その冒頭付近で,「本管理 装置は,Microsoft®社のWindows®上で稼働するシステ ムです。」として,本件集中管理装置の本質が,むしろソフトウェア(本件ソフトウェア)にあると受け取れるような説明がされている(1⑴イ) ほか,その記述内容も,ソフトウェアの操作方法を説明したものと受け取ることが十分に可能なものになっている(甲8,25)。そして,被告が, パソコン本体及びその周辺機器自体を製造しているとは認められず,これらの機器は,専ら,被告が,他のメーカーから既製品を調達して組み合わ せたものと認められる。さらに,これらの機器自体は,パソコン本体,キーボード,ディスプレイ,マウス,通信アダプタ,プリンタ,無停電電源 装置といった,パソコンでソフトウェアを操作するために使われるありふ れたものばかりである上,汎用のものであれば足りるのであって,本件集 中管理装置を構成する機器としての特有のハード面での仕様や性能が,被 告によって付加されているとは認められない。そして,これらの機器が集 中管理装置としての前記1(1)イのとおりの機能を果たすためには,アプリケーションソフトウェアである本件ソフトウェアが,パソコン本体にインストールされることが必要となる。 また,前記1(1)オによれば,本件集中管理装置は,最新機器に対応す るための機能追加を,本件ソフトウェアのバージョンアップ版を格納した CD−ROMを用いた本件ソフトウェアのバージョンアップという形態で行っているものと認められるが,上記のような形態による本件集中管理装 置の機能追加に当たって,パソコン本体及びその周辺機器自体の更新が必 須のものであると認めるに足りる証拠はない。
イ そうすると,本件集中管理装置の機能,性能は,専ら本件ソフトウェアの機能,性能に依存しているものであって,むしろ,その本質はソフトウェアである本件ソフトウェアにあるということも可能である。そして,本 件集中管理装置を最新機器に対応させるためには,少なくとも本件ソフトウェアのバージョンアップが必要であり,この場合には,本件集中管理装 置が所要の機能を果たすための必須の構成要素である本件ソフトウェアのバージョンアップ版が格納されたCD−ROMが顧客に販売されるから, かかるバージョンアップ版を対象とする独立の取引を観念することができ る。 以上によれば,本件ソフトウェアのバージョンアップ版は,本件集中管理装置の単なる付属品ではなく,それ自体を独立した商品として観念する ことができるというべきである。

◆判決本文

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