ゲーム機について、進歩性違反なしとした審決が維持されました。また、手続き違背についても、無効審判における審理事項通知書とは異なる認定をする場合に意見申立の機会を与える必要はないと判断されました。
本件発明1は,前記2(2)のとおり,従来のスロットマシンにおいては,メ
モリのデータに異常が生じると,遊技店の従業員等の操作により選択・設定された
設定値ではなく,あらかじめ定められた設定値を自動的に設定し,ゲームの進行が
可能な状態に復帰させているので,本来であれば,遊技店側の操作により選択・設定された設定値に基づく当選確率を適用して内部抽選が行われ,入賞の発生が許容
されるべきであるのに,スロットマシンにより自動的に設定された設定値に基づい
てゲームが行われることとなるため,ゲームの公平性が損なわれてしまうという問
題があったことから,ゲームの公平性を図ることができるスロットマシンを提供す
ることを課題とし,その解決手段として,特許請求の範囲請求項1の構成を採用し,特に,不能化解除手段については,第1の不能化手段によりゲームの進行が不能化された状態においても第2の不能化手段によりゲームの進行が不能化された状態に
おいても,設定操作手段の操作に基づいて許容段階設定手段により設定値が新たに
設定されたことを条件に,ゲームの進行が不能化された状態を解除し,ゲームの進行を可能とする構成を採用したものである。
(イ) これに対し,引用発明1は,前記3(2)のとおり,従来のパチンコ機におい
て採用されているチェックサムを用いたエラーのチェック方式では,メモリーにバ
ックアップ電源を持たないので,チェックサムの内容が電源遮断後,消去されてし
まい,スロットマシン固有の設定値に関するエラーのチェックが困難であるという
問題があったことから,設定値を含む遊技データのチェックサムを,バックアップ
電源により保持することにより,電源投入時に,設定値に関するエラーの発生を検
査することができるようにし,エラーを発見した場合には,スロットマシンの遊技
を停止して,段階設定値の設定の待機待ちの状態にすることができるようにすると
ともに,段階設定値を手動で変更することができるようにすることを課題とするも
のであって,不能化解除手段については,第1の不能化手段によりゲームの進行が
不能化された状態において,設定操作手段の操作に基づいて許容段階設定手段により設定値が新たに設定されたことを条件に,ゲームの進行が不能化された状態を解除し,ゲームの進行を可能とするが,そもそも第2の不能化手段を備えず,第2の
不能化手段を備えないため,第2の不能化手段によりゲームの進行が不能化された状態を解除し,ゲームの進行を可能とする構成も備えないものである。
そして,引用例1には,ゲームの公平性を図るために,第2の不能化手段及びそのための不能化解除手段を備えること,第2の不能化手段のための不能化解除手段を第1の不能化手段のための不能化解除手段と共通にすることについては,記載も
示唆もない。
したがって,引用発明1において,第2の不能化手段及びそのための不能化解除
手段を備え,その上で,更に,第2の不能化手段のための不能化解除手段を第1の
不能化手段のための不能化解除手段と共通のものとすることについて動機付けがあ
るということはできない。
・・・
イ 審理事項通知書(甲21)によれば,「合議体の暫定的な見解」として,
「引用例1に記載されている,ステップ3のRAMチェックサム検査とステップ4
のチェックサムの一致判定とを実行するチェックサム検査手段と,ステップ5の段
階設定値が正常か否かを判定する段階設定値判定手段とは別の構成であるから,引用発明1における,段階設定値が適正か否かの判断を個別に行うものではない「チ
ェックサム検査手段」は,引用発明1の「記憶データ判定手段」に相当するもので
ある。」旨示していたことが認められる。これに対し,本件審決においては,「電
源投入時における「制御を行うためのデータ」に異常があるか否かの判定とに関す
る技術が,技術的に関連の深いまとまりのある技術単位であることを考慮して,本
件発明1と引用発明1とを対比し直した。」として,本件発明1と引用発明1との
相違点として,相違点1を認定した。
しかし,審判における最終的な判断の論理が,審判手続の経過において示された
暫定的な見解と異なるとしても,審判手続において,改めて上記論理を当事者に通
知した上で,これに対する意見を申し立てる機会を当事者に与えなければならないものではない。そうすると,かかる機会を与えなかったことを理由として,本件審
判手続に審理不尽の違法があるとまでいうことはできない。
◆判決本文