CS関連発明について、技術的範囲に属しないと判断されました。
「電子ショッピングシステム」の意義についても,本件明細書中に明確な定
義はないが,「ショッピング」が一般的な意味において売買を指すことは明らかで
あるし,加えて構成要件Fからすると,この電子ショッピングには,少なくとも「注文」と「受注」が起きることが必要であるし,また本件明細書の【0001】には,
【発明の属する技術分野】として「本発明は,例えばレコードショップ等が加盟す
るフランチャイズ制の電子ショッピングシステムに関し,インターネットを利用し
た電子商取引の技術分野に関する。」とあり,さらに【発明の効果】を記載した【0
042】に「受注データにしたがって当該会員に商品を引き渡すと共に代金を受領
することにより,自らホームページを所持しなくても,インターネットを利用した
商取引が可能となる。」とあることから,ここにいう「電子ショッピングシステム」とは,インターネットを利用してされる有償の商品の取引を指すものと解するのが
相当であり,その取引においては,「注文」と「受注」,すなわち売買契約締結に
向けて顧客からの具体的法律行為がなされ得ることが必要であると解される。
これに対し,原告は,電子ショッピングシステムの定義について,商品の広告,
受発注,設計,開発,決済などのあらゆる経済活動と捉えるもので,商品の宣伝で
あってもこれに含まれる旨主張するところ,確かに,本件明細書には,「電子ショ
ッピングシステム」でなす経済活動について,「電子商取引」(【0001】,【0
005】,【0038】,【0043】),「商取引」(【0013】,【004
2】)などとする記載があり,さらに証拠(甲19ないし21)によれば,「電子
商取引」の定義については上記原告主張に一部沿うものが認められる。
しかし,「宣伝」に触れる記載(甲19)は,取引ではなく,インターネット上
の商行為について触れるものであるし,「広告」を含む通商産業省の定義(甲20)
は,その当時の郵政省の定義とは異なることからすると,これは省庁の規制目的で
対象範囲の定義をしていると理解でき,直ちに一般的に通用する定義に結びつくも
のとはいえない。
そして,そもそも,ここでは本件発明の構成要件にいう「電子ショッピングシステム」の定義を問題にしているのであるから,上記説示のとおり本件明細書の記載
を考慮して解すべきであって,したがって,「電子ショッピンング」に,少なくと
も原告の主張するような宣伝,広告までを含んで解することはできないというべき
である。
(イ) これを前提に被告システムにつき検討するに,被告システムは,前記認定の
とおり,顧客は各提携企業のホームページにおいて,講演会の講師を選択し,当該
講師の「講演を依頼する」タグを選択することにより現れる問合せ画面に名称,住
所,電話番号等の自らを特定する情報を記載し,さらに講演の希望内容を入力する
などして送信すると本部のサーバーがこれを受信し,それに伴って各提携企業サー
バーにeメールが送信されることで各提携企業が得る上記情報を基に,顧客を訪問
する,電話ないしメール等で連絡を取り合うなど営業活動をして,顧客の希望に沿
った講演会の内容・レベル・対象・講師・構成などを聴取し,顧客と契約できるよう交渉を行うという方式である。
すなわち,被告システムの役割は,講演開催運営を取り扱う各提携企業に対し,
講演開催希望者がインターネットを使ってアクセスするホームページを設けて,そ
の潜在的需要を顕在化させ,もって各提携企業が営業活動をすべき講演開催希望者
の情報を得ることができるというところまでであり,その後の講演開催実現に至る
までの営業活動は,インターネット外,すなわち被告システム外の接触交渉が予定されているというものである。また,その機会における顧客が被告システムを利用
して「お問い合わせ(講演依頼)」をする行為は,漠然とした講演開催希望に基づ
くものであってもよく,したがって,これにより提携企業との間で講演開催に向け
ての交渉が開始されたとしても,それだけでは当事者間に法的な関係が直ちに生じ
たとはいえないから,被告システムは,それは最終的に締結されるだろう講演開催
委託契約に向けての各提携企業の営業活動の契機を与えるものにすぎないものとい
える。そして,このように見ると,被告システムでされている内容は,潜在的需要
者をインターネットでアクセスさせ,その潜在的な需要を顕在化させ,その情報を
もとに実際の営業活動に結びつけるという,一般的な広告宣伝の手法と何ら変わら
ないものといい得る。
なお,被告システム利用者の中には,希望講師のみならず講演会開催の日時,場
所とも確定して利用する者が含まれることはあり得るところ,その場合,そのよう
な「お問い合わせ(講演依頼)」によるアクセス行為は,商品購入の注文に極めて
似ているといえるが,その場合であっても,被告システムを介して,そのアクセス
を受けた各提携企業は,自らが講演する主体ではなく,また掲載講師のスケジュー
ルを管理している主体とも認められないから,直ちに承諾,すなわち「受注」する
ことができるわけではなく,その後,講師との関係を調整して,具体的講演開催に
向けて交渉を重ねる必要があるはずであって,したがって,利用者の 「お問い合わ
せ(講演依頼)」をいかに具体化しても,これを売買契約における「注文」に準じ
るものということができるわけではない。
したがって,被告システムは,構成要件Aにいう「電子ショッピングシステム」には相当しないというべきである。
◆判決本文