上方舞の流派である「吉村流」の六世家元が出願した商標「吉村流」が公序良俗に反しないと判断されました。
被告は,Aが,その設立時社員となって,平成26年7月8日に設立された
一般社団法人であるが,前記1認定のとおり,1)その目的を「法人設立以前の上方
舞吉村流六世家元B(本名A)が,吉村流四世家元F及び吉村流五世家元Gから承
継してきた本邦固有の古典舞踊である,上方舞・地唄舞の技芸と振付を,京都御所
の舞指南・御狂言師たる吉村流の格式と伝統を保持しつつ,これを普及・発展させ,
さらに後世に承継させ,以てわが国の文化芸術の振興に寄与すること」とし,上方
舞の実技・理論の教授及び後継者の育成,上方舞の舞踊公演会及び講習会の企画・
開催等の事業を行うものであり,2)その会員は,師範名取,名取,弟子で構成されるが,従前の団体「吉村流」の会員であった者については,被告に会費を納入した
場合,当然に被告の会員とみなされ,従前の名取,師範名取の資格を有するものと
され,3)その理事長を吉村流六世家元B(A)が務め,理事長(家元)は,被告を
代表し,吉村流家元としてその業務を執行し,名取試験,師範名取試験を実施し,理事会の承認を得て各免状を交付し,名取式,事始め等の吉村流の伝統儀礼を催行
し,各家元の年忌法要及び追善舞踊会等を主催するものとされている。また,実際
にも,前記1認定のとおり,被告の設立以前から「吉村流」の師範名取又は名取で
あった者のうち多数の者は,被告に会費を納め,被告の会員として活動しており,
従前の団体「吉村流」において,家元が主体となって行っていた,個々の師範名取
や名取の活動を超えた団体としての主要な活動,すなわち,師範名取や名取の免状
の作成,交付,「上方舞吉村会」や歴代家元の追善公演等の主催などの活動は,被
告が行っている。
イ 前記1認定のとおり,本件商標の商標登録出願時において,「吉村流」は,上
方舞の流派である「吉村流」の舞踏の習得,教授等を行う者を構成員とする団体(団体「吉村流」)の名称(略称)又はその役務を表示するものとして,日本舞踊に係る需要者の間に広く認識されていたものであるが,前記アの事情に照らせば,被
告は,実質的には,従前の団体「吉村流」を法人化したものであるということがで
きるから,被告が本来本件商標の商標登録を受けるべき者でないということはでき
ない。
さらに,前記1認定の事実によれば,被告が設立された経緯も,団体「吉村流」
と家元個人との会計とを分別して会計の明朗化を図る必要性を契機とするものであ
り,法人化に際し定められた定款(甲16)において,組織運営の明確化が図られ
ているのであるから,本件商標の商標登録出願が不正の目的の下に行われたもので
あるということもできない。
(4) 小括
以上によれば,本件商標の商標登録出願の経緯に著しく社会的妥当性を欠くもの
があるとはいえず,また,本件商標について商標登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものであるともいえない。
したがって,本件商標は,商標法4条1項7号に該当しない。
◆判決本文