搾汁ジューサについて、均等侵害が認められました。興味深いのが損害額200万円がすべて代理人費用という点です。
上記(ア)の本件明細書の記載によれば,圧力排出路の存在は本件発明が
解決すべき課題と直接関係するものではない。もっとも,本件発明の
効果等に関する上記 b,cの記載をみると,圧力排出路は,食材が
網ドラムの底部で最終的に圧縮され脱水される過程で生じる一部の汁
が防水円筒を超えてハウジングの外に流出するのを防ぐことを目的と
するものであり,汁を排出するための通路をハウジング底面において
防水円筒の下部縁に形成することは発明の本質的部分であるとみる余
地がある。しかし,上記の効果を奏するためには,上記通路が防水円
筒の下部縁に存在すれば足り,これをどのような部材で構成するかにより異なるものではない。そうすると,上記の異なる部分は本件発明
の本質的部分に当たらないと解するのが相当である。
ウ 第2要件(置換可能性)について
前記イのとおり,本件発明における圧力排出路は,食材が網ドラム
の底部で最終的に圧縮されて脱水される過程で生じる一部の汁が防水
円筒を超えてハウジングの外に流出するのを防ぐものである。また,
これにスクリューギヤが挿入されて回転することにより,高粘度の汁
を効率的に排出することができる。
他方,前記前提事実 ウdの被告製品の構成及び別紙図17のとおり,被告製品のハウジングにスクリュー及び網ドラムを配置すると果汁案
内路が形成され,これが汁排出口と連通して,搾汁された汁の一部を
汁排出口へ案内する機能を果たすと認められる。また,被告製品のスクリュー下部に形成されたスクリューギアは,果汁案内路に挿入され
て回転する(甲11)。そして,網ドラムはハウジングの上方から配置
されるものであり,果汁案内壁とハウジング底面との間に隙間が生じ
ることもあり得るところ,その場合には当該隙間から汁が果汁案内路
の外側に流出するから,果汁案内路に流入した汁が内周側の防水円筒
を超えてハウジング外部に流出することはないものと考えられる。し
たがって,被告製品の果汁案内路は本件発明の圧力排出路と同一の作
用効果を奏するということができる。
以上のとおり,被告製品の果汁案内路は圧力排出路と同一の作用効果
を奏するものとして,置換可能と評価するのが相当である。これに対し,被告は,被告製品はハウジング底面を平坦化することに
より清掃を容易にするという新たな効果が生じているから置換可能とはいえない旨主張する。しかし,仮にそのような効果が生じるとして
も,ハウジング底面の清掃容易性は本件発明の前記課題とは無関係で
あり,これをもって第2要件の充足性を否定することはできない。
エ 第3要件(置換容易性)について
本件明細書には,本件発明の実施例として,ハウジングに形成された
圧力排出路の外側のハウジング底面の上部に網ドラム底部に形成され
た底部リングを載置し,その内周面と圧力排出路の外周面が上下に一
体となって,これと防水円筒の外周面により圧力排出路の上方に続く
空間を形成し,そこにスクリュー下方に突出形成された内部リング及
びその下端のスクリューギヤが挿入される例が記載されている(段落
【0045】,【0052】,【0056】,【図3A】,【図3B】)。この
とき,水分(汁)の一部が内部リングと網ドラムの内部リング挿入孔
(底部リングの内側に当たる。)との間の隙間に押し込まれ,圧力排出
路に流入する(段落【0072】),すなわち,底部リング(網ドラ
ム)内壁からそのまま圧力排出路の外周側の内壁を伝って圧力排出路
に流入しており,上記実施例において網ドラムの一部は圧力排出路の
外周側の壁の役割を果たしているといえる。また,本件発明と同じ技
術分野に属する搾汁機において,搾汁ケース(本件発明のハウジング
に相当する。)のブッシング(同防水円筒に相当する。)の下部縁に流
路を形成せず,搾汁ケースの底部のこの部分を平坦にしたものは被告
製品の製造販売時に公知であったと認められる(甲26)。そうすると,
本件明細書の前記記載に接した当業者にとって,上記実施例の網ドラ
ムないし底部リングを下方に伸長して圧力排出路の外周側の壁に代え
るとともに,この部分のハウジングの底面を平坦にすることによって,
圧力排出路の外周側の壁全体を網ドラムで形成することに思い至るの
は容易であるというべきである。
これに対し,被告は,ハウジングの底部を平坦にした被告製品は本件
発明と根本的に相違する旨主張するが,以上の説示に照らしこれを採
用することはできない。
オ 以上のとおり,被告製品の果汁案内路は本件発明の圧力排出路と均等で
あるということができる。
・・・
3 争点 (原告の損害額)について
前記1及び2で判示したとおり被告製品は本件発明の技術的範囲に属す
るところ,原告は,被告が被告製品の販売により1500万円の利益を得
たとして,特許法102条2項に基づき同額の損害賠償を請求する。これ
に対し,被告は,被告製品の販売により316万9653円の損失が生じ
ており,利益は得ていないと主張するところ,原告はこれに具体的に反論
せず原告主張を裏付けるに足りる証拠も提出しない。以上によれば,被告
が本件特許権の侵害行為により利益を得たと認めることはできないから,
独占的通常実施権の有無等の点について判断するまでもなく,原告の上記
請求は理由がないことになる。
本件事案の内容,経緯等に照らすと,本件において被告に負担させるべ
き弁護士及び弁理士費用の額は200万円が相当であり,原告の被告に対
する本件特許権侵害による損害賠償請求はその限度で理由がある。
◆判決本文
◆こちらに図面があります