平成27(行ケ)10186  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟  平成28年7月13日  知的財産高等裁判所

 取り消し理由の一つが「審判時に提出されていなかった証拠の提出が許されるか」です。知財高裁は、許容されると判断しました。また、周知技術の根拠を審判で初めて示した点についても違法性はないと判断しました。
 原告は,乙第9及び10号証は,いずれも審判時に提出されていなかったもので あり,本件審決の違法性を争う本件訴訟において,このような証拠は許容すべきで はない旨主張する。 審決取消訴訟においては,審判手続において審理判断されていなかった資料に基 づく発明と対比して無効理由の存否を認定し,審決の適法,違法を判断することは 許されないが(最高裁昭和42年(行ツ)第28号同51年3月10日大法廷判決・ 民集30巻2号79頁参照),審判手続において審理判断されていた資料に基づく発 明と対比して無効理由の存否を認定し,審決の適法,違法を判断するに当たり,審 判手続には現れていなかった資料に基づいて上記発明が属する技術分野の当業者の 出願当時における技術常識を認定し,これによって上記発明の有する意義を明らか にした上で無効理由の存否を認定したとしても,審判手続において審理判断されて いなかった資料に基づく発明と対比して無効理由の存否を認定し,審決の適法,違 法を判断したものということはできない(最高裁昭和54年(行ツ)第2号同55 年1月24日第一小法廷判決・民集34巻1号80頁参照)。 本件審決は,審判手続において審理判断されていた引用発明1と対比して,「挿入 部(13)」の成形に関する相違点2の容易想到性の判断をするに当たり,審判手続 には現れていなかった周知例1及び2に基づいて,当業者の技術常識を認定し,こ れによって,引用発明1において,上記周知技術を採用して相違点2に係る本願発 明の構成とすることは,当業者にとって容易であった旨の判断をした。そして,乙第9及び10号証は,本件審決による上記判断の誤りの有無を判断す るに当たり,本願出願日当時の上記周知技術に関する技術常識としてテーパ形状の 拡底部を有するアンカーボルトにおける一体成形に関する技術を立証するものであ るから,本件訴訟の判断資料とすることは,許容されるものということができる。
・・・・
3 取消事由2(手続違背)について
(1)原告は,平成27年2月23日付け拒絶理由通知において,アンカーピン自 体を一体成形することは周知技術であることが示されたのに対し,同年4月27日 付けの意見書において,上記周知技術の根拠の明示を求めたが,これに対する回答 はなく,本件審決において,初めて周知例1及び2が示され,これらを根拠とした 周知技術が認定されて請求不成立の判断が出されたとして,このような手続は,原 告に対して周知例1及び2に関する反論の機会を与えることなく,不意打ちをする ものということができ,違法である旨主張する。
(2) 後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば,本願に係る出願の経緯につき,以下の とおり認められる。
・・・
エ 原告は,平成27年2月23日付けで拒絶理由通知(甲9)を受けた。同拒 絶理由通知には,「アンカーピン自体を一体成形とすることは,本願の出願日前に周 知の技術である。」と記載され,また,前記アの特許請求の範囲請求項1の補正につ き,「本願の出願当初の明細書等には,中間部と係止部とが一体成形されるという記 載はないが,アンカーピン自体を一体成形とすることは,本願の出願日前に周知の 技術であるので,中間部と係止部を一体成形とすることは,出願当初の明細書等か ら自明な事項であると判断した。」と記載されている。 オ 原告は,平成27年4月27日付け手続補正書(甲10)により本件補正を 行い,同日付け意見書(甲11)において,前記エの拒絶理由通知記載の周知技術 につき,その根拠が示されていないことを指摘するとともに,「本願の手続補正は, 図4及び図5(判決注:別紙1の【図4】及び【図5】と同じ。)に記載のアンカー ピンは接続部分がなく,当業者が見れば中間部14と係止部16とが一体成形され ていることが自明であるのであって,これをもって出願前にアンカーピンが一体成 形されることが周知の技術であるわけではないことは明らかである。」と主張した。
(3) 前記(1)のとおり,平成27年2月23日付け拒絶理由通知において,アンカ ーピン自体を一体成形とすることは,本願の出願日前において既に周知の技術であ った旨が明記されている。 そして,原告は,同年4月27日付け意見書において,上記拒絶理由通知記載の 周知の技術に関し,平成25年11月25日付け手続補正書による補正事項につい て,当業者が別紙1の【図4】及び【図5】を見れば中間部14と係止部16とが 一体成形されていることが自明であり,これをもって,アンカーピン自体を一体成 形とすることが周知の技術であるわけではない旨主張しているが,同主張のとおり, 当業者が上記図面を見て上記一体成形を自明のこととして理解するのは,まさに, アンカーピン自体を一体成形することが,当業者に周知の技術であったからにほか ならない。 以上によれば,本件審決が周知技術として認定した「テーパ形状の拡底部を有す る杭において,テーパ形状の拡底部と拡底部以外の部分とを滑らかに連接し,一体 の外周面を形成するように一体成形すること」の主要な内容である一体成形の技術 については,周知技術であることが平成27年2月23日付けの拒絶理由通知に示 されており,しかも,これに関する原告の意見書の内容自体から,一体成形の技術 が当業者に周知されていたということができる。このような経過に鑑みると,本件 審決が,それまで審判手続において示されていなかった周知例1及び2を根拠とす る周知技術を認定したことは,原告に対する不意打ちということはできず,手続違 背には当たらないというべきである。

◆判決本文

検索キーワード
  #特許庁手続
  #審判手続

>> 知財みちしるべ top