進歩性違反なしとした審決が取り消されました。理由は本件発明の認定誤りです。
ア 本件発明のロック突部は,特許請求の範囲(請求項1)の記載によれば,平
坦面部分を有する突部前縁と平坦面部分を有する突部後縁とが前後方向に離間して
いる形状のものである。そして,本件発明は,前記1(2)のとおり,ロック機構について,1)ケーブルコネクタとレセプタクルコネクタの一方が,平坦面部分を有する
突部前縁と平坦面部分を有する突部後縁とが前後方向に離間しているロック突部を
側壁面に有し,2)他方が前後方向でロック突部に対応する位置で溝部前縁と溝部後
縁が形成されたロック溝部を側壁面に有し,3)ロック溝部には溝部前縁または溝部
後縁から溝内方へ突出する突出部が設けられ,4)ロック突部が嵌合方向でロック溝
部内に進入し,ケーブルコネクタが前端側が持ち上がった上向き傾斜姿勢から嵌合
終了の姿勢となったコネクタ嵌合状態では,上記姿勢の変化に応じて,突出部に対
するロック突部の位置が変化する,という構成を採用することにより,コネクタ嵌合状態にある間は,ケーブルコネクタが後端側を持ち上げられて抜出方向に移動さ
れようとしたときであっても,ロック突部が抜出方向で突出部と当接し,ケーブル
コネクタの抜出を阻止するようにしたものである。
他方で,本件発明は,特許請求の範囲及び本件明細書の発明の詳細な説明の記載
において,ロック突部の突部前縁及び突部後縁が有する平坦面部分について,その
大きさ,両面の離間の程度やその成す角度,ロック溝部やその突出部など他の構成との関係などについては,特に規定していない。
そうすると,本件発明のロック突部は,平坦面部分を有する突部前縁と平坦面部
分を有する突部後縁とが前後方向に離間している形状を有し,ケーブルコネクタの
ケーブルに上向き方向の成分の力が作用しても,ロック突部が抜出方向でロック溝
部の突出部と当接することにより,ケーブルコネクタの抜出を阻止するものであれ
ば足り,その断面形状には,円形に近似するような,角数の多い多角形状も含まれ
るものと解される。
イ 引用発明は,前記2(2)のとおり,軸方向の挿抜によってではなく,一方のハ
ウジングを他方のハウジングに対し回動させることで接続又は切離しの作用を得る
ことのできるコネクタであって,コネクタ31に形成された溝部49に挿入される
相手コネクタ33の回転中心突起53を支点として相手コネクタ33を回転させて,
コネクタ31と相手コネクタ33を嵌合させるものである。
上記のとおり,引用発明の回転中心突起は,相手コネクタ33を回転させる際の
支点(回転中心)となるものであること,回転を円滑に行うためには,その支点の
断面は円形状であることが好ましいこと及び引用例の第3図には回転中心突起53
の断面がほぼ円形状に描かれていることに照らせば,基本的には,その断面の形状
として円形が想定されているものといえる。
しかし,引用発明において,回転中心突起の回転は,相手コネクタ33は,その
前端が持ち上がって上向き傾斜姿勢にある状態(第3図)から,コネクタ31と嵌
合した状態(第5図)までの,せいぜい90度以内のものにすぎず,引用例には,
回転中心突起53やその断面の形状が円形に限られるものであることについては何
らの記載も示唆もないから,その断面の形状は,円形に限られず,相手コネクタ3
3の円滑な回転動作やコネクタ31との嵌合に支障がない限り,円形以外の形状に
することも許容されるものと解される。
ウ 引用発明においては,前記イのとおり,回転中心突起53の形状は,相手コ
ネクタ33の円滑な回転動作やコネクタ31との嵌合に支障がない限り,その断面
の形状を円形以外の形状にすることも許容されるものと解されるところ,相手コネ
クタ33の円滑な回転動作やコネクタ31との嵌合に支障がない範囲で,回転中心
突起53の形状を適宜変更し,その断面が,円形に近似するような,角数の多い多
角形状となるものとすることは,当業者の通常の推考の範囲内のことであるという
ことができる。
そして,本件発明のロック突部の形状には,その断面形状が,円形に近似するよ
うな,角数の多い多角形状となるものも含まれるものと解されることは,前記アの
とおりである。
したがって,引用発明において,相違点1に係る本件発明の構成とすることは,当業者が容易に想到することができたことである。
◆判決本文