進歩性なしとした審決が取り消されました。理由は「容易の容易」に当たるので動機付けなしというものです。
イ 相違点2の容易想到性について
(ア) 本件審決は,浚渫用グラブバケットに関する発明である引用発明1におい
て,同じく浚渫用グラブバケットに関する周知技術2及び3並びに引用発明3を適
用して相違点2に係る本件発明の構成とすることは,当業者であれば容易に想到し得たことであると判断した。
(イ) 相違点2は,シェルの構成に関するものである。しかし,引用例1(甲1)には,専ら,バケットの吊上げ初期の揺れがほとんど発生せず,開閉ロープのロー
プ寿命も長くなる浚渫用グラブバケットの提供を課題として(【0005】),上部
シーブ,下部シーブ,バケット開閉用の開閉ロープ及びガイドシーブの構成や位置によって上記課題を解決する発明が開示されており(【請求項1】〜【請求項3】,
【0006】,【0016】),シェルに関しては,特許請求の範囲及び発明の詳細な
説明のいずれにも,「各シェル部1A,1Bは軸3で開閉自在に軸支され,下部フ
レーム2に取付けられている。」(【0008】)など,他の部材と共にグラブバケッ
トを構成していることが記載されているにとどまり,シェル自体の具体的構成につ
いての記載はない。引用例1においては,前記⑴ア(ア)のとおり,上記発明の一実
施形態に係る浚渫用グラブバケットの側面図【図1】及び正面図【図2】に加え,
従来のグラブバケットの側面図【図6】及び正面図【図7】において,シェルが図
示されているにすぎない。
したがって,引用例1には,シェルの構成に関する課題は明記されていない。(ウ) もっとも,引用例3(甲4)の考案の詳細な説明中の考案が解決しようと
する問題点(前記(2)ア(イ)b),周知例1(甲16)の【0002】,【0003】
(前記(3)ア(イ)),周知例2(甲26)の考案の詳細な説明中,従来技術の欠点に
ついて述べたもの(前記(3)イ(イ)a)及び引用例5(甲5)の【0006】から
【0008】(前記(4)ア(イ)c)によれば,本件特許出願の当時,浚渫用グラブバ
ケットにおいて,シェルで掴んだ土砂や濁水等の流出を防止することは,自明の課
題であったということができる。したがって,当業者は,引用発明1について,上
記課題を認識したものと考えられる。
前記(3)ウのとおり,本件審決が周知技術2を認定したことは誤りであるが,当業
者は,引用発明1において,上記課題を解決する手段として,周知例2に開示され
た「シェルが掴んだヘドロ等の流動物質の流出を防ぐために,相対向するシェル1
1,11の上部開口部12,12に上部開口カバー13,13をシェル11,11
の内幅いっぱいに固着するか,又は,取り外し可能に装着することによって,上部開口部12,12を上部開口カバー13,13でふさぎ,シェル11,11を密閉
する」構成を適用し,相違点2に係る本件発明の構成のうち,「シェルの上部にシ
ェルカバーを密接配置する」構成については容易に想到し得たものと認められる。しかしながら,前記(4)のとおり,シェルの上部に空気抜き孔を形成するという周
知技術3は,シェルの上部が密閉されていることを前提として,そのような状態に
おいてはシェル内部にたまった水や空気を排出する必要があり,この課題を解決す
るための手段である。引用例1には,シェルの上部が密閉されていることは開示さ
れておらず,よって,当業者が引用発明1自体について上記課題を認識することは
考え難い。当業者は,前記のとおり引用発明1に周知例2に開示された構成を適用して「シェルの上部にシェルカバーを密接配置する」という構成を想到し,同構成
について上記課題を認識し,周知技術3の適用を考えるものということができるが,
これはいわゆる「容易の容易」に当たるから,周知技術3の適用をもって相違点2
に係る本件発明の構成のうち,「前記シェルカバーの一部に空気抜き孔を形成」する構成の容易想到性を認めることはできない。(エ) また,前記(2)のとおり,引用例3には,海底から掻き取った海底土砂等を
バケットシェル内に保持することを可能にし,かつ,水の抵抗を最小限にして,荷こぼれによる海水汚濁を防止し得るグラブバケットの提供を課題とし,同課題解決
手段として,シェルの上部開口部の開閉手段を設けた旨が記載されていることから,
当業者は,引用発明1において,シェルで掴んだ土砂や濁水等の流出を防止すると
いう自明の課題を解決する手段として,シェルを密閉するために,「浚渫用グラブ
バケットにおいて,シェルの上部開口部に,シェルを左右に広げたまま水中を降下
する際には上方に開いて水が上方に抜けるとともに,シェルが掴み物を所定容量以
上に掴んだ場合にも内圧の上昇に伴って上方に開き,グラブバケットの水中での移
動時には,外圧によって閉じられる開閉式のゴム蓋を有する蓋体を取り付けるとい
う技術」である引用発明3の適用を容易に想到し得たものということができる。
しかし,引用発明1に引用発明3を適用しても,シェルの上部に上記のように開
閉するゴム蓋を有する蓋体をシェルカバーとして取り付ける構成に至るにとどまり,相違点2に係る本件発明の構成には至らない。
ウ 被告の主張について
被告は,空気抜き孔をシェルカバーの一部に設けることは,引用例5及び周知例
1に開示された公知技術ないし周知技術である旨主張するが,前記イのとおり,同
技術は,シェルの上部が密閉されていることを前提として,そのような状態におい
てはシェル内部にたまった水や空気を排出する必要があり,この課題を解決するた
めの手段であり,引用例1には,シェルの上部が密閉されていることは開示されて
いないのであるから,よって,当業者が引用発明1自体について上記課題を認識す
ることは考え難く,上記技術を適用する動機付けを欠く。
◆判決本文