不競法2条1項1号(周知商品等表示)違反とは認められませんでした。商号「山高工務店」に対して、新会社の商号が「ヤマタカ」で、かつ、社長が元従業員という状況でしたが、裁判所は、そもそも周知ではないとの認定するとともに、不正目的もなしと判断しました。
確かに本件は,原告の元従業員が中心となって活動する被告の事業が,原告
の顧客を奪うことで成立しているように見受けられる事案であり,また事業開始が
そのことを見込んでされたようにも見受けられるが,原告の既存顧客が被告に奪わ
れたとするなら,それはそもそも原告が当該工事を施工できない状態であった上,
他方で被告代表者や被告従業員には原告在職時の施工実績による信用,少なくとも人的関係があったからと考えるのが自然であり,そこに原告商号と被告商号の類似
性が貢献している様子は認められず,また被告代表者がそのことを期待して被告商号を選択したとも認められない。被告による被告商号の選択使用は,被告代表者が供述するように,原告創業者への尊敬の念に由来すると認めるのが相当であって,
会社法8条1項にいう「不正の目的」があったとはおよそ認められない。
エ なお,さらに原告は,被告が原告と同じ行政区に本店を移転した経緯や,そ
の登記手続の手順の不自然さを問題にするが,上記認定したアスベスト除去工事,
ダイオキシン類対策工事等の契約締結過程等の問題からすると,そのことで原告が
主張するような利点があるとは認められないから,上記の点で被告の「不正の目的」
が推認されるわけではない。
また,原告は,被告が掲載した求人誌の求人広告の記載内容も問題にしているが,
同記載中には,旧会社を引き継ぎ4月から新体制で開始した会社であることを説明
して原告とは別会社と理解できる部分もあるし,そもそも,この求人誌は事業者で
はない者を対象として掲載されているのであるから,会社法8条1項の「不正の目
的」を推認する事情とはいえない。
オ 原告は,被告が原告従業員を大量に引き抜いたことにより,原告が従前の業
務であるダイオキシン類対策工事の受注を停止せざるを得なくなったなどと主張し,
この事情をも「不正の目的」を推認させる事情として主張するようであるが,「不正
の目的」は,商号を使用することに関して認められる必要があり,原告のいう事情
は,それ自体で不法行為を主張するのならともかく,商号使用についての「不正の
目的」を推認する事情とは認められない。
◆判決本文