特許の技術的範囲に属するとしたものの、進歩性なしとして権利公使不能と判断しました。特許庁審決では特許有効と判断されていますので、ニュースでも取り上げられていました。
そこで判断するに,まず,上記1)及び2)については,前記イで説示した
とおり,安定性は化粧品の製造工程において常に問題とされる化粧品の品
質特性であり,pHの調整が安定化のための一般的な手法であることから
すれば,乙6ウェブページに掲載されている成分リストが販売開始から間
もない原告旧製品のものであるとしても,当業者が化粧品の安定性の確
保,向上という課題を全く認識しないということはできないし,pHの調
整という手法を採用することが困難であったということもできない。
次に,上記3)については,原告は乙6発明のpHが7.9〜8.3であ
ることを前提にこれを酸性側に変更することの阻害要因を主張するが,そ
のような前提を採ることができないことは前記(1)イのとおりである。こ
の点をおくとしても,後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば,本件特許の出
願当時,a)リン酸アスコルビルマグネシウム単体の水溶液については,
pHが8〜9の弱アルカリ性の領域においては安定とされていたが,pH
が中性〜酸性の範囲においては安定性に問題があるとされていたこと(甲
30〜32,50〜55),b)リン酸アスコルビルマグネシウムを含む化
粧料について,弱酸性における安定性を改善する手法が検討されており
(甲31,50〜52,61,乙10の2,25),実際にリン酸アスコ
ルビルマグネシウムを含有する弱酸性の化粧品が販売されていたこと(乙
28,29)が認められる。これら事実関係によれば,リン酸アスコルビ
ルマグネシウムに加え他の成分を含む化粧品については,弱酸性下におけ
る安定性の改善が試みられており,現に製品としても販売されていたので
あるから,原告が主張するリン酸アスコルビルマグネシウム単体の水溶液
が酸性下においてその安定性に問題があるという事情は,乙6発明の美容
液のpHを弱酸性の範囲に調整することの阻害要因とならないと解する
のが相当である。
上記4)については,前記イで説示したとおり,pHの調整が化粧品の安
定性を高めるための手法として周知であったことからすると,本件発明の
実施例について吸光度の残存率の高さや性状変化の少なさといった経時
安定性の測定結果が良好であったとしても(本件明細書の【表4】〜【表
6】),●(省略)●予測し得る範囲を超えた顕著な効果を奏するとは認められない。したがって,原告の上記主張1)〜4)はいずれも採用することができない。
(3) まとめ
以上によれば,本件発明は乙6発明に基づいて容易に発明することができ
たものであるから,原告は本件特許権を行使することができない。
◆判決本文