平成28(行ケ)10083  審決取消請求事件  商標権  行政訴訟 平成28年10月11日  知的財産高等裁判所

 審判における職権証拠調べに対して、当事者に意見陳述の機会が与えられていないという理由で、無効理由なしとした審決が取り消されました。原告は米国のマスターズナショナルインコーポレーテッド、被告はゲームソフトメーカのコナミです。
 前記認定(第2,3,(2))のとおり,特許庁は,本件審判手続において 本件職権証拠調べを行ったものであるところ,証拠(甲78,79)によれ ば,特許庁は,原告に対し,平成27年11月16日に書面審理通知書(起 案日は同月12日)を発送した上で,同月17日,審理終結通知書(起案日 は同月12日)を発送したことが認められるものの,本件職権証拠調べの結 果を原告に対して通知し,相当の期間を指定して意見を申し立てる機会を与えたことをうかがわせる証拠は全くなく,これらの手続は行われなかったこ とが推認される。
(2)ア 法56条が準用する特許法150条は,「審判に関しては,…職権で, 証拠調べをすることができる。」(1項)とする一方で,「審判長は,… 職権で証拠調べ…をしたときは,その結果を当事者…に通知し,相当の期 間を指定して,意見を申し立てる機会を与えなければならない。」(5項)と定める。ところが,本件審判手続において,特許庁は,上記(1)のとお り,原告に対し,本件職権証拠調べの結果につき通知し,相当の期間を指 定して意見を申し立てる機会を与えなかったのであり,この点で本件審判手続には上記規定に違反するという瑕疵があったものというべきである。 イ また,本件職権証拠調べは,具体的にはインターネットにより「スポー ツクラブ」及び「マスターズ」の語を複合キーワード検索することで 「スポーツクラブ」における「マスターズ」の語の使用例を調査したも のであるが,本件審決は,本件商標の法4条1項15号該当性を論ずる 中で,本件商標の称呼及び観念につき判断するに当たり,本件商標のよ うに「スポーツクラブ」の文字と「マスターズ」の文字が結合した場合 の「マスターズ」の文字部分が持つ出所識別機能の程度を評価する根拠の一つとして,このような本件職権証拠調べの結果である5件のスポー ツクラブのホームページに存在する記載を利用している。 さらに,法4条1項19号及び同7号該当性の判断に当たっても,本 件審決は,本件職権証拠調べの結果を利用して,本件商標中の「マスタ ーズ」の文字部分が持つ出所識別機能の程度につき検討している。
ウ そうすると,本件審判手続には瑕疵があり,その瑕疵は,審判の結果で ある審決の結論に一般的に見て影響を及ぼすものであったものというべ きである。このような場合,その瑕疵は,審決の結論に影響を及ぼさな いことが明らかであると認められる特別の事情,すなわち,たとえ職権 証拠調べの結果の通知がなくとも,これに対する反論,反証の機会が実 質的に与えられていたものと評価し得るか,又は当事者に対する不意打 ちとならないと認められる事情がない限り,審決取消事由となるものと 解される(最高裁判所第一小法廷昭和51年5月6日判決・判例時報8 19号35頁,最高裁判所第三小法廷平成14年9月17日判決・判例 時報1801号108頁参照)。 そこで,本件における上記特段の事情の有無を検討すると,本件職権 証拠調べは,上記のとおり具体的にはインターネットによる「スポーツ クラブ」及び「マスターズ」の語の複合キーワード検索であり,その手 法それ自体は必ずしも目新しいものではなく,一般的かつ容易に行われ 得るものではある。しかし,原告において,そのような証拠調べが行わ れることを当然に予期していたとか,予期すべきであったと認めるに足 りる証拠はない上,そもそも,本件審判事件においては,被告は原告の 主張に対し何ら答弁せず(前記第2の2),また,その審理は職権によ り書面審理とされていた(前記(1))のであるから,本件職権証拠調べの 事実を知らない原告にとっては,何らかの追加主張ないし立証が必要で あること自体,全く予期し得なかったと考えられるのである。また,本件職権証拠調べの結果それ自体も,本件審決の引用するホームページ上 の記載の存在そのものはともかく,これを受けた反証活動や本件証拠調 べの結果の評価に関する反論の余地がないとはいい難い。 そうである以上,本件においては本件職権証拠調べの結果に対する反 論,反証の機会が原告に対し実質的に与えられていたものとは評価し得 ず,また,原告に対する不意打ちとならないと認めるべき事情も見当た らない。すなわち,上記特段の事情の存在は認められない。 したがって,本件職権証拠調べの結果の原告に対する通知等を欠くと いう手続上の瑕疵は,本件審決の取消事由となるものというべきである。

◆判決本文

◆平成24(行ケ)10363号 以前に、「Augusta Club」で15号違反が争われた事件です。こちらは15号違反と認定されています。

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