島野工業vsAppleの控訴審で、1審判断(非侵害)が維持されました。均等侵害も否定されました。珍しく、無効主張については判断されていません。1審では、下記のように判断されています。
本件発明の「押付部材」は,少なくとも一部に球状面を有するものでは足りず,その全体が球であるものに限られるということができる(仮に,一部にのみ球状面を有するものが含まれるとすれば,本件特許は違法な分割出願によるものとして新規性欠如の無効理由を有することが明らかである。)。
判決文の最後に、イ号と本件発明の対比図面が掲載されています。
証拠(甲4,甲32の1・2,乙38,54)及び弁論の全趣旨によれば,被告
製品の技術的意義につき,以下のとおり認められる。
プランジャーピンは,その大径部に略円錐面形状を有する傾斜凹部を備えている
ものであるが,コイルバネにより付勢されて本体ケースの内周面に左右2箇所で接
触するように設計されている。コマ状部材は,導電性を有するものであり,その球
状部がプランジャーピンの大径部の傾斜凹部を押してこれと1点のみで接触するこ
とによって傾き,本体ケースの内周面に左右2箇所で接触するように構成されている。プランジャーピン及びコマ状部材が確実に傾いて本体ケースに接触するよう,
コマ状部材の中心軸とプランジャーピン底面の最深位置は,オフセットされている。
このように合計4つの電流経路を確保することにより,被告製品の電気抵抗が低
減し,被告製品を流れる電流についてコイルバネを通る経路以外の経路が存在しな
いという事態が生じる可能性は低くなり,コイルバネに流れる電流量が抑えられる。加えて,コイルバネが●●●●●●●によって被覆されていることから,絶縁性ボ
ールを使用する必要はない。
他方,本件発明においては,前記(2)のとおり,1)傾斜凹部を略円錐面形状とする
ことによって,押付部材の球状面からなる球状部の中心を傾斜凹部の中心軸上に安
定して位置させることができ,それにより,押付部材を介してプランジャーピンに
伝達されるコイルバネの付勢に係る力の方向を安定させ,2)さらに,傾斜凹部の中
心軸をプランジャーピンの中心軸とオフセットさせることにより,コイルバネがプ
ランジャーピンを本体ケースの中心軸に対して微小な角度を有する方向に付勢する
ことを確実なものとすることによって,プランジャーピンの大径部を確実に本体ケ
ースの管状内周面に接触させて本体ケースへ確実に電流を流すことを可能とするものである。
以上によれば,被告製品と本件発明とは,押付部材とプランジャーピンとの接触
に関し,技術的意義を異にするものということができる。
(ウ) 控訴人の主張について
a 控訴人は,コマ状部材とプランジャーピンの材料である金属は,弾性変化す
るものであるから,両部材は,必ず面で接触し,点で接触することはあり得ない旨
主張する。
しかし,甲第52号証によれば,球と平面が接触する場合,理論的には,接触部
分は点であり,接触面積を持たないものの,実際には,接触部分が変形することに
よって接触面積を持ち,接触部の形状が円になり,このような接触は,「点接触」と
呼ばれる。前記(イ)において,被告製品のコマ状部材の球状部がプランジャーピン
の大径部の傾斜凹部と1点のみで接触するというのも,上記点接触の趣旨であり,
控訴人主張に係る弾性変化した状態の接触を排除する趣旨ではない。
b 控訴人は,甲第4号証を根拠として,被告製品のコマ状部材は,コイルバネ
から押圧されてその弾性力を受け止めており,同弾性力がコマ状部材と本体ケース
との間の摩擦力よりも大きいときは,空滑りして傾かず,本体ケースに接触しない
旨主張する。
しかし,甲第4号証に掲載された被告製品の写真からは,コマ状部材が本体ケー
スにわずかでも接触しているか,全く接触していないかは,必ずしも明らかではな
い。また,コマ状部材の中心軸とプランジャーピン底面の最深位置がオフセットさ
れていることに鑑みると,通常,コマ状部材が本体ケースに接触しないという事態
が頻繁に生じることは考えにくく,そのような事態は,被告製品の通常の用法にお
いて想定されていないものと考えられる(乙54参照)。
c 控訴人は,プランジャーピンに流れる電流の総和は決まっているので,プラ
ンジャーピンから本体ケースへ確実に電流を流すことができれば,コイルバネに流
れる電流量を相対的に減じることができ,コイルバネの焼切れの防止にもつながる
旨を主張する。
しかし,上記主張のとおりであったとしても,本件明細書には,被告製品のよう
にプランジャーピンと本体ケースとの接触に加え,押付部材であるコマ状部材と本
体ケースとの接触により合計4つの電流経路を確保することによって被告製品の電
気抵抗を低減させるという技術的思想は,開示されていない。
d なお,控訴人は,乙第38号証に掲載された被告製品のプランジャーピンの
図においては,底部の形状が傾斜凹部をなしていないが,これは,正確なものでは
なく,甲第32号証の1・2が,被告製品の正確な設計図である旨主張する。しか
し,控訴人が指摘する乙第38号証の図面は,「マッシュルーム要素及びプランジャ
ーの形状を大まかに描写した断面図」(乙38)であり,甲第4号証及び乙第38号
証に掲載された被告製品の写真並びに控訴人が被告製品の正確な設計図である旨主
張する甲第32号証の1・2により,前記(イ)のとおり認定することができる。
イ 構成要件Dの「押付部材」に該当する構成の有無
前記アのとおり,被告製品のコマ状部材は,それ自体が本体ケースの内周面に左
右2箇所で接触して電流経路を確保している。
他方,前記(1)のとおり,本件明細書において,「押付部材」につき,小型化の要請
にこたえて接触端子の径(幅)を大きくすることなく,コイルバネを流れる電流量
を小さくしながら,比較的大きな電流を流し得る接触端子の提供という,本件発明
の課題を解決するための構成として,「大径部の略円錐面形状を有する傾斜凹部」内に収容されていることが開示されている。本件明細書において,「押付部材」自体が
本体ケースに接触して電流経路を確保することは,開示されていないものというべ
きである。
したがって,被告製品のコマ状部材は,構成要件Dの「押付部材」に該当しない。ほかに,被告製品の構成中,「押付部材」に相当するものはない。
ウ 「押圧」について
前記アのとおり,被告製品は,プランジャーピン及びコマ部材が確実に傾いて本
体ケースに接触するよう,コマ状部材の中心軸とプランジャーピン底面の最深位置
をオフセットしている。被告製品のコマ状部材の球状部がプランジャーピンの大径
部の傾斜凹部を押してこれと1点のみで接触することによって傾き,本体ケースの
内周面に左右2箇所で接触するという構成自体からも,通常,コマ状部材の球状部の中心が,プランジャーピン底面の最深位置,すなわち,傾斜凹部の中心軸上に位
置することは,考え難い。現に,別紙2は,コイルバネの付勢によって,コマ状部
材の球状部がプランジャーピンの大径部の傾斜凹部を押し,それによって,プラン
ジャーピンの突出端部が本体ケースから突出するとともに,プランジャーピンの大
径部の外側面が本体ケースの内周面に押し付けられている状態であるが,コマ状部
材の球状部の中心は,明らかに傾斜凹部の中心軸からずれている。
よって,コマ状部材の球状部がプランジャーピンの傾斜凹部を押すことは,コマ
状部材の球状部の中心を傾斜凹部の中心軸上に安定して位置させるものではないか
ら,構成要件Dの「押圧」に該当せず,ほかに,被告製品の構成中,「押圧」に該当
するものはない。
・・・
しかし,特許請求の範囲に記載された構成中,相手方が製造等をする製品又は用いる方法と異なる部分が存する場合において,均等侵害の成立が認められるために
は,上記異なる部分の全てについて均等の5要件が満たされることを要する。
前記2のとおり,本件特許請求の範囲に記載された構成と被告製品とは,1)構成要件Dの「押付部材」につき,本件明細書において,小型化の要請にこたえて接触
端子の径(幅)を大きくすることなく,コイルバネを流れる電流量を小さくしなが
ら,比較的大きな電流を流し得る接触端子の提供という,本件発明の課題を解決す
るための構成として,「大径部の略円錐面形状を有する傾斜凹部」内に収容されていることが開示されており,「押付部材」自体が本体ケースに接触して電流経路を確保
することは,開示されていないのに対し,被告製品のコマ状部材は,それ自体が本
体ケースの内周面に左右2箇所で接触して電流経路を確保している点において異な
るほか,2)構成要件Dの「押圧」は,押付部材の球状面からなる球状部の中心を傾斜凹部の中心軸上に安定して位置させるものであるのに対し,被告製品のコマ状部
材の球状部がプランジャーピンの傾斜凹部を押すことは,コマ状部材の球状部の中
心を傾斜凹部の中心軸上に安定して位置させるものではない点においても異なる。
控訴人は,これらの相違点のうち,構成要件Dの「押付部材」が球形であるのに対し,被告製品のコマ状部材が球形ではないという点についてのみ均等の5要件を
主張するにとどまるから,主張自体,失当である。
なお,前記2(4)のとおり,被告製品と本件発明とは,押付部材とプランジャーピ
ンとの接触に関し,技術的意義を異にするものということができる。そして,前記
1のとおり,本件明細書には,従来技術として,金属製の本体ケースに設けられた
長穴にコイルバネを挿入した上でプランジャーピンを挿入し,本体ケースからプラ
ンジャーピンの先端部分のみが突出する位置を保持されるという接触端子において,
プランジャーピンとコイルバネとの間に絶縁球を介在させ,プランジャーピンの本
体ケース内の端部が斜面となっていて,絶縁球がプランジャーピンを本体ケースの
長穴の内面に押し付けることができるようになっており,これによって,プランジ
ャーピンから本体ケースへ確実に電流を流すことができるとの構成が開示されている(【0002】,【0004】,【0006】)。したがって,本件発明においては,前記2のとおり,1)プランジャーピンの大径部に,単なる斜面ではなく,略円錐面形
状の傾斜凹部を設け,押付部材の球状面からなる球状部の中心を傾斜凹部の中心軸
上に安定して位置させるよう「押圧」すること及び2)傾斜凹部の中心軸をプランジ
ャーピンの中心軸とオフセットさせることによって,コイルバネが,押付部材を介
して,プランジャーピンを本体ケースの中心軸に対して微小な角度を有する方向に
付勢することを確実なものとすることによって,プランジャーピンから本体ケース
へ確実に電流が流れるようにすることが,従来技術に見られない,特有の技術的思
想を構成する特徴的部分に当たるというべきである。前記2によれば,本件発明と被告製品は,上記本質的部分において相違すること
が明らかであるから,均等侵害の成立を認める余地はない。
◆判決本文
◆1審はこちらです。平成26(ワ)20422