審決は、請求項1,2は、製造方法が記載されているので、PBPクレームには該当し、明確性違反と判断しました。裁判所は、製法が記載されていても、この場合は、PBPクレームには該当しないと判断されました。ただ、他の請求項についての明確性違反が残っているので、結論に影響しないとして、拒絶審決が維持されました。
そこで検討するに,物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその
物の製造方法が記載されている場合(いわゆるプロダクト・バイ・プロセス・
クレームの場合)において,当該特許請求の範囲の記載が特許法36条6項
2号にいう「発明が明確であること」という要件に適合するといえるのは,
出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能
であるか,又はおよそ実際的でないという事情が存在するときに限られると
解するのが相当であるところ(最高裁判所第二小法廷平成27年6月5日判
決・民集69巻4号700頁参照),本願補正発明1及び2に係る前記の各
記載は,いずれも,形式的にみれば,経時的な要素を記載するものといえ,
「物の製造方法の記載」がある,すなわち,プロダクト・バイ・プロセス・
クレームに該当するということができそうである。
しかしながら,前記最高裁判決が,前記事情がない限り明確性要件違反に
なるとした趣旨は,プロダクト・バイ・プロセス・クレームの技術的範囲は,
当該製造方法により製造された物と構造,特性等が同一である物として確定されるが,そのような特許請求の範囲の記載は,一般的には,当該製造方法
が当該物のどのような構造又は特性を表しているのかが不明であり,権利範
囲についての予測可能性を奪う結果となることから,これを無制約に許すの
ではなく,前記事情が存するときに限って認めるとした点にある。
そうすると,特許請求の範囲に物の製造方法が記載されている場合であっ
ても,前記の一般的な場合と異なり,当該製造方法が当該物のどのような構造又は特性を表しているのかが,特許請求の範囲,明細書,図面の記載や技術常識から明確であれば,あえて特許法36条6項2号との関係で問題とす
べきプロダクト・バイ・プロセス・クレームに当たるとみる必要はない。
この点,本願補正発明1に係る特許請求の範囲(請求項1)は,1)透光性
あるシート・フィルムを,80〜100cm長さの稲育苗箱の巻取り開始縁
以外の3方の縁からはみ出させる,2)これを稲育苗箱底面に根切りシートと
して敷く,3)その上に籾殻マット等の軽い稲育苗培土代替資材をはめ込む,
4)この表面に綿不織布等を敷いて種籾の芒,棘毛を絡ませて固定し,根上がりを防止して,覆土も極少なくする,5)1)ないし4)のとおり育苗した軽量稲
苗マットを,根切りシートと一緒に巻いて,細い円筒とする,という手順を
示すことにより,「内部導光ロール苗」の構造,特性を明らかにしたものと理解することが十分に可能である。
また,本願補正発明2に係る特許請求の範囲(請求項2)も,1)80〜1
00cm長さの稲育苗箱にはめ込んだ,成型した籾殻マット等の軽い稲育苗
培土代替資材の表面に,2)綿不織布等を敷いて種籾の芒,棘毛を絡ませて固
定し,根上がりを防止し,覆土も極少なくして育苗した,軽量稲苗マットに,
3)透光性あるシート・フィルムを,稲育苗箱の巻取り開始縁以外の3方の縁
からはみ出させて被せ一緒に巻いて,細い円筒とする,というように,やは
り手順を示すことより,「内部導光ロール苗」の構造,特性を明らかにしたものということができる。
そうすると,本願補正発明1及び2に係る前記特定事項は,いずれも,物
の構造,特性を明確に表しており,発明の内容を明確に理解することができ
るものである。
したがって,本願補正発明1及び2は,いずれも,特許法36条6項2号
との関係で問題とされるべきプロダクト・バイ・プロセス・クレームとみる
必要はなく,この点を理由に請求項の記載が明確でない(不可能・非実際的事情がなく,同号の要件を満たさない)とした本件審決の判断は誤りである。
(3) 以上によれば,取消事由1に関する原告の主張は正当であり,これに反す
る被告の主張は採用できない(ただし,この点に関する本件審決の判断の誤
りが,本件審決の結論に影響を及ぼすものでないことについては,後記4の
とおりである。)。
◆判決本文