平成28(行ケ)10079  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成28年11月16日  知的財産高等裁判所

 技術思想として異なるとして、進歩性なしとした拒絶審決が取り消されました。
 ア 本願発明は,トレッドに発泡ゴムを適用したタイヤにおいて,氷路面におけ るタイヤの制動性能及び駆動性能を総合した氷上性能が,タイヤの使用開始時から安定して優れたタイヤを提供するため,タイヤの新品時に接地面近傍を形成するト レッド表面のゴムの弾性率を好適に規定して,十分な接地面積を確保することがで きるようにしたものである。これに対し,引用発明は,スタッドレスタイヤやレー シングタイヤ等において,加硫直後のタイヤに付着したベントスピューと離型剤の 皮膜を除去する皮むき走行の走行距離を従来より短くし,速やかにトレッド表面において所定の性能を発揮することができるようにしたものである。以上のとおり,本願発明は,使用初期においても,タイヤの氷上性能を発揮できるように,弾性率の低い表面ゴム層を配置するのに対し,引用発明は,容易に皮むきを行って表面層を除去することによって,速やかに本体層が所定の性能を発揮す ることができるようにしたものである。したがって,使用初期においても性能を発揮できるようにするための具体的な課題が異なり,表面層に関する技術的思想は相反するものであると認められる。
イ よって,引用例1に接した当業者は,表面外皮層Bを柔らかくして表面外皮 層を早期に除去することを想到することができても,本願発明の具体的な課題を示 唆されることはなく,当該表面外皮層に使用初期においても安定して優れた氷上性能を得るよう,表面ゴム層及び内部ゴム層のゴム弾性率の比率に着目し,当該比率 を所定の数値範囲とすることを想到するものとは認め難い。また,ゴムの耐摩耗性 がゴムの硬度に比例すること(甲8〜13)や,スタッドレスタイヤにおいてトレ ッドの接地面を発泡ゴムにより形成することにより氷上性能あるいは雪上性能が向 上すること(甲14〜16)が技術常識であるとしても,表面ゴム層を非発泡ゴム,内部ゴム層を発泡ゴムとしつつ,表面ゴム層のゴム弾性率を内部ゴム層のゴム弾性率より小さい(表面を内部に比べて柔らかくする。)所定比の範囲として,タイヤの使用初期にトレッドの接地面積を十分に確保して,使用初期においても安定して優れた氷上性能を得るという技術的思想は開示されていないから,本願発明に係る構成を容易に想到することができるとはいえない。
(3) 被告の主張について
ア 被告は,本願発明の実施例と引用発明はともに従来例「100」に対して 「103」という程度でタイヤの使用初期の氷上での制動性能が向上するものであり,また,引用例1の比較例と実施例を比較すると,比較例が実施例に対して表面ゴム層(表面外皮層)を有していない点のみが異なることから,使用初期の性能向 上は,表面ゴム層(表面外皮層)に由来することが明らかである,そうすると,本 願発明の実施例と引用発明の性能向上はともに,タイヤ表面に本体層のゴムよりも 柔らかいゴムを用いることにより使用初期の氷上での性能を向上させる点で同種のものであるから,結局,表面ゴム層(表面外皮層)に関して,本願発明と引用発明 の所期する条件(機能)は変わるものではなく,引用例1に接した当業者は,引用発明の表面ゴム層(表面外皮層)が,早期に摩滅させることのみを目的としたもの でなく,氷上性能の初期性能が得られることを認識する旨主張する。 しかし,前記(2)のとおり,引用例1に記載された課題を踏まえると,引用発明は, あくまで早く摩耗する皮むき用の表面外皮層を設けて,ベントスピューと離型剤を表面外皮層とともに除去することにより,本来のトレッド表面を速やかに出現させ るものであり,引用例1は,走行開始から表面外皮層が除去されるまでの間の氷上性能について何ら開示するものではない。よって,引用例1に接した当業者が,氷上性能の初期性能が得られることを認識するものとは認められない。 したがって,被告の上記主張は理由がない。
イ 被告は,引用発明において,表面外皮層Bの硬度は,本体層Aのそれより小さく(引用例1の表1),硬度の小さいゴムが,ゴム弾性率の小さいゴムである旨の技術常識(甲4,甲5)を考慮すれば,「引用発明の「表面ゴム層(表面外皮 層)」のゴム弾性率が「内部ゴム層(本体層)」のゴム弾性率に比し低いものとい え,「表面ゴム層のゴム弾性率」/「内部ゴム層のゴム弾性率」の値を0.01以上1.0未満程度の値とすることは,具体的数値を実験的に最適化又は好適化した ものであって,当業者の通常の創作能力の発揮といえるから,当業者にとって格別困難なことではない旨主張する。 しかし,本願発明と引用発明とでは,具体的な課題及び技術的思想が相違するた め,引用例1には,表面ゴム層のゴム弾性率を内部ゴム層のゴム弾性率より小さい所定比の範囲として,使用初期において,接地面積を確保するという本願発明の技 術的思想は開示されていないのであるから,引用発明から本願発明を想到すること が,格別困難なことではないとはいえない。 また,表面外皮層BのHs(−5℃)/本体層AのHs(−5℃)が,0.77 (=46/60),表面外皮層Bのピコ摩耗指数/本体層Aのピコ摩耗指数が,0. 54(=43/80)であるとしても,本願発明が特定するゴム弾性率とHs(−5 ℃)又はピコ摩耗指数との関係は明らかでないので,引用例1の表1に示すHs(−5℃)又はピコ摩耗指数の比率が,本願発明の特定する,「比Ms/Miは0. 01以上1.0未満」に含まれ,当該比率について本願発明と引用発明が同一であ るとも認められない。 したがって,被告の上記主張は理由がない。

◆判決本文

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