特許発明について、出願前に公然実施されたとして104条の3で権利行使できないと判断されました。均等侵害についても争われてましたが、そちらは判断されませんでした。
そこで,さらに上記使用が,特許法29条1項25)の「公然実施をされた」
といえるか検討するに,「公然実施をされた」というためには,発明の内容を秘密
にする義務を負わない人が発明内容を知り得る状態で使用等の実施行為が行われた
ことが必要である。
しかるところ,公然実施の対象となるOBネットユニットは,小浜製鋼株式会社
によって製造され市販されていた商品にすぎないし,また証拠(乙1)からうかが
われる両護岸工事の実施状況や工事内容,工事場所が公共の場であることなどから
すれば,OBネットユニットの設置作業に従事した現場作業員が,OBネットユニ
ットの構造について小浜製鋼株式会社から守秘義務を課せられていたことをうかがわせる事情はなく,かえって,工事使用前に,その構造を確認する機会も十分あっ
たものと認められるから,OBネットユニットの本件発明の構成要件D,E,Fを除く構成要件は,それら工事関係者に十分認識されていたといえる。
そして,前記(3)で認定したとおり,そのOBネットユニットが,両護岸工事に
おいて本件発明の構成要件D,E,Fを充足する態様で使用されたというのであるが,その工事現場には,上記のとおりOBネットユニットの構成を確認した工事関係者が立ち会って,その使用態様を現認したものと推認できるから(なお,構成要件Eを充足する使用対象事態を撮影した写真は僅かであるが,その使用態様が特殊
なものとはいえない以上,両護岸工事現場で写真として記録が残っていないOBネ
ットユニットであっても,多くは同様の態様で使用され,工事関係者らによって,
その使用態様が現認されていたものと推認できる。),これらにより,本件発明は,
公然と実施されたものと認めて差し支えないというべきである。
なお,原告は,上記の認識の限度であれば,本件発明の構成要件Aの「式3≦N/M≦20」の数値限定,あるいは構成要件Eの「25%〜80%」の数値限定が認識されないと主張するが,公然実施されたOBネットユニットの使用態様が上記
限定された数値内,すなわち本件発明の下位概念に一致するのであれば,これをも
って本件発明が公然実施されたといって差し支えないから,この点についての原告
の主張は失当である。
(5) したがって,本件発明は,特許法29条1項25)により特許を受けることが
できないものに当たり,本件特許は,特許無効審判により無効とされるべきもので
あるから,同法104条の3第1項により原告が本件特許権を行使することはでき
ないというべきである。
(6) なお,原告は,上記認定に用いた各証拠(乙1,乙2,乙23)の信用性に
ついて争っているのでこの点について付言するに,まず上掲の証拠によれば,両護
岸工事の行われた時期及び場所そのものは確実に認定できる事実であると認められ
る上,原告の指摘にかかわらず,その後に同じ場所で同種の工事が行われた事実は
認められないから,被告が,本件訴訟提起後において両護岸工事が実施された現場
で確認したOBネットユニット(乙2,乙23)は,本件特許出願前にされた両護
岸工事において使用されたものであることは明らかである。
そして,これに中詰め材を充填して釣り上げた状況(上篠崎護岸工事につき乙1
別紙7−11,高谷護岸工事につき乙1別紙4−16A)についても,これら写真
の撮影時が両護岸工事の最中であることは,各写真の遠景に写り込んでいる建造物
等の位置関係から明らかであるから,これらにより上記(2),(3)のとおり十分認定できるものであり,これに反する原告の主張は失当である。
◆判決本文