平成28(行ケ)10036  審決取消請求事件  特許権  行政訴訟 平成28年11月28日  知的財産高等裁判所(2部)

 無効理由なしとした審決が維持されました。分割要件、訂正要件、サポート要件など各種争われていますが、中心争点は明細書における発明の開示です。
 前記(1)によれば,本件明細書には,1)技術分野につき,【0002】に は,「この開示は全体的に,リンクされたアイテムを作成するための方法とデバイス に関する。より特定には,この開示は,リンクされた装着可能なアイテムを弾性バンドから作成するための方法とデバイスに関する。」と記載され,2)背景技術につき, 【0003】には,「独自に色付けされたブレスレットまたはネックレスを作るため の材料を含むキットは,常にいくらかの人気を博してきた。しかしながら,そのよ うなキットは通常,異なる色に色付けされた糸およびビーズのような原材料を含む だけで,使用可能で望ましいアイテムを構\築することは個人の技量と才能に依存す る。従って,独自の装着可能なアイテムを作成するための材料を提供するのみでなく,望ましく耐久性のある装着可能なアイテムを成功裡に作成することを多くの技量および芸術的レベルの人々にとって容易するする(原文ママ)ように構築を簡略化もするキットについての必要と願望がある。」と記載され,そして,これに対応して, 3)発明の概要として,【0004】には,「ブルニアンリンク(Brunnian link)とは,チ ェインを形成するために,別の閉じたループを捕捉するようにそれ自体上で二重化 された閉じたループから形成されたリンクである。そのようなリンクを望ましいや り方で形成するのに,弾性バンドが利用されることができる。例示的キットおよび デバイスは,複雑な構成のブルニアンリンク物品の作成を提供する。しかも,例示的キットは,ブルニアンリンク組み立て技術を使って独自の装着可能な物品の成功する作成を提供する。」と記載されるとともに,4)発明を実施するための形態の説明 の総括として,【0027】には,「従って,例示的キットおよび方法は,ブレスレ ット,ネックレスおよびその他の装着可能なアイテムの作成のためにブルニアンリンクの多くの異なる組み合わせおよび構成の作成を提供する。しかも,例示的キットは,潜在的なブルニアンリンク作成の能力を更に作り出して拡張するために拡張可能である。更には,例示的キットは,そのようなリンクおよびアイテムの簡単なやり方での作成を提供して,様々な技量レベルの人々に独自の装着可能なアイテムを成功裡に作成することを許容する。」と記載されている。 これらの記載によれば,本件明細書には,ブレスレットやネックレスなどの「独 自の装着可能なアイテム」を作成するキットは,通常,異なる色に色付けされた糸及びビーズのような原材料を含むだけであり,アイテムを構築することは個人の技量と才能に依存するため,このように材料を提供するのみでなく,アイテムを成功裡に作成することを多くの技量及び芸術的レベルの人々にとって容易にするように 構築を簡略化もするキットについての必要と願望があったことに鑑み,アイテムをブルニアンリンクアイテムとし,ブルニアンリンク組み立て技術を使ってブルニア ンリンクアイテムを簡単な方法で作成し,様々な技量レベルの人々にブルニアンリ ンクアイテムを成功裡に作成することを許容するキットを提供することが記載され ていると認められる。
イ また,本件明細書において,発明を実施するための形態として,次の(ア) 〜(エ)といった複数のキットが記載されているととともに,前記アのとおり,いずれ のキットによっても,ブルニアンリンクアイテムを簡単な方法で作成し,様々な技 量レベルの人々にブルニアンリンクアイテムを成功裡に作成することを許容するこ とが記載されている(【0027】)
(ア) 単一の列に規定された複数のピン26を有し,各ピン26に,リンク の作成中にゴムバンドの誤った開放を防止するために外向きにフレアー状になった フランジ状上部38と,ピン26の間でゴムバンドの端部を動かすために利用され るフックツール16の挿入のための間隙を提供する前方アクセス溝40が形成され たピンバー14を,3つ横並びに揃えてベース12上にサポートさせて一体構造としたキット(【0009】〜【0015】,【0020】〜【0022】)
(イ) (ア)のキットに対しピンバー14を追加して,例えば5つのピンバー1 4を横並びに揃えてベース12上にサポートさせて一体構造としたキット(【0019】)
(ウ) 6つのピンバー14を横並びに揃えてベーステンプレート66上にサ ポートさせて一体構造としたキット(【0024】)
(エ) ベーステンプレート66のサイドに形成されたジョイント80,82 を用いて,例えば2つの(ウ)のキットを縦方向あるいは横方向に連結させて一体構造としたキット(【0025】及び【0026】)
ウ そして,いずれのキットも,複数のピンバー14をベース12ないしベ ーステンプレート66上にサポートさせて一体構造としたものは,ピンバー14及びベース12ないしベーステンプレート66が一体をなして複数のピン26をサポ ートする構造にほかならず,このことは,段落【0011】に,「ピン26を望ましい揃えでサポートするために,・・・1つまたはいくつかのピンバー14がいくつか のベース12に載置されている。」との記載,すなわち,「ピン26」をサポート対 象とする旨の記載があることからも明らかである。そして,ベーステンプレート6 6も「ベース」の概念であると認められることから,いずれのキットも,複数のピ ンバー14をベース12ないしベーステンプレート66上にサポートさせて一体構造としたものは,ブルニアンリンクアイテムを簡単な方法で作成し,様々な技量レ ベルの人々にブルニアンリンクアイテムを成功裡に作成するための,複数のピンが (ピンバーの本体部を介して)ベースに(間接的に)サポートされた構造のものであると理解できる。 そうすると,いずれのキットも,特に「ピンバー」の限定がない,本件発明1の 「一連のリンクからなるアイテムを作成するための装置であって,/ベースと,/ ベース上にサポートされた複数のピンと,を備え,/前記複数のピンの各々は,リ ンクを望ましい向きに保持するための上部部分と,当該複数のピンの各々の前面側 の開口部とを有し,複数のピンは,複数の列に配置され,相互に離間され,且つ, 前記ベースから上方に伸びている/装置。」,又は,本件発明6の「一連のリンクか らなるアイテムを作成するためのキットであって,/リンクを望ましい向きに保持 するための上部部分と,複数のピンの各々の前面側の開口部を含み,ベースにより お互いに対してサポートされた複数のピンを備え,/前記複数のピンは,複数の列 に配置され,相互に離間され,且つ,前記ベースから上方に伸びている,/キット。」 の構成を充足するものであり,いずれのキットも本件発明の実施形態であると認められる。
エ 以上によれば,本件発明の課題は,審決が認定するとおり,個人の技量 に依存することなく,様々な技量レベルの人々に,「ブルニアンリンクアイテム」を 簡単に作成するキットを提供することにあると認められる。
オ そして,本件訂正により,本件明細書は訂正されておらず,前記ア〜エ に記載の点は,本件訂正発明についても該当するものと認められる。 したがって,本件訂正によって本件発明の課題が変更されたとは認められないか ら,これを根拠とする原告の主張は理由がない。
カ これに対し,原告は,本件訂正の前後を問わず,本件発明及び本件訂正 発明〔全部〕の本質は,「ベースとピンバーを様々な向きに組み合わせることにより, 無尽のバリエーションの編み物製品を容易に作成することができる編み機を提供す ること」にあるが,仮に,本件訂正後の発明の本質が審決認定のとおり「個人の技 量に依存することのない『ブルニアンリンク』作成方法を『提供』する」ことに発 明の本質があるのであれば,本件訂正により発明の本質が変更され,特許請求の範 囲を実質的に変更するものであると主張する。 しかしながら,前記のとおり,本件明細書の背景技術(【0003】)には,「独自 に色付けされたブレスレットまたはネックレスを作るための材料を含むキット は,・・・原材料を含むだけで,使用可能で望ましいアイテムを構\築することは個人 の技量と才能に依存する」という課題があり,「望ましく耐久性のある装着可能\なア イテムを成功裡に作成することを多くの技量および芸術的レベルの人々にとって容 易」となるように,「構築を簡略化もするキットについての必要と願望がある」ことのみが記載されており,原告主張の編み物製品のバリエーションに関する課題(バ リエーションに乏しいこと)は記載されていない。また,発明の概要についてみて も,その冒頭(【0004】)には,ブルニアンリンクの説明や,その作成に弾性バ ンドが利用可能であることに続けて,「例示的キットは,ブルニアンリンク組み立て技術を使って独自の装着可能な物品の成功する作成を提供する。」として,「原材料を含むだけで,使用可能で望ましいアイテムを構\築することは個人の技量と才能に依存する」という前記課題を解決したことが記載され,原告主張の編み物製品のバ リエーションについて記載されているものではない。 そうすると,本件明細書には,発明の概要に「ベースとピンバーは,完成された リンクの向きの無尽のバリエーションを提供するように,様々な組み合わせおよび 向きに組み立てられ得る。」と記載され(【0005】),また,ベース12ないしベ ーステンプレート66とピンバー14との組合せにより,前記イ(ア)〜(エ)のいず れのキットをも構成し得ることが記載されていることを考慮しても,これらは拡張的な機能であって,ベース12とピンバー14を様々な向きに組み合わせることにより,無尽のバリエーションを提供することは,本件明細書において必須の技術事 項であるとは認められない。

◆判決本文

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