商標「がばいよか石けん」が登録商標「よか」と非類似との地裁判断が、知財高裁(第4部)でも維持されました。
これらの事実によれば,「がばい」は,主に佐賀県において,程度が著しいことを
意味する語として使用される方言であるが,前記のとおり平成18年に「佐賀のが
ばいばあちゃん」という題名の映画が全国で放映されたのを1つの契機として,前
記アのとおり形容詞「よい」を意味する九州地方の方言である「よか」に接頭語とし
て付され,非常によいという意味合いを有する「がばいよか」という語として佐賀
県に関する広告・宣伝に多用されるようになり,現在では,一般に,程度が著しいこ
とを意味する佐賀県ないし九州地方の方言として知られるようになったものと推認
することができる。
以上によれば,被告標章1は,全体として,佐賀県ないし九州地方と関連性のあ
る,非常に良質な石けんであるとの観念を生じるものというべきである。
(ウ) 「よか」の文字部分の抽出の可否について
前記(ア)のとおり,被告標章1は,全ての構成文字が黒色で同様の書体によって表
されており,大きさもほぼ同じくらいで,特に目立つ文字はなく,また,文字の配置
により,全体としてまとまった印象を与えるものであるから,下段を構成する5文字のうちの2文字である「よか」を分離して観察することは,取引上不自然である
といわざるを得ない。
さらに,前記アのとおり,「よか」については,全国的に広く用いられている国語
辞典である広辞苑及び大辞林のいずれにも,形容詞「よい」を意味する九州地方の
方言である旨が記載されていることから,取引者,需要者に対して商品又は役務の
出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものということはできない。
以上によれば,被告標章1のうち「よか」の文字部分のみを抽出し,本件商標1と
比較して類否を判断することは相当ではない。
なお,前記(ア)の外観に加え,「よか」と共に下段を構成する「石けん」の文字は,本件商標権1の指定商品の1つを示す普通名詞であるから,下段の「よか石けん」
も,出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものということはできず,した
がって,被告標章1のうち下段の文字部分のみを抽出することも,相当ではない。
以上によれば,被告標章1については,全体として一体的に観察して,本件商標
1との類否を判断するのが相当である。
ウ 本件商標1と被告標章1との類否について
前記ア及びイのとおり,本件商標1と被告標章1は,外観において異なることは
明らかであり,本件商標1は,「ヨカ」との称呼及び形容詞「よい」を意味する九州
地方の方言との観念を生じるのに対し,被告標章1は,「ガバイヨカセッケン」との
称呼及び佐賀県ないし九州地方と関連性のある,非常に良質な石けんであるとの観
念を生じるのであるから,称呼及び観念においても異なる。
よって,本件商標1と被告標章1は,類似するものではない。
エ 控訴人らの主張について
控訴人らは,1)一般に,上下二段に表記される商標については,各段から個別の称呼が生じるものであること,2)上段の「がばい」は,日本全国の取引者,需要者間
において,出所識別標識として十分に認識されているものとはいい難く,無意義な語であること,「よか」には,否定的な意味もあり,「よか石けん」には,「どうでも
よい石けん」という否定的な意味もあることから,「がばい」と「よか」を併せて,
ものすごく良いといった意味を生ずるとは限らないことに加え,被告標章1は,下
段の「よか石けん」の部分から独立して称呼を生ずるが,「石けん」は,普通名詞で
あり,また,「よ」の文字がほかの文字よりも一段と大きく太く記載されており,見
る者の注意を引きつける態様であることから,「よか」が要部となる旨主張する。
しかし,上下二段に表記される商標からどのような称呼が生ずるかは,商標全体の構成,各段の構成等によって様々であり,各段から個別の称呼が生じると一般的
にいうことはできない。また,前記イ(イ)のとおり,「がばい」は,主に佐賀県にお
いて使用される方言であるが,平成18年に同語を題名に含む映画が全国で放映さ
れたのを1つの契機として,「がばいよか」という語として佐賀県に関する広告・宣
伝に多用されるようになり,現在では,一般に,程度が著しいことを意味する佐賀
県ないし九州地方の方言として知られるようになったものと推認することができる。
「よか」については,広辞苑(乙7)及び大辞林(乙8)のいずれにも,否定的な意
味の記載は,見られない。さらに,前記イ(ア)のとおり,被告標章1の上段の「が」
の文字は,下段の「よ」及び「石」の各文字と共に,ほかの文字よりも若干大きいも
のの,目立つほどではなく,見る者の注意を引きつけるものということはできない。
以上によれば,控訴人らの主張は,採用できない。
◆判決本文