極真空手に関する商標権侵害事件について、権利濫用と判断されました。
E は,Bの死亡後も反訴被告各標章の使用を継続し,平成6年な
いし平成7年までの間,複数の極真関連標章について商標登録出願を
し,自己名義の商標登録を受けた。
(イ) C及びBの生前に極真会館に属していたその他の者らは,平成1
4年,E を被告として,空手の教授等に際して極真関連標章を使用す
ることにつき,E の商標権に基づく差止請求権が存在しないことの確
認等を求める訴訟を大阪地方裁判所に提起した(同庁同年(ワ)第10
18号)。
同裁判所は,E の上記商標権の行使が権利濫用であるとして上記不
存在確認請求を認容し,その控訴審である大阪高等裁判所も,平成1
6年9月29日,同旨の理由により E の控訴を棄却した。
(ウ) D及びBの生前に極真会館に属していたその他の者らは,平成1
4年,E を被告として,空手の教授等に際して極真関連標章を使用す
ることにつき,E の商標権に基づく差止請求権が存在しないことの確
認等を求める訴訟を東京地方裁判所に提起した(同庁同年(ワ)第16
786号)。
同裁判所は,平成15年9月29日,E の上記商標権の行使が権利
濫用であるとして上記不存在確認請求を認容した。
(エ) 反訴原告Aは,平成16年1月15日,E が商標登録を受けた極
真関連商標の一部について無効審判を請求したところ,特許庁は,E
の受けた商標登録が商標法4条1項7号に反するものであるとして,
同年9月22日付けで登録を無効とするとの審決をした。これに対し,
E は,上記審決の取消を求める訴訟を知的財産高等裁判所に提起した
が(同庁平成17年(行ケ)第10028号),同裁判所は,平成18
年12月26日,E の請求を棄却する旨の判決を言い渡した。
(2) 前記前提事実及び上記認定事実を踏まえ,反訴原告らの請求が権利濫用
に当たるか否かを検討する。
ア 本件各商標に類似する反訴被告各標章は,前記第2の1(2)ウのとお
り,遅くともBの死亡した平成6年4月26日から現在に至るまで,空
手及び格闘技に関心を有する者の間において極真会館又はその活動を表すものとして広く知られているところ,このような反訴被告各標章の周
知性及び著名性の形成,維持及び拡大に対しては,上記(1)認定事実ア,
イ及びエのとおり,Bの生前・死後を通じ,長年にわたって極真空手の
教授や空手大会の開催等を行ってきたB及びBから認可を受けたCらを
含む極真会館の支部長らの多大な寄与があったと認められる。
他方,反訴原告らは,極真関連標章である本件各商標に係る商標権を
取得して極真空手の教授等を行っている。しかしながら,Bは後継者を
公式に指名することなく死亡し ているところ(上記(1)認定事実ウ
(ア)),極真会館において世襲制が採用されていたこともうかがわれず
(なお,上記(1)認定事実ア(イ)のとおり,規約には館長や総裁の地位
の決定や承継に関する定めはない。),他にBの相続人である反訴原告
Aを極真会館におけるBの後継者であると認めるに足る証拠はない。そ
うすると,反訴原告Aにより設立された反訴原告会社は,極真会館の分
裂後にCらにより設立された反訴被告と同様,極真会館を称して極真空
手の教授等を行う複数の団体の一つにすぎないというべきである。
さらに,反訴原告らは,平成6年4月26日のBの死後,Cらやその
他の極真会館関係者らが極真関連標章を付して極真空手の普及活動を行
ってきたことを長年にわたり認識していたにもかかわらず,早期に本件
各商標に係る商標登録出願を行っていないのであって(反訴原告らが同
商標登録出願を行ったのは,前記第2,1(3)のとおり,平成15年以
降である。),同出願を行わなかったことに合理的な理由があったとも
認められない(これに対し,反訴原告らは,本件各商標の登録に先立ち,
E の登録商標の抹消及びBの遺言が無効であることを明らかにする手続
が必要であった旨主張するが,反訴原告らの商標登録出願のためにそう
した手続が必要であったとは認めることができない。かえって,E の商
標が抹消された時期は,前記第2の1(3)及び上記(1)のカ(エ)のとおり,
少なくとも反訴原告らの本件商標1〜5の各出願日より後の日であるし,
また,前記第2の1(3)及び上記(1)ウ(ウ)のとおり,反訴原告らの本件
各商標の各出願日は,いずれもBの遺言が無効であることが確定した後,
少なくとも6年以上が経過した後の日であって,反訴原告らの上記主張
は,このような客観的経過とも整合しない。)。
こうした事情を総合考慮すると,反訴原告らが反訴被告に対し,本件
各商標権に基づき,極真関連商標である反訴被告各標章の使用を禁止す
ることは権利の濫用に当たると解すべきである。
イ これに対し,反訴原告らは,1)反訴原告Aが極真関連標章の主体たる
地位を承継した,2)Cらは,Bの生前,Bの許諾を得て既に周知性・著
名性を獲得していた極真関連商標を使用していたにすぎず,Bの死後に
は,所属していた一般社団法人国際空手道連盟極真会館とトラブルを起
こして,同会館を除名又は退会となっている,3)極真関連標章の周知性
及び著名性の維持等に対するCらの寄与があったとしても,Cらとは別
の権利義務主体である反訴被告が反訴被告標章を使用して良いことには
ならないと主張する。
しかしながら,上記1)については,Bは生前,極真関連標章に係る商
標登録出願をしていないから,極真関連標章の主体たる地位が相続の対
象となる財産権であるとはいえない。また,周知に至った極真関連標章
があったとしても,それは反訴被告各標章と同様に極真会館又はその活
動を示すものとして周知になったものというべきであるから,少なくと
もB個人ではなく極真会館の総裁兼館長としてのBに帰属する法的利益
であると解すべきであるところ,上記アのとおり,反訴原告Aを極真会
館におけるBの後継者であるとはいえないのであって,反訴原告Aが,
極真関連標章の主体たる地位を承継したと認めることはできない。
次に,上記2)については,Cらが極真会館の支部長に就任した時点で
反訴被告各標章が既に周知性・著名性を獲得していたと認めるに足る証
拠はなく,かえって,上記(1)認定事実ア,イ及びエのとおり,反訴被
告各標章の周知性及び著名性の形成,維持及び拡大について,Bのみな
らずCらを含む支部長らの多大な寄与があったことが明らかである。な
お,Cらは,Bの死後,反訴原告Aと対立し,所属していた団体を除名
又は退会となったことが認められるが(甲75,乙2),このことが直
ちにCらの上記寄与を否定する事情であるとは認め難い。
さらに,上記3)については,上記(1)エ(イ)のとおり,反訴被告がC
らによって設立された団体であること,Cらが反訴被告の理事長及び理
事を務めるとともに,Cらが従前運営していた道場も反訴被告に加盟し
ていることなどに照らせば,反訴被告は,Cらの運営に係る道場及び同
道場における空手教授等の活動についてもこれを承継したものと認めら
れる。そうすると,Cらと反訴被告が別の権利義務主体であることが,
直ちに上記判断を左右するものではない。
◆判決本文