平成28(行ケ)10143  商標登録取消決定取消請求事件  商標権  行政訴訟 平成28年12月8日  知的財産高等裁判所(3部)

 4条1項19号違反の異議理由ありとの審決が維持されました。
 上記1の認定に係る各事実によれば,原告は,平成8年7月頃から共同 事業者として本件事業に関与し,平成18年11月以降は本件委託契約に基 づき受託者として引き続き関与していたところ,平成25年2月時点で,遅 くとも平成26年12月31日までに本件委託契約が終了し,本件事業に係 る業務を東長寺に引き継ぐべき義務を負ったにもかかわらず,本件委託契約 期間中である平成26年2月12日に本件商標の商標登録出願をし,同年1 2月19日に設定登録を受けたものである。 また,本件事業は,「縁の会」会員に対する個人墓の販売終了により事業 が終了するものではなく,会員に対しその生前から死後に至るまで,様々な 宗教的行為等を継続的に提供するものであることに鑑みると,たとえ個人墓 の販売が完了したとしても,東長寺が本件事業の標識として引用商標を引き 続き使用し続ける必要があることは明らかであるし,仮に原告が本件商標の 設定登録をすることにより東長寺が引用商標を使用し得なくなると本件事業 の継続に重大な支障を来すおそれがあることも,容易に予想されるところである。そして,上記のとおり本件事業に関わり,その内容等を熟知している 原告にとっても,これら点は当然予見し得る事情といってよい。しかも,原告が本件商標の設定登録を受けることにつき原告と東長寺と の間に合意があったことを裏付けるに足りる証拠はなく,むしろ遅くとも平 成26年5月頃には原告による本件商標の登録出願や他の宗教法人(常在寺) と組んでの「縁の会」の語を用いた類似事業の展開等を巡って東長寺との間 に紛争が生じていたことがうかがわれる(甲106,107)。また,原告 が本件商標権を設定登録し,その使用権を専有することになった場合,同一 商標である引用商標の使用には当然問題が生じ得ることになるのであるから, 本件事業の受託者であり,かつ,本件事業を東長寺に円滑に移行させる旨を 約束していた原告としては,設定登録に当たり,東長寺に対し,引用商標の 使用を許諾するなど,東長寺の地位に不安が生じないような配慮をするのが 当然であったといえるはずであるにもかかわらず,そのような配慮がされた 形跡は認められないのであって(甲107は,日付も入れられていない不完 全な文書であり,これによって引用商標の使用の許諾がされたとは認め難 い。),この点も,原告の背信性を裏付けるものであるといわざるを得ない。 これらの事情に加え,前記のとおり,本件商標と引用商標が同一の商標 といえること,本件商標の登録出願時に既に引用商標が東長寺の展開する本 件事業に係る標章として日本国内における周知性を獲得していたことを併せ 考慮すると,原告は,引用商標がいまだ商標登録されていないことに乗じ, これに化体された信用及び顧客吸引力にただ乗りし,他の宗教法人と展開す る本件事業類似の事業に本件商標を使用することで利益を得,又は本件事業 の継続に支障を生じさせて東長寺に損害を生じさせることを目的として本件 商標を使用するものと合理的に推認される。このことは,原告が真光寺とと もに本件事業類似の「真光寺縁の会」の事業を展開し,これについて東長寺 が了承していたことがうかがわれること(甲12の1〜4,12の8及び9, 12の12〜14,12の16,12の19,12の21〜24,12の2 6,12の28,12の30及び31,乙22,23,25,34,74, 75)を考慮しても異ならない。上記のとおり,原告が常在寺とともに展開 する「常在寺縁の会」の事業を巡っては東長寺と原告との間で紛争を生じて いると見られることに鑑みると,原告が引用商標を用いて本件事業に類似す る事業を展開することを東長寺が広く許容していたとは考え難いからである。 したがって,原告は,不正の目的をもって本件商標を使用するものと認 められる。
(2) これに対し,原告は,不正の目的はないとしてるる主張する。 しかし,原告が,東長寺との合意すなわち本件共同事業契約ないし本件 委託契約に基づき広報・広告活動を行い,その費用を支出し,また,本件事 業における会員組織の事務局の管理運営等を担っていたとしても,それ自体 は本件共同事業契約及び本件委託契約に基づく原告の債務の履行にすぎず, 本件商標の登録出願時及び設定登録時における原告の不正の目的の存在に関 する上記認定を覆すべき事情とは必ずしもいえない。

◆判決本文

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